※この作品はR-18です。

祐衣と奈々未   作:千家立

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【7】

 

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 別荘滞在二日目の朝を迎えた。祐衣はトースト、サラダ、目玉焼きの朝食を作った。料理とは言えないほどの朝食だが、家庭的な一面のあるところを見せられたと思う。

 朝食のあとは、芝生の庭でパターゴルフをして遊んだ。

 その後、安藤徹は仕事だといってパソコンを操作している。デートに仕事を持ち込んでいるので、仕事とプライベートの区別が分からなくなってきた。彼は使い分けているかもしれないが、祐衣はどう振舞ったらいいか困ってしまう。なので、洗濯したら何もすることがなくなった。

 もしかしたらという期待を持って部屋で待っていたのだが、徹は来なかった。午前中からセックスを望んだ自分が恥ずかしくなった。

 仕事が一段落して彼の車でドライブにでかけた。岬の先端にある公園に行き、展望台に上がると三浦半島とその背後に富士山も見えた。夕方、陽の沈む頃、ここでプロポーズされたら最高だろうなと思った。

 一時間ほどで別荘地に戻り、隣接したレストランで昼食をとった。彼は常連とみえて、庭に面した眺めのいい席に案内され、スープとサラダ、魚料理を楽しんだ。帰りがけ、徹は夕食用にオードブルとクロワッサンを届けてくれるよう頼んだ。「ケーキもいいねと」と言って、小さなホールケーキも追加した。ランチとデリバリーの代金は、昨日預かったお金の中から払った。祐衣はすっかり奥さんになった気分だ。

 

 ドライブにレストラン、ようやくデートの雰囲気を満喫した。この流れでいけば、夕食までは「昼下がりの情事」になるのだが、午後からは、安藤徹の会社があらたに所有した西地区の別荘地を見に行くことになった。相変わらず、仕事とプライベートがごっちゃだ。

 この別荘地は東地区と西地区に分かれている。これまで安藤徹の会社は東地区だけを所有していたが、今回、西地区も所有することなった。その契約交渉中に祐衣と出会い、さらに、契約締結日にも会ったので、徹は祐衣を幸運の女神と信じているのだ。別荘にお呼ばれしたのも契約の成立が理由の一つだろう。つまり、西地区を案内するのは彼にとって大きなイベントなのである。自分はこんな大きな契約をまとめたと自慢したいのだ。

 車で別荘地の西地区に向かった。東と西の間にある公園に車を停め、西地区を歩いて見ることになった。

 公園の駐車場に車を入れたところで徹のスマホに着信があった。なにやら込み入った様子で、徹にしては珍しく大きな声を出して喋っている。祐衣は遠慮して少し離れていたのだが、何度も『コンサルティング』という言葉が聞こえてきた。

 電話は5分ほどで終わった。

 西地区の別荘地を散歩したのだが、祐衣はいささか残念な気持ちになった。

 徹の別荘がある東地区は建物もきれいだし、垣根がきちんと剪定されていた。いかにも高級別荘街という感じだった。だが、西地区に一歩入ると、建物は古びていて、ツタが絡んでいたり、垣根は伸び放題で枝が道路にまではみ出していた。枯葉が溜まっていて、掃除も行き届いていないようだ。管理人が常駐していないのかもしれない。その点、東地区の管理人さんは仕事熱心なのだと思った。

 何だか廃墟を歩いているみたいで、ロマンチックどころか、ホラーゲームの世界のような感じだ。朽ち果てた別荘からゾンビが飛び出してくるのではないかとさえ思える。祐衣は徹の腕に手を回してしっかりくっついた。けれど、徹は甘えん坊だから、ゾンビが襲ってきたら祐衣を置き去りにして逃げ出しかねない。

 道路が交差したところに『渓流入口』と書かれた看板が立っていた。祐衣は別荘地を見るのに飽きてきたので、渓流でリフレッシュしたい気分になった。

「渓流があるんですね、行ってみたいわ」

 祐衣がそう言うと徹も同意した。

 看板の前を左に折れて進んだ。この辺りには建物が疎らで空地が目立つ。五分ほど歩いたときだった。

 ドタン、ガチャンと物が倒れるような音がした。物音は左手の建物からだ。二人は何事かと顔を見合わせた。

「行ってみよう」

 物音がした別荘の前に立った。玄関のドアに、『立入禁止』の張り紙があるところをみると空き家のようだ。二階の屋根の上までツタが絡んでいて、ベランダの手すりも倒れ掛かっている。ドアの板が破れているので、その気になれば誰でも入れそうだ。

「僕が入ってみる。祐衣さんはここで待っていてくれ」

 そう言って徹が階段に足をのせた。

 

 安藤徹が別荘の中に入っていったので、祐衣は一人取り残された。

 さっきの物音はいったい何だったのだろう。別荘の持ち主が片付けものをしていたのであればいいが、他人が入り込んでいたりしたら心配だ。泥棒が侵入した可能性だって考えられる。徹が鉢合わせして襲われたらどうしよう。祐衣は何時でも警察を呼べるようにスマホを握りしめた。

