※この作品はR-18です。

侯爵家の影の支配者は熟女が大好き   作:埴輪庭

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色街③

 ◆

 

「ほう、お主か。こんなところへ来てまでわざわざ年増を指名するという奇人は」

 

 イサクが案内された部屋に足を踏み入れるなり、そんな言葉が投げかけられた。

 

 そこは『黄昏亭』の最上階、最も奥まった一室だった。窓の外には帝都の夜景が宝石箱をひっくり返したように広がっている。室内の調度品のセンスも良い。豪奢というよりは歴史と権威を感じさせる重厚な造りはまるでどこかの王宮の一室をそのまま移築してきたかのようだ。

 

 そして部屋の中央──ビロード張りの椅子に深く身を沈め、足を組んでいる女が一人。

 

【挿絵表示】

 

 イサクは静かにその姿を検分した。

 

 年は──六十代といった所だろうか。だがその印象は「老女」という言葉からは程遠い。

 

 白銀の髪は部屋の灯りを反射して煌めき、顔には確かに深い皺が刻まれているがそれは醜さではなく、彼女が生きてきた年月の重みと威厳を物語る勲章のようだった。

 

 深いアメジストのような紫色の瞳は年齢を感じさせない鋭い光を宿し、眼前のイサクを値踏みするように見据えていた。

 

 美しい、というよりは凄まじい。圧倒的なまでの存在感。それがイサクの第一印象だった。

 

「妾(わらわ)の事はシェラハと呼べ」

 

 そう名乗った女は煙管をくゆらせながら鷹揚に言った。その口調は客に対するものではない。まるで玉座から臣民に語りかけるかのような、傲岸不遜な響きがある。

 

 イサクは何も言わず、恭しく一礼した。

 

(なるほど。これは極上だ)

 

 内心でほくそ笑む。彼女から漂うのは上等な香木の匂いとそして人生の酸いも甘いも噛み分けた末の、熟しきった果実の芳香。彼の歪んだ嗜好を完璧に満たす、理想的な獲物だった。

 

 だが同時にイサクは奇妙な感覚を覚えていた。

 

 いつもならば、この手のプライドの高い女を前にすればどうやってその尊厳を踏み躙り、屈服させようかという倒錯的な喜びが湧き上がるはずだ。だが今、彼の心を満たしているのは支配欲とは少し違う、もっと静かで、厳かな感情だった。

 

 シェラハは煙管を置き、ゆっくりと立ち上がった。その動作一つ一つに無駄がなく、洗練されている。彼女はイサクの前に立つとその顎を指先でくいっと持ち上げた。

 

「ふむ。エドワルドからお主の事は聞いておる。噂に聞くサザーランドの麒麟児か。面構えは……まあ、愛嬌があると言えなくもないな」

 

 シェラハは楽しそうに喉の奥で笑った。

 

「よいか、童(わっぱ)。妾を楽しませてみよ。もし妾の機嫌を損ねれば……どうなるか、わかっておろうな?」

 

 それは脅迫ではなかった。単なる事実の確認。彼女にはその言葉を実行するだけの力が権威がある。イサクはそのことを本能的に理解した。

 

 そして、イサクは自らの内なる声に従うようにゆっくりとその場に膝をついた。それは敗北ではない。むしろ、あるべき姿に収まったかのような、奇妙な安堵感さえあった。

 

 ──ああ、これが正しい形だ。

 

 理由はわからない。だがこの女の前ではこうするのが当然なのだと彼の魂が告げていた。それは彼と彼女の間に存在する絶対的な「格」の差を無意識のうちに感じ取ったが故の行動であったのかもしれない。

 

「ほう。話が早くて助かるわ」

 

 シェラハは満足げに頷くとドレスの裾を軽く持ち上げ、その足をイサクの眼前に突き出した。

 

 華奢なヒールの先に収まった、小さな足。

 

「まずはここからじゃ。妾の足先にそなたの忠誠を示してみよ」

 

 イサクは迷わなかった。シェラハのヒールを脱がせると、白く滑らかな、年輪を重ねた足の甲にそっと口づける。

 

 ひやりとした感触と甘い香りがイサクの鼻腔をくすぐった。

 

「くくっ、なかなかどうして様になっておる」

 

 イサクは彼女の足を持ち上げるとそのつま先に舌を這わせた。親指から小指まで、一本一本、丁寧に時間をかけて。指の間のわずかな窪みを舐め取り、爪の形を確かめるように舌先でなぞる。

