※この作品はR-18です。

Ticket to Mystery   作:Abeeeta

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タイトルの通り買い物(デート)回です。
買い物デートじゃねぇだろって意見はミララくんにぶっ飛ばしてもらいます。


過酷なお買い物

「──ソーイチ、ソーイチ、朝ですよ。起きてください」

 

「うーん……あと5分……ふわぁ……むにゃむにゃ……」

 

「もう……。あと5分って、5分待つのももう6回目ですよ?」

 

颯一は寝坊していた。昨晩のミララの寝相と寝言に振り回され続け、時計の長針が二、三回転したあたりでやっと興奮を睡魔が上回って夢の中へと引きずり込まれ、未だその只中から抜け出せずにいるのだ。

 

「むぅ……お休みだからゆっくりしたい気持ちも分かりますけど、昨日約束したじゃないですか!今日はボクとお出かけするって!」

 

「……うちょっと……まっへ……くぁ……」

 

「……仕方ないですね。こうなったら最終手段を使うしかありません……。……すぅーっ……!」

 

ミララが何やら呟いて息をめいっぱいに吸い込んだのが颯一の耳にぼんやりと聞こえてくるが、何を言ったかまでは判断できない。眩しいな……とカーテンの隙間から差し込む日光を嫌って布団を被る。

が、顔に掛け布団の滑らかな生地の感触は感じられない。真冬に着る防寒着の内側に近い肌触りだ。でもこんなに毛が長かったっけ?それに触り心地もつやつやふわふわで……。颯一が回らない頭でこんなものは僕の部屋に無かった、という事実にようやく辿り着いて訝しみ出した時にはもう遅かった。

 

「ソーイチ、覚悟っ!」

 

「むぐっ!?」

 

ミララの声と同時に、それが頭にぼふっ、と音を立てて落ちてきた。

 

(軽いけど、鼻と口が毛皮みたいなのに覆われてちょっとだけ暑しい……鼻に入ってきたらくしゃみが出そうだし、どかさなきゃ……)

 

雑に右手で払い除けようとするが、固定されているのか動かない。じゃあ押し上げてみたらどうだ、と顔とそれとの隙間に両の掌を差し入れて上に押しあげようと試みる颯一。しかしそれは悪手だった。

ふにっ。左手に、昨晩刻みつけられた小振りな膨らみが二つ触れる。彼は頭が真っ白になり、遅れて薬缶のように湯気が顔から吹き出して来るのを感じた。眠気が吹き飛び冴え渡った目はミララのお腹を至近距離に映している。反射的にミララをグイッと押し上げた颯一の目には、更なる情報が飛び込んでくる。

 

「あっ、やっと目が覚めましたか!ふふふ、ボクの重さでびっくりしました?それとも毛皮で鼻がむずむずしましたか?」

 

イタズラを成功させた子供の様な表情で颯一を見て笑うミララ。の、下半身。颯一の右手が支えている部分だが、小指の辺りでとんでもない事件が起こっているのに気づいた。ミララの股を走るワレメに、小指が触れていたのだ。

 

「の゛わあああああああああああああああああ゛っ!!!?」

 

「ぴゃぁぁっ!?……はぁっ……び、びっくりした……意識がハッキリしてきて、時間差で奇襲にびっくりしちゃったんですかね……」

 

気合いで鼻血を堪える颯一。気合いというか、鼻血に対する耐性が上がって出なかっただけかもしれないが、それでも全霊で持って耐えてみせた。知らずのうちに止めていた息を、個人メドレーを泳ぎ切って水面に上がってきたスイマーの様に吸い込むと、酸素が身体に染み渡っていくのが感じられる気がした。

 

「ふぅーッ……!ふぅーッ……!あっぶなかった……!」

 

颯一は身体の真ん中をどくんどくんと揺らす心臓を取り抑える様に胸に置き、呼吸と共に掠れた声を漏らす。やっと引いてきた熱──物理的なものとは違うが颯一には何と説明すれば良いか今ひとつわからない──に安堵の感情を込めて、心臓の近くに当てていた手を撫で下ろせば、彼はそれでやっと完全に落ち着いた気がした。

そして相棒には聞こえぬ様に、それでも誰かに聞こえる様に呟く。きっと宛先は自分自身なのだろうが、他者に教えを説く口調に自然と変わってしまう様子だった。

 

「いいか盾札颯一……君はこのままだとミララのおっぱいとお股にドキドキさせられ続ける事になる……。相棒がこのざまだって知ったらきっとミララだってがっかりする……どころか僕は多分嫌われる……!」

 

颯一の自分への説教は続く。

 

「だからまずはどうにかしてミララのおっぱいとお股を隠すんだ……!……これをしない事には僕は冷静にミララと関われないハズだ。策を巡らせろ、君なら出来る……!」

 

