淫魔の王 作:Licht
──世界は、眩いほどの光に満ちていた。
遥か高みから降り注ぐその輝きは、一切の穢れを許さず、ただ慈愛をもって万物を包み込む。
それは、この世の理そのもの。救いと正しさを体現する、絶対的な秩序の象徴。
見覚えのない、けれど魂の芯が震えるほどに懐かしい、黄金時代の断片。
……だが。
──その記憶は、突如として泥濘の下に沈む。
動けない。重く、粘りついた泥のような何かが、四肢の端々から毛穴の奥深くまでを執拗に侵食している。
混濁する意識。不本意な甘い喘ぎが喉の奥から漏れる。
月光を乱反射する銀糸の髪や、白い肌は、いまや全身を絡め取る漆黒の触手と粘液によって、無惨な生贄の祭壇へと縫い止められていた。
──クソが。またか。
夜になれば、内側に潜む忌まわしき本能が、俺自身を餌として淫らな悪夢を見せる。
目覚めるたびに残る、下腹部の重だるさと、シーツを汚す熱い蜜の感触。
それが俺の日常を侵食し始めて久しい。
だが、今回は何かが決定的に違っていた。
剥き出しの肌に触れる祭壇の凍える冷気。
全身を這い回る触手が、ずちゃり、じゅぷりと卑猥な音を立て、体温より生ぬるい不快な感触で肌を舐る。
鼻腔の奥にこびりつく、獣じみた濃密な情欲の匂い。
脳が作り出した幻覚にしては、そのディティールは残酷なまでに鮮明すぎた。
「見事だったぞ。よくもそんな堕ちきった肉体で、余に一矢報いることができたものだ」
深淵から響く、鼓膜をねっとりと撫で回すようなくぐもった声。
直後、形なき闇から伸びた太い影が、全身に点在するあらゆる孔を同時に、容赦なく深く穿った。
「ひ……ぁ、ああああああッ!?」
その一突きは暴力的なまでの質量を伴い、未だかつてない深度まで内臓を押し上げた。
肉壁は主の侵入に狂喜するように痙攣し、ひくひくと楔に吸い付く。
秘部からは濁った蜜が止めどなく溢れ出し、冷たい床に卑猥な水溜りを広げていく。
反射的に転移魔法を編み上げようとした。だが、その瞬間。
子宮口をひときわ太い闇の楔で内壁を削り取るように穿たれ、手のひらから溢れかかっていた光の粒子は、無惨にも霧散した。
「逃がさんぞ」
膣奥の最も敏感な一点を執拗にかき回しながら、主の嘲笑が耳元でねっとりと響いた。
「何度もその穴に悦びを教え込んでやったと思ったのだがな。
余に慈悲を求め、雌犬のように快楽を貪り、腰を振って媚びていたくせに……。
まさか、完全に堕ちたわけではなく、反撃を狙っていたとは」
闇の主の影が、耳元で熱く湿った吐息と共に囁く。
「仕上げに余が生身で犯してやった際、余が射精してその肉路に精液をぶちまけた──。
あの、余が最も貴様に身を委ねた最大の隙を狙って、注がれた余の魔力を聖なる光へと変換し、カウンターを放つとはな。
……認めよう、この一撃に関しては余の負けだ。
だが、ただでは眠らん。その肉の隅々まで、余が味合わせてもらおう」
それは凄絶なまでの報復行為。
もはや愛撫の欠片もない暴力的なまでの凌辱だった。
祭壇を埋め尽くす漆黒の泥濘が、意志を持つ生き物のように波打ち、幾千もの飢えた触手へと分裂。
四肢を力任せに縛り上げ、この肉体を、快楽を受け入れるためだけの器として完全に固定した。
「ひ……あ、……ぁああああああああああああああッ!!?」
凄まじい絶叫が、神聖なる祭壇の静寂を粉々に砕く。
物理的な肉体の限界を遥かに超越した、全方位同時多発蹂躙が始まった。
口腔には、最期の祈りを紡ぐ隙間さえ与えぬほど太く脈動する楔が、喉の最奥にある嚥下反射さえ無視して一気に突き立てられた。
鼻腔を突く獣じみた闇の芳香が肺胞の一つ一つを汚染し、呼吸をするたびに情欲の香りが全身を内側から灼き焦がしていく。
同時に、全身の柔らかな肌を影の吸盤が無数に捉え、じゅうじゅうと音を立てて吸い上げ始めた。
それは毛穴の一つ一つから魂を吸い出されるような、狂おしいまでの掻痒感。
脊髄を焼き焦がすような電撃的な痛悦が走り抜け、脳髄は白濁した快楽の檻に閉じ込められる。
だが、主の嗜虐は止まらない。
