淫魔の王 作:Licht
村への疑いは晴れた。もはやここに留まる理由はない。
痕跡を消し、記憶を封じ、転移魔法で去る──そのはずだった。
だが、審問官の瞳はなおも俺を射抜いていた。
鎖に繋がれ、床に投げ出された俺の身体を、冷徹な視線が測り続ける。
そこには観察と嫌悪、そして言葉にできぬ忌避が潜んでいた。
「……やはり、穢れだ」
吐き捨てる声は低く、石壁に反響して牢を震わせる。
兵士たちがわずかに肩をすくめた。
「本来なら、もう少し情報を搾り取るつもりだった。だが、お前の口から語られた所業で十分だ」
額に影が落ち、瞳が細められる。
「村人を一人残らず誘惑し、心も体も食い尽くした……そのおぞましさ。
そして、この禁忌の肉体。両性の器など、神の秩序を嘲る存在に他ならぬ」
白い吐息が灯火に揺れ、呪詛のように空気を濁らせた。
「生きている姿そのものが、神への冒涜だ」
怒りと嫌悪、そして抑えきれぬ動揺が滲む。
鎖が鳴り、兵士たちの手が俺の両腕を無理やり引き上げる。
肩が軋むほどに伸ばされた腕は頭上の環に掛けられ、足首には鉄輪が噛みついた。
全身は宙に張り付けられたかのようにX字に吊られ、呼吸のたびに鎖が軋む。
幾度も視線に晒され続けた裸身。
今や石床には抗えぬ証が幾筋も痕を描き、湿りは逃れようもなく広がっていた。
兵士たちの眼差しは、陽根の影に秘められた女陰を暴こうとするかのように、淫らに舐め回すよう絡みつく。
冷たい空気は荒い息遣いで濁り、視線の重みが肌を焼くようにのしかかる。
最初からこの姿勢で拘束することはできた。
けれども兵士たちに暴行を許すため、一度は床に転がされた。
今やそれも不要。処刑のために本来の磔刑姿勢へと戻されたのだ。
灯火に照らされた肉体は、十字架に掛けられた罪人のように晒される。
時間が経つほどにふくらはぎが痺れ、足裏に焼けるような痛みが広がっていった。
審問官はその姿を見上げ、冷ややかに吐き捨てた。
「これでようやく、余計な抵抗もできまい」
彼は腰の聖具に手をかけ、刃先を掲げる。
「痛みも刃も効かぬなら、神の光で裁くまでだ」
刃先が灯火を受けて白く光り、詠唱が低く紡がれる。
空気は張り詰め、兵士たちは銀の棒を構えて円陣を組む。
白銀の光が槍の穂先のように伸び、轟音と共に俺の身体を貫く。
「神よ、この穢れを──」
焼けつく熱。震える空気。
だが──俺の肉体は何事もなかったかのようにそこにあった。
「……何!?」
確かに光は俺を貫いた。だが肉を裂かず、魂を削らず、ただ通り抜けて背後の石壁を焦がしただけだった。
焦げた石の匂いが牢に満ち、兵士たちの顔が蒼白になる。
「馬鹿な……!」
審問官は歯を食いしばり、さらに聖句を重ねる。
光は幾度も降り注ぎ、牢を白く染め上げた。
しかし結果は同じ。俺を避けるように抜け、石を砕くだけ。
俺は鎖に繋がれたまま、静かに息を吐く。
審問官らの詠唱と怒声が響く中、足で床を踏みしめ、血で濡れた石に細い術式を刻み続けていた。
痕跡を消し、記録を歪め、記憶を霞に変える──その布石を、今も編み続けていた。
「これほどの神聖魔法が、効かぬだと……!」
審問官の驚愕をよそに、俺は冷笑を浮かべる。
「さあな。あんたらの神にとって、俺は“存在しない”んじゃないか?」
牢に沈黙が落ちる。
兵士たちの喉が鳴り、審問官の眉間に深い皺が刻まれる。
格子の外では記録官の筆が淡々と走り続けていた。
その間にも、透明な魔力の糸は静かに編み上がっていく。
「まだ祈るつもりか?居もしない神に、いつまで縋り続ける気だ」
「貴様……」
挑発に、審問官の意識の底に少年の日の記憶が蘇る。
──彼はもともと星を追う少年だった。
父は聖職者で、神学を学べと叱ったが、彼は夜ごと野山に出て星を描いた。
ある夜、魔族に襲われた。命が尽きると思った瞬間、父が駆けつけた。
神聖魔法の光が闇を裂き、魔族を退けた。
叱られると思った。だが父はただ「間に合ってよかった」と抱きしめた。
──その温もりと光に救われた記憶。
それが彼を父と同じ道へと導いた。
星を追う夢を手放し、信仰を己の一部とし、やがて異端審問官となった。
灯火が揺れ、記憶は霧のように消えた。
「……私のことは何とでも言え。だが神を愚弄することは許せん」
審問官は神聖魔法を断ち、黒布に包まれた長い箱を開いた。
中には金属で作られた細長い器具が収められている。
花弁を閉じた蕾のような形。華奢で装飾的にすら見えるそれは、一見すればただの工芸品に過ぎない。
けれども胸裏がざわめく。理屈ではなく、本能が告げていた──これは、花芯を穿つためのものだ、と。
「淫魔はその肉体こそが罪。
神聖魔法が効かぬなら、罪の器そのものを破壊するまでだ」
その声は冷酷さの中に、どこか陶酔めいた震えを帯びていた。
それは怒りか、恐怖か。あるいは、信仰に酔いしれる熱と、無意識に滲む嗜虐の影とが絡み合ったものか。
「お前に相応しい処刑法だ。淫魔は胎に穢れを宿す。ならば、その深層から裁きを与えるのが道理だ」
X字に吊られたまま、俺の前で細い金属の蕾がゆっくりと持ち上がる。
肌には触れていないはずなのに、結界の網目がざわめき、心臓の鼓動が乱れた。
──やめろ。
声にならない声が喉で震える。
審問官の詠唱が始まる。
聖具は刃でも槍でもない。姿は見えずとも、確かに秘所を探る気配があった。
防護の術が震え、必死に押し返す。だが、それは実体を持たぬ異物。
護りをすり抜けて、内奥へと忍び込んでくる。
膣の入口には、俺自身が常に結界を張っている。
誰にも触れさせないための最後の防壁。物理の力では決して破れない。
しかし、形を持たぬ魔力で干渉されれば話は別だ。
審問官の手にある聖具もまた、その例外だった。
詠唱が終わった瞬間、窪みに冷たい異物感が走る。
何も触れていないはずなのに、臓腑の奥まった領域に異形の存在が芽吹き、圧迫が広がっていく。
閉じた蕾のような金属の器具──それが見えぬ距離から確かに押し当てられていた。
粘膜が捕らえられ、ゆっくりとこじ開けられていく感覚に、息が詰まった。
細いはずなのに、鋭い圧迫と痛み。慣れなどあるはずもなく、魂から逆流するような衝撃が全身を駆け抜けた。
思わず身体が震え、鎖が鳴る。
「……っ、あ……ああ……!」
審問官の淡々とした声が響く。
