ナンパをからかっていた男の娘がチャラ男に騙されて酷い目に遭う話 作:ちょっとだけマイナー性癖マン
純愛を求める方は戻ってください。
一応初日の最後辺りまでは純愛としても楽しめるかもしれません。
夕暮れの喧騒が、心地よいBGMのように耳をくすぐる。
駅前の広場、待ち合わせのメッカになっている時計台の下が僕の定位置だ。
誰かを待っているわけじゃない。
ただ、ふわりと広がるチェック柄のスカートの裾を揺らし、白いブラウスの胸元で揺れるリボンを指でいじりながら、道行く人々を眺めているだけ。
今日の僕も完璧な女の子だね。
(さーて、今日はどんな人が来るかな?)
そんな期待に胸を躍らせていると、不意に視界に飛び込んできた人影に心臓が小さく跳ねる。
金色の短髪。
耳にはシルバーのピアスが光り、ノースリーブのシャツから伸びた筋肉質な腕にはじゃらじゃらといくつものアクセサリーが巻かれている。
いかにも、という感じの人。
その人が真っ直ぐ僕に向かって歩いてくる。
僕の目の前で立ち止まると、彼は少し屈んでぐっと顔を近づけてきた。
「ねえ、一人?」
甘さの中に威圧感を隠しきれない、少しだけ掠れた軽薄そうな声。
近すぎる距離に、思わず一歩後ずさりそうになるのを堪える。
「は、はい……そうですけど」
練習通り、少しだけ困ったように眉を下げて、上目遣いで彼を見上げる。
こういうのが一番効くって、僕は知っているんだ。
「こんな可愛い子が一人なんて危ないって。俺とお茶でもしない?」
「えっと、でも、この後用事が……」
「少しだけ、ね? すぐそこのカフェ、すっごく美味しいからさ」
ぐい、と腕を掴まれた。
見た目通りの強い力に、内心で少し焦る。
このままじゃ面倒なことになるかもしれない。
そろそろいつもの爆弾を投下する時間だ。
「あの、お兄さん」
「ん?」
掴まれた腕を見つめ、それから彼の顔を見上げて、僕は最高の笑顔で告げた。
「僕、男なんですけど……それでも、いいですか?」
さあ、どんな顔をするだろう。
驚いて、唖然として、気まずそうに去っていく。
それがいつものパターン。僕の一番の楽しみ。
でも、今日のお兄さんは違った。
一瞬、その大きな目が見開かれ、僕の腕を掴んでいた指の力がふっと緩んだ。
でも、彼は去らなかった。
それどころか、まるで値踏みするように僕の顔を穴が開くほどじっと見つめてくる。
その真剣な眼差しに僕の方がたじろいでしまう。
何かを必死に考えているような、その沈黙が気まずい。
僕が視線を逸らした、その時だった。
「……まじか」
ぽつりと呟かれた言葉。
そして数秒の後。
「……いいよ、別に」
「え?」
「男でも、こんなに可愛いんだから。関係ないでしょ」
そう言って、彼はさっきよりも優しい手つきで、僕の手を握り直した。
予想外すぎる反応に、僕の思考は完全にフリーズする。
「さ、行こっか」
何が何だかわからないまま、僕は彼に手を引かれて歩き出した。
ネオンが明滅するホテル街へと向かう彼の背中を、僕はただ呆然と見つめることしかできなかった。