 二、三分経っても徹は出てこない。その後、室内からは物音もしなくなった。人声も聞こえないので、侵入者とか泥棒ではなさそうだ。猫や犬が入っていたのかもしれない。それなら、徹は出てきてもよさそうだ。

 祐衣が別荘に向かって一歩踏み出したときドアが開いた。

「徹さん」

 徹はなにやら神妙な面持ちだ。

「大丈夫でしたか」

「ああ、何と言うか・・・危ないところだった。室内で自殺しようとしてたんだ」

「自殺・・・」

 自殺と聞いてびっくりした。

「女の人だった。とにかく自殺はやめさせたよ」

 祐衣は怖くなって徹の腕にしがみついた。彼の身体も小刻みに震えている。自殺を試みようとしたのを目撃したのだから、よほど怖かったのだろう。徹がショックを受けるのは無理もない。もし、自分だったら悲鳴を上げていただろう。

「警察か救急車を呼ぼうとしたんだが、本人が電話しないで欲しいということだった。いろいろワケアリのようだ。といって、あのままにしておくわけにはいかない。JRの駅まで送っていこうと思うんだが、その前に、いったん別荘で連れて行こう」

「そうね、別荘で休んでもらいましょう」

「せっかくの散歩中だったのに、とんだことに巻き込んじゃって申し訳ない」

 人助けをしたのだから謝ることではない。

 その女性は歩けそうにないので、徹が車を取りに行くことになった。車を停めた公園まで往復するには十五分くらいは掛かる。彼が戻ってくるまで自殺未遂の女性は放置されることになる。それもまた不安だ。

「その女の人を置き去りにしても大丈夫なんですか」

 祐衣が尋ねると、徹は「ロープで身体を縛った」と言った。身体を拘束してあるなら、自殺を繰り返すような心配はなさそうだ。

 徹は小走りに駆けていった。祐衣は再び別荘の前で一人になってしまった。別荘は壊れかかっているし、辺りはうら寂しい。しかも、自殺未遂の現場だ。ここで待つのが怖くなってきた。室内の女性も同じ気持ちだろう。さぞかし心細い思いをしているに違いない。祐衣は徹が帰ってくるまで女性の側に付き添うことにした。

 別荘のドアを開けた。

「こんにちは・・・入りますよ」

 室内に入ると黴臭い臭いがした。空気は澱んでいて埃っぽい。だが、部屋の中はそれほど荒れてはいないようだ。

 床に女性が倒れているのが目に入った。背中を向けているので顔は見えないが、比較的若い女性の感じがする。

「大丈夫ですか、もうちょっと待っててくださいね。すぐに迎えが来ますよ」

 祐衣は女性を安心させるために、声をかけながら身体の前に回った。その女性も顔を上に向けた。

「えっ・・・」

 思わず絶句した。

「奈々未さん?」

「・・・誰?」

 二人は顔を見合わせた。

「驚いた。奈々未さんじゃないの」

 床に横たわっていたのは相良奈々未だった。

「なんで、奈々未さんがいるの」

「祐衣さんこそ、なんでここに来たの」

「さっき入ってきた人いたでしょう、男の人。彼と一緒だったのよ。物音がしたから様子を見にいって、そうしたら、自殺しようとした人を止めたって言うじゃない。それが奈々未さんだったんだ」

 祐衣は奈々未を見下ろしたまま話した。一か月前、ラブホテルで散々痛めつけられた。バイブで犯され、太ももで締められ、床に這いつくばった。それが、奈々未は床に転がっている。今や完全に立場が逆転した。

 いい気分だ。

「彼は駅まで車に乗せて行くんだって。その間、一人じゃ不安だろうって思って私も見に来たんだ」

「そうなんだ」

 奈々未がモゾモゾと身体を動かした。起き上がろうとしたのだろうが、身体にロープが巻き付いているので、顔を上に向けただけだった。

「さっきの人・・・彼と付き合ってるの」

「まあね。まだ知り合って一か月くらいかな。二泊三日で別荘に来たのよ。彼が別荘を買ったの」

「別荘を買うなんて金持ちの彼なんだ。でも、この別荘壊れかかっているんじゃないの。見た目もボロいし」

「ああ、それはね、彼が買ったのはこの建物じゃなくて、別荘地を丸ごと買い取ったんだって。彼、リゾート開発の会社の社長なの」

「凄いね、別荘地買っちゃうなんて。いい人見つけたじゃない・・・」

 奈々未が苦しそうな顔をした。拘束されたまま床に転がしておくのは気の毒だ。祐衣は奈々未を縛っているロープを外した。

「ありがとう、祐衣さん」

 自由になったが奈々未は起き上がらずに床に這いつくばっている。

「奈々未さん、自殺なんてやめてよ」

「結婚式挙げたんだけど、披露宴で酷いことがあってね。でも、話すと長くなるわ。祐衣さん、その辺に紙があるから見てよ」

 祐衣はテーブルに置かれたチラシを手に取った。全部で三枚ある。

 そのうちの一枚には見覚えのある写真は使われていた。ウェディングドレスを着た女性の下半身にケーキがベットリ付いている。ウェディングドレスの女性は奈々未だ。これは会社の同僚のセヨンから送られた写真と同一だった。