 

「ん……」

 

 シェラハの喉から、かすかな吐息が漏れた。

 

 イサクの舌は足の裏へと移動する。土踏まずのアーチをゆっくりと辿り、踵の硬くなった皮膚を甘噛みするように刺激した。その動きには一切の躊躇いや衒いがない。ただ、目の前の存在に奉仕するという純粋な目的にのみ、その意識は集中していた。

 

「……よいぞ。次じゃ」

 

 シェラハはイサクの頭を掴むとその顔をゆっくりと自らの太腿の方へと導いた。ドレスの裾が捲り上げられ、成熟した女の、豊満な肉体が露わになる。

 

 イサクは彼女の太腿の内側に顔を埋めた。むせ返るような濃密な体臭が彼の理性を揺さぶる。彼はその柔らかい肉に吸い付き、舌を這わせた。上へ、上へと。まるで巡礼者が聖地を目指すかのようにひたすらにその頂きを目指して。

 

 やがて、彼の顔は目的の場所に到達した。

 

 そこはすでに熱い蜜で濡れそぼっていた。年齢と共に色素は沈着しているがその肉の襞は驚くほど瑞々しく、まるで呼吸をするかのようにゆっくりと蠢いている。

 

「さあ、童。妾の園を存分に味わうがよい」

 

 シェラハは自らの手でその秘部を押し開くと、イサクの顔をそこに押し付けた。

 

 イサクは彼女の言葉に従い、その裂け目に舌を差し込んだ。

 

 ずちゅり、と。卑猥な水音が響く。

 

 熱く、ぬめった感触。そして熟れすぎた果実が発酵したような、甘く、それでいてかすかな苦味を帯びた味。

 

「んっ……ふ、ぅ……」

 

 シェラハの声がわずかに甘さを帯びる。

 

 イサクは貪るようにその蜜を啜り、舌を這わせた。肉の襞の裏側を丹念になぞり、その奥にある硬い芯を執拗に刺激する。ちろちろと時には強く吸い付き、時には舌全体で包み込むように。

 

「あ、ぁ……よい、よいぞ、童……もっと深く……」

 

 シェラハは恍惚の表情を浮かべ、イサクの頭を抱きかかえるようにして、自らの欲望の中心へと押し付けた。

  

【挿絵表示】

 

 イサクはそれに応え、舌をさらに深く、彼女の体内へと侵入させる。熱い肉壁が舌に絡みつき、締め付ける。その感触にイサク自身の欲望もまた、静かに熱を帯び始めていた。

 

 どれほどの時間が経っただろうか。

 

 シェラハの呼吸が一段と荒くなり、その体がびくん、と大きく跳ねた。

 

「んんっ……!」

 

 短い嬌声と共に彼女の体から力が抜ける。イサクの顔は彼女から溢れ出た蜜でぐっしょりと濡れていた。

 

「はぁ……はぁ……。ふふ、見事な舌捌きじゃ」

 

 シェラハは満足げに微笑むとイサクの顔を両手で包み込み、その唇に付着した自らの愛液を舐め取るように深く口づけた。

 

「さて、褒美を取らせてやろう」

 

 彼女はイサクを立たせるとその場でゆっくりとドレスを脱ぎ捨てた。

 

 露わになったその裸身はイサクのペニスを酷く苛々させた。

 

 年齢と共に重力には逆らえぬ部分もある。だがその肌は驚くほど滑らかで、張りがある。豊満な乳房は確かな存在感を放っている。特に臀部だ。尻だ。大きく、それでいて弛んでいない。

 

 シェラハはベッドに仰向けになると両足を大きく開き、イサクを誘うように見上げた。

 

「さあ、参れ。童」

 

 堪らずイサクは衣服を脱ぎ捨てると、その熱く硬くなった欲望をシェラハの最奥部へとゆっくりと突き入れた。

 

「お……」

 

 イサクは思わず呻いた。

 

 その感触は彼の想像を遥かに超えていた。

 

 熱い。そして、信じられないほど柔らかく、それでいて力強い。

 

 まるで極上の絹で包み込まれるかのように彼の全てを受け入れ、そして内側から吸い付くように締め付けてくる。単なる肉の感触ではない。名器とはまさにこの事を言うのか、とイサクは内心で唸る。

