オードリーの細い脚がフロンタルの厚い腰を捕えるように掛かり、軽い体重と非力な脚力でぐ、と引き寄せた。
フロンタルはひとまず引き寄せられるままに腰を沈め込み、オードリーをより深く犯しながら、薄笑いを宿した口角を少しだけさらに引き上げる。
オードリーは上ずった息をは、と零し、ベッドの上からフロンタルを睨めつけている。
彼女は、もう限界のはずだ……ほとんど血の気を失い、濡れた唇が薄く開いて乱れた呼吸を漂わせている。フロンタルの腰を捕まえている爪先も痙攣してひく、ひく、と中指や足の甲が震えていた。
それでも、苦痛を耐えるために目を閉じることすらしない。
その瞳の光は、この薄暗い部屋の中で眩いほどだ。
バナージは胸の奥がざわっ、と湧き立ち、熱いもので満たされるのを感じた。
なぜ、自分が彼女にこんなにも惹かれたのか。彼女の美しさは、どこから来るのか。————運命とは、どんな形をしているのか。
その答えが、目の前の光景にあるような気さえした。
「ふ、ふろんたる……」
「声もおぼつかないようですが、睦言をお望みですか?」
フロンタルの薄い、色味のない唇がそっと開いて囁くように返す。
オードリーは奥深くに抉り込まれるものの衝撃に「ぐぅっ」と呻いてから、何かを振り払うように細い首をふらふらと振った。
「お前の、ルールに、従ってやりましょう……っ、あ、あ゛っっ……」
その長さが見て取れるほどに引き抜かれた竿を深々と捻じ込まれ、更にフロンタルの巨躯にのっしりと潰され、ほとんど隠れながらオードリーが苦鳴を上げる。ぼろりと押し出された涙の粒が、その白磁の頬を転がるように落ちた。
「と、言いますと?」
オードリーに密着したフロンタルが、優しい声で続きを促す。
「私を、好きにすればいい————……」
ばぢ…っ、ばぢっ、と、腰が立て続けに叩き付けられる。そのたびにオードリーの呻き声が漏れる。突き出した両足ががくがくと震える。
悍ましい光景だった。苦痛と屈辱だけが部屋に垂れこめていて、バナージの喉を締め上げている。
それでも、呼吸ができると、バナージは感じた。
そこにオードリーがいると意識するだけで、この泥沼に光が射すように思えた。
フロンタルが密着した体をゆっくりと起こす。
そこには、絶望の翳りを拒み、ただフロンタルを真っ直ぐに睨むオードリーの瞳の光がはっきりと見えた————
(オードリー……!)
「バナージに、手を出すことは許しません……」
かすれたような、それでもたまらなく誇り高く愛おしい声が、フロンタルに鋭く言った。
ふむ、と、考え込むような吐息が、かすかに聞こえる。
「バナージ君の無作法に、あなたの痛みを以て答えた。ならば、バナージ君の安全はあなた次第だ。平等なルールと言えるでしょう」
「わ、わたしが、っ、あなたをたっぷり満足させても、ですか……?」
「……」
静寂は、ただフロンタルの思考の空白だった。
それ以上の動揺があるわけではない————
フロンタルが何かを言いかけた時、バナージは浅い呼吸で肺に空気を押し込み、何かに追い立てられるように声を上げた。
「っだ、駄目だよ、オードリー……っ、そんなこと、口にするだけで……」
分からない。分からない。分からない。
何が正解なのか。何をすればオードリーを助けられるのか。どうすれば彼女、彼女の魂を守ったことになるのか。
ただ、オードリーのその言葉が。その言葉に込められた思いが。その言葉を紡ぐ彼女の気高い魂が。
『バナージに、手を出すことは許しません』
————彼女を守れず、ただ泣いている男であることを、バナージに許さなかった。
「そいつは……そんなことが、通用するやつじゃない……!」
失笑————
フロンタルが、冷ややかに笑ってバナージを見る。
「ここで幾らでも偽り、弄ぶことは容易い。だが、それをする意味すらないほどに、今の君たちができることは少ない。つまり……君の言葉は、正しいと言える」
「……フロンタル……!」
怒りを込めて、仮面を睨む。その視線すらそよ風のようにいなして、フロンタルの太い指がオードリーの髪束をゆっくりと摘まみ上げて弄んだ。
「その上で、ミネバ様」
「……」
フロンタルの唇が、乱れた金髪を貼り付けたオードリーの小さな白い耳へ近づく。
「あなたが『満足』させようとするのを、止めるものではありませんが……」