「ハハ、傑作だな。魂で余を討とうとしながら、その肉壁は余の種を待ちわびて、一突きごとに悦びにのたうち回っておる」
自由を奪われた肢体に、容赦のない衝撃が叩きつけられた。
ぱん、ぱん、と肉の弾ける音が冷たい石の祭壇に響き渡る。
肌を真っ赤に腫らすスパンキングが、苦痛を即座に熱へと変換し、肉体の奥底に眠る淫らな本能を力ずくで叩き起こしていく。
下半身の聖域は、もはや一寸の物理的余地もないほどに蹂躙し尽くされていた。
主の楔によって、入口から奥まで限界を超えて押し広げられた肉路。
そこを猛り狂う無数の肉筒が内壁を削り取り、襞を磨り潰す勢いで激しく往復する。
そのすぐ背後。
生物としての拒絶反応が最も強い後孔には、数珠状に連なった禍々しい黒い塊が、括約筋を強引に抉じ開けて直腸の深淵まで侵入していた。
さらには、本来ならば針の先ほどの隙間さえ持たぬはずの尿道へ。
産毛のような棘を備えた極細の触手が、一分の慈悲もなく割り込んだ。
「んぐっ!? んんんんんんんんッ!!?」
前後、上下、表裏。
すべての粘膜から、全く異なる質感の、それでいて耐え難いほどに純化された絶頂情報が脳へと一気になだれ込む。
喉の奥を蹂躙する肉塊が、舌を絡め取り、溢れ出す唾液を強引に飲み込ませる。
同時に、股間の秘部は、形なき闇の舌によって執拗に、かつ繊細に舐り上げられていた。
荒々しいピストンと、神経の端々を逆撫でするような愛撫。
そして、強制的なフェラとクンニの多重奏。
「あ、……ぁあああああああああああああああッ!!?」
膣壁を灼熱の鏝で焼き、削るような生々しい熱量。
アヌスの粘膜を裂かんばかりに拡張し、内臓を押し上げる重く鈍い圧迫。
尿道の粘膜をなぶり、鋭い棘で内側から掻き毟るような激痛。
それらすべてが、この肉体に備わった適応という名の防衛本能を完全に暴走させた。
一突き、一震えごとに、全身の毛穴からは青白い火花のような魔力が激しく放電される。
透き通るような白磁の肌は、内側から沸騰するような深紅の赤みを帯びていく。
四方向、五方向から一分の隙もなく、かつ別々の凶悪な周期で打ち据えられるたび、思考は高電圧の負荷に焼き切られ、快楽は白熱した熱波となって脊髄から脳幹を蹂躙した。
主は、その悶絶の果てに痙攣する肢体を愉悦に満ちた目で見下ろし、逃げ場なき絶頂の牢獄の中で、さらに深く、すべての楔を最奥へと叩き込んだ。
やがて、主の輪郭が陽炎のように薄れ、霧散し始める。
肉体を徹底的に蹂躙し、内側まで踏み荒らしていた無数の触手たちの強靭な力が、わずかに弱まったように感じられた。
肉の壁を圧し広げていた硬質な質量が、ずるりと力を失い、粘膜の熱に溶けゆく。
――今だ。こいつの力が弱まっている。
これで、この永遠に等しい悪夢から逃げ出せる。
視界は白濁し、思考は快楽の過負荷で焼き切れる寸前。
それでもなお、残された僅かな意志の火種を燃やし、肉体に刻まれた淫らな回路を逆回しにする。
絶頂を、力の奔流へと。
屈辱を、反撃の糧へと。
死に物狂いで転移のための魔力をふりしぼろうとしたその瞬間。
闇の主の、この世のすべての理を嘲笑い、終焉へと導くような凄絶な哄笑が祭壇に響き渡った。
「……ハハハ、ようやく逃げられると思ったか? 否、これこそが余の、真の狙いだ」
瞬間、物理的な空間そのものが歪み、軋んだ。
消えかかっていた闇が、突如として超高密度に圧縮され、すべての逃げ道を塞ぐ終わりの壁へと反転する。
脳裏をよぎる、最悪の推測。
単なる肉体的な蹂躙など、この絶望の前戯に過ぎなかったのだ。
「魔力を完全に封じられ、余に飼い殺されていたはずの貴様が、魔法を使えた理由……。
永久に等しい交合の末、貴様の肉体は、与えられる快楽を魔力へと変換する術を無意識に細胞一つ一つに刻んでいた。
ならば、それに相応しい『祝福』を与えてやろう。無限の淫獄の中で、喘ぎ続けるがいい」
それはもはや、単なる触手による暴虐ではなかった。
影の主は自らの全存在、その魂の欠片にいたるまでを、熱く、粘りつく汚泥のような、超高密度の情報の塊へと変貌させた。
