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夫婦の寝室が名ばかりに分かたれてもう久しい。理由は諸々だ。一言でいえば、熱が宿った──といったところだろうか。
熱といっても様々あるが、この夜リシャールを炙ったのは過去の熾火であった。マリアンヌは寝台の縁に腰掛け、解いた髪を肩に流していた。扉の音に振り返るその顔に、驚きはあっても怯えはない。
ここ最近、めっきり夫婦の会話は減ったとは言え夫に怯える妻などいるだろうか。……まあいるかもしれないが、少なくともマリアンヌがリシャールに怯える理由など存在しない──少なくとも、これまでは。
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「……どうなさったの、リシャール」
リシャールは答えず、ずかずかと歩み寄り、マリアンヌの細い肩を掴んで寝台へ押し倒した。
「リシャール──」
マリアンヌの声には少なくない驚愕があった。リシャールという男はこれまで、こうした男の情欲を露わにする事は極々稀であったからだ。気取っているのかそれとも何か別の理由があるのかは知らないが、『貴族とはかくあるべし』という様なお題目を守るいい子ちゃんめいた気質が彼にはある。初夜に於いても作法をまもったお行儀の良いものであったし、だからこそマリアンヌは驚きを禁じ得ない。
夜着の前を乱暴に割られ、夜気が素肌を撫でる。うつ伏せに返され、腰を引き上げられる。尻を突き上げるようなその体勢は屈辱を強いるものであった。
「っ……」
そしてマリアンヌの呻きなどどこ吹く風でリシャールは自身のモノを女陰に押し当て──ろくな潤みもないそこを、構わず押し貫いた。
「いぎッ……ひッ……」
下腹部にぐ、と引き攣れる痛みが走る。乾いた粘膜を無理にこじ開けられて、女陰の縁が裂けそうに張った。
「や、やめ……ッ!」
マリアンヌは思わず呻くが、リシャールは無視し、腰を打ちつけた。何度も、何度も──。
快楽などあろうはずもなく、マリアンヌにとってはただただ苦痛であった。しかしリシャールの表情は普段になく
リシャールの強引な抽挿には愛も情けも一切見当たらない。これはもはや夫婦の行為ではなく、ただの強姦である。リシャールの指がマリアンヌのうなじを掴み、枕へ顔を押さえつけた。
「逃げるな。これも務めであろう」
「ぃ……っ、痛うございま……っ、どうかお許しを……っ」
「何を謝る必要がある?
「あ゙……ッ、いたいっ……リシャ、ル……ぅ」
リシャールはそれを聞いても止まらない。もはや快楽のためではなく、自身でも判然としない何か薄暗くドロドロとした義務感のようなもののためにマリアンヌを犯している。
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リシャールはどこか他人事のように自分を俯瞰して観ていた。マリアンヌを犯す自身が自分の様であって自分ではない様な──。痛みに呻き、やめてくれと懇願するマリアンヌを痛めつける事に快感を覚える一方、
──そもそも、なぜ私はこんな事をしているのだ?
愛する妻を苦しませたいわけではないのに──とリシャールは自分に言い訳をした。それが所詮言い訳の域を出ない事は自分でもよくわかっている。なぜなら、マリアンヌの膣奥を貫き犯すたびに得も知れぬ昏い悦びを自身に見出していたからである。
それもこれも、とリシャールはここ最近のマリアンヌの様子に思いを馳せる。
妻が学院の生徒──それも、よりにもよってイサクに手紙を出している事は随分前に掴んでいた。ただ、内容はといえば時候の挨拶やらヴァリーラの研究についての礼やらと特に問題はなかった。文面だけを見れば問題はない。
問題はないのだが、どうも胸がざわつく。
肚の奥が煮えるような、冷え込むような。
ここで思いとどまるべきだ、今自分は刻一刻と大切なものを喪いつつあるのだ──そんな思いとは裏腹に、
刃だ、とリシャールは思う。
鋭く研ぎ澄まされた剣の刃に指を当て、押し付ける。引けば当然指は切れるし、切れなかったからといって何がどうなるというわけでもない。それでも
──この感覚は、
何十度目かの抽挿の後、リシャールはマリアンヌの膣が濡れている事に気づいた。なぜこんな乱暴な行為で濡れるのか。身体の防御反応か、それともリシャールとの行為にマリアンヌが実のところ悦んでいるからか。あるいは──。
──まさか、そんなはずがない。あの小僧はグレイルではない。奴にしたところで、マリアンヌなど視界にも入っていないであろう。ヴァリーラならばまだ分かるが……。
そんな事を思いながらマリアンヌの顔を覗き込むが、その茫とした瞳にリシャールは自身の像を見出す事ができなかった。