「細工を挿れただけでその反応か。淫魔のくせに、まるで生娘のようだな」
その言葉に胸裏がざらついた。
俺は罪など犯していない。誰とも交わったこともない。
にもかかわらず錯覚の中で、肉路は器具を拒むどころか、逆に絡みつくように収縮し、熱が脈動を強めていく。
「ふざけるな……俺は……」
言葉は喉で途切れた。
それがゆっくりと、確実に襞を裂くように押し広がっていった。
最初は鈍い圧迫感。
だが、蕾の縁に仕込まれた棘がぬめりを帯びた熱泥を押し分け、裂き、細かな血の粒が淫穴を濡らしていく。
歯を食いしばり、声を押し殺そうとするが、開かれていくたびに悲鳴が漏れた。
「……っ、ぐぅ……あああああっ!」
痛みは鋭く、焼けるようで、同時に冷たい。
他のどの部位を傷つけられた時よりも、膣を引き裂かれるこの痛みは、意識を白く塗りつぶすほど強烈だった。
花弁はさらに開き、形は保てなくなる。
内側の肉がぐしゃりと潰れ、熱い液体が溢れ出す感覚が脳を焼く。
それでも淫魔の血を引くこの体は、人間とは違う。
裂けた組織は魔力の糸が勝手に編み直し、瞬く間に元の形を取り戻す。
しかし安堵する間もなく、再生した襞に棘が深く食い込み、同じ場所を押し広げた。
棘は突き刺さるだけではなく、捻じれ、引き、肉を削ぎ落とす。
鈍く湿った音が響き、見守っていた兵士の何人かが顔を背けた。
審問官が低く呟いた。
「最大まで開け」
その声と共に、異物が骨を軋ませる音を立てて広がった。
金属の果実のような形が限界まで開き、棘が中を覆い尽くす。
「ぎ……ああああああああっ!」
理性が焼き切れる衝撃が脊髄を駆け上がり、頭蓋を締め付ける。
身体が再生されるたびに棘が食い込み、治りかけた組織は再び裂けた。
破壊と修復が呼吸より短い間隔で繰り返され、ぬかった窪みは常に裂け目を抱え続ける。
最初は握り拳ほどだった異物が、詠唱と共に屈強な兵士の腕ほどに膨れ上がる。
新たな棘が芽吹き、密集して肉壁を覆う。
一本一本が蠢き、振動し、やがて螺旋を描き始めた。
その回転は肉を抉り、再生の糸を次々と断ち切り続ける。
「や、やめろ……っ、ぐああああああああああっ!」
器具はさらに肥大し、腰骨を内側から押し広げるほどの太さとなる。
棘は鋭さを増し、回転のたびに柔肉を削ぎ落とす。
再生と損傷が同時に進行し、痛みは途切れることなく神経を焼き続けた。
腹の奥の異物が低く唸り、棘だらけの花弁は開いたまま渦を描いて奥をえぐった。
審問官の視線が、俺の奥を透かすように射抜く。
「やはり、これでは足りん」
補強の詠唱が重ねられ、異物はさらに膨張する。
骨盤の内側が悲鳴を上げ、腹の壁も背の筋も、裏から裂けそうに盛り上がった。
骨が軋み、筋が裂ける音が、湿った水音と混じり合って響く。
「ぐ……っ、やめ……っ、ああああああああああああっ!」
絶叫が石壁に反響する。
肉は編まれるそばから棘に裂かれ、赤黒い雫が絶え間なく滴った。
記録官の手は止まらず、ただ事実だけを紙に刻み続けていた。
審問官の声が、氷の刃のように響いた。
「ならば、終わらせてやろう。神聖の光を媒介に、この穢れを焼き尽くす」
その宣告と同時に、器具全体が白々と輝き出す。
本来なら魂を浄化するはずの光は、俺には届かない。
だが、光を浴びた金属の蕾は異様な熱と圧力を帯び、さらに膨張を始める。
棘が白光を帯びて輝き、骨盤ごと押し広げていった。
「ひっ──ぐああああああああああああああああああああっ!!」
理性を焼き切る絶叫が石壁に反響する。
腹の壁が中から裂け、背中までもが突き破られた。
陰茎までも巻き込まれ、形を保てず潰えた感覚が走った。
光に照らされた棘が突き破り、血と肉片が四散する。
赤黒い飛沫は光に照らされ、まるで聖堂のステンドグラスの破片のように煌めいた。
深奥で何かが砕け、命の源が絶たれたかのような衝撃が走った。
胴体は上下に引き裂かれ、瞳の光がふっと消える。
普通なら、ここで終わっていた。
腹も背も内側から裂け、奥はぐちゃぐちゃだ。
人間なら、とうに死んでいる。
だが、俺は死なない。淫魔の血が、死を許さない。
意識は白に塗り潰され──それも刹那。
砕けたはずの核はすぐに脈を打ち直し、全身を強引に現世へと引き戻す。
引き千切れた肉も、奥の膜すらも、魔力の糸が狂気じみた速さで編み直していく。
それは守りではなく、呪いのような純潔だった。
一方で、聖具は悲鳴を上げていた。
花弁の継ぎ目にひびが走り、振動が乱れ、ついに内部から砕け散る。
白光に照らされた破片と血飛沫が宙を舞った。
「酷使しすぎたか」
審問官の声が低く落ち、眩い閃光は霧のように消えた。
残されたのは、塞がりきらぬ裂傷と、焼け付くような痛みだけ。
それでも魔性の胎動が脈打ち、肉体はゆっくりと元の形を取り戻していく。
裂けた腹からは、しばらく赤黒い滴がぽたぽたと落ちていた。
再生が進むにつれ、血は細り、やがて雫は途絶えていく。
「なぜ死なない……もう再生しているだと」
審問官の視線が鋭くなる。
「やはり異端だ。浄化も効かず、死にもせず……」
床には赤黒い痕が広がり、肉片と滴が残っていた。
「……見苦しい」
兵士の一人が桶の水を乱暴にぶちまけ、粗雑な布で俺の腹から股間にかけて拭い取った。
血と汚れが布に染みるはずだった。
しかし赤黒い色に混じり、透明に近い粘りを帯びた滴が広がっていく。
兵士たちの顔色が変わり、空気がざらついた。
「おい、まさか……」
「こんな状況で、反応していたのか」
審問官の目が細まり、冷たい声が落ちる。
「淫魔は人を誘惑し、快楽を糧とする存在だ。だが──痛みに悦びを覚える者など、本来いない。
それなのに貴様は裂かれ、再生するたびに滴を零す……史上最低にして最悪の淫魔よ」
「黙れ。俺は感じてなんかいねぇ……!」
声は震え、喉で掠れる。
理性は必死に否定を叫ぶのに、肉体は甘く裏切る。
あの器具に下腹を引き裂かれた痛みは、ただの苦痛ではなかった。
屈辱と結びついたその異様な感覚が呪いの祝福のように熱を孕み、芽吹いていく。
胸の奥で蠢くその芽は艶やかに脈打ち、否応なく暗い悦びへと育っていった。
⋯⋯それでも。
俺は作業の手を止めなかった。
痛みで視界が滲んでも、震える指先で細い魔力の糸を繋ぎ続ける。
