『天下一番相撲会』から数ヶ月。その人気と実力で、今やマンコ相撲界の“顔”の一人となった元・国民的アイドル、愛内きらら。彼女が主催する、前代未聞のファン感謝祭が、本日、両国国技館に隣接するイベントホールで盛大に開催されていた。
そのイベントの基本コンセプトは、ただ一つ。「アイドルとしては絶対アウト!でも、力士だからギリギリセーフ!」きららのその悪魔的な才覚が、産み出した、ファン垂涎の禁断の果実である。
ステージの司会は、もちろん、きらら本人。そしてゲスト解説者として、なぜか天知理がその仏頂面で座らされていた。
きらら:「はーい、みんなー!きららのドキドキファン感謝祭へようこそー!今日は日頃のみんなの“愛”に、きららの“愛”でお返ししちゃう、スペシャルな一日だよっ!」
「「「うおおおおおおおお!きらら、愛してるーっ!」」」
会場を埋め尽くす親衛隊(ファン)たちの、地鳴りのような歓声。天知は、そのあまりにも場違いな空間で、「私は一体何故ここに…」と遠い目をしていた。
最初の企画は、「ドキドキ!公開組稽古」。抽選で選ばれた幸運なファンが、ステージ上の土俵で、きららと直接、“腰のぶつけ合い”ができるという夢のような企画だ。選ばれたのは、メガネをかけた人の良さそうな、しかし滝のような汗をかいている中年男性ファンだった。
「き、きらら様…。わ、私のような者が、その神聖なお腰に触れても…」
「いいの、いいの!思いっきりぶつかってきて!」
きららの、その聖母の微笑み。男性ファンは、意を決して、そのたるんだ腹を、きららの、その引き締まった腰へとぶつけた。その瞬間。きららは、軽く腰を一振りしただけ。だが、その腰から放たれた官能的な衝撃波に、男性ファンは「ふごっ!?」という奇声と共に数メートル吹き飛び、そしてその場で白目を剥き、人生で最高の絶頂を迎えた。
「き、きらら様…。ご、ごっつぁんです…!」
彼は涙と潮と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、担架で運ばれていった。
続いての企画は、「これであなたも横綱級!本格決まり手、解説コーナー!」。ゲストとして、現・女王、十六夜咲がステージに登場する。
きらら:「さあ、ゲストの咲ちゃんです!咲ちゃん、先日はきららの相談に乗ってくれてありがとう!あの、『うっちゃり潮吹き』の角度が、どうしても上手くいかなくて…」
「え、えっと…。『うっちゃり潮吹き』のコツはですね。相手の力を受け流す瞬間に、丹田に溜めた“気”を、骨盤底筋群と連動させて、一気に放出させる、この角度が…」
咲は、そのあまりにも専門的な解説を、大真面目に語り始める。そして、「こうです」と、その場で軽く実演してみせた。その瞬間。咲のその聖母の器から放たれた、慈愛に満ちた、しかし凄まじい水圧の“潮”が放物線を描き、ステージの最前列、「スプラッシュ・ゾーン」と呼ばれる特別席に座っていたファンたちを直撃した。ファンたちは、その聖なる洗礼を浴び、一人また一人と恍惚の表情のまま意識を失っていく。まさに地獄絵図、いや、天国絵図だった。
会場のロビーでは、物販コーナーも大盛況。特に長蛇の列を作っていたのが、このイベント限定のオリジナルグッズ。『きららの聖なる潮(中身はポカリスエットです)』と名付けられた小瓶だった。ファンたちは、その聖水を、まるで家宝のようにありがたそうに購入していく。
そしてイベントが最高潮に達したその時だった。ステージの袖から、一人の少女が乱入してきた。天童ひな、その人だった。彼女はきららからマイクをひったくると、その忌々しげな顔で言い放った。
「…アンタの相撲はヌルいんだよ!」
「えっ!?ひ、ひなちゃん!?」
「こんなお遊戯みたいなことばっかりやってるから、いつまで経っても、アタシに勝てないのよ!今、ここで、アタシと勝負しなさい!」
そのあまりにも突然のハプニング。きららは、しかし動じなかった。(…なるほど。これも新しい、“ファンサービス”の形、ね…!)彼女は、そのプロのアイドル魂で、この修羅場すらも最高のエンターテイメントへと昇華させようとしていた。
その夜。ファン感謝祭は、大成功のうちに幕を閉じた。きららは、自室のベッドの上で、SNSのエゴサーチをしながら、その満足感に浸っていた。「…うんうん。『きらら、最高!』『一生、ついていきます!』。ふふん、みんな喜んでくれたみたいね」
だが、そのトレンドワードの中に、一つ不穏な単語があるのに気づいた。
【#天童ひな】【#国宝】【#無修正】
嫌な予感がした。きららはそのハッシュタグをタップする。そして、その画面に表示された画像の数々を見て、絶叫した。「ぎゃあああああああああああああああああっ!」
そこには、あのファン感謝祭の写真撮影会で撮られた、天童ひなの、“あの部分”の超高解像度のアップの写真が大量に投稿されていたのだ。「国宝級の蕾!」「この完璧なフォルムを見よ!」「絶対に触れてはならない、神の領域!」などという狂信的なコメントと共に、その写真は凄まじい勢いで拡散され、大バズリしていた。
きららは頭を抱えた。「あ、あのクソガキ…!肖像権とか、ネットリテラシーとか、そういう概念が一切ないんだから…!」
「こうなったら、あたしが!アイドルとしても、力士としても、先輩のあたしが!あの子にコンプライアンスのイロハを徹底的に叩き込んでやるんだから!」
歌姫の受難はまだまだ続く。だが、それもまた、彼女が選んだ愛すべき日常なのだった。