それはひどく、遅々としていた————
バナージの口の中で、フロンタルの性器はなかなか芯を持たない。
呼吸をまともに確保するだけの間を置くのも恐ろしく、ぴす、ぴす、と詰まった鼻を鳴らして必死に息を続けながら、そのずっしりと重い肉塊に吸い付き続ける。
涙はもう流れない。霞んだ熱っぽい眼で、必死にフロンタルの表情を上目遣いに伺い続けている。
「ふ——……」
バナージは舌の表面をぺったりと竿肌に寄り添わせてぬぐぬぐと小刻みに前後させ、強張る喉を必死に開いて、分厚い亀頭を呑み込むようにしゃぶりついた。より深く吸い付いて、それを口の中ですっぽりと包む。
ぎこちなく軋むような心地を覚えながら、首を振り、頭を前後に動かす。ぴったりと当てた舌を唾液の層を挟んで摩擦させ、咥えた男根に刺激を与える、最もダイレクトな方法を取る。
「ん゛、ん゛ん……っ」
ようやくじっくりと硬さを持ち始めたそれが、にわかに舌を押し、喉を塞ぐ。息苦しさが増して、目の前がちかちかと明滅する。それでも、吐き出すわけにはいかない。喉をひくひくと動かして、必死にその熱く、巨きすぎる塊を咥え込む。
眩暈で回る視界を塞ぐようにぎゅっと目を閉じ、硬さを緩やかに増していくものを口腔全体で刺激する。
亀頭がぬぢっ、と当たった喉の奥に、ぬるりと嫌な味が滲んだ。
「うん、良し……素晴らしいな。君は十分に役目を果たした、バナージ君」
フロンタルの手がバナージの頭を無造作に掴み、押しやる。バナージの舌表からフロンタルの厚みと硬さを増した亀頭まで、唾液と先走りが混じり合った粘液の糸が二本、三本と束ねて引かれる。
かは、と、バナージは喉が軋んで自然と上がったような声を漏らし、赤らんだ舌を半ば出したまま、それを呆然と見つめた。
フル・フロンタルの肉体は、隅々まで計算されつくして完璧に造り上げられているようにすら見えた。
殊更、バナージの懸命な口淫によって熱い血を通わせ、目の前に威容を見せたそれは、発達途上のバナージ自身のそれと比べ物にならないほどに、長く、太く、成熟した男性美を纏っている。
完成されたもの。
征服するための肉体。
勝てるはずのない存在。
同じ性を持つからこそ、それが本能に刻み込まれてしまう————
フロンタルがゆっくりと腰を上げ、ベッドに横たわるオードリーに覆いかぶさる。
室内の乏しい光の下で仄明るく見えるほどに白いオードリーの体に、フロンタルの厚い体躯が覆いかぶさると、落とされる影はまるでその華奢な肉体を貪り食うように歪に伸びた。
ひ、とかすれた声が、バナージの喉から漏れる。
オードリーの薄い腹部が、わななくように震えてきゅうっと力むのが見えた。
「う、ふ、ぅぅ゛、ぅ゛……っ」
オードリーの喉から長々と声が漏れている。それは内臓をゆっくり押し上げられ、肺から追いやられる空気をひょろひょろと吐き出すかのような声だった。ただの空気の通り道となった喉が吐き出す、悲痛で無様な風の音。
その小さな顎が天井を向くほどに仰け反り、乱れた金のつむじが質素な寝台に擦りつけられる。ただ艶消しの宝石が嵌まり込んだかのように暗い双眸に、重力に従って動いた下瞼がわずかに被さって、その表情は一瞬だけ、感情のない薄笑いのようにすら見えた。
入っていく。
バナージの口によって血流を養われた、悍ましいほど太くずっしりとした肉の竿が、ただの清らかで浅い割れ目にしか見えないオードリーの秘部へ。
その長さを持て余すように、ず、ずっ、と段階を踏んで打ち込まれ、その清らかな肉体に埋もれていく。
「あ、ぅ……ぅう、ぐ?」
首の骨が用を成さなくなったと思えるほどに仰け反り、転倒した霞んだ瞳をぐる、ぐる、とふらつかせながら、オードリーがどこか不思議がるような呻き声を漏らした。
フロンタルの大きな手が、頬に掛かる金髪を優しく掻き分けて、白磁のような清らかな肌を撫でた。
「ミネバ様」
「う、……」
「十分に休まれたでしょう。事を終えるまでは、眠られることのないように」
ばすっ!
