※この作品はR-18です。

侯爵家の影の支配者は熟女が大好き   作:埴輪庭

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冷血帝の夜

 

 ◆

 

 悪いニュースというのは得てして足が速い。

 

 美味い料理が冷めるよりも早く、あるいは浮気男が言い訳を思いつくよりも早く、その報せは帝都の心臓部へと突き刺さった。

 

 東方国境、シグルド要塞陥落。

 

 その一報がもたらされた瞬間、皇城「暁の宮殿」の大会議室はひっくり返した玩具箱のような有様になった。

 

 普段は威厳と格式を重んじ、咳払いひとつにも気を使うような重臣たちが今は顔を真っ赤にして怒鳴り合っている。

 

「バカな! ありえん!」

 

「シグルドは鉄壁だぞ! 歴代皇帝が莫大な予算を投じて強化したのだぞ!」

 

「第五師団は何をしていた! 昼寝でもしていたのか!」

 

 唾が飛び交う。

 

 机が叩かれる。

 

 書類が舞う。

 

 見苦しいことこの上ない。

 

 人間、窮地に陥ると本性が出るとはいうが。

 

 彼らは理解できないのだ──自分たちが安全な場所で紅茶を啜りながら動かしていた駒が盤上から叩き落とされたという事実を。

 

 戦争とは相手のあるゲームだ。

 

 こちらが都合の良いシナリオを描いても、相手がその通りに動いてくれるとは限らない。

 

「ど、どうするのだ!」

 

「直ちに奪還部隊を!」

 

「いや、帝都の守りを固めるのが先だ!」

 

「私の領地は大丈夫なのか!?」

 

 我先にと声を上げる。国を憂いているのではない。自分の地位と財産、そして首の皮がつながっているかどうかが心配なだけだ。

 

 そんな彼らを呆れた目で眺めている女がいる。

 

 部屋の最奥。

 

 一段高い場所に設えられた玉座にその女は座っていた。

 

 アルバラ帝国皇帝、シェラハザード・バーラカーラ・シャマル・アルバラ。

 

 頬杖をつき退屈そうに欠伸を噛み殺していたが、指先で玉座の肘掛けを叩いた。

 

 コン、と。乾いた音が一つ。

 

 たったそれだけで、嵐のような喧騒がピタリと止んだ。

 

 水を打ったような静寂。

 

 重臣たちが怯えたように口をつぐむ。

 

「……終わったか?」

 

 鈴を転がすような声には絶対零度の冷たさがあった。

 

「騒ぐだけ騒いで、気が済んだなら結構。少しは建設的な話をしたらどうじゃ」

 

「へ、陛下……」

 

 軍務大臣がおずおずと進み出る。

 

 額には脂汗がびっしりと浮いていた。

 

「シグルド要塞は……帝国の要でございます。ここを抜かれれば、東方の蛮族どもが雪崩を打って平野部に……」

 

「わかっておる」

 

 シェラハザードは短く言った。

 

「落ちたものは仕方あるまい。壊れた玩具を嘆いても元には戻らぬ。次じゃ」

 

「は……? 次、と仰いますと……」

 

「シグルド奪還は放棄する」

 

 会議室にどよめきが走った。

 

 要塞を見捨てる。

 

 帝国の威信に関わる大問題だ。

 

「なっ……陛下! それはあまりにも!」

 

「敵に背を向けるなど、帝国の恥!」

 

「誉で腹が膨れるか」

 

 シェラハザードは鼻で笑った。

 

「よいか、よく聞け。シグルドは古い。構造も旧式で、維持費ばかりかかる金食い虫じゃ。くれてやればよい」

 

 こともなげに言う。数千の守備兵の命も、要塞の価値も、彼女にとっては帳簿上の数字に過ぎない。

 

「敵は勢いに乗っておる。いま奪還部隊を送ったところで、勢いづいた敵と正面衝突するだけじゃ。無駄に兵をすり減らす。バカ正直に力比べをしてどうする」

 

 彼女は優雅に立ち上がり、壁に掛けられた巨大な地図の前へと歩み寄った。

 

 その足取りの軽やかなこと。

 

 国の一大事だというのにまるで舞踏会でステップを踏んでいるようだ。

 

 細くしなやかな指先が地図上の一点を突く。

 

「ここじゃ」

 

 指し示されたのはシグルド要塞から西へ五十キロ。

 

 街道の結節点にある城塞都市バルデ。

 

「全軍をバルデへ後退させよ。周辺の物資もすべてそこへ集める」

 