鎖に吊られた四肢は痺れ、胸郭は軋む。それでも、布石だけは崩させない。
転移だけなら一瞬で済む。だが痕跡を残せば追跡される。
だからこそ牢全体に糸を張り巡らせ、網を完成させねばならない。
発動の瞬間、兵士の記憶も、記録官の記述も、石に染みた痕跡すらも──霧のように消える。
呻き声に紛れ、呼吸に合わせ、わずかな動きで糸を編む。
痛みに阻まれながらも、確実に進んでいた。
すべての糸が繋がったとき、網は一気に収束し、牢に残る記憶そのものを呑み込む。
──あと少し。
あと少しで、出口は開く。
審問官の視線が、俺の首に嵌められた銀の首輪に注がれていた。
本来なら魔力を封じるはずの拘束具。
だが俺の肉体は再生を繰り返し、神聖魔法すら弾き返す。
首輪は沈黙したまま、ただの飾りのように無力を晒していた。
「ならば、次だ」
低く吐き捨てる声が石壁に反響し、鼓膜を震わせる。
「魔族の多くは神聖魔法を浴びせれば一瞬で塵と化す。
それでも、貴様のように耐える個体が稀に存在する」
異端審問官の無機質な言葉に、兵士たちの間で静かな動揺が広がった。
神聖魔法こそが魔族から人間を守る唯一の手段と信じられてきたのに、その絶対性が揺らぐのだから。
「安心しろ。聖具を駆使することで、我ら教会は魔族を屠ってきた。
魔法で死なぬ相手は拘束し、じわじわ弱らせて殺す。先ほどの拷問具も聖具の一種だ」
鎖に吊られた肩が軋む。
喉の奥から漏れそうになる呻きを噛み殺し、俺は口の端を無理やり吊り上げた。
「だからこうして見世物にしてるってわけか」
記録官は一切の感情を見せず、紙の上に淡々と事実だけを刻みつけていた。
審問官は俺の言葉を無視し、冷ややかに続けた。
「だというのに、どれも貴様には通じなかったな。股を裂かれてなお悦ぶ始末とは。
淫魔は本来、魔族の中でも最下級。魔力量など取るに足らぬはずだというのに……」
そう言うと、審問官は指先で銀の円盤を軽く叩いた。
澄んだ音が牢に響き、空気が微かに震える。
「淫魔は魔力だけでなく、発情そのものを撒き散らし、人を狂わせる。
この聖具は“誘惑波”を感知し、反対波で打ち消す仕組みだ」
掌ほどの銀白色の円盤。
中央に宝石のような石が嵌め込まれ、そこから蜘蛛の脚めいた金属帯が放射状に伸びている。
帯の先端には小さな鉤があり、腰骨を抱え込むように固定される設計だった。
さらに円盤の内側には突起が並び、装着すれば臍下を押し上げる位置に食い込む。
「聖盤拘束具──淫魔にはこれが一番効く」
冷笑と共に告げられ、兵士たちが俺の腰を押さえつける。
蜘蛛脚が音もなく展開し、骨盤を包み込むように広がった。
冷たい円盤が下腹に密着した瞬間、宝玉が青白く光り、突起が深みに沈む。
金属の冷たさは皮膚を越え、身体の奥底へと届いていった。
鎖が鳴り、腰が跳ねるように浮く。
石が脈打つたび、凍り付くような戒めの波動が内奥へと流れ込む。
表層は冷え、昂ぶりは冷水を浴びせられたように縮こまっていった。
──キュウ、と。
下腹の奥にある閉ざされた環が、小さく震えた錯覚。
鎮静の波は膣の最奥を叩き、さらに深く、命を宿すはずの場所を揺らすように浸透していく。
そこがわずかに熱を帯び、潤みが増した気がした。
(ただのフェロモン封じだろ。俺は誰も誘惑していない。そんなもの、効くはずがない)
美貌は肉体の造形にすぎない。他人が勝手に惑うだけだ。
俺は構わず魔法を使おうとした。張り巡らせてきた魔力の糸が、ようやく整ったのだ。
(とっとと魔法を使って、こんなところから脱出して──)
指先から魔力を解き放とうとした、その瞬間。
──冷たい波が跳ね上がった。
「っ、あ……!」
思わず声が漏れる。
装置は俺の意志ではなく、深みに潜む鼓動を拾い上げていた。
宝石が淡く脈打ち、反対波が流れ込む。
本来なら誘惑を鎮めるはずの波動が胎を叩き、冷たくも甘い衝撃が走る。
その瞬間、奥は抑え込まれるどころか逆に疼き、次の刺激を待つように痙攣した。
疼きが広がるたび装置はさらに強い波を送り込み、深層を揺さぶる。
やがて秘められた裂け目は戒めに抗うように膨らみ、甘い熱を帯びて潤みを増していった。
最初は違和感に過ぎなかった。
だが繰り返されるにつれて、さざ波のような揺らぎは幾重にも重なり、大きなうねりとなって下腹を満たす。
冷たい波が響くたび奥はひくつき、蜜を生み続ける。
額から伝った汗が顎をかすめ、石床に落ちる。
男としての部分は沈黙しているのに、秘裂だけが熱く潤み、氷のような波動に抗ってびくびくと震えていた。
「見ろ……淫魔特有の誘惑波を感知した瞬間、反対波が発生してそれを鎮める。
快楽を奪うのではない、発情そのものを根から絶つ仕組みだ。
肉体が再生できる貴様でも、この波には抗えまい」
審問官の勝ち誇った声が耳を刺す。
──違う。俺が苦しんでいるのは、感じないからじゃない。逆だ。
この異常を悟られたら、すべてが終わる。
また一つ、波が下腹を揺さぶる。
外からは見えず、名も知られていないそこは確かに存在し、今も脈動している。
鎖に繋がれた足が小刻みに震えた。
青白い反対波に触れるたび、胎は一瞬沈黙し、次の瞬間にはより強く疼きを返す。
その鼓動は、まるで冷たさを味わうために熱を高めているかのようだった。
奥は熱くぬかり、甘くうねってぬかるんでいく。
重力に従って滴りそうな蜜を押し留めようと力を込める。
だが装置はそれを、快楽を求める締め付けと判断した。
宝石が強く脈打ち、罰のように冷たい鎮静波が降り注ぐ。
逃げられず、波を締め付けた奥で抱きとめてしまい、衝撃は直に響いた。
疼きはさらに強まり、潤みは増していく。
審問官の視線が下腹に注がれる。
「淫魔よ、人間の抑制を味わえ。感じないのは、さぞ苦しかろう」
審問官は萎えたままの俺の男根を見て、嘲る。
──節穴め。本当に苛まれているのは、そこではない。
縮こまった陰嚢の陰で、秘められた裂け目は蜜を湛えていた。
最初はわずかな潤みだったが、冷たい波が繰り返されるたびに少しずつ溜まり、蕾のように膨らんでいく。
段々と溢れそうに震えるその奥を、必死に締め付けて耐える。
奴らはまだ俺が鎮静されていると誤解している。
それでいい。誤解させておけば、まだ隙は作れる。
奥歯を噛みしめ、意識を集中させた。
それは痛みも快楽も切り離すために編まれた、感覚遮断の魔法。