己への言葉を激励で締めて、颯一はミララに向き直る。

 

「あ、ソーイチ。ひとりでなにか喋ってましたけど、何をしてたんですか?」

 

「あー、ミララ、うん……今日はどうしようかって、その、予定?計画?を纏めてたんだよ、はは。ああやってると集中できる気がしてさ……」

 

「なるほど!そういう事でしたか。中々起きてくれなかったからちょっと不安でしたけど、ソーイチも僕とのお出かけを楽しみにしてくれてるみたいで嬉しいです!」

 

ミララには独り言が届いていなかった様だ、と安堵する颯一。策を実行するために、しゃがみこんで目を合わせた相棒にある案を提示するのだった。

 

「ねぇ、ミララ。せっかく外に遊びに行くんだし、お洒落してみない?」

 

「お洒落……ですか?」

 

「うん、ミララに似合いそうな服とかアクセサリーがあってさ。よかったら着てみない?」

 

「……そういえば、ボクって今まで服を着たりしてこなかったので、興味はあるかもしれません。試してみたいかも、です!」

 

内心必死で手を合わせていた颯一は思わず右の拳を握り込んだ。そして部屋を飛び出し、ミララに顔だけ向けて伝言する。

 

「朝ごはん食べたら服とか取ってくるから待ってて。それまで自由にしてていいよ!」

 

「わかりました!」

 

ミララの返事を背に、トットッ、と音を鳴らし階段を降りて静かなダイニングへと向かう颯一。寝坊していた間に両親は仕事に出かけたようで、食パンの袋とバナナ一本、ラップによって守られた目玉焼きとウインナー、サラダが机上に置いてある。席に着いて「頂きます」と手を合わせ、さあ食べようとフォークを手に取った時、バナナの下に何か置いてあるのに気付く。

 

「……封筒?なんでこんなところに」

 

開封し、指を突っ込んでみるとメモ用紙が出てきた。颯一は、母親の小さい字で何かしら書いてあるのを紙に目を近づけて読んでいく。

 

「『先月はお手伝いをすごくがんばってくれたので、今回は特別におこづかいを増量して入れておきます。後悔しない使い方をしてね』……ボーナスだって……!?」

 

ありがたや……と天を見上げて拝んだ颯一は、鼻歌混じりにウインナーをフォークで突いて口に運んだのだった。

 

 

 

 

 

「ミララ、お待たせ!」

 

「ソーイチ!服は持ってきてくれましたか?」

 

「うん、勿論!それに、嬉しいニュースもあるんだよ」

 

生まれて初めてのお洒落に興味津々なミララに、服を入れたビニール袋を見せる颯一。そしてズボンのポケットに入れた封筒を取り出してミララの目の前に置く。

 

「お小遣いをかなり多めに貰ったから、出かけた先でミララも買いたいものがあったら買っていいよ」

 

「えっ!いいんですか!?」

 

「うん、せっかく出かけるんだし、相棒のミララにも楽しんで欲しいなって」

 

「ありがとうございますっ!!あ〜、今から楽しみでソワソワしてきちゃいました……」

 

興奮して落ち着かず、その場でぴょんぴょん飛び跳ねたり足踏みしたりと忙しないミララに苦笑して、颯一はビニール袋の中身を取り出し、指差す。

 

「ははは……とりあえずコレ、着るんだよね。僕が着せるからちょっとだけじっとして貰えるかな?」

 

「はいっ!尻尾の毛の一本まで動かしませんっ!」

 

「いや……そこまでする必要ないからね?もっとリラックスしてていいよ?」

 

ミララの着付けが始まった。他人に服を着せるのは颯一にとって初めての経験だったが、ミララが協力してくれて──察したように手を上げたり、後ろに向きを変えたり、果ては二足立ちと四足歩行を切り替えたりもしてくれた──想像よりすんなりと全ての作業が済んだ。

 

「ミララ、終わったよ!鏡見てみる?」

 

「できましたか!見せてくださいっ!」

 

着付けの間もずっと目を瞑って完成を待ちわびていた相棒に颯一は声をかける。すると打てば響くというか、わくわく感が滲み出ている声で元気よく返事が返って来た。颯一は宙に投げ出された状態にあるミララの前足を支えると、姿見の前までゆっくり誘導した。

 

「はい、もう目を開けていいよ〜」

 

「……じゃあ開けますね……。……ふわぁっ……」

 

ミララは静かに歓声を上げた。そして、左右に少し角度を変えては鏡を確認して、また少し回って、という具合で、まるで様々な角度の出来栄えを噛み締めている様だった。

 

「どう?気に入ってくれたかな……?」

 