 もう一枚のチラシには、全裸でパイプに固定された奈々未の股間にバイブレーターが突っ込まれている写真が載っている。全裸宙吊り。これが本当なら、何とも酷い仕打ちを受けたものだ。もっとも、祐衣もラブホテルでバイブを挿入されたまま置き去りにされたので、ブーメランになって戻ってきただけだ。

 最後のチラシには、奈々未がヤリマンだとか、年下の愛人がいるとか書かれている。

 改めて写真を見ると、結婚式や披露宴を台無しにされた奈々未がかわいそうに思えた。いや、同情は禁物だ。

「・・・というわけでね、結婚が中止になって、あれこれひっくるめて9000万円のキャンセル料を要求されたの。風俗で働いてお金を払えと言われたわ。風俗関係の男たちに連れ回されて、この別荘にたどり着いたわけ。そうしたら、命で償えと脅されるし、もう、めちゃくちゃよ」

 この別荘に来るまでの事情はだいたい理解できた。風俗で働くというのは即ち肉体を売ることだ。それくらいは祐衣でも分かる。

「そうだったの・・・このタイミングで私たちが通りかかったのも、何かの縁だと思うのよね。彼が戻ってきたら車で駅まで送ってあげるわ。電車なら一時間くらいでマンションに帰れるでしょう」

「マンションで宙吊りにされて、バイブ入れたままで放置されたの。それを助けてくれた人がいてね。同棲しようと言ってくれたんだけど、その彼も、まだ9000万円の話は知らない。どうしたらいいか分からなくなっちゃった」

 奈々未が苦しそうな息をした。

「ふう・・・ねえ、その辺にポーチないかな」

 祐衣は部屋の隅にポーチが転がっているのを見つけた。ポーチを拾い上げると、奈々未が、「中を見せて」と言った。祐衣がポーチを開くと中は空だった。

「スマホも財布も全部なくなっちゃったみたいね。キャッシュカードも取られたし、スマホがないんじゃ、連絡もできない。もうお手上げだわ」

 奈々未が顔を上げた。

「祐衣さん、お金貸してくれない? 電車の切符買えないんだもん」

「ごめん、散歩中でお金の持ち合わせがないわ」

 それは嘘だった。財布には一万円ほど入っているし、徹から預かった資金もまだ残っている。だが、それを渡すつもりはなかった。奈々未は9000万円の返済を求められ、自殺を図ったのだ。貸したお金が返ってくるとは思えない状況だ。

「お願い、彼に頼んでみて、祐衣さん」

 奈々未が頭を床に着けた。床には埃が溜まっていて、その汚い床板を舐めるように頭を下げている。

 祐衣は勝ち誇った気分になった。

 本宮正弘を奪い取られ、仕事では左遷され、ラブホテルでは痛めつけられた。それが、完全に逆転したのだ。奈々未は自殺未遂を起こすほどまでに転落した。生きていくためには売春しなければならないのだ。

 それに比べて、祐衣には徹という恋人がいる。祐衣の未来は明るく、奈々未の未来は真っ暗だ。

 

 時計を見た。もう十五分経っている。間もなく徹が帰ってくるはずだ。彼の車で奈々未を近くの駅まで送って行くことになっている。その前に別荘まで連れて行くのだった。

 そこで、ふと不安が過った。

 せっかく二人きりなのに、奈々未を別荘に連れて来たのでは、邪魔者を抱え込んでしまうではないか。泊まることになったらもっと困る。それに、奈々未がラブホテルでの出来事を話さないとも限らない。バイブで失神したことは徹に知られてはならない。そのうえ、奈々未には本宮正弘を横取りされた経験がある。今度は安藤徹を奪われてしまうのではないかと心配になってきた。

 彼の車に奈々未を乗せてはいけない。奈々未を別荘には連れて行ってはならない。

 しかし、それを防ぐには、どうしたらいいんだろう。

「うっ・・・ううっ」

 突然、奈々未が苦しみだした。気持ち悪いのか、手で口元を押えている。今にも吐きそうな様子だ。

「奈々未さん、大丈夫? 気分悪いの」

「うぷっ、うう」

 奈々未は目を閉じてゼイゼイ喘いでいたが、祐衣が背中を摩ると次第に収まった。

「はあ、はあ、こんなときに・・・最悪だわ」

 最悪・・・

 単に体調がすぐれないだけではないだろう。祐衣は奈々未が妊娠しているのではないかと思った。祐衣が目を向けると、奈々未はそれを察したらしく、唇を噛みしめ首振った。意地でも妊娠などは認めたくないという表情だ。