手首の食い込みも、足首の鈍痛も、魔力を巡らせればすぐに消える。
実際、縛られた四肢の痛みは跡形もなく消えていった。
だが快楽だけは違った。
奥の奥が白熱するように脈打ち、「不許可」と告げるかのように遮断の命令を拒む。
痛みが消えたことで、残された甘い疼きはかえって際立つ。
拘束具から流れ込む冷たい律動と、魔法の余韻が重なり合い、腹の内側は強く脈打ち続ける。
蜜は限界まで溜まり、零れ落ちる寸前で震えていた。
喉奥までせり上がる羞恥を噛み殺し、俺はただ耐え続けた。
(……これじゃ、脱出はできねぇ……)
術式はすでに完成している。
脱出のための転移魔法と、痕跡を消すための記憶消去魔法──二重に仕込んだ術は、あとは起動を待つだけだ。
だが今ここで無理に発動すれば、術式は暴走し、この場にいる者すべてを廃人に変えてしまう。
冷たい波が鎖に吊られた身体へと叩き込まれるたび、奥が痙攣し、意志とは無関係に腰が揺れる。
零れそうな潤みを必死に食いしめて押し戻しながら、拘束具を外そうと腕を伸ばす。
だが鎖は軋み、金属はびくともせず、ただ俺のもがきを晒すだけだった。
「はは……見ろ。淫魔が快楽を奪われて苦しんでいるぞ。
腰を振っても、鎖を引きちぎろうとしても、何も得られぬのだがな」
異端審問官の嘲笑が冷たく響く。
膣口をすぼめて零れを押し留めていたが、もはや限界は近い。
胎内に収まりきらぬ淫蜜が押し寄せ、締め付けは震えへと変わっていく。
さらに甘い痺れが奥を責め立て、快楽に耐えること自体が限界へと追い込んでいく。
押し留める苦しさと、痺れる悦びの辛さ──二重の我慢が重なり、身体は小刻みに痙攣し、無意識に腰を揺らす。
それは抵抗ではなく、淫靡な舞いにしか見えなかった。
その姿を見下ろしながら、審問官は嗤いを深める。
「村の全員を味わったと言ったな。老いも若きも、男も女も⋯⋯一人残らず、と」
わざと声を低め、艶を帯びさせる。
「どうやった?その肉棒で女どもに嬌声を上げさせ、奥を味わい尽くしたのか……。
それとも、その淫らな穴で男どもを咥え込み、貪られながら奉仕したのか──言ってみろ」
耳を汚す卑猥な響き。
その言葉は真実を求めてはいない。俺に自ら淫らな言葉を吐かせ、辱めるためだけのものだった。
脳裏にありもしない交わりが描かれる。
女の嬌声、男の影──幾重にも押し寄せる幻影。
想像の中で肉襞がうねり、羞恥と昂ぶりが絡み合う。
「……答える義務はない」
声は冷たく拒絶した。
だが、その拒絶を裏切るように。
太腿の内側を、温もりが静かに伝う。
長く止めていた蜜がとろりと零れ、石床に艶やかな痕を広げる。
乾いた血痕の上に重なる透明な水たまりが、望まぬ肉欲を否応なく突きつけた。
兵士たちの下卑た笑いが刺さり、羞恥に顔を背けても、滴りは止まらない。
記録官が筆を止め、ためらいがちに口を開いた。
「⋯⋯この反応はおかしい。鎮静波の効力に異常がある。詳細な調査をすべきです」
「ああ、そうだな。徹底的に吐かせる必要がある」
同意の言葉は仮面にすぎない。声は淫靡に艶を帯び、責め立てるように耳を這う。
「──やはりお前は雌だ。男を気取っても、身体は正直だな」
ねっとりとした声色が耳を這い、胸奥に怒りがこみ上げる。
だがその怒りすら、腿を伝う淫らな滴りに呑み込まれていく。
「結局お前は、雌穴で数え切れぬほど男を咥え込み、
いや……浅ましい淫魔らしく、尻穴すら蕩けさせて悦んだのではないか」
審問官の視線が俺の背後をなぞる。
俺の体は人間と違い、後ろの窄まりすら快楽に呼応して潤むようにできている。
今は鎮静されているが、昂ぶれば前と同じく蜜を帯び、肉筒として扱われてしまう。
だからこそ俺は、そこを穴として使われぬよう、膣と同じく防御魔法を張り巡らせている。
審問官は声を低め、嗜虐の艶を滲ませた。
「村人どもに前を貫かれながら、後ろの穴まで差し出したとき──その身はどれほど悦びに震えたのだ?」
言葉が変わるたび、想像も形を変える。
同時に伸びる手、抱きすくめられる両性の身体。
前後を同時に責め立てられる錯覚が、羞恥と昂ぶりを否応なく煽り立てる。
(耐えろ……今はまだ……)
宝玉が青白く脈打ち、冷たい波が胎を叩く。
灼けつくような熱を帯びた内奥は、なお潤みを増し続け、滴りを止められない。
対照的に男の部分は冷え切ったまま沈黙していた。
本来なら鎮静波に晒されれば、淫魔であっても抗えない。
男の欲が萎むように、すべての感覚が凍りつくはずなのに──女の場所だけが裏切り、甘く疼き続けていた。
その理由を知るのは、この身を持つ俺だけ。
決して明かせない秘密だ。
拘束は外せず、抗う術もない。
今ここで魔法を使うのは自殺行為。
感じたくなどないのに、膣は勝手に愛液を溢れさせる。
鉄の匂いに混じり、甘やかな芳香が牢を満たす。
生臭さを欠いたその濃い香りは、嗅ぐ者の理性を鈍らせる。
視界の端が白く霞み、足は小刻みに震え、膝の力が抜けそうになるのを必死に堪えた。
「ようやく大人しくなったか。相当苦しそうだな、淫魔よ」
「……好きに解釈しろ」
唇を噛み、睨み返す俺に、審問官は冷笑を浮かべてさらに言葉を突きつけてきた。
「こんな色狂いが生まれて、お前の親も、さぞ嘆いているだろう」
……親、ね。
「さあな、親なんざ知らねぇが……人を痛めつけて愉悦に浸る変態サド野郎を息子に持つよりはマシだろ」
吐き捨てた言葉に、審問官の目が細められる。
「親を覚えておらんのか。ならば思い出させてやろう──あの時のことを」
審問官の声は冷たい刃のように空気を裂き、石壁に反響した。
……やめろ。
胸の奥が軋み、抑え込んでいた記憶が疼く。
緊張が下腹へと伝わり、余計に熱を帯びて滴りを増し、腿を伝って淫らに落ちていく。
「十七年前、教会に知らせが入った。
ある村に魔族を匿った人間がいる、と」
「魔族を匿うだけでも大罪だ。だが、その者はさらに罪深かった。
女淫魔との間に子をなしていたのだ」
「人間と淫魔が結ばれるなど禁忌だ。
それ以前に──淫魔と人間の間に子が生まれるなどあり得ない。肉の造りが違うからな」
「だが、その赤子は両性具有の肉体と魔力を持って生まれ落ちた。
──禁忌の子。それがお前だ」
「我々はその赤子を追った。
父親は剣を握り、母子を庇って立ち塞がった。