「バ、バルデでございますか? しかしあそこは商業都市で、防衛設備は……」

 

「無いなら作ればよい。民家を壊して資材にせよ。民も動員して堀を掘らせよ。敵は補給線が伸びきっておる。シグルドを落として浮かれておるじゃろう。そこへ、バルデというご馳走をぶら下げるのじゃ」

 

 シェラハザードは薄く笑った。獲物を罠にかける狩人の笑みであった。

 

「バルデ周辺は平地じゃ。我が軍の得意とする魔導部隊による魔術投射を集中させるには絶好の狩り場となる。敵をおびき寄せ、伸びきったところを一網打尽にする。シグルドはそのための撒き餌にすぎぬ」

 

 撒き餌──帝国軍の拠点を彼女はそう呼んだ。

 

「で、ですが……即時奪還しなければ、諸外国への示しが……」

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍。最後に勝っていれば、過程などどうでもよいのじゃ。歴史とはそういうものじゃろう?」

 

 感情を一切排し、勝利という結果のみを追求する。それが「冷血帝」と呼ばれる所以だ。

 

「宰相」

 

「はッ」

 

 ベルンハルトが進み出る。

 

「バルデに大本営を移す。妾も行くぞ」

 

「へ、陛下自ら!?」

 

「お主らに任せておいてはバルデまで失いかねんからな。妾が直々に指揮を執る」

 

 その決定に重臣たちは顔を見合わせた。

 

 皇帝親征。

 

 それは兵の士気を高めるだろうが同時にリスクも伴う。

 

 だが誰も止めようとはしなかった。

 

 止められるはずがない。

 

 彼女が決めたことに異を唱える権利を持つ人間など、この帝国には存在しないのだから。

 

「さあ、行け。準備にかかれ。グズグズしておると敵より先に妾がお主らの首を刎ねるぞ」

 

 手を振って追い払う。蜘蛛の子を散らすように重臣たちが部屋を出て行く。

 

 後に残されたのは静寂と玉座に座る一人の女だけ。

 

 シェラハザードは小さくため息をついた。

 

「……やれやれ。どいつもこいつも、使えぬ奴らばかりじゃ」

 

 彼女は天井を見上げた。豪華なシャンデリアが虚しく輝いている。

 

「退屈じゃのう……」

 

 戦争すらも、彼女にとっては退屈しのぎの一興に過ぎない。

 

 だがその退屈を紛らわせるには少々血が足りないかもしれない。

 

 ◆

 

 夜の帳が下りる。

 

 帝都は不安に包まれていたが宮殿の奥深く、皇帝の私室だけは別世界だった。

 

 分厚い壁と魔法的な防壁によって外界から隔絶された、静謐な空間。

 

 最高級の香木が焚かれ、甘く重い香りが漂っている。

 

 戦場の泥臭さとは対極にある、頽廃の香り。

 

 シェラハザードは湯浴みを終え、薄いシルクのガウン一枚を纏って長椅子に横たわっていた。

 

 濡れた銀髪が肩にかかり、しずくが鎖骨のくぼみに落ちる。

 

 手には年代物の赤ワイン。

 

 血のように濃い液体を唇で弄ぶように啜る。

 

 コン、と控えめなノックの音。

 

「入れ」

 

 短く命じると音もなく扉が開いた。

 

 入ってきたのは一人の青年だ。

 

 クルト。シェラハザードの身の回りの世話をする侍従であり、近衛騎士団にも籍を置く若者。

 

 まだ二十歳になったばかりだろうか。

 

 金糸を紡いだような髪。

 

 晴れた空の色を映したような碧眼。

 

 陶器のようになめらかな肌と軍務で鍛え上げられたしなやかな筋肉を持つ、絵に描いたような美青年である。

 

 多くの貴族令嬢が彼に熱い視線を送っているが彼自身はそんなことになど気づいてもいない。

 

 彼にとっての世界はこの部屋の中に完結しているからだ。

 

「お呼びでしょうか、陛下」

 

 クルトは入室するなり、流れるような所作で片膝をついた。

 

 その姿は忠実な騎士そのものだ。

 

「うむ。……今日は騒がしい一日じゃった」

 

 シェラハザードはグラスを揺らしながら言った。

 

「無能な男どもの相手をして、肩が凝ったわ。……癒せ」

 

 短い命令。

 

 だがクルトにはそれで十分だった。

 

 彼の頬がさっと朱に染まる。

 

「……御意」

 

 クルトは静かに立ち上がり、主人の元へと歩み寄った。

 

