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帝国魔術学院の大図書館、西棟三階。帝国法の書架が立ち並ぶこの一角は相変わらず学生たちの姿は疎らである。埃の被った法律書など、最先端の魔術理論を学ばんとする学院生にとってはいささかの魅力もないのだ。
そして念の為に、と人払いの魔術が書架の影。そこで行われているのはもちろん学術的な探求などではない。
「ん、お゙ぐ……じゅぷ、れろ……」
清掃婦のマージは床に膝をつき、目の前に立つイサク・サザーランドの欲望の塊を、その口いっぱいに頬張っていた。イサクのそれは彼のずんぐりとした体躯には不釣り合いなほど、熱く、禍々しい存在感を放っている。大きいのだ、イサクのペニスは。
普段のイサクならばマージから口淫を受けている最中はぴくりとも動かないのだが、この日は違った。
彼はマージの頭を両手で鷲掴みにすると深く、さらに深く、まるで喉の奥を突き破らんばかりに、容赦なく腰を突き出す。前の世界ではイラマチオと呼ばれている行為だ。
「んぐぅっ……!?」
マージは苦しそうに涙目でイサクを見上げながらも、必死にその要求に応えようと、その熱い塊を受け入れ続けた。
やがてイサクの呼吸が荒くなり、その腰の動きが一際激しくなった。
「……っ」
そして短い呻きと共に、イサクの体が強張り──熱い奔流が、マージの口の中に注ぎ込まれた。
「んぐっ……ごくっ……」
マージは嗚咽を堪えながら、その白濁の全てを喉の奥へと流し込む。ねばつく液体が食道を下っていく生々しい感触。
全てが終わると、イサクは手早く身なりを整えた。その動作には一切の余韻も感傷もない。
「……はぁ……はぁ……」
マージは床に座り込んだまま、荒い呼吸を繰り返している。マージとしてはイサクに口淫をすること自体に不満はない。こうして乱暴に扱われる事にも。ただ、それはそれとして苦しいものは苦しい。
「あの……サザーランド様」
マージは意を決したように、掠れた声で尋ねた。
「何か、ございましたか……? その、いつもよりも、随分と……」
イサクはマージの言葉を聞いて、ようやく自らの行為が普段よりだいぶ激しいものだったと気付いた。わずかに眉をひそめ、小さく息を吐く。
「……申し訳ありません。少し研究が立て込んでいて、ストレスが溜まっていたのかもしれません」
事実である。
この世界の魔術理論は彼の知識との親和性が非常に高く、ゆえにイサクはまるで天才に見えるのだが彼の中身であるところの虻川 伊作は天才などではなく、どちらかといえば努力の人だ。失敗を積み重ねて成功に至るタイプで、何もかもを初見でうまくやってのけるタイプではない。
そんなイサクの研究はここ最近、いわばボトルネック的な部分で停滞しており、そのストレスでマージの口を普段よりやや乱暴に犯してしまったのだろう。
イサクは懐から革袋を取り出し、金貨を数枚、マージの手のひらに握らせようとした。詫び料である。だがマージはその手を受け取ろうとはしなかった。彼女はイサクの手をそっと押し返すと、ゆっくりとその前に膝をついた。
「……?」
イサクが驚く間もなく、マージはイサクが履き直したばかりの下衣に手をかけた。そして、まだ完全には萎えていないそれを手に取り、まるで宝物を扱うかのようにそっと口に含んだ。そして喉の奥までそれを呑み込んでいく。
イサクのペニスはマージの舌の感触に反応し、すぐに再び硬さを取り戻していく。
ちゅる、くちゅ、と。先ほどよりもさらに卑猥な水音が響き渡る。イサクはその心地よさに目を閉じ、身を委ねた。マージの口が昂りを巧みに刺激する。
やがて、再び訪れた射精の衝動。イサクはマージの頭を優しく抱きかかえると、その口内に熱い欲望を解き放った。イサクの性欲の強さは
「んくっ……ごくん……」
マージは今度も、その全てを一滴残らず飲み下した。その喉が上下する様は奇妙なほど艶めかしい。
全てが終わると、マージは満足げな表情でイサクを見上げた。
「サザーランド様。レオを救ってくださった御恩は一生忘れません。わたしのような者で少しでもお気晴らしになるのでしたら、いつでも、どこでも、
イサクは何も答えなかったがしかし、懐から清潔なハンカチを取り出すと、マージの口元に残った唾液と精液の痕跡を優しく拭った。そして頬にそっと触れ、最後にそのくすんだ色の髪をくしゃりと撫でた。
まあこれは優しさ云々ではなく、「気を遣ってしゃぶってくれてありがとう」というのがイサクの本音なのだが、そんな事を言われてもマージも困るだろうと思っての事だ。
だがマージは“これがこの不器用な青年なりの感謝の示し方なのだ”と感得し、イサクの事を可愛く感じてしまう。
──ああ。
マージは胸が熱くなるのを感じた。息子以上に若いこの青年のことが、どうしようもなくいとおしい。
◆
マージが去った後、イサクは一人書架の前に佇んでいた。
(さて)
せっかく図書室に来たのだ。このまま帰るのも芸がない。イサクはそう思い、以前から少し気になっていた書物を手に取った。タイトルは『古代北方鉱山人の言語における動詞活用について』。恐らくこの書を楽しいと感じる者は、イサクを含めて極々少数だろう。
そうして席に着き、表紙をじっくりと検分する。
表紙は上質な竜革(リンドヴルム・レザー)だ。指先で撫でれば、しっとりと吸い付くような感触が返ってくる。イサクは満足げに頷くと、そっと鼻を近づけ、古びた革とインクの混じり合った匂いを吸い込んだ。