女淫魔は赤子を抱きしめ、ただ『子供だけは』と命乞いをした」
俺は口端を歪めた。
「……勝手にガキをこさえて、無様に異端審問官にやられちゃあ……ざまあねぇな」
兵士の一人が顔をしかめ、聖具を握る手に力を込める。
「貴様、親を笑うな!」
「魔族に家族の概念などない、気にするな」
憤る兵士を制し、審問官の声色がふいに穏やかに変わった。
「だが、一つだけお前には感謝せねばなるまい」
「……何が言いたい」
俺は眉をひそめた。
「その女淫魔は人間に擬態し、村に溶け込み、男の妻として受け入れられていた。
聖具が反応しないほど魔力が弱く、教会ですら見抜けなかった。
もしお前が生まれなければ、奴は潜伏を続け、淫魔と人間が結ばれた事実も闇に消えていただろう」
審問官の口元に、皮肉を孕んだ笑みが浮かぶ。
「だが赤子のお前に聖具が反応したことで、全てが明るみに出た。
お前が生まれたことで異端は暴かれた。
……感謝しているぞ、理人よ」
──心臓を握り潰されたように息が詰まった。
俺の存在そのものが両親を殺したという皮肉。断罪。
胸の奥でざわめいた屈辱と絶望は、血に刻まれた被虐の悦楽と絡み合い、暗い昂ぶりへと変わっていく。
背徳の熱が脊髄を駆け上がり、理性の壁を内側から焼き崩した。
「……っ、あ……ああああああ……っ!」
全身が大きく痙攣し、喉から艶めいた声が迸る。
押し殺した呻きは次の瞬間に裏返り、女のように甘く震えた。
苦鳴であるはずの響きは石壁に反響し、艶めかしい残響を撒き散らす。
理性は必死に拒絶していた。
だが奥底の収縮は止まらず、潤みは奔流のように零れ落ちる。
暗黒の悦びに絡め取られたそれは、抗えぬ絶頂へと変貌していた。
昂ぶりは波のように押し寄せ、肉の奥を何度も打ち砕く。
女陰はひきつれながら甘くうねり、蜜は濃く垂れ落ちて艶麗な筋を描く。
誇りを守ろうとする心と、淫魔の本能に従う身体。
その矛盾の中で、俺はただ艶やかに身を震わせるほかなかった。
──どんなに人間のように振る舞おうとも、絶望の中で悦びを覚えてしまう俺は、所詮淫魔なのだと。
思考すら許されぬまま、敏感な内奥を冷たい波が叩きつける。
果てたばかりの肉が、また強く震えた。
審問官の視線がそこに釘付けになり、嗤いが途切れる。
次に落ちた声は、嘲りではなく驚愕だった。
「……抑制されているのに、果てるだと……?」
魔法や誘惑波を封じられてなお快楽に沈むのは体質か、それとも何か仕込んだのか──彼の中で答えは見つからない。
俺は反論しようと口を開いたが、出たのは言葉ではなく淫らな喘ぎだった。
「……っ、は……ぁ……っ」
絶頂の余韻が消えるより早く、次の波が容赦なく襲いかかる。
果てたばかりの奥をさらに深く抉る冷たい律動が叩きつけられ、痙攣は止まらない。
またいく。
いったばかりなのに、またいく。
反応を拾った宝玉がさらに強く脈打ち、先程よりも強い鎮静波を叩き込む。
またいく。
またいく。
何度も果てるうちに、子宮は降りてきてしまい、最奥の環は淫らにひくつきながら開きかけていた。
濡れた花弁は艶めき、甘く啼くように震える。
閉じては開き、またひくつき、悦びを乞うかのように蠢いていた。
絶頂と絶頂の境界はとうに失われ、果てることそのものが永遠の循環へと変わっていた。
冷たさは甘美な毒となり、昂ぶりを抑えるどころか逆に煽り立てる。
痙攣は波のように重なり合い、呼吸は途切れ、声は掠れた吐息に変わって牢に響いた。
「はぁっ……あっ……!」
理性は薄れ、残されたのは果て続ける肉体だけ。
限界を超えた昂ぶりは理性を焼き尽くし、意識は白い光に呑まれていった。
──意識が戻る。
だが瞼を開いた瞬間から、肉体はなお果て続けていた。
甘怠い重みが全身を覆い、筋肉は痙攣の余波に震え、呼吸は浅く乱れている。
絶頂の余韻は倦怠感へと変わり、重苦しい疲労が身体を沈めるように圧し掛かっていた。
快楽の渦に囚われながらも、意識だけはかろうじて浮上していた。
「もう目が覚めたのか。回復が早いな」
審問官の嘲る声に反射的に視線を落とす。
下を向いた瞬間、己の姿勢に気付き、息を呑んだ。
「……っ、変態どもが……!」
両足は鎖に固定され、左右へ大きく引き伸ばされている。
股は強制的に最大限まで開かれ、腰から下は宙にさらされ、逃げ場のない姿勢に縛り付けられていた。
陰茎と陰嚢は輪に絡め取られ、金属の拘束によって前方へ突き出すように引き絞られている。
遮るものを失ったことで、赤く腫れ上がった妖花がむき出しに晒されていた。
覆い隠す陰りもなく、花弁の輪郭は鮮明に浮かび上がる。
痙攣の余波に震えるその奥からは甘露が絶え間なく溢れ、腿を濡らし、床へと滴り落ちていく。
湿った匂いが空気に広がり、淫靡な残響となって牢を満たしていった。
審問官の声が重なる。
「お前の肉体には秘密があるはずだ。封じられていながら絶頂を繰り返し、なお再生まで果たす──常識では説明できぬ。
その肉が災いとならぬよう、内奥のすべてに危険がないか確かめねばならん」
「白々しく言い訳を飾り立てやがって……」
わざわざこんなふうに晒す必要はない。
危険視しているのなら拘束して隔離すればいいだけの話だ。自分の目で覗き込む必要などあるものか。
審問官は愉悦を隠さず、声を低く響かせた。
「恥じることはない。お前の肉は美しい──皆に見せてやりたいほどにな」
「ふざけるな!」
「だが入口しか見えぬのでは惜しい。せっかくだ、魔法で肉を広げ、奥までも暴いてやろう」
牢に響いた声は恍惚を帯び、次の瞬間には神聖魔法の詠唱が終わり、力が注ぎ込まれていた。
膣の外縁を掴まれる。
本来なら防御魔法がそこを覆っているはずだった。
だが度重なる絶頂と拷問で守りは弱まり、硬質な盾は柔らかく薄い皮膜へと変わり果てていた。
挿入こそ免れていたものの、守りの残滓は掻き分けられ、縁は容赦なく掴まれる。
ゆっくりと蝶の羽のように広げられ、奥の襞が露わになっていく。
「下らねぇ真似をしやがって……!」
痛みはない。だが、穴を限界まで引き延ばされる感覚は屈辱そのものだった。
外気の冷たさが肉に触れ、神聖の光が差し込む。
晒された肉は甘く痙攣し、羞恥の震えを止められなかった。
──だが、光はただ照らすだけではなかった。
(……っ、これは……!)
