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講義が終わった後も、セシリア・クラインフェルトは席を立てずにいた。
他の学生たちが三々五々と講義室を後にしていく中、彼女だけは羊皮紙に綴ったノートを整理するふりをしながら、視線だけは一点に固定されていた。
イサク・サザーランド。
講義が終わった直後、教室の入口に現れた職員がその名を呼んだ。メーベル副教授がお呼びです、という職員の声に頷き、講義室をでていく姿に何を覚えたのか──セシリアは気づけば立ち上がっていた。
ノートを鞄に仕舞い、講義室を出る。廊下には既に人影は疎らで、イサクの姿は見当たらなかった。
ふらふらとおぼつかない足取りで向かう先は──第三研究室だ。
つまり、アガサ・メーベルの研究室である。
足が勝手に動いていた。
石畳の廊下を進み、階段を上がり、東棟の奥へ。薄暗い回廊を抜けると、第三研究室の扉が見えてきた。
そこでセシリアは足を止める。
扉の前に人影はない。既に中に入った後なのだろう。だが奇妙なことに、廊下にはかすかな違和感が漂っていた。空気が微かに震えているような、魔力の残滓とでも言うべき何か。
防音の術式だ。
セシリアは瞬時に理解した。この扉の向こう側に、音を遮断する結界が張られている。学院の研究室では珍しいことではない。機密性の高い実験を行う際には、周囲への影響を防ぐためにそうした術式が用いられる。
だが、なぜ今この瞬間に?
講義が終わった直後に、副教授と学生が二人きりで、防音の術式を張る必要があるような案件とは何だ?
セシリアの心臓が早鐘を打ち始めた。
彼女は扉に近づいた。厚い樫の木で作られた扉は、鍵がかけられているようだった。鋳鉄の錠前が冷たく光っている。
中で何が行われているのか、確かめたい。
その欲求は理性を超えて膨れ上がった。セシリアは周囲に人がいないことを確認すると、扉に耳を押し当てた。
何も聞こえない。
防音の術式が完璧に機能している証拠だった。だが軍用のそれとは違って、通常の防音の術式ならば──
セシリアは目を閉じ、精神を集中した。
彼女の専門は古代語学だが、基礎的な感覚増幅の術式は習得していた。文献の微かな筆跡を読み取るため、あるいは古代遺物から発せられる魔力の残滓を感知するために必要な技術だ。それを今、別の目的に転用しようとしている。
左手の人差し指と中指を耳に当て、何やら呟いた。
聴覚を増幅したのだ。
瞬間、世界が音で満たされた。
遠くの教室から響く椅子の軋み、廊下の向こうで話す学生たちの囁き、そして──
扉の向こうから漏れ出す、微かな音。
最初に聞こえたのは、女の喘ぎ声だった。
「んっ……あっ……」
セシリアの心臓が止まりそうになった。
それは紛れもなくメーベル副教授の声だった。あの厳格で知られる女性が、こんな淫らな声を出すなんて。
そして男の声。低く、命令的な響き。
「まだいってはいけません」
──イサク様の声だ。
セシリアは扉に手をついて身体を支えた。膝が震えている。頭の中が真っ白になりそうだった。
二人は情事の最中だったのだ。
──イサク様とメーベル副教授が。学生と教官が。この研究室の中で……
逃げなければ。
そう思った。こんな場面を盗み聞きするなど許されることではない。すぐにこの場を離れて、何も聞かなかったことにすべきだ。
だが足が動かなかった。
「無理よっ、もう止められないのっ」
アガサの悲鳴にも似た声。そして何か肉と肉がぶつかり合う湿った音。ぐちゅ、ぐちゅ、という水音が、増幅された聴覚を通じてセシリアの耳朶を打つ。
下腹部に熱が灯った。