 キャンセル料という借金を抱え、風俗で働いて返そうとしているのに、妊娠したのではそれも不可能だろう。ますます惨めになるだけだ。死にたくなる気持ちもよく分かる。

 そのとき、車のタイヤ音が聞こえた。窓から外を見るとシルバーの車が入ってきた。徹が戻ってきたのだ。車は一台だけではなかった。そのあとに軽トラックが続いている。軽トラックから降りてきたのは管理人の大河内だった。

「迎えの車が来たわ」

 祐衣はそう言って外へ出た。徹と大河内が並んでやってきた。

「大河内さんと公園で会った」。徹が言った。大河内は、「今日は巡回に来るのが遅れて申し訳ありません」と、徹に頭を下げている。

「いや、まだ西地区とは仮契約の段階だから、頻繁に巡回する必要はありません。大河内さんのせいではないですよ」

 徹は大河内を庇ってから、祐衣に訊ねた。

「彼女は・・・大丈夫だった?」

「ええ、落ち着いたようでしたので、ロープを外してあげました」

 徹は「それは良かった」と言ったが、声が震え、心なしか顔が青ざめている。

「大内さん、状況はさっき話した通りだ。すまないが、中にいる女性を送り届けてくれないか。家が遠方だったら、近くの駅まででいいよ」

「はい。お任せください」

 それを聞いて祐衣はホッとした。

 管理人の大河内が奈々未を送っていくことになった。徹が無理に押し付けたと言えなくもないが、これで奈々未を別荘に連れて行かなくてもすんだ。管理人に向かって手を合わせて拝みたい心境だった。

「それにしても、もし、社長さんが気が付くのが遅れていたら大変でしたね。仮契約したばかりで、自殺騒動なんてゾッとしますよ」

「いや、これも偶然なんだ。たまたま祐衣さんと散歩の途中だった」

 徹も大河内も大騒ぎにならずにすんだので胸をなでおろしている。直接、管理に携わっている大河内としては尚更だろう。

「大河内さん、いろいろ面倒お掛けしますが、部屋の中にロープとか遺書めいたものがあるんで、その始末もお願いできませんか」

 大河内は「承知しました」と答えて別荘の方へ歩いて行った。

 奈々未のことは大河内に任せ、徹たちは散策を切り上げて別荘に戻ることになった。運転席に座った徹は、「いけない、忘れるところだった」と言った。

 

 大河内は別荘に入ろうとして階段の前で躊躇した。この部屋で自殺騒ぎがあったのだ。これまでそんな修羅場に遭遇した経験はない。巡回に立ち寄った公園で安藤徹とバッタリ出会ったとき、徹はやや取り乱した様子だった。未遂とはいえ、自殺現場を見てしまったのだから無理もないことだ。

 先ほど駆け付けた際に室内から祐衣が出てきた。自殺未遂の側に一人で付き添うなど、祐衣はなかなか肝が据わっているなと思った。

 管理人がビビッている場合ではない。大河内は深呼吸して階段を上がった。

 ドアが壊れていた。これでは勝手に人が侵入するわけだ。室内に入ってみると空気が澱んで埃っぽかった。床に女性が横たわっている。これが自殺未遂を起こした女性だ。見たところでは怪我はしていないようだ。

 社長の安藤徹から、遺書やロープを片付け、この女性を駅まで送って行けと言われた。本来ならば、巡回して異変を発見するのは自分の任務である。自殺を見つけられなかったのだから、管理不行き届きで叱責されても仕方ないところだった。しかし、それは責められることはなく、送り届けるだけですんだ。

 ゴミの片付けをしようとしたとき、トントンとノック音がしてドアが開いた。大河内が出てみると玄関に祐衣が立っていた。

「大河内さん、いろいろご面倒お掛けしています。徹さんから、これを渡すようにと言われました」

 祐衣が二万円を差し出した。

「電車の切符代だそうです」

「これはどうも。確かに預かりました」

 電車賃だった。この女性を送り届けるとして、住まいが県外だったら交通費が掛かる。二万円は多いが必要経費込みだと思って受け取った。徹はよく気が付くタイプだが、さすがに今回は気が動転したのだろう。忘れていたので祐衣に届けさせたのだ。

「大河内さん・・・あの、ちょっといいですか」

 祐衣はまだ話があるとみえて、すぐに立ち去ろうとはしない。

「奈々未、いえ、その人、自殺騒ぎを起こしてパニックに陥っているみたいなんです。頭が錯乱して何か変なことを言い出すかもしれませんけど、全部無視してください」

「無視ですか」

「そうです。私に向かって、あることないこと、支離滅裂なこと口走るんです。だから、何を聞いても真に受けないでください」

「なるほど。自殺を図ってショックを受けたんでしょう。分かりました。奥さん、お任せください」

 すると、祐衣がそっと紙片を寄こした。折り畳んだ一万円札だった。

「よろしくお願いします」

 祐衣が深々とお辞儀をして出て行った。

 