ねっとりとした気配が内部で蠢き、至近距離で覗き込まれる感覚が走る。
異端審問官の顔が膣の奥に転写され、襞から子宮口まで視線が絡みつく。
──それだけでは終わらなかった。
鼻先を押し当てられたかのように、淫蜜の甘く濃い匂いを嗅ぎまわる気配が奥へと広がる。
舌が差し入れられ、蜜をすくい取り、襞を舐め回す錯覚が脳裏に焼き付く。
滴り落ちる音すら拾われ、一滴も聞き逃さぬよう耳を澄ませる審問官の存在が、蜜の響きを愉しみながら羞恥をさらに深く刻み込む。
吐息の熱が皮膚に触れ、指でつつかれ、爪でひっかかれ、歯で噛まれているような刺激が走る。柔らかな肉はびくんと震え、甘い痛みが痺れとなって広がり、紅の空洞へ吹き込まれる息が痙攣を誘う。
そして、じっと覗き込む視線が奥を縫い留め、逃げ場を奪っていた。
「やめろっ……やめろぉ……!」
本来は仲間同士で戦場の状況を共有するための術だが、審問官はそれを悪用し俺の膣奥へ自らの感覚を投射していた。
腰を必死に反らして逃れようとする。
だが拘束はびくともせず、抵抗は無意味だった。
動けば動くほど肉は逆に審問官の感覚へ密着し、刺激を強めてしまう。
そのたびに蜜は余計に滲み出し、股を伝って滴り落ちていった。
審問官は愉悦を隠さず、さらに深く侵入してくる。
嗅ぎ、舐め、噛み、囁き、覗き込み──五感すべてを総動員し、俺の内部を余すところなく弄り尽くしていた。
「ほう、これは……魔性の肉体というほかない。まさしく禁忌の子だ」
嗜虐の声が牢に響く。
俺はおぞましさに喘ぎながら、なおも誇りを守ろうと必死に抗っていた。
「私だけ楽しむわけにはいかぬ。お前にも味合わせてやろう」
「よせ……!」
「遠慮するな。すぐ虜になるだろう」
視界が歪み、異端審問官の目に映るものが、強制的に俺の瞳へと流し込まれる。
必死に目を閉じても像は焼き付いたまま消えず、意識の奥へと侵入してきた。
「ああああああああああっ!」
絶叫が牢に響き渡る。
──視界が繋がった瞬間、俺の瞳に押し込まれたのは、見たくもない淫靡な肉の光景だった。
見えない指に押し広げられ、標本のように固定された外陰は、神性の光に照らされて奥まで晒されていた。
襞は幾重にも重なり、柔らかな花弁の連なりのように艶やかに波打つ。
濡れた光沢は水面のようにきらめき、一つ一つの皺が呼吸するかのように甘く震える。
奥へと続く道は淡い紅の輝きを帯び、見る者を誘う神秘の回廊のようだった。
襞は閉じては開き、ひくつき、征服を待ち望むように蠢いていた。
滴り落ちる蜜は屈辱の証でありながら、光を帯びた甘露のように床へと落ち、牢の空気を濡らす。
その痕跡すら美しく、見る者を抗えぬ欲望へと誘っていた。
「目を逸らすな。これがお前の本性だ」
処女膜の痕跡は薄紅のヴェールとなり、秘められた奥を守りながらも透き通る美を放っていた。
破れを知らぬまま、淫魔の血が織り上げた幻想の布地のように儚く、しかし妖艶に輝いていた。
その奥に浮かぶ子宮口は白い珠のように艶めき、ひくひくと甘く脈打っていた。
珠は呼吸するように震え、宝石のように光を返しながら淫靡な律動を刻み続けている。
環が開いた瞬間、さらに奥までもが淡い紅の光に晒され、秘められていた領域が露わになった。
「閉ざされているはずの門が悦びに痙攣する──なんと卑しい」
珠の奥に広がる空間は紅の水面のように濡れ輝き、呼吸するように脈動していた。
愛液は壁から垂れ続け、奥深くを潤しながら滴り落ちていく。
珠の縁はびくびくと痙攣し、何かを求めるように蠢き続ける。
まるで子宮そのものが発情し、快楽を感じているかのように震えていた。
──生々しいはずの器官が、淫魔の血によって妖艶な宝石のように変貌していた。
紅に濡れ輝くその奥は、まさしく幻想の赤い花園。
雨露にまみれ、蜜で膨らんだ蕾の群れが艶やかに波打ち、花弁の森が揺れる。
誇りを焼き尽くす絶望の中で、俺はその光景を否応なく見せつけられていた。
「どうだ、気に入ったか」
「これ以上、辱めるな……!」
「そうか、残念だ」
その言葉とともに視界が切られ、石牢の景色が戻る。
俺は荒い息を吐き、胸が焼けるように痛んだ。
審問官は期待に目を膨らませた兵士たちと視線を交わし、静かに頷いた。
「ああ、分かっている。お前たちにも見せてやろう」
「よせ……!」
淡い光が編み上げられ、次の瞬間、兵士たちの瞳にも同じ映像が流れ込んだ。
つまりそれは、兵士全員に同時に五感すべてで俺の中を体験させるということだった。
嗤いが広がり、牢の空気をさらに濃く染めていく。
「見ろよ、ひくひく震えて液を垂らしている」
「形も完璧だ。奥まで綺麗じゃねえか」
「匂いも汁も、なんて甘さだ。こっちが狂っちまいそうだ」
兵士たちは舌鼓を打ち、言葉を次々と重ねていく。その一つ一つが誇りを抉り取っていく。
「やめろ……俺はお前らの見世物じゃない……!」
叫びは絶望に震え、声は甘く裏返る。
嗤いといやらしい共有の声が牢に響き渡り、俺の抗いは飲み込まれていった。
「淫魔とはこういうものか。
膜すら自在に再生し、処女の証を保ちながら男を喰らい尽くす淫らな穴……これ以上の矛盾はない」
審問官の眼差しはなお処女膜の痕跡に釘付けられていた。冷笑を浮かべ、指先を軽く振る。
「記録官、記せ。──文字だけでは足りぬ。図も添えよ」
記録官の手が一瞬止まり、戸惑いが瞳に宿る。
だが、審問官の命令に逆らえる立場ではなかった。
「……承知しました」
低く答え、筆を再び走らせる。
肉襞や子宮口の色、質感、震え方までもが羊皮紙に細かく刻まれていく。命じられるまま、簡略なスケッチまでも添え始めた。
「危険な禁忌の子の存在を、後世に残さねばならぬ。