(悪くない)
ぱらり、とページをめくる。紙は羊皮紙(パーチメント)か。インクの乗りも上々だ。保存状態も極めて良好と言えるだろう。
だが──。
イサクは眉をひそめた。最終ページに、微かな染みが付着している。
(……これは、おそらく紅茶だな。しかも砂糖を入れすぎた安物だ)
研究の停滞も腹立たしいが、こういう扱いを受けた書物を見るのも、また別の種類の苛立ちがこみ上げてくる。
(まったく)
イサクは小さくため息をつき、染みの部分に指先をそっと触れさせると──染みは跡形もなく消え失せた。
「見事なものだな」
背後から、低くしゃがれた声がかかる。
イサクが振り返ると、そこに一人の男が立っていた。年の頃は五十代半ば。鍛え上げられた筋肉質な体躯は学院のローブの上からでもはっきりとわかる。顔には無数の古傷が刻まれ、その眼光は剃刀のように鋭い。
男の名はタウラス。帝国魔術学院において、軍用魔術の指導教授を務める人物だ。元帝国軍の魔術師団長であり、数々の戦場を渡り歩いてきた歴戦の勇士でもある。
「タウラス先生。僕に何か御用でしょうか」
イサクは平静を装いながら、内心で警戒心を高めた。この男が自分に接触してくる理由が、全く想像できなかったからだ。
タウラスはイサクのずんぐりとした体を頭のてっぺんから爪先まで、まるで値踏みするかのようにじろじろと眺めた後、不敵な笑みを浮かべた。
「単刀直入に言おう。私の講義を受けてみないか」
「……確か先生は軍用魔術の指導教授でいらっしゃる」
「うむ、その通りだな。昨今、アルバラ帝国を巡る情勢は悪化しつつある。帝国の敵は刻一刻とその力を蓄えているだろう。我々帝国の魔術師も負けてはいられぬ。日々研究を重ね、帝国の屋台骨を支えていく必要がある」
「……僕は古代語と思考魔術を専攻しています。軍用魔術にはいささか疎いのですが」
「知っている。だが君の魔術制御能力は学生のレベルを遥かに超えている。先日のオルレアン公爵令嬢との決闘。あの無詠唱での重力操作。あれを見て確信したのだ。君には軍用魔術の素質がある」
タウラスは一歩、イサクに近づいた。
「そして、もし可能であれば、私のゼミナールにも参加してほしい。今、我々は新たな軍用魔術体系の構築に取り組んでいる。君の知見が、その研究に大いに役立つはずだ」
軍用魔術はイサクがこれまで深く関わってこなかった分野だ。
多くの者は軍用魔術を単なる戦争用の高威力魔術と考えがちだが、軍用魔術を「威力が高い魔術」と捉えるのはあまりにも一面的な見方である。現代の兵器が威力だけでなく、速射性や燃費、信頼性を重視するように、軍用魔術もまた「戦場で兵士が使う道具」としての側面が極めて重要になる。
その本質は「戦術的効率性」の追求にある。
最も大きな違いはその設計思想だ。
通常の魔術が生活を便利にしたり、特定の状況下で最大の効果を発揮したりするための「多機能な専門道具」であるのに対し、軍用魔術は「標準化された兵器」として設計されている。
第一に求められるのは速射性と簡易性。詠唱が極端に短い、あるいは不要。単純な動作で即座に発動できることが最優先される。戦闘中の僅かな遅れが、死に直結するからだ。
第二に、低コストであること。一人の兵士が戦闘中に何十発、何百発と使えるように、一発あたりの魔力消費が極めて少なく設計されている。燃費の良さが戦場における継戦能力を左右する。
そして第三に、標準化と信頼性。誰が使っても安定した効果を発揮できるように術式は単純化・標準化されている。個人の才能に依存せず、訓練によって兵士の誰もが習得できる「兵器」としての側面が強いのである。
威力の概念も根本的に異なる。
通常の魔術は戦況を覆す一撃の重さを重視する傾向がある。広範囲を焼き尽くす大魔法や、強力な敵を一体確実に仕留める必殺の術など、戦闘の決め手となる「切り札」としての役割を担う。
対して軍用魔術は一発の威力は低いかもしれない。だがその真価は集団による飽和攻撃にある。百人の魔術兵が低コストの炎の矢を毎秒一発ずつ放てば、それはもはや個々の魔法ではなく、「弾幕」という一つの現象になる。威力は「火力=威力×手数×人数」で測られるのだ。
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(やれやれ、面倒なことになった)
イサクは内心、深くため息をついた。目の前の男──タウラスは、絵に描いたような軍人だ。その思考は単純明快。国益、勝利、力。それ以外の価値観をまるで持ち合わせていない。
戦争、である。
何が楽しくて人殺しなどしなくてはならないのだ、とイサクは思う。
彼の本質はあくまで学者、それも極めて偏狭な分野を好むタイプの人間だ。前世(虻川伊作)の人生の全てを言語学という静かなる知の迷宮に捧げてきた。そんな彼にとって、泥と血にまみれた戦争など柄ではない。
イサクが人を支配し、屈服させることに悦びを感じるのは事実だ。だが、それはあくまで一対一の、閉ざされた空間で行われるべき、極めて個人的で倒錯的な遊戯である。
国家という巨大な装置が、大義名分を掲げて見ず知らずの人間を殺し合わせる──そんな馬鹿げた祭りに付き合う気などイサクには毛頭なかった。
静かな書斎で古書を読み、研究に明け暮れ、夜ごと熟れた女を味わう。彼の望む人生はただそれだけだ。タウラスの熱弁はそんなささやかな日常を脅かすただの騒音でしかなかった。