 

 ドロテアのそれとも、マージのそれとも、アガサのそれとも違う。もっと深く、濃密で──そして抗いがたい。

 

「どうした、童。腰が止まっておるぞ?」

 

 シェラハは余裕の笑みを浮かべながら、自らの腰をくねらせ、イサクの欲望をさらに深くへと誘った。

 

 イサクは彼女の挑発に応えるようにゆっくりと腰を動かし始めた。

 

 ずちゅ、ぐちゅ、と。二人の体が繋がる音が生々しく響き渡る。

 

 イサクが深く突き入れるたびにシェラハの豊満な乳房が揺れ、その口からは甘い吐息が漏れる。

 

「ん、ぁ……そうじゃ、もっと……妾の奥を突いてみよ……」

 

 イサクは彼女の言葉に従い、その動きを次第に激しくしていく。まるで底なし沼に引きずり込まれるかのような感覚はイサクをして初めての経験であった。このままでは自分の全てが吸い尽くされてしまうのではないか──そんな恐怖にも似た興奮がイサクの全身を駆け巡る。

 

(うむ、参った)

 

 彼は生まれて初めて、女の体の深淵に触れた気がした。

 

 汗が滴り落ち二人の肌を濡らす。やがて、イサクの動きが一際激しくなった。限界が近い──その瞬間を察知したシェラハがイサクの背中に腕を回し、その体を強く引き寄せた。

 

「出せ、童。妾の腹の中にそなたの全てを注ぎ込め。精も根もな」

 

 その言葉が引き金となった。

 

「……っ!」

 

 イサクの体が大きく強張り、シェラハの最奥部に熱泥を注ぎ込む。シェラハの顔に浮かぶ余裕の笑みは、イサクとは対照的だ。全てを出し尽くし、ぐったりとシェラハの上に崩れ落ちるイサク。

 

 シェラハはその汗ばんだ髪を優しく梳きながら、囁いた。

 

「ふふ……中々どうして、上手かったぞ、童。褒めてつかわす」

 

 その声は慈愛に満ち、まるで我が子をあやす母親のようだった。

 

 ◆

 

 全てが終わった後、イサクは身支度を整え、階下のサロンへと戻った。そこは待合室も兼ねており、客同士が酒を酌み交わしながら余韻に浸るための空間だ。

 

 イサクがソファに腰を下ろし、軽く目を閉じているとやがて階段の方から上機嫌な声が聞こえてきた。

 

「やあ、イサク! 待たせたな!」

 

 アルフォンス。相変わらずの完璧な貴公子ぶりだがその顔は普段よりも紅潮し、どこか満足げな様子である。

 

「いやあ、素晴らしかった! やはり『黄昏亭』は格が違うな!」

 

 彼はイサクの向かいにどっかりと腰を下ろすと頼んでもいないのに自らの体験を饒舌に語り始めた。

 

「僕が選んだのは落ちぶれた男爵家の娘でね。名はリリアンといったか。地味だがそれがまた良いのだ。最初は怯えていたが僕が優しく手解きをしてやったら、すぐに慣れてな」

 

 アルフォンスは得意げに語り続ける。その内容はいかに自分が彼女をリードし、快楽の淵へと導いたかという、ありきたりな自慢話に過ぎなかった。

 

「あの細い腰を掴んで、後ろから突き上げてやった時! 彼女ときたら掠れるように喘いだのさ。あの声は癖になる。女は楽器だ、美しく奏でてやるのが男の役目というものだ。君もそう思うだろう?」

 

「……ええ、まあ」

 

 イサクは感情のこもらない声で、適当に相槌を打った。彼の意識はもはや目の前の男には向いていない。

 

 ──シェラハ。

 

 あの女は何者なのだろうか。

 

 あの圧倒的なまでの存在感は単なる娼婦のそれではない。もっと別の、遥か高みにある者の風格だった。

 

(あるいはどこぞの高位貴族の──)

 

 もしそうだとすれば、なぜこのような場所にいるのか。単なる気まぐれか、それとも何か別の目的があるのか。

 

 イサクの思考は巡る。

 

「おい、聞いているのか、イサク?」

 

 アルフォンスが不満げに声を上げる。

 

「ええ、聞いていますよ、ロンドブル殿。実に興味深いお話です」

 

 イサクは完璧な作り笑いを浮かべるとグラスに残った酒を呷った。

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