処女のように清らかな色を保ちながら、淫乱の証として蜜を垂らし続ける──この矛盾こそが記録すべき業だ」
下腹部の聖具から鎮静波が打ち込まれる。
本来なら快楽を封じ、理性を戻すはずの冷たい青白い波が内奥へ流れ込むたび、逆に中は甘く蕩けていく。
肉襞はびくびくと痙攣し、蜜は絶えず滲む。
子宮口はひくんと開いては閉じ、珠のように脈打ちながら微かに震える。
波が打ち込まれるたびに奥は果て、また果て、痙攣は止まらない。
──だが、それだけでは足りなかった。
鎮静波は確かに快楽を呼び覚ます。だが奥は空虚に疼き、もっと太く、大きなものに貫かれたいと震えていた。
膣は甘く収縮しながらも、満たされぬ空洞を訴えるように蠢き続ける。
子宮は果てながらも、なお深奥を突かれたいと脈打ち、蜜を滴らせていた。
絶頂に呑まれながら、肉は「足りない」と震える。
鎮静波だけでは満たされず、奥を抉る衝撃を求めてしまう。
果て続ける肉体は、満たされぬ渇望を抱えたまま甘く痙攣し続けていた。
腰は無意識に揺れ、絶頂の中で淫魔の肉体はふしだらに前へ突き出される。
より深く、より強く──己を貫くものを求めるかのように。
その渇望を異端審問官は見抜き、わざと鎮静波を弱めた。
「まだ足りんのか。浅ましいな……禁忌の子よ。無限の淫獄に囚われながらも、奥は満たされぬと震えているな。
淫獄から解放されたいか……?」
牢の空気が張り詰める。兵士の嗤いは止み、記録官の筆も凍りついた。
審問官の声だけが牢に満ちる。甘く、冷たく、膣の奥底を撫でるように届いた。
「この責め苦から逃れたければ、その女陰で我らを満足させよ。
防護を解き、自らそこを開いて我が上に跨れ。
腰を振り、処女膜を散らし、蜜を垂らし、肉穴を奉仕の器として差し出すのだ。
教会専用の聖娼として一生を捧げるというならば、命は助けてやろう」
言葉は交わりの光景を鮮やかに想像させるほど露骨だった。
脳裏には、群衆の前で晒され、聖具に貫かれ、快楽と屈辱に沈む自分の姿が閃く。
理性は必死に否定するのに、淫魔の血は悦びを呼び覚まし、肉は甘く震えていた。
その想像だけで全身が痙攣し、視界が白く塗り潰されそうになる。
奥歯を噛み締め、声を絞り出す。
「ふざけるな。お前とやるくらいなら、一生このまま果て続けた方がマシだ」
だが肉体は裏切る。拒絶の言葉を吐きながらも、晒された穴は蜜を滴らせていた。
「望まぬ絶頂に苦しめられる淫獄からの解放と引き換えでも、か」
審問官の目が細められる。声はさらに低く、艶めいて響いた。
「俺は誰彼構わず精を求める淫魔じゃない。
それに……俺は好きなやつ以外に体を許すつもりはねぇ」
審問官は愉快げに笑い、声を落とした。
「ほう……面白い。ならば望み通り満たしてやろう」
次の瞬間、鎮静波の出力が跳ね上がった。
殴りつけられるような冷たい律動が下腹を叩く。
淫魔の血に従う肉体は、刺激に慣れることなく果て続ける。
奥歯を噛み締めて耐える。快楽は俺にとって日常だ。慣れれば耐えられる──そう思った矢先。
「淫魔よ、どこまで耐えられるか見せてもらおう」
審問官の瞳は執拗に奥へ釘付けられていた。屈服させたい欲望は隠されていない。
強すぎる鎮静波に聖具は軋み、宝玉は不規則に青白い光を脈打つ。
蜘蛛脚の金属部位が震え、軋む音が牢に響いた。
(そうか。こいつにも限界がある)
蜜が滴り落ちるたび、鎮静波はさらに強まる。だがそれでも奥を押さえ込むには足りない。
ぎしぎしと軋む音──器具はすでに限界以上の出力を強いられている。
(無理矢理、自壊させれば助かるかもしれない。煽って出力を上げさせればいい)
「村人たちとやった時の方が、んっ……よっぽど気持ち良かったぜ」
挑発の声は淫靡に響き、石牢の壁を震わせた。
審問官の顔が歪み、怒りを込めてさらに魔力を注ぐ。
「どうだ。抗おうとしても、肉は震えて応える」
痺れる快楽が俺の肉を揉みほぐし、震えを止めさせない。
襞はびくびくと痙攣し、珠は脈打ち、子宮口はひくんと開いては閉じる。
淫蜜は絶え間なく垂れ、床に甘露の筋を描いていた。
聖具はみしみしと軋みながらも、まだ壊れない。
「……全然、足りねぇ」
荒い息の合間に吐き捨てる声は、なお渇望を滲ませていた。
さらに刺激を重ねられる。敏感になりすぎた襞を撫でられ、珠を叩かれ、子宮口はひくつく。
痙攣は途切れず、蜜は滴り続ける。
「足りねぇって言ってるだろ……もっと寄越せ」
兵士たちは思わず息を呑んだ。
晒された肉の蠢きも淫靡だったが、それ以上に目を奪ったのは汗に濡れた俺の姿だった。
銀髪は乱れ、滴る汗が頬を伝い、痙攣に合わせて長身の体は艶めかしくくねる。
審問官は冷酷に告げる。
「まさか強い波を出させれば壊れるとでも思っているのか。滑稽だ。
それにもうすぐ援軍が来る。お前はここで封じられるのだ」
(しまった……俺が気絶している間に増援を呼ばれていたか)
意識を集中させる。外から迫る気配──重い靴音、鎧の擦れる音。確かに近づいている。
(処刑や封印で済めばまだましだ。だが、それじゃ済まない。捕まれば一生慰み者にされる)
幽閉され、穴を使い潰されるなど想像しただけで、死よりも恐ろしい。
だが屈辱的な末路を想像しただけで、肉体は快楽に震え、腹の奥では疼きがさらに高まっていく。
(早く、完全に包囲される前にここから逃げねえと。劇的な昂ぶりが必要だ、聖具を壊すには。もしくは物理的にやるしかねぇが)
転移魔法を試す、無理やり攻撃魔法で破壊する……いや、今は魔法を使おうとしても聖具に押さえつけられ、魔法は失敗し、余韻の疼きだけが残る。
発動できたとしても制御が利かず、こいつらを廃人にさせてしまう危険がある。
そう思った瞬間、胸の奥で閃きが走った。