それは、古今東西、万の時代において女という性が味わわされたあらゆる屈辱と、脳を溶かす悦び、そして生殖にまつわる全事象を凝縮した『万の呪詛』。
「は、あ、あああああああああああッ!!?」
絶叫は、一瞬で熱い情報の濁流に飲み込まれた。
口腔、乳腺、肉路の最奥、後孔、そして本来は閉ざされているはずの尿道。
全身を貫き、楔となっていたすべての闇が、液体状の情報の濁流へと姿を変え、内奥へ向けて一気に逆流を開始した。
内臓の隙間を埋め尽くし、脳の皺一つ一つにこびりつき、魂の襞に至るまでを灼き尽くす。
全世界の淫靡な記憶──幾千もの男たちに犯される幻視、受精の衝撃、拡張される肉の痛みと歓喜。
それらすべてが、逃げ場のない密度で魂へ直接充填されていく。
魂は死に物狂いで足掻いた。
その汚濁から邪悪な毒を濾過し、脱出のための純粋な光へと変えようと、最後の神聖さを振り絞る。
だが、それこそが主の狙いだった。
抗い、光を成そうとすればするほど、不純物である悪意は取り除かれ、純化された究極の感度情報だけが魂の最奥へと抽出される。
二度と剥がせぬ淫らな焼き印となって、魂そのものに癒着し、一体化していく。
邪悪な意志を拒絶するたびに、魂は皮肉にも純粋な快楽だけを自らの核へと吸収し、DNAの螺旋一本一本を、主を恋い慕う淫らな色に染め上げていった。
「あ、……ぁあああああああああああああああッ!!?」
臨界。
全身のあらゆる孔を、物理的・霊的に同時侵食され、万の概念を焼き付けられた肉体は、もはやその境界を維持できず、白銀の光となって眩く放電した。
尿道の奥から、拡張されきった肉路から、そして楔を飲み込まされた口腔から。
溢れ出した魔力の粒子が、主の闇と縺れ合い、白濁した濃厚な濁流となって噴き出し、冷たい祭壇を激しく濡らし、穢していく。
それは、生き延びるために精製したはずの光が、全宇宙の情欲エネルギーと混ざり合い、真っ白な絶頂の奔流へと反転した瞬間であった。
「さらばだ。……次に相まみえる時、貴様はその渇ききった胎で、余の再来を泣いて喜ぶことになる……!!」
爆発的な白光が祭壇のすべてを塗り潰した。
純白の光の中に、幾筋もの黒い闇が混ざり合い、魂の深淵へと溶け込んでいく。
聖なる輝きと、淫らな呪縛。
相反する二つの螺旋が、一つの魂に癒着し、縺れ合い、爆発的な輝きとなって次元を跳ねた。
救いたい、守りたい。
溺れたい、汚されたい。
あまりに純粋で、あまりに汚濁した、たった一つの壊れた願い。
不屈の拒絶と、魂に癒着した永遠の渇きを抱いたまま、意識は果てしない暗転の先へと加速していく。
あふれ出す絶頂に身を焼きながらも、心の最奥に灯る守るべき世界への執着。
その記憶は、新たな生命を規定する設計図となり、無意識の底で、一つの揺るぎない確信を編み上げる。
──次は、……絶対に……。
「……ッ!!」
肺が破れんばかりの勢いで息を吸い込み、跳ね起きた。
全身が異常な熱を帯び、汗でびっしょりと濡れた黒衣が肌に張り付いている。
視界に映るのは、あの忌まわしい祭壇でも奴の影でもない。
湿った土と、朝露に濡れた森の天井。
木々の隙間から、朝日が差し込み始めたばかりの静かな夜明けだった。
──息が、できない。
肺の奥まで重粘な闇に侵食されたような、不快な圧迫感が消えない。
脳髄には、あらゆる孔を蹂躙した逃げ場のない衝撃。
そして魂の輪郭を書き換えられるような、絶望的な絶頂の記憶が焼き付いている。
「夢、か……」
震える手で顔を覆う。
だが、夢の内容を思い出そうとしても、それは霧のように指の間をすり抜けていく。
残っているのは、ただ、凄絶なまでの暴力的な快楽の余韻。
自分が自分でなくなるほどの凌辱を受け、全身の奥深くまで「何か」を注ぎ込まれ、書き換えられたという悍ましい感覚だけが、肌にこびりついている。
全部、夢だ。……いや、そうであってくれと、祈るしかなかった。
だが、現実は残酷だ。
下腹部の奥底、熱を帯びた「ナカ」が、夢の続きを証明するようにねっとりと拍動している。
「……っ……、はあっ、くそ……っ」