 後姿を見送って大河内は首を傾げた。祐衣の言うところの真意が図りかねた。徹に頼まれて交通費を届けにきたのだが、むしろ強調したかったのは、『全部無視してくれ』の方ではないだろうか。

 しかも、徹が用意した電車代とは別にポケットマネーで一万円を出したのだ。『全部無視してくれ』の念押しか、あるいは口止め料かもしれない。

 不審に思いつつ片付けを再開した。

 遺書と思われる紙があった。そこには、ウェディングドレスでケーキのクリームまみれになっている写真が出ている。別のビラに付けられた写真は全裸で宙吊りにされている姿も写っていた。どうやら、この女性は結婚を巡るトラブルから自殺騒動になったらしい。遺書の署名によればこの女性の名は相良奈々未だ。

 それにしても、仮契約したばかりの別荘地で自殺などされたら大変な事態になっていただろう。偶然とはいえ、徹はよくその場に居合わせたものだと思う。それも、祐衣に別荘を見せようと散歩していたのだそうだ。そう考えると、彼女は幸運の女神だと言える。

「ああ、ああ・・・」

 横たわっている女性、奈々未が声を上げた。

「どこ?」

 彼女は焦点の定まらない目を向けた。意外にもなかなかの美人だった。

「ええと、あなたは、相良奈々未さんですね。私はこの別荘の管理人です」

「管理人さん・・・ええと、助けてくれた人と違うんだ。あの若い男性は?」

「社長ですよ。別荘地を所有している会社の社長です」

「ああ、そうだった。あの女、祐衣っていう女がそんなこと言ってたっけ。あれ、社長の何なの。恋人、奥さん?」

「祐衣さんのことですか。社長が別荘に連れてきたんです。詳しいことは知りませんが、人当たりもいいし、可愛い人だ」

「いいこと教えましょうか。祐衣はあたしの婚約者の元カノなのよ」

 奈々未が元カノなどと妙なことを言い出した。

「それもね、一回抱かれただけでポイ捨てされたわけ。そしたら、あの女はそれを根に持って、言い掛かりつけてきたのよ。結婚するのが羨ましかったんでしょうね。でも、あたしが痛め付けてやった。祐衣は涙ボロボロで土下座して謝ったのよ。面白いから、バイブレーターを突っ込んだら失神したんで、ラブホテルに置き去りにしてやったわ」

 ラブホテルとか、失神とか耳を疑うような言葉が飛び出した。祐衣が、この女性の話は無視して、真に受けないで欲しいと言ったのはこれを指しているのだろう。一万円を差し出したのはこれが狙いだったようだ。

「そんな話は信用できませんね」

 と、きっぱり否定する。

「本当のことよ。写真撮っておけばよかったなあ、祐衣の無様な恰好」

「嘘に決まってる」

「全部本当の話。あの社長さん、祐衣に騙されちゃったんでしょうね。だったら、あたしが話すわ。社長さんのところへ連れて行って」

 奈々未の話はかなり具体的のようだが、そう簡単に信用するわけにはいかない。まして、社長のところに連れて行くなどもっての外だ。会社を守り、社長を守り、そして祐衣も守るのも管理人の仕事だ。

「それはできない相談です。会社に迷惑の掛かるようなことはできません。それも管理人の仕事のうちだからね」

 大河内は奈々未の腕を取った。

「さあ、家まで送って行きましょうか」

 家は近いのか、ここへはどうやって来たのかと尋ねた。奈々未は、東京に住んでいて、別荘には車で連れて来られたと答えた。それなら話は簡単だ。最寄りのJRの駅まで乗せていき、電車に乗り込むのを見届ければいいだけだ。

 

 徹の車は別荘に向けて静かに走り出した。

 祐衣は早く二人きりになりたい気持ちだった。だが、車はゆっくり走っている。対向車はほとんど来ないのに運転は慎重だ。一言も喋らないうちに別荘に着いた。

 別荘に着くと徹はソファにドサッと座った。自殺騒ぎがあって疲れが出たのだろうが、あきらかにこれまでとは様子が違っている。彼がビールを飲みたいと言ったので、祐衣は冷蔵庫から缶ビールを出してコップに注いだ。

「部屋の中に入っていったとき、その女性はロープに手を掛けていたんだ」

 徹が自殺を目撃した状況を話し出した。

「まさに死のうとしている人を見た。初めてだった。たぶん、こんなことは一生に一度あるかないかだ」

 徹はビールを飲み干した。

「あの顔、あの目・・・」

 死ぬ瀬戸際の人を間近で見たのだから、徹がいかに怖かったのか想像に易い。

「あれで良かったんだろうか」

「ええ、良かったと思います。人の命を救ったんですし、そのあとも、警察を呼ばずに大騒ぎにならずに収めたんですもの」

「通りかかるのがあと五分遅れていたら、あの女性は亡くなっていただろう。別荘開発と人命を比べてはいけないが、仮契約したばかりで事故物件を抱え込むところだった。それも、一棟だけでなく別荘地全体の価値が下がっていたかもしれない」