思いついた策は、あまりに愚かで、あまりに淫魔的だった。
わざと魔法を使い、快楽を高める。
聖具はそれを抑え込もうとさらに出力を上げる。
その循環を繰り返せば、やがて器具は自壊する。
──だが、それは自ら快楽を求める行為。
淫魔としての本能に身を委ねること。
そして器具が壊れるまで、無限に高められる循環に耐え続けなければならない。
発狂するかもしれない。誇りを汚すかもしれない。
胸の奥で何かが軋んだ。選びたくはなかった。
だが、選ばなければ誇りごと閉じ込められる。
「……クソが……!」
奥歯を噛み砕かんばかりに力を込め、俺は覚悟を決めた。
脱出の魔法ではない。防御の魔法でもない。
最初から──快楽を増幅させるための魔法。
魔力が編み上げられた瞬間、全身を奔流が駆け抜ける。
ただでさえ快楽に弱い肉体が、感度は跳ね上がり、肉体は敏感に尖り、性欲は煽られ、わずかな律動すら絶頂へと変わる。
呼吸ひとつで痙攣し、視線ひとつで奥が果てる。
認めたくはないが、それこそが俺に最も適性のある魔法だった。
疼きは跳ね上がり、鎮静の波とぶつかり合って互いを増幅させる。
冷たい律動と熱い奔流がせめぎ合い、下腹を白く塗り潰す。
絶頂は連続し、果てても果てても終わらない。
「……っ、ああああああああああっ!」
悲痛な叫びが、艶めいた響きを帯びて牢に反響する。
聖具はなお軋み続け、奔流は止まらない。
誇りを守ろうとする心と、淫魔の肉体が生む昂ぶりの矛盾が、器具そのものを軋ませていた。
審問官の冷笑が牢に響く。
「とうとう堕ちたか……。挑発して鎮静波を高めさせたのも、冷たい波を味わうためだろう。
お前は本当に──淫魔の中の淫魔だ」
兵士たちの嗤いが重なり、視線が晒された割れ目に突き刺さる。
だが俺人は心の奥で叫んでいた。これは誇りを守るため、聖具を壊すためにやっているのだ。
審問官はさらに低く囁いた。
「そんなに欲しいなら、くれてやろう」
青白い魔力が絡みつき、珠のような子宮口がひくんと開いたまま固定される。
本来なら閉じて守るはずの奥が、強制的に晒され、逃げ場を失っていた。
感覚投影の魔力が内部へと差し込まれる。
紅の空洞は濡れ輝き、壁は甘く痙攣しながら脈打つ。
光の爪が突き立ち、環を無理やり引き延ばす。
秘められていた領域が神聖の光に照らされ、妖艶な輝きを放っていた。
──不意に子宮口へ触れられた瞬間、奥が大きく痙攣した。
甘い震えが全身を駆け抜け、抑えきれぬ声が喉から迸る。
「あっ、ああああっ!」
「ほう……ここが最も脆いか。興味深い」
「やめろ、そこだけは……!」
必死の抗いは逆に弱みを晒す。
珠はびくびくと蠢き、蜜は奔流のように溢れ、紅の回廊を濡らしていく。
執拗な刺激が繰り返され、奥深くまで痙攣が連鎖する。
絶頂は幾重にも重なり、意識は白く塗り潰される。
追っ手が迫る恐怖と、正気を失う危機が胸を締め付ける。
だが耐えなければならない。誇りを守るために。
──限界は近い。
鎮静波は出力を高め続け、魔力の奔流とぶつかり合い、互いを増幅させる。
冷たい律動と熱い奔流がせめぎ合い、下腹を白く塗り潰す。
肉体は無限の絶頂を許容し続ける。
しかし、作られた器具はその無限に耐えられない。
──みしり。
宝玉にひびが走り、蜘蛛脚が悲鳴を上げるように震えた。
青白い光が乱れ、審問官の顔色が変わる。
次の瞬間、拘束具は爆ぜるように砕け散った。
青白い閃光が牢を満たし、鎖が弾け飛ぶ。
解き放たれた魔力が奔流となって押し寄せ、兵士たちは恐怖に後ずさった。
「逃がすな!」
叫びが響く。
「怯むな、淫魔を捕らえろ!」
「嫌だ、反撃される──殺される、助けてくれ!」
混乱の声が飛び交う。
解放されてもなお、淫靡な余韻は体を支配していた。
長い間絶頂に苛まれ続けた肉体は疲労していたが、俺は踏みとどまる。
魔力を操り、裸身を覆うように黒衣を編み上げた。
床に落ちていた瑠璃のペンダントが目に入る。
俺はそれを拾い上げ、胸に抱きしめる。
何があろうとも、この温もりだけは手放さない。
張り巡らせていた魔力の糸が起動する。
兵士たちは後退し、審問官は剣を抜いて前へ立った。
「誰も殺させん……!」
倒れた部下を庇うその姿は、人間のものだった。
……俺の親も、こんなふうに俺を庇って死んだのだ。
──俺と同じ思いをさせてやればいい。絶望を味合わせろ。
悪魔の囁きが耳を満たす。だが俺は胸のペンダントを握りしめ、吐き捨てるように呟いた。
「俺は、あの時のお前らとは違う。誰も殺さない」
魔力の奔流を編み直す。
剣を構えた審問官も光に呑まれ、倒れた。
牢を満たす白い炎が、血も淫らな痕跡も、記録官の筆が刻んだ文字すらも消し去った。
残されたのは、ただ「異端が逃げた」という曖昧な記憶だけ。
「俺は淫魔じゃない──人間だ」
その言葉を牢に残し、黒衣を翻す。
次の瞬間、魔力が編み上げられ、足元に淡い光の紋が広がった。
──転移。
牢の空気が揺らぎ、影は闇に溶けるように消える。
俺の姿は、街の外れの森の縁へと移っていた。
夜の闇は深く、灯り一つない世界。
風が枝を揺らし、葉擦れの音が静けさを満たす。
誰も居ない、安全な場所だと理解した瞬間、俺は座り込む。
誇りを守るために余裕を装い続けてきたが、腹の奥ではなお痙攣の残滓がひくひくと疼き、肉体は勝手に余韻を刻み続けていた。
解放されたはずなのに、絶頂の影はまだ体内に巣食い、波のように小さな震えを繰り返す。
ようやく人目から解き放たれ、俺はその震えを隠す必要もなく、ただ静かに息を整えた。
胸奥の疼きはまだ消えない。
だが瞳は澄み、誇りだけが揺るぎなく燃えていた。
両親の仇を討つことよりも、俺は自分の誇りを選んだ。
それが、禁忌の子としての唯一の答えだった。