ナンパをからかっていた男の娘がチャラ男に騙されて酷い目に遭う話 作:ちょっとだけマイナー性癖マン
駅前の待ち合わせ場所には、翔平さんが少し先に来て待っていた。
人混みの中でも一際目を引く、明るい金色の髪。
僕と目が合うと、彼はぱっと顔を輝かせ大きな手を振った。
「凛ちゃん、こっち!」
「翔平さん!」
駆け寄る僕を、彼は「今日の服も、すげー可愛いじゃん」と満面の笑みで迎えてくれる。
その言葉だけで天にも昇る気持ちだった。
自然に手を繋がれ彼の隣を歩く。それだけのことで、世界が輝いて見えた。
彼にエスコートされるままに辿り着いたのは、閑静な住宅街にそびえ立つ綺麗なマンションだった。
オートロックのエントランスを抜け、エレベーターで上層階へ。二人きりの密閉された空間に、僕の心臓は期待で大きく跳ねていた。
「ここが俺の家。散らかってるけど、まあ、気にしないで」
そう言って彼がドアを開けた先には、彼の言葉とは裏腹に綺麗に片付いた洒落た空間が広がっていた。
大きな窓から西日が差し込み、部屋全体を暖かな色に染めている。
「わぁ……素敵なお部屋ですね」
「だろ?まあ、座ってよ」
促されるまま、リビングの中央に置かれた大きなソファに腰を下ろす。
ふかふかのクッションに身体を預けると、緊張が少しだけほぐれた。
彼はキッチンへ向かうと、すぐに冷たい飲み物を持って戻ってくる。
「何見る?アクション系と、恋愛モノがあるけど」
「えっと……翔平さんのおすすめで」
「んー、じゃあ、これにしよっか」
翔平さんが選んだのは、話題の恋愛映画だった。
部屋の照明が落とされ、大型のテレビ画面にオープニング映像が流れ始める。
ごく自然な流れで彼が隣に座り、僕の肩をそっと抱き寄せる。
彼の体温が伝わってきて、身体が小さく震える。
(これから、二人きりで……)
期待が最高潮に達した、その時だった。
ぴんぽーん、と間延びしたインターホンの音が、甘い雰囲気を無遠慮に打ち破った。
「ん?あー、ごめん。そういや、タカシが忘れ物取りに来るんだった」
彼は悪びれもなくそう言うと、立ち上がって玄関へと向かっていく。
やがて、ドアが開く音と共に、低い男の声が聞こえてきた。
胸に、ちくりと小さな棘が刺さる。
(誰だろう……)
不安に思っていると、翔平さんがひょっこりとリビングに顔を出した。
「凛ちゃん、ごめん。友達なんだ。すぐ帰るから」
その言葉に少しだけ安堵したが、次の瞬間、その安心は打ち砕かれる。
彼の後ろから現れた人物を見て、僕は息を飲んだ。
黒髪を短く刈り込んだ、大柄な男。
翔平さんよりもさらに背が高く、がっしりとした体格は、それだけで威圧感を放っている。
表情の変化に乏しいその顔で、彼は、蛇のようにねっとりとした視線を、真っ直ぐに僕へと向けた。
それはまるで、値踏みをするような、無遠慮な視線だった。
見られているだけで、肌が粟立つような生理的な恐怖を感じる。
「タカシ、こっち。俺の彼女の凛ちゃん。で、こいつは隆、俺のダチな」
翔平さんが、こともなげに紹介してくれる。
その「彼女」という甘い響きに、僕の警戒心はいともたやすく溶かされてしまった。
(そっか、彼女って紹介してくれるんだ……)
嬉しさが恐怖を上回り、僕はぎこちなく頭を下げる。
「は、はじめまして……凛です」
隆さんは何も言わず、ただこくりと頷くだけだった。
その無言の態度が、不安をさらに掻き立てる。
「で?忘れ物って何?」
「……ああ、これ」
隆さんはぶっきらぼうに答えると、部屋の隅に置いてあったスポーツバッグを指差した。
(早く、帰ってくれればいいのに)
そう願った、その時だった。
「なあ、タカシ。せっかくだから、お前も映画見てけよ。一人より、大勢の方が楽しいだろ?」
「……は?」
翔平さんの言葉に、僕だけでなく、隆さんも少し驚いたような顔をした。
しかし、翔平さんはそんな僕達の様子を気にも留めず、隆さんの腕を掴んでソファへと引き寄せる。
「いいからいいから!ほら、凛ちゃんの隣、空いてるぜ?」
「……」
隆さんは一瞬だけ躊躇う素振りを見せたが、やがて何も言わずに僕の隣にどかりと腰を下ろした。
僕を真ん中に挟む形で、三人がソファに並ぶ。
すぐ隣に感じる隆さんの体温と、その巨体から発せられる無言の圧力に、僕は身体を強張らせた。
違和感と恐怖が胸の中で渦巻く。
しかし、翔平さんへの信頼と自分の恋愛経験の乏しさが、この一見おかしな状態に確たる異常を見出させなかった。
(翔平さんが言うなら……これも、普通のことなのかな……?)
そう自分に言い聞かせているうちに、映画は本編へと入っていく。
物語に集中しようとすればするほど、隣に座る隆さんの存在が、重く僕の心にのしかかってきた。
主人公は学校ではメカクレ陰キャなので、恋愛経験値0です。
多分ギャルが怖いです。