 その目には畏怖とそして隠しきれない崇拝の色が宿っている。

 

 彼はシェラハザードの前に跪くと震える手で彼女の素足に触れた。

 

 白く、冷たい足の甲。

 

 そこへ、恭しく口づけを落とす。

 

「……冷えておられます」

 

「心まで冷え切っておるわ。温めてくれぬか?」

 

 シェラハザードは意地悪く微笑み、足先でクルトの胸板を小突いた。

 

「服を脱げ」

 

 クルトは一瞬の躊躇もなく、制服のボタンに手をかけた。

 

 上着が落ち、シャツが脱ぎ捨てられる。

 

 露わになったのはギリシャ彫刻のように完璧な肉体だった。

 

 無駄な脂肪は一切なく、鋼のように引き締まった筋肉が皮膚の下で躍動している。

 

 胸には数箇所の古い傷跡。

 

 それが彼の武人としての勲章であり、同時にこの優美な青年に野性味を与えていた。

 

 ズボンと共に下着が下ろされると若々しく猛った欲望が弾け飛ぶように姿を現した。

 

 怒張し、血管が浮き上がり、先端からは既に我慢汁が滲んでいる。

 

 主人の前だというのに彼の体は正直すぎた。

 

「ほう。随分と元気ではないか」

 

 シェラハザードはそれを指先で弾いた。

 

 ビクリ、とクルトの体が跳ねる。

 

「も、申し訳……ございません……陛下のお姿を拝見しただけで、抑えがきかず……」

 

「謝る必要はない。忠誠の証として受け取っておく」

 

 シェラハザードはガウンの帯を解いた。

 

 するり、と布が滑り落ちる。

 

 露わになったのは六十近い年齢とは到底思えぬ、妖艶な裸体。

 

 魔術による若返りの施術か、あるいは彼女自身の強靭な生命力が老化を拒絶しているのか。

 

 肌には張りがあり、豊かな乳房は重力に抗って上を向いている。

 

 腰のくびれから臀部にかけての曲線は見る者を狂わせる魔性のラインを描いていた。

 

「来い」

 

 シェラハザードは長椅子に深く身を沈め、両足を大きく開いた。

 

 クルトは吸い寄せられるようにその足の間へと顔を埋めた。

 

 甘く、濃厚な香りが鼻腔を満たす。

 

 彼は信仰対象に祈りを捧げるかのようにその秘部に舌を這わせた。

 

 ちろり、と。

 

 舌先が敏感な蕾を弾く。

 

「ん……」

 

 シェラハザードの喉から、小さく吐息が漏れた。

 

 悪くない。

 

 若い舌の感触。

 

 必死で、どこか拙く、それでいて情熱的な奉仕。

 

 イサクのような小賢しいテクニックはないがこの直球の献身が悪くない。

 

 クルトは無我夢中だった。主人が喜んでくれるなら、舌が千切れても構わないとさえ思っているかのようだ。

 

 肉の襞を押し広げ、奥深くまで舌を差し込む。

 

 じゅぷ、ぐちゅ、と。

 

 卑猥な水音が部屋に響く。

 

 高貴な宮殿の奥深くで奏でられる、野獣の音楽。

 

「……ふむ。よいぞ、そこじゃ……もっと激しく吸え」

 

 シェラハザードの手がクルトの金髪を鷲掴みにする。

 

 ぐい、と頭を押し付ける。

 

 クルトは鼻が潰れるのも構わず、さらに深く顔を埋めた。

 

 愛液と唾液で顔中がべとべとになる。

 

 だがそれが彼にとっては勲章なのだ。

 

 やがて、シェラハザードの腰が小さく浮いた。

 

「っ……!」

 

 短い呼気。

 軽い絶頂。

 

 だがこれだけでは足りない。

 

 戦争の興奮にも似た、もっと大きな波が欲しい。

 

「顔を上げよ」

 

 シェラハザードが命じるとクルトは名残惜しそうに唇を離した。

 

 濡れそぼった顔で、恍惚とした表情で見上げてくる。

 

 その瞳は完全に理性を失っていた。

 

「入れよ。……妾の中にその若さを注ぎ込め」

 

 クルトは震える手で自らの剛直を握り、シェラハザードの秘部へとあてがった。

 

 先端が濡れた入り口に触れる。

 

「失礼……いたします……!」

 

 一気に突き入れる。

 

 ずぷり、と。

 

 肉を押し分ける重厚な感触。

 

 若さゆえの硬度と熱量がシェラハザードの体内を強引に侵略していく。

 

「あ……っ、く……」

 