 奈々未が自殺を図っていたら別荘開発事業に支障が生じていた。けれど、最悪の事態は回避できた。

「室内にあったビラを見たんだが、9000万円の返済を求めておきながら、一方では命で償えと迫った。あれは普通のやり方とは思えない。裏社会の連中が絡んでいそうだ。だから警察を呼んで係わり合いになることは避けたかった。管理人さんには無理なことを頼んでしまったが、うまく処理してくれるだろう」

 徹はまだ自殺騒ぎにこだわっている。祐衣は奈々未が落ちぶれた姿を見たので、嬉しくて鼻歌を歌いたくなるほどだ。しかも、奈々未がこの部屋に来るのを防ぐことができた。管理人には一万円を渡して、奈々未の言うことは信じるなと釘を刺しておいたので、うまくやってくれるはずだ。

 そろそろこの話題は終わりにしたかった。祐衣は彼の隣に座って身体を密着させた。

「徹さん」

「ああ、祐衣さん」

 徹が祐衣の胸元に顔を近づけた。祐衣はブラウスのボタンを外して胸を出した。

「ええよ・・・徹さん」

 徹が祐衣の胸に顔を埋めた。祐衣は彼の頭を抱え込んだ。徹は胸の谷間に顔を埋め、次に脇の下も求めてきた。腕を上げると徹が脇の下を舐めた。

「ああ・・・いい匂い。祐衣さんが好き」

 それから、徹は祐衣の股間にも顔を埋め、いつの間にか眠りに落ちていた。祐衣の股間は徹の楽園なのだ。

 

 夕方、レストランからオードブルとケーキが届いた。ローストビーフ、サーモン、合鴨のパストラミ、どれもおいしそうだ。祐衣が作ったサラダもテーブルに並べた。

 ビールで乾杯した。

「食事しながら聞いてください」

 徹が神妙そうな顔つきで切り出した。

「祐衣さんと別荘で一緒に過ごしてとても楽しかった。それで、お願いがあるんだが、これからも交際を続けてくれませんか」

「はい、こちらこそ、お願いします」

 改めて交際を申し込まれた。断る理由はないから即オッケーした。昨日の夜、セックスして、それで終わりではないかと心配したが、これで当分は繋ぎ止めることができる。

「結婚を前提にした交際でいい?」

「うれしい・・・私でよろしいんですか」

 祐衣は、徹の口から結婚という言葉が出たので嬉しくなって頬が緩んだ。ついでに膝の力が緩んだ。

「祐衣さんと出会ってから、仕事がうまくいっている。今日だって、仮契約した別荘地が台無しになるところだった。それを救ってくれた祐衣さんは幸運の女神だ。祐衣さんでなくてはダメなんだ」

「ありがとう。私は徹さんの真面目で、誠実なところが好き。徹さんの側にいられるだけで幸せです」

「じゃあ、これからもよろしく」

 祐衣が返事をする前に唇が塞がれた。食事中のキス。しだいに激しくなって舌を絡めて吸い合った。

「祐衣さんのことをもっと知りたい」

 そう、身体の隅々まで知りたいんでしょう。徹さんがお望みならば、おっぱい丸出しでご飯食べさてあげます。お股もユルユルよ。私の身体を使って食欲も性欲も思う存分満喫してくださいね。

「ええと、祐衣さんって関西出身なの?」

 先走りし過ぎてセックスを期待したのだが、徹は別のことを考えていた。調子に乗ってはいけない。

「ときどき関西弁、というかアクセントになるよね」

「ええ、生まれたのは関西のH市で、高校まで地元でした。大学は大阪で、就職してから東京に出てきたの」

「そうか、H市か・・・」

 何か思い当たることがあるのだろうか、関西のH市と聞いて徹が座り直した。

「H市にバブルシティっていうビルがあるんだけど、言ったこと知ってる?」

「知ってる、ほぼほぼ地元だもん。高校生のとき、そこでバイトしてた」

 徹はタブレットを操作して画面を見せた。

「これが、バブルシティの外観だね。この中の店でバイトしていたの?」

「そうじゃなくて、ビルの向かいにある商店街なんです。叔父さんの店なんだけど、落ち着いた料理屋さんで、私は着物着て仲居さんやってたわ」

「商店街とは新町商店街のことだね・・・ごめん、食事中なのに、すっかり仕事の話になっちゃった」

「いいですよ。私のバイト先と徹さんのお仕事、何か関係してるんですか」

 タブレットの中に新町商店街の映像が表示された。徹が操作すると同級生の中島の中華料理店が見えた。

「それ、その中華は高校の同級生がやってるの。この間、彼と電話で話したんだ。そうしたら、今度、結婚するだって。先を越されちゃった」

 先を越されたと言って結婚を仄めかしたが、徹の関心はそこではなかった。

 徹によると、彼の会社はバブルシティの経営権を取得しようとしているそうだ。だが、商業ビルの運営は初めてでノウハウが乏しく、しかも、関西には足掛かりがない。この三連休にも社員を派遣してバブルシティの状況を調査している。それで、徹は別荘に滞在中も現地にいる社員と連絡を取り合っていたのだった