自分でも信じられないことだった。こんな状況で、こんな場所で、身体が反応するなんて。だが抗いようがなかった。イサクの声を聞いているだけで、セシリアの秘所は疼き始めていた。
副教授が何度も何度も絶頂に達している気配が伝わってくる。その度に漏れ聞こえる嬌声は、まるで獣が鳴くかのように野性的で、それでいてどこか甘美だった。
「もう、許して──身体がもたないわ」
涙声の懇願。
セシリアは知らず知らずのうちに、自分の太腿を擦り合わせていた。制服のスカートの下で、下着が湿り始めている。羞恥で顔が燃えるように熱い。だが止められない。
──イサク様がメーベル先生を犯している。
その事実がセシリアの心を苛んだ。嫉妬と羨望がない交ぜになり、そこに禁忌を犯す背徳感が加わって、彼女の理性を溶かしていく。
「四つん這いになってください」
──イサク様の声。
冷淡な声の響き。命じられた側に拒否権など存在しないことが、声の調子だけで分かる。
セシリアの膝が崩れた。
廊下の石畳に膝をつき、扉に寄りかかる。彼女の右手は既にスカートの裾に伸びていた。いけない、と思う。こんな場所で自慰行為に及ぶなど、正気の沙汰ではない。誰かに見られたら終わりだ。
だが手が勝手に動いた。
スカートをたくし上げ、白い下着に指を這わせる。布地は既に湿っていた。指先で撫でるだけで、じんわりと熱い蜜が染み出してくる。自分がどれほど興奮しているかを突きつけられ、セシリアは羞恥に唇を噛んだ。
下着を横にずらし、指を直接その場所へと滑り込ませる。
秘裂に触れた瞬間、電流が背筋を駆け抜けた。敏感になった陰核は僅かな刺激にも過剰に反応し、セシリアは必死に悲鳴を噛み殺した。
指先でゆっくりと、あの小さな突起を円を描くようにして撫でる。左手の人差し指と中指で陰唇を左右に開き、右手の中指で肥大した陰核を直接刺激する。
ぬちゃり、という音がした。
自分の身体から発せられた淫らな音。それが余計に羞恥心を煽り、同時に興奮を掻き立てた。
扉の向こうでは、新たな責めが始まっていた。
背後から突かれる音。ぱんっ、ぱんっ、という肉同士がぶつかる音が、規則的なリズムを刻んでいく。その音に合わせて副教授が喘ぐ。
「ああっ、そこ、そこがいいのっ」
セシリアは目を閉じて想像した。
あの場面を。
だが想像の中で組み敷かれているのはアガサではなかった。
自分だった。
セシリアは妄想の中で、研究室の床に這いつくばっていた。四つん這いの姿勢で、背後にはイサク様が立っている。あの方の視線が自分の剥き出しの臀部に注がれている。
恥ずかしい。
豊かとは言えない自分の胸が、揺れることもなくそこにある。華奢で貧相な身体を、あの方に見られている。
「貴女も欲しいのですか、セシリア」
妄想の中のイサクが問う。
声が出せない。言葉にしてしまったら、もう後戻りができない。だが彼女の身体は正直だった。秘所からは蜜が溢れ、太腿を伝って床に滴り落ちている。
「駄目だと言っても、やりますよ」
妄想のイサクが低く囁いた。
現実のセシリアは、右手の中指を自分の膣口に押し当てた。狭い入口がきゅっと締まり、異物の侵入を拒もうとする。だがそこは既に愛液で滑りきっていて、抵抗は無意味だった。
ずぶり、と指が沈んでいく。
一本では足りない。二本目を添えて、さらに奥へ。膣壁が指を締め付け、痙攣するように蠕動する。
「あっ……んんっ……」
声が漏れそうになって、セシリアは唇を噛み締めた。聴覚増幅の術式を維持しながら声を殺すのは至難の業だ。だが聞こえる音を手放すわけにはいかない。
二本の指を根元まで沈めると、中で曲げて、自分の敏感な場所を探る。膣の前壁、少し奥まった所にある柔らかなざらつき。そこを指の腹で擦り上げる。