 シェラハザードの眉がわずかに寄る。

 

 異物が体内を埋め尽くす感覚。

 

 それは痛みであり、同時に極上の快楽でもあった。

 

 自分の内側が他者によって書き換えられていくような感覚。

 

 クルトは腰を動かし始めた。

 

 最初は遠慮がちに。

 

 だがすぐに本能が理性を凌駕し、激しいピストン運動へと変わっていく。

 

 パン、パン、パン、と肉と肉がぶつかり合う音がリズムを刻む。

 

 長椅子が軋み、シェラハザードの体が揺さぶられる。

 

「いいぞ……もっと突け! 壊すつもりでやれ!」

 

 シェラハザードはクルトの背中に爪を立て、引き裂くように掻き下ろした。

 

 赤い筋が走り、血が滲む。

 

 その痛みさえも、今のクルトにはご褒美だった。

 

「陛下……! 陛下ぁ……ッ!」

 

 彼は獣のように咆哮し、ただひたすらに腰を打ち付ける。

 

 汗が飛び散り、二人の体液が混じり合う。

 

 シェラハザードは感じていた。

 

 体内の深いところ、子宮の入り口をノックされるたびに脳味噌が白く焼かれていくのを。

 

 シグルド要塞の兵士たちが死に絶える時の悲鳴も、バルデの民がこれから味わうであろう恐怖も、すべてが遠い彼方の出来事。

 

 今ここにあるのは絶対的な支配と搾取の快楽だけ。

 

 クルトの動きが限界に達しようとしていた。

 

 全身の筋肉が硬直し、呼吸が荒くなる。

 

「で、出ます……ッ! 陛下、中にお出しして……!」

 

「許す。出せ! 一滴残らず、妾に寄越せ!」

 

 命令が下る。その瞬間、クルトの腰が跳ねた。

 

 脈打つ振動とともに熱い奔流がシェラハザードの胎内へと勢いよく放たれる。

 

「アァァァァァァッ!!」

 

 シェラハザードもまた、甲高い絶叫と共に身を反らせた。

 

 子宮が収縮し、注ぎ込まれた精を受け止めようと蠢く。

 

 脳髄が痺れ、視界が白く弾ける。

 

 絶頂。

 

 それは小さな死であり、同時に生の実感でもあった。

 

 長い余韻。

 

 クルトは魂を抜かれたようにシェラハザードの上に覆いかぶさったまま動かない。

 

 完全に燃え尽きたようだ。

 

 シェラハザードはゆっくりと呼吸を整え、少年の汗ばんだ背中を撫でた。

 

 慈愛に満ちた手つき。

 

 だがその目はすでに冷たく醒めていた。

 

「……ご苦労」

 

 彼女はクルトの体をどけ、身を起こした。

 

 体内から楔が抜けると白濁した液体が太腿を伝い落ちる。

 

 それを汚らわしいとも思わず、指先ですくい取って眺めた。

 

「若い命のエキスか……悪くない」

 

 彼女はガウンを羽織り、グラスを手に取った。

 

 一口含む。

 

 冷えたワインが火照った体に染み渡る。

 

 クルトはようやく意識を取り戻したのか、慌てて床に平伏した。

 

「も、申し訳ございません……そのまま寝入ってしまうなど……」

 

「よい。よい働きじゃった」

 

 シェラハザードは窓辺に立った。

 

 東の空がわずかに白み始めている。

 

 夜明けは近い。

 

「クルトよ」

 

「はっ」

 

「明日は忙しくなるぞ。バルデへの移動準備、そして全軍の再編。お主にも働いてもらう」

 

「はい! この命に代えましても!」

 

 クルトが顔を上げる。

 

 その表情は憑き物が落ちたように晴れやかで、そしてどこまでも忠実だった。

 

「下がってよいぞ」

 

 シェラハザードが手を振るとクルトは深く一礼し、服を抱えて退室していった。

 

 一人になった部屋で、シェラハザードは窓ガラスに映る自分の顔を見つめた。

 

 艶を増した肌。

 

 生気に満ちた瞳。

 

 戦争もセックスも、彼女にとっては同じことだ。

 

 相手を飲み込み、養分とし、己の糧とする。

 

 ただそれだけの営み。

 

「さて……」

 

 彼女は独りごちた。

 

「東方の蛮族どもに帝国の、いや、余の恐ろしさを骨の髄まで教えてやらねばならんのう」

 

 彼女はニヤリと笑った。

 

 その笑顔は戦場を駆ける死神よりも恐ろしく、そして美しかった。

 

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