喉が、砂を噛んだように乾いている。
夢の中で上げたはずの、あの醜く、甘い喘鳴が、今も自分の声帯にへばりついているようで吐き気がした。
俺の身体に流れる淫魔の血は、魔力を行使する代償として、その余剰エネルギーをすべて情欲へと変換しやがる。
魔力を使えば使うほど、肉体は俺を嘲笑うように、不浄な熱を臨界点まで膨らませていくのだ。
「ふざけんな……俺は、女じゃねぇ……ッ」
俺は這うようにして巨木の根元に身を潜めた。
ズボンの下で、男としての証が硬く昂り、布地を押し上げている。
だが、これは健康な男の生理現象なんかじゃない。
魔法の使いすぎで焼き切れた神経が、逃げ場のない快楽を求めて暴走し始めている証拠だ。
一歩歩くたびに、自分の中にある女の部分が、衣服の擦れるわずかな振動にさえ過敏に反応して、熱い蜜を滴らせる。
昨夜、審問官の拷問に晒されたナカの粘膜は、まるで別の生き物のように内側で不気味にうごめいていた。
あの夢の記憶さえも、今も俺の肉を支配している。
衝撃を、あの暴力的なまでの充填を忘れられぬと言わんばかりに、淫らな襞の隙間がひくひくと収縮し、空白を埋める何かを求めて、びちゃびちゃと卑猥な音を立てて水門を開いているのだ。
放っておけば、この異常な感度は理性を焼き切り、俺を絶頂を待つだけの肉塊へと堕とすだろう。
俺は震える手で衣類を解き、自分の陰茎を握りしめた。
これは俺が俺であるための、最低で、唯一の抗いだ。
本来なら触れるだけで理性が消し飛ぶはずのナカには、決して指を触れない。
そこを認めてしまったら、俺は自分が雌であると屈服することになる。
それに──決してこの穴が求めている深淵へは、自分の指などでは永久に辿り着けないことを、魂が本能的に悟っていた。
皮肉なもんだ。
俺の指は、自分でも反吐が出るほど白く、細長い。
自身の尖端を扱き上げるたびに、連動して腹の奥がキュンと切なく収縮し、逃げ場のない快楽が火花となって脊髄を駆け上がっていく。
一度、吐き出す。
だが、一度火がついた肉体は、さらなる燃料を求めるように、より深く、より重い衝撃をせがんできた。
腹の奥では、空腹とも発情ともつかない得体の知れない飢えが、なおじくじくと蠢いている。
足りない。全然、足りない。
男の部位をいくら扱いたところで、飢えきったナカの疼きは一向に鎮まらない。
むしろ、不完全な刺激を与えるほどに、もっと奥を乱暴に貫かれ、魂ごと踏み荒らされたいという狂おしい渇望が、内壁をひくつかせ、俺の精神を蹂躙し続ける。
「……ッ、はぁ、……ッ!!」
二度、三度。
俺は奥歯を噛み締め、事務的に、乱暴に、己の質量を扱き上げ続けた。
ナカは絶頂の寸前で止まったまま、解放されない熱を抱えて激しく痙攣し、どろりと重い愛液を垂れ流し続ける。
意識が白く染まり、膝がガクガクと震える。俺の意志を嘲笑うように溢れ出した蜜は、太腿を伝って地面に水溜りを作っていく。
ようやく、腹の奥の脈動が、波が引くようにわずかだけ後退した。
射精後の満足感なんてものは、俺には訪れない。
絶頂の余韻はすぐに次の疼きへと変質し、体の奥底に重い澱のように沈殿する。
満たされないのは、腹の奥だ。胃でも、男の部分でもない、もっと深い場所が、空腹に似た虚しさでじくじくと鳴いていた。
俺は震える手で着衣を整えた。
内腿を伝い、地面まで汚した淫らな蜜を、光の浄化魔術で一滴残らず消滅させる。
魔力を練るたびに、炉が疼き、代償としての甘い痺れが脊髄を走る。
光で肌を洗浄し、立ち込める芳香さえも強引に焼き払う。
胸元の瑠璃のペンダントを握る。
冷たい石の感触が、狂いかけた神経を現実へと繋ぎ止めてくれた。
人でもなければ、淫魔でもない。
誰からも望まれず、この世に在ってはならないはずの命が、どうしてこうも図太く生き長らえ、何のために今も脈動しているのか。
自分の生きる価値が、誰かを助けることでしか証明できないとしても。
この歪な命が編み上げられた理由を知るまでは、倒れるわけにはいかない。
フードを深くかぶり、俺は重い足取りで森の外れへと向かった。