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帝国魔術学院の大図書館。天井は遥か高く、ステンドグラスから差し込む午後の光は空気中に浮遊する無数の埃によって鈍く拡散されていた。何世紀分もの古紙とインク、そして革表紙の匂いが濃密に混じり合い、訪れる者の肺を満たす。広大無辺な空間を埋め尽くす書架は、さながら忘れ去られた知識で築かれた迷宮だ。
その迷宮の最奥部、一般の学生が滅多に足を踏み入れない区画がある。
西棟三階、帝国法に関する書架群。魔術の探求に心を奪われた若者たちにとって、無味乾燥な法律の条文などいささかの興味も惹かないらしい。分厚い法典が整然と並ぶその空間は、図書館の他のどの場所よりも濃密な静寂と埃に支配されていた。
だが今、その静寂は破られている。
書架と書架の間の狭い通路。薄暗い影の中で、女の濡れた声が漏れ聞こえていた。
「ん……っ、ぁ……」
鈴を転がすような──とはいうまい。その声はどうにもしわがれており、明らかに若い女の声ではない。
声の主はマージといった。姓はない。この学院で清掃婦として働く平民の女である。年の頃は五十を少し過ぎたあたり。全体的に肉付きが良く、ぽっちゃりとしている。顔立ちも決して褒められたものではない。若い頃は多少なりとも愛嬌があったのかもしれないが、今となってはくすんだ肌と目尻の皺がその苦労を物語るばかり。言ってしまえば、どこにでもいるくたびれた中年女である。
そんな女がなぜ知の殿堂の片隅で、まるで娼婦のように喘いでいるのか。
理由は単純明快。イサク・サザーランドが彼女に手を出しているからだ。
イサクはマージの背後から、そのずんぐりとした体を密着させていた。右手は清掃着の上から、年齢と共に垂れ下がりつつある豊満な乳房を掴み、まるで粘土でもこねるかのように容赦なく揉みしだいている。左手はマージの頬に回され、その顎を強引に自分の方へと引き寄せる。そして、逃れようとする彼女の唇を塞ぐように、深く接吻をしていた。
ぬちゅ、くちゅ、と湿った音が狭い空間に反響する。古書の乾いた匂いに、二人の体臭と汗の匂いが混じり合い、奇妙なコントラストを生んでいた。
長い口付けの後、ようやく唇が解放される。糸を引く唾液が二人の口元を生々しく濡らしていた。
「あ、な……なぜ、あたしなんか、を……」
マージは息も絶え絶えに、掠れた声で問うた。至極当然の疑問だ。侯爵家の御曹司であり、学院随一の秀才であるイサクが、なぜ自分のような卑しい身分の、しかも盛りを過ぎた女に手を出すのか。理解ができなかった。
だがイサクは答えない。その代わりに、彼女の問いを黙殺するように再びその唇を貪った。
イサクの行動原理を彼女が理解することは永遠にないだろう。彼が求めているのは若さや美しさではない。彼がそそられるのは、人生の年輪を重ね、確固たる現実を生きる年嵩の女が持つ、その「手触り」と「匂い」なのだ。安物の石鹸と、埃と、そして諦念が発酵したような複雑な体臭。それこそが彼にとっての極上の媚薬であった。
ちなみにこの不埒な行為が誰かに見咎められる心配はない。イサクは予め、この一帯に高度な人払いの魔術を施している。この術式は単に人を遠ざけるだけでなく、術の範囲内で発生するあらゆる音や魔力の痕跡を完璧に遮断する。ここは今、世界から切り離された
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イサクにとって、マージのような存在は必要経費のようなものであった。
義母ドロテアを屈服させ、学院での評価も確立しつつある。しかし彼の内側に巣食う歪んだ性的衝動は、留まることを知らない奔流のようだ。常にどこかに捌け口を求めている。
彼の真の目的はアガサ・メーベルのような、賢く、プライドの高い熟女たちを堕とすことにある。しかし彼女たちを攻略するには緻密な計画と時間が必要だ。その準備期間中、手近なところで
そこで白羽の矢が立ったのがマージだった。
数日前、イサクは清掃用具入れの前でマージに声をかけた。
「少し、お話があります」
突然のことに驚き、怯えるマージ。イサクは彼女の反応を冷静に観察しながら、一つの提案を持ちかけた。
「貴女の息子さんが病気だそうですね。治療には随分と金がかかるとか」
その言葉に、マージの顔色が変わった。彼女がこの学院で身を粉にして働いているのは、偏に一人息子の治療費を稼ぐためだ。マージは平民だがその人品は厳正に審査されており、それなりに高額な賃金で学院から雇われている。それでもなお治療費を支払い続けるのに四苦八苦している。
なぜイサクがそれを知っているかといえば、当然調べたからである。
「簡単な仕事です。僕の『ストレス解消』に付き合っていただきたい。もちろん、相応の対価はお支払いします」
そう言ってイサクが提示したのは金貨数枚。マージの月収の数倍に相当する額だった。
マージは葛藤した。侯爵家の御曹司の言う「ストレス解消」が何を意味するのか──
「あの……私は、一体何をすれば……」
魔術の実験台にでもされるのだろうか?そんな不安がマージの胸をよぎる。まさか性的に狙われているなどとは思いもしない。
「なに、大したことはありませんよ」
そういって、イサクはマージの胸にゆっくりと掌を近づけた。
「あなたが心配しているような、例えば苦痛を伴う魔術の実験──などをお願いするつもりはありません。逆に、気持ちよくなれるかもしれませんよ?」
イサクの言葉を聞いたマージは目を見開いた。
まさか、私の体を?