「ひぅっ……!」
甘い痺れが下腹部から全身へ広がった。見つけた。自分の中で最も感じる場所。
指を抜いて、また挿れる。抜いて、挿れる。その動きを加速させていく。
ぐちゅ、ぬちゃ、くちゅ、と卑猥な水音が廊下にこだました。自分のまんこを指でかき回す音。羞恥で死にそうだった。だが止められない。
妄想の中では、イサク様の太い肉棒が自分を貫いていた。
「お、お許しください、イサク様っ」
妄想の中のセシリアは泣きながら懇願した。
「私は、こんなこと望んでなんかっ……あっ、あああっ!」
「嘘をつくな」
背中にイサクの腹が押し付けられる。ずしりとした重み。あの方の太った肉体が自分を押し潰そうとしている。
その感触を想像するだけで、膣が勝手に締まった。
「貴女の身体は正直だ。こんなに濡らして、こんなに締め付けて」
妄想の中でイサクが腰を動かし始める。ゆっくりと引いて、一気に突き上げる。
セシリアは現実の廊下で、自分の指を必死に動かしていた。二本の指が膣内を激しくかき回し、水音が廊下に響く。親指を前に回して、肥大した陰核を押し込むように刺激する。
「イサク様っ……イサク様っ……!」
囁くような声。もはや制御できない。
扉の向こうでは、二人の情事が最高潮に達しようとしていた。
「中に出しますよ」
──イサク様の声。
それに応える副教授の絶叫。
同時に、セシリアの妄想も頂点へと駆け上がっていた。妄想の中のイサクが、自分の最奥で果てようとしている。熱い精が子宮口を叩き、そのまま胎内へ注ぎ込まれる。
「いやっ、中はっ……でも、でもっ……はぁっ、あああっ!」
妄想のセシリアは抵抗しながらも、身体は歓喜していた。
同時に、現実のセシリアの身体が痙攣する。
絶頂の波が全身を駆け抜けた。腰が勝手に跳ね上がり、膣壁が指を締め上げる。視界が白く染まり、爪先まで痺れが走る。二本の指を奥まで突き入れたまま、彼女は必死に悲鳴を噛み殺した。
ずきゅん、ずきゅん、と子宮が脈打つ。まるで本当に精を受け入れようとしているかのように。
だがその瞬間、聴覚増幅の術式が彼女に伝えた。
扉の向こうで、二人が同時に果てた音を。
獣のような咆哮と、喜悦の絶叫。
そしてその後に訪れる奇妙な静寂。
セシリアは荒い息を吐きながら、ゆっくりと指を引き抜いた。
びちゃり、と音がした。指から愛液が糸を引いている。下着が完全に濡れそぼって太腿に張り付き、スカートにも染みができているかもしれない。だがそれを確認する余裕もなかった。
術式を解除し、聴覚を通常に戻す。
廊下には相変わらず静寂が満ちていた。誰にも見られていない。少なくともそう信じたかった。
セシリアは震える足で立ち上がった。
下着を直し、スカートの乱れを正す。指に付着した粘液をスカートの内側で拭う。まともに歩けるかどうかも分からない。下半身がまだ痺れている。太腿の内側がぬるりと滑って気持ち悪い。
逃げなければ。
今すぐこの場を離れて、何事もなかったかのように振る舞わなければ。
セシリアは廊下を戻り始めた。足音を殺しながら、一歩一歩、研究室から遠ざかっていく。
だが彼女の心には、消えることのない炎が灯っていた。
廊下の角を曲がる直前、セシリアは一度だけ振り返った。第三研究室の扉は何事もなかったかのように静かに佇んでいる。だがあの向こうで今、二人がどんな表情を浮かべているのか。
想像するだけで下腹部に残った火照りが再び騒ぎ始めた。
セシリアは逃げるように廊下を駆け抜けていった。彼女の白い下着には、背徳の証が冷たく染みついている。
寮に戻ったら、もう一度──
そんな考えが頭をよぎり、セシリアは自分の堕落にぶるりと一つ、身震いした。