「バブルシティは赤字が続いているんだ。立て直すには商業施設と、新町商店街とを一体化した見直しが必要だと思う」

「中華料理屋の彼もそう言ってた」

「現地の社員をその中華料理店に行かせよう。ええと、店の名前は・・・」

「それなら、叔父さんの方がいんじゃない。叔父さんは去年から新町商店街の理事長やってるの」

「本当か・・・驚いたなあ。商店街の理事長さんが叔父さんだったとは」

「叔父さんの店はお座敷もあって、お見合いとか結納にも使われているの」

 何でもかんでも結婚に結び付けようとして、結納まで持ち出した。実際、祐衣がアルバイトしていたときに叔父の店で両家の顔合わせの会食が何回もあった。

「話を整理しよう。当社はバブルシティの経営を目指しているんだが、祐衣さんは隣接した新町商店街にある叔父さんの店で働いていた。そして、その叔父さんは商店街の理事長をやっている。祐衣さんの同級生の店もあって、つまり、顔が広いというわけだね」

「そうです」

「それじゃあ、今週中に僕が現地に行くことにしよう・・・そうだ、祐衣さんも一緒に来てくれないか」

「ええ、日時が決まったら叔父さんに電話しておきます。実は私、一年近く地元に帰ってないんですよ」

 思いがけない展開になってきた。ついこの間までは、結婚の夢が破れ、仕事も辞め、落ちぶれた姿で帰省するところだった。それが、将来的に地元の商業施設の社長になる安藤徹を伴うわけだ。言ってみれば凱旋帰国だ。負け組から一転、勝ち組になったのだ。

「さっき、公園に車を停めたとき電話があっただろう。現地の社員からだったんだが、バブルシティの交渉にアドバイスを依頼しておいたコンサルティング会社が急遽降りると言い出した」

「それは困りますね」

「別の会社を探そうかと思ったが、それは必要なさそうだ。コンサルティング会社よりも祐衣さんの話の方がよっぽど役に立つ」

「私というか、叔父さんと同級生の方が頼りになると思います」

「そうだ、祐衣さん、コンサルティング会社をやらないか。祐衣さんの情報にはすごい価値がある。数百万円払ってもいいくらいだ」

 どうせ支払うのなら、コンサルティング会社ではなくても祐衣に払ったほうがいいと言うのだ。ひょんなことから、会社を経営することになりそうだ。

「そういうことでしたら、絶対に徹さんの会社が契約を取ってくださいね。私に出来ることがあったら微力ながら協力させていただきます」

「叔父さんと面会するのなら、ご両親にも会っておきたいなあ。もちろん、仕事は抜き、プライベートでね」

 あれよあれよという間に、両親への挨拶にまで進展した。祐衣の押し売りは効き目があり過ぎたようだ。あまりにもスピードが速くて、心の準備が伴わないほどだ。

 徹はそこでタブレットをシャットダウンした。仕事の話はここで終わりにしようということだ。

 食事のあとでケーキを食べた。小さいけれどホールケーキだ。祐衣はキッチンから包丁を取ってきた。

「ケーキカットしよう」

 30分前には結婚を前提にした交際を申し込まれ、それが、あっという間に披露宴になった。二人で包丁の柄を握り、ケーキカットに臨んだ。包丁を入れて手を止める。

「撮影タイム」二人で同時に言った。息がピッタリ合ったので大笑いした。

「そうだった、指輪を用意しておくんだったなあ」

「指環は楽しみに待っています・・・それより、徹さんの愛情が欲しい。祐衣のことたくさん愛してね」

「愛してるよ、祐衣さん」

「私も、徹さんを愛してる」

 チュッ。キスをした。

「もう一つ欲しい物があるの。愛し合った証し・・・赤ちゃんが欲しい」

「祐衣さん」

「徹さんの赤ちゃんください」

 

 ベッドに行く前にシャワーを浴びたい。どちらが言い出すともなく、二人でお風呂に入ることになった。別荘の風呂場は二人で入るに十分な広さだ。 

 徹が先に湯船に入り、祐衣が続いた。彼の脚の間に身体を沈める。引き寄せられてキスをした。しっとり濡れたキス。

 ヌチャ、ヌチャ。

 浴槽から出た。

 祐衣はタオルで徹の身体を洗った。タオルを使うのはやめて、身体にボディソープを塗って抱き合った。泡だらけのおっぱいで徹の背中を洗う。

 ペチョ、ペチョ。

 今度は向かい合って抱き合い、おっぱいで彼の胸を洗った。背中に手を回し、身体を上下に揺すった。

 おっぱいのあとは、手のひらをタオル代わりにして洗った。手を下腹部に伸ばす。徹の下半身はすでに天井を向いて膨張していた。勃起したペニスを洗った、洗うというよりシコシコしごいた。