ありえない、とおもいつつ、マージは胸に近づいてくるイサクのややぽっちゃりとした手を見つめる。
「嫌なら体を退いてください。別にそれで咎めたりはしません。しかし、僕の提案を受け入れるなら──」
マージは動かなかった。
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そして現在──書架の影。
イサクはマージの体を反転させると、その場に膝まずかせた。
「さあ、仕事の時間ですよ」
その声には何の感情も籠っていない。まるで実験器具の準備でもするかのような平坦な響き。
マージは一瞬躊躇ったが、すぐに覚悟を決めた表情でイサクのズボンの留め具に手をかけた。
露わになったイサクのそれは、彼のずんぐりとした体躯には不釣り合いなほど、熱く、禍々しい存在感を放っていた。脈打つそれは、まるでそれ自体が独立した生き物であるかのようだ。マージはごくりと唾を飲み込むと、意を決してそれを口に含んだ。
生暖かく、少し苦い味が口の中に広がる。
イサクはマージの頭を片手で掴むと、その動きをコントロールし始めた。深く、浅く、時には激しく。
「んぐっ……ぅ、ちゅ……れろ……」
マージの喉が鳴る。苦しい。だが、逃れることは許されない。彼女は必死にイサクの要求に応えようと、舌を這わせ、吸い付いた。
ずちゅ、ぐちゅ、と卑猥な水音が響き渡る。
マージは決して若くはないが、長年の人生経験で培われたのか、あるいは生きるために身につけざるを得なかったのか、口淫の技術はそれなりにこなれている。イサクの微かな反応を敏感に察知し、巧みにその動きを変えていく。
イサクは目を閉じ、マージが与える快感に身を委ねていた。その表情は穏やかで、まるで瞑想に耽っているかのようだ。
──悪くない
彼はマージを単なる捌け口としてだけでなく、学院内における情報収集の駒としても利用しようと考えていた。清掃婦という立場はその気になれば様々な情報を入手できるからだ。
快楽の渦の中でさえ、彼の思考は止まることがない。
やがて、イサクの呼吸がわずかに乱れ始めた。その兆候を察知したマージが一際強く吸い付く。
じゅるり、と音が鳴った。
「……っ」
短い呻きと共に、イサクの体がわずかに強張った。熱い奔流がマージの口の中に注ぎ込まれる。
イサクはマージの顎に手をかけ、やや上向かせて口を開かせる──マージの頬が羞恥で赤らむまで。
やがてマージの頬に赤らみを認めると、ようやくイサクは「……飲み干しなさい」と命令した。
マージは嗚咽を堪えながら、いやにねばつく白濁の全てを喉の奥へと流し込む。
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全てが終わるとイサクは手早く身なりを整えた。その動作には一切の余韻も感傷もない。
「よくできました。下がってよろしい」
そう言って、懐から金貨を一枚取り出すと、ぐったりと床に座り込むマージの手に握らせた。約束通りの手間賃だ。
マージは金貨の重みを確かめると、深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございました……」
金貨一枚──平民には大金である。彼女はよろよろと立ち上がると、乱れた髪と服装を整え、足早にその場を後にする。
一人残されたイサクは法律書の背表紙を指でなぞりながら、静かに佇んでいた。表情から先ほどまでの行為の痕跡は綺麗さっぱりと消え失せている。
イサクの意識はすでに次の獲物へと向けられていた。
アガサ・メーベル。あの厳格で、気高い老魔術師。彼女のプライドを打ち砕き、そのしわがれた体で喘がせる時、自分はどれほどの快感を得られるだろうか。
そんな倒錯的な想像がイサクの口元にかすかな笑みを浮かばせる。