「はい!凄く素敵です……お洋服ってこんな感じなんですね……。……ただ、その……ちょっとひらひらしてて……ボクには可愛すぎるような気がするんですが……」

 

前足を胸の前でいじいじしながら頬に桜を散らし、尻尾を股に挟むミララは、胸元を蝶結びして留めるタイプのシンプルな白のブラウスと、ふわふわのフリルに彩られ丸みを帯びたシルエットの水色のスカートを纏い、髪の毛の様にツヤがある鬣を中央にハート型の飾りがあしらわれた大きなピンクのリボンの髪留めで纏めている。

 

「そうかな?ミララの良いところが際立ってて、よく似合ってると思うけど」

 

「ほんとですか……?……わかりました。ソーイチがそう言ってくれるなら着ていくことにします」

 

ミララはそう言って頷き、翼を羽ばたかせてふわりと浮かび上がると、颯一の頭に着地した。体の向きを颯一に合わせたミララは、颯一を見下ろして声をかける。

 

「さっ、早く行きましょうソーイチ。……ん?どうかしましたか?ボクが頭の上だと重かったですか?ならカバンの中に移動しますね」

 

「あっ、ああ、うん。ありがとうミララ。……そうだ、買わなきゃいけないものがあるから、僕らが遊んだり買い物したりする前に買いに行ってもいいかな?」

 

「勿論です!何を買いに行くんですか?」

 

「今日遊びに行く予定のショッピングモールで買えるから、着いたら一日の予定と一緒に説明するよ」

 

「わかりました。あ〜、ソーイチとのお買いもの、楽しみです!向こうの世界では買いものなんてしませんでしたし、色々見て回りたいなぁ……」

 

「じゃあ僕がトイレとか済ませたら出発しよっか。ミララはその間に忘れ物が無いかチェックをお願い」

 

「はーい!どれどれ……先ずはデッキが……ソーイチ!?一番肝心のデッキを忘れてますよ!?」

 

「うわ、やっば!ごめん、机の上に置いてあるから入れといて!!」

 

ドアの向こうで颯一のリュックの中に潜り込んで中身を検めていたミララの自分を呼ぶ声に、颯一は思わず部屋に駆け込んで返事をするのだった。

 

 

 

 

 

颯一の家から歩いて5分程度の所にあるショッピングモール。入って少しばかり歩いたところ、ファッションコーナーの中で颯一はミララと会話していた。

 

「じゃあミララ、とりあえずここで今日の予定を説明するね。まずはここで──」

 

「あの、ソーイチ。その前にちょっと聞いてもいいですか?どうしても気になっちゃって……」

 

「えっと……何か困ったことでもあった?」

 

「いや、そうじゃないんです。その……」

 

ミララはリュックからぴょこんと顔を出した状態で、颯一の全身を確認する。そして困惑しきった様な表情で、ぽそぽそと囁き相棒に質問を投げかける。

 

「ソーイチって男の子ですよね……。その……何で女の子の格好を……」

 

ミララの言う通り、颯一は長い紺のスカートとピンクのTシャツという出で立ちだった。センスが微妙なこととあまり似合っていないことに目を瞑れば、透明感のある男子にしては長めの白髪──普段は後ろで雑に結んでいるが今日は下ろしている──のお陰で女子にも見えはする。

 

「ああ、これ?これは今から買うものと関係が……ってヤバ!ミララ、隠れるよ……!!」

 

「えっ?はっ、はい……」

 

慌てた様子の颯一と何が何だかよくわかっていないミララは、近くの試着室に駆け込んだ。シャッ、とカーテンを閉めて「危なかった〜……」と額の汗を拭う颯一を、ミララは態度こそ穏やかであるものの質問攻めにする。

 

「あの、あの、ソーイチ、なんで隠れたんですか?それと、その服を着ている理由は結局なんなんですか?そうまでして何を買うんですか?」

 

「落ち着いてミララ。ひとつづつ説明するから……。まず、何を買うのかだけど、ミララ、飛んだりした時にスカートの中が丸見えになってて……だから隠せる様にパンツを買おうと思って。女装の理由は、女の子用のパンツなんて男子が買いに行ってたら超不自然だから。誤魔化す為だね」

 

「なるほど……大体分かりました。それで、あとひとつの答えは?」

 

「最後の質問、なんで隠れたか、だけど……僕の友達がいた。僕は絶対にこのかっこをしてるところを見つかる訳にはいかない……!」

 

颯一は、厳しい表情で重々しく呟いた。かくして、友人に発見されることなく女装したまま買い物をクリアするという過酷なミッションが幕を開けたのである。




一番書きたかったミララ(ちゃくいのすがた)が書けてうひょーってなってます。描写に時間がかかったが大満足。もう悔いは無い(嘘)
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