衝撃音を重く響かせて、フロンタルの分厚い腰が打ち下ろされた。三分の二ほど露出していた肉竿が、一気にオードリーの中へ突きこまれ、深く柔らかな箇所を抉るほど打ち据える。
「あっぎゅ、ぅぅ……っ!」
それはただの、潰されつつある生き物の断末魔だ。
オードリーの滑らかな脚が、ばた、ばた、と暴れた。フロンタルの幅の広い腰を挟んで両脇に押しやられている脚は、何かを押しのけることすらできない。
フロンタルの巨躯が背を丸めるように腰をゆっくり引き離し、引き抜いた肉竿から鮮血と愛液の雫をはたはたと落とす。それが目に焼き付いた次の瞬間には、またオードリーの小さな体にそれが勢いよく打ち込まれて見えなくなる。
「あ、っぐ、う、ぅ? ふろ、んたるっ、これはっ……」
ようやく言葉を取り戻しても、オードリーが口にできるのはその程度のものだった。
後ろ手に拘束された腕は体の下敷きになって動かず、その薄い肩だけが無力にうごめく。
フロンタルはそのずっしりとした肉体でオードリーを覆い隠すほどにのしかかったまま、その耳元に唇を寄せ、性行為の興奮などみじんも感じない穏やかな声で語り掛ける。
「処女であったのは間違いないようだ」
「っ……」
オードリーが息を押し詰め、耐えるように目を硬く閉じてかぶりを振った。
は、は、と途切れた息が聞こえる。
ひどい悲嘆が、絶望が、まるで自分のもののように————
(違う……)
(わかってなんかいないんだ、おれは)
(わかった気になっているだけ)
(何もできなくて、言いなりになるままで、何もできない辛さと、『これ』は違うんだ)
バナージは力なく呻き声を漏らして、顔を伏せた。
オードリーの途切れるような息遣いが収まるのを待たず、フロンタルの巨躯が勢いよく叩きつけられてその腰骨が軋むほど深く突きこまれる。
「あ、あ゛」
意図せず漏れる声が、その細い喉から押し出されるようだった。
あまりに痛々しい響きに、バナージの全身から血の気が引いていく。
フロンタルの冷静な声が、響きばかりは優しく語り掛けている。
「苦痛でしかないのは当然です。内臓性の刺激に慣れるのは、まだ時間がかかるでしょう」
「うう゛、う゛っ、待っ……フロンタルっ……」
バナージははっと目を見開いて、オードリーを見た。
恐ろしいほどの早さで————
オードリーは、思考と理性を取り戻しているように見えた。
ぐらぐらと彷徨っていた緑の瞳にはかすかな知性の光が灯り、苦しい吐息の下から真っ直ぐに目の前に注がれている。自分を犯す男の、仮面に隠された顔に。その仮面すら貫いて、自分と繋がる肉体の持ち主である一個の男を見据えているかのように。
泡交じりのよだれに汚れていた薄桃色の唇が、詩を読むかのようにそっと開く。
苦鳴でも、懇願でもなく、ただ言葉を紡ぐ。
バナージはただ、その苦痛にまみれた美しい横顔に目を奪われていた。
「支配に正当性が必要であることも……それの最たるが血統であることも……お前なら承知のはず……」
フロンタルは口を挟まず、ただ重い衝撃を伴う抽挿をゆっくりと繰り返している。
自分の体重をはるかに上回る衝撃を柔らかな内臓に抉り込まれ、オードリーは身を捩って呻きながら、それでも言葉を途切れさせることはなかった。
「ザビ家の血統を、それを守り続けた私の貞潔を、そうして……形はどうあれ、手にしたのなら……あ、ぅ」
小さな体を揺すぶられ、オードリーの声が途切れた。突きこまれるものの衝撃を逃れるように力なく仰け反ってなお、見下すような冷ややかな視線をフロンタルに投げかけている。
「お前にも、相応の……この血統についての責任を持つべきです……独裁者の夢物語でも、狂気の軍勢の旗振りでもない、守るべき民と養うべき国家の……!」
「責任、ですか」
ぬろろっ————
長い肉竿がオードリーの中から引き抜かれていく。ぞっとするほどの深さから引きずり出されて行く。引き抜かれてなお、まだ埋もれていたのかと思うほどに。
先端がわずかにその初々しい膣口に引っ掛かる程度まで引かれたかと思えば、次の瞬間には露出していたそれが一瞬で柔い肉の中に深々と突き刺さって消えた。
「……っ!? お゛、ぉっ……!?」
オードリーの体が激しく反り返って、空中に向かって突き出した脚がびくびくと跳ねた。
その程度の痙攣では逃れることもできない。オードリーをしっかり押しつぶした体勢で激しい抽挿を始めながら、フロンタルはごく理知的に語り聞かせる。
「その言葉が意味するものはどうあれ————処女膜を破る程度の措置なら、早めに行っておいたほうが良いでしょう。これからミネバ様の此処には、様々な方法で刺激を与えることになる。保持するのは現実的ではない」
「っあ、ぐッ、……お、まえはっ……」
オードリーの声には、絶望の響きが色濃かった。
粘っこい水音と共に引き抜かれた肉竿が打ち込まれ、ぱんっ、と肌が打ち鳴らされる。
「それだけのことです。そういった価値判断が通用する段階はすでに通り過ぎていることくらい、ご理解いただいていると思っていましたが、ミネバ様」
「フロンタルっ……!」
どうしようもない絶望と怒りが、オードリーの声を上ずらせている。
「お前は、何も見ていないのか……自分が何をなすべきか、力なき民たちが何を求めているのか、ジオンの国益さえ……!」
失笑が、忍び寄るように鼓膜を打った。
「たかが生殖器の使用状況一つに、随分なものを背負わせたものだ」
その刃のような言葉が、オードリーの言葉を完全に奪った。
「それこそを、我々は旧弊と見なしているのですよ、ミネバ様」
瞳が愕然と見開かれ、ふ、と微かに耳につく程度の呼気が小さな唇から漏れる。脱力した体にフロンタルは容赦なく抽挿を続け、そのたびに叩き付けられる体重で華奢な肉体は撓み、ひしゃげ、軋むようだった。
力ない呻き声が、細い喉から漏れ続ける。もはやオードリーの意思も知性も介在しない、ただの鳴き声。
「あ、あ……」
バナージの頬を、涙が伝う。
オードリーが、食べられてしまう————
麻痺した思考の中で、それだけがひどくバナージを急き立てる。
あの気高く綺麗な、真っ白な体が。
誇り高い魂が。
尊く秘められ続けていた純潔が。
やめて、と、叫ぼうとした。
何も考えていなかった。
ただ、助けたかった。
それがどんなに無謀で、愚かしいことだとしても。
その声が、喉の奥で凍り付く。
「……?」
オードリーの非力な、細い脚が、意思を以て動いた。
それはフロンタルの、自分を犯す男の腰を、まるで迎え入れるようにしっかりと捕まえていた。