「はあう・・・ああ、祐衣さん」

 祐衣は徹のペニスを股間に導いた。昨夜、初めてセックスしたとき、彼は性器の入り口が分からなくて戸惑っていた。今夜はスムースに交わりたい。

(ここ・・・)

 ペニスの先端を肉襞の入り口に当て、声を出さずに目で教えた。徹が軽く頷き、身体を寄せてきた。

 ジュズ、ジュブ。

 祐衣の肉襞を押し分けてペニスが入った。

「うはっ」

 しかし、ここで射精させてはならない。

「ああん、ダメェ」

 祐衣は腰を引いてペニスを抜いた。

 徹がタイルを指差すので、祐衣は仰向けになった。背中に触れたタイルは冷たかった。徹が前に回って祐衣の脚を広げた。性器をバッチリ見られている。性器には、お湯で濡れたアンダーヘアーがべっとりへばりついている。ピンクの花びらと黒い陰毛。

 徹がペニスを肉襞に当てズブッと入れた。祐衣の教え方が良かったのか、徹はたちまち実行に移してきた。今度は見事に一発で挿入した。

「うっ、うっ、ああああ」

「はあ、はあ、祐衣さん」

「ねえ、ああ、ダメょぉ・・・いい、いい、ああん、タイルが」

 タイルが冷たいと言って姿勢を変えて祐衣が上になった。初めての女性上位、騎乗位でのセックスだ。

 風呂場での行為はそこで終わりにした。脱衣所で身体を拭く。徹が身体を拭きながら祐衣の前に跪いた。

「祐衣さん、お姉さん」

 徹が太ももを抱え、濡れた肉襞にキスをした。舌で舐め上げる。舐めて拭こうとしているのだ。

 んぐ、んぐ、ちゅっ。

「うっ、うっはぁ、ああ」

 彼の濡れた髪を掴んで頭を抱え込んだ。

 

 全裸にバスタオルを巻き付けて寝室に行った。ベッドが二つ並んでいる広い寝室だ。することはただ一つだけ。祐衣はバスタオルをほどいてベッドに仰向けになった。

「祐衣さん」

「徹さん・・・して」

「ああ」

 徹が身体を重ねてきた。長いキスをして、彼の舌が首筋から脇の下へと這う。脇の下はすごく感じる。

 仰向けに寝ても祐衣のおっぱいはブワンと盛り上がっている。おっぱいを揉まれ、乳首を吸われた。

「ああん、おほ、うっ」

 下半身を抱かれた。徹が脚を持ち上げて広げる。

 ああ、見て、見て、祐衣の恥ずかしいところ見て・・・そこは徹さんのものよ。

 徹が顔を埋め肉襞を吸った。とたんにジワリと愛液が染み出る。

「うっ、つはぁぁぁ、ひいぃぃぃ」

 背中をのけ反らし、徹の頭を抱えた。徹は時間をかけて性器を舐める。アンダーヘアー、太ももの付け根、そして、クリトリスにキスをされた。

 祐衣の肉体は何時でも彼を受け入れられるまでに充分に濡れた。

 そのときがきた。徹がペニスを肉襞に宛がい、入り口を押し広げた。今日は一回で挿入した。風呂場での練習の成果がだ。

 ズニュ、ズブリ。

 膣の中にズッポリ収まった。

「ああ、ああ、ああん」

「祐衣さん、気持ちいい、祐衣さんの身体の中、気持ちいい」

「あっ、徹さん、いい、いい、いいの」

 ペニスが動き出した。グイグイ押して、引いて、また押してくる。肉襞がペニスを包み込んだ。祐衣にとっては生まれて初めての生セックス。生のペニスの刺激がたまらない。

 気持ちいい、これが男と女の肉の交わりだ。

 祐衣は徹の背中に手を回し、脚を胴体に絡ませた。

「ああ、はあ、ああ、いい、いぃぃぃ、いひぃぃぃぃ、あっ、あっ」

「イキそうだ、祐衣さん」

「きて、きて・・・ああ、うはああああ、うきぃぃぃぃ」

 ビュズ・・・ドバッ。

 徹が射精した。精液が膣を通り祐衣の子宮に注ぎ込まれた。

 温かい、精液は温かった。

 赤ちゃんが来たと確信した。

 祐衣は脚に力を入れ、徹にしがみついた。子宮に届いた精液が外に漏れ出ないように、しっかり受け止めた。

 結婚が現実にものになった瞬間だった。

 

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