※この作品はR-18です。

Ticket to Mystery   作:Abeeeta

5 / 7
初々しいちょっと雑な女装がバレかかって冷や汗かいてる少年、いいゾ。


失敗したら(社会的に)死ぬゲーム

盾札颯一は、重大な危機に直面していた。物陰の合間を縫うように慎重に進み、不自然にならない程度に辺りを見回して様子を探る。視線を感じれば早歩きでそそくさとその場を離れてやり過ごす。そうやって目当ての品が並ぶ場所まで辿り着くと、背負ったリュックサックの中に潜むミララと密談し、商品棚からひとつを手に取った。

 

「ミララ、これが丁度いい感じ?」

 

「そうです、それならボクでも何とかなるハズです」

 

「じゃあ、ササッと買って試着室で着替えようか。僕がこのかっこでいる時間はなるべく短い方がいい」

 

「わかりました。じゃあ一旦、ボクはカバンに戻ってます」

 

明瞭ながらも互いにだけ聞こえる声量で会話するふたりは、颯一の迷いない歩みでレジへと向かう。ミララもリュックをなるべく揺らさずに潜り込み、レジに到着した颯一にリュック底の財布を隠れたまま渡すなど、出会って一日目のコンビとは思えぬ洗練された連携で人知れず颯一を支える柱となってみせた。

 

「……さて、ミララ?目的のアレは買えたから着替えよっか。リュックの中だと着づらいだろうしもう一回試着室に行くよ」

 

「わかりました。ただ、試着室の方には……」

 

「そう、さっき出会いかけた友達がまだいるはず。だから、ここからはより一層慎重にいくよ。……着替えさえ済んじゃえば楽にしてていいから、もう少しだけ我慢しててくれる?」

 

リュックの中から両腕で作った大きなマルを見せ頷くミララを確認し、颯一は足早に試着室の方へと向かった。人の少なそうなルートを徹底して選び、視認されたり話しかけられたりするリスクを極限まで減らして、颯一は試着室の目の前まで辿り着いた。

 

「やっば……両方使用中じゃん」

 

颯一は頭を抱えた。売り場の反対側にあるもう一組の試着室まで移動するか?とも考えたが、最短ルートは棚が少なく視界が開けているため、友人に見つかり易い。かといって迂回して隠密行動を取るくらいなら、ここで待機した方が試着室を早く使える。

 

(そもそも向こうの試着室だって空いているとは限らないしそれならここで待っていた方が得策か?いやでも……向こうなら友達との遭遇確率は減るかもしれないし……あー、どうしたらいいんだ!?)

 

「落ち着け……こんな所でわたわたしてたら悪目立ち──」

 

「あれ?颯一?」

 

「ッ……!?」

 

颯一の肩がビクッ、と跳ねる。不味い、見つかった……!今から逃げたら返事をせずとも本人であると肯定するようなもの。故に颯一は逃げずにこの局面を打開するしかないのである。緊張の滲む表情で振り返ると、声で分かってはいたが、そこにはクラスメイトであり一年生の頃からの友人、瀬戸海斗(せと かいと)が小首を傾げて立っていた。

 

 

 

「颯一、お前も買い物か?……ってあれ?颯一じゃない……?」

 

「……あの、どちら様でしょうか……。あっ、もしかして盾札颯一くんのお友達、だったり?」

 

「えっ、あ、そうそう!人違いで話し掛けちゃってごめん……髪の色とか背格好が似てたからさ、つい」

 

「まあ、従姉弟関係にありますから……。血が近いので髪色も似たんでしょうね」

 

よかった、勘違いしてくれている……!と内心胸を撫で下ろす颯一は、つらつらと出任せを並べ立てる。念には念を入れ、家のトイレの中で簡単なカバーストーリーを考えておいたのが功を奏した様だ。

 

「なぁ、ちょっと気になったんだけどさ……声、なんか無理してる?喋るの辛そうだけど……」

 

「あー、これは……そう、歌の練習で喉を痛めちゃいまして。……んんッ、直に治りますし、大して辛くは無いのでご心配なく」

 

「そっか、お大事にな。……ってヤバ、そろそろ行かないと!チケミスの新パックが買いたくて来てたんだった!ねぇ、カードショップのコーナーってどっちか分かる?」

 

「カードショップに行こうとしてたんですか?カードショップは真反対の……あっちですね」

 

「えっ!?マジか、急いで向かえば間に合うかな?発売初日は一人何パックまで的な制限あるし……。俺、急いで行ってくる!じゃ、ソーイチに会ったらよろしく言っといてくれ!」

 

「は、はい……わかりました。カード、買えると良いですね」

 

「ありがとなー!」

 

海斗は振り向いてこちらに手を振ると、ギリギリ怒られない程度にダッシュして去っていった。控えめに手を振り返していた颯一は、思い出したようにぽつりとツッコミを入れる。そして我に返ったがごとく、丁度空いた試着室にそそくさと滑り込むのだった。

 

 

 

 

 

颯一はいつもの衣服に着替え、ヘアゴムで雑に後ろ髪を縛る。女装を解き終わると、試着室の壁に備え付けられた鏡をノックしてミララに合図を送る。ふわりと鏡から現れたミララにスカートをたくし上げさせる。スカートの中をなるべく見ないように気を配りつつ、片方ずつパンツの穴にミララの脚を通していく。だがミララの協力があっても、視界の外で他者を着替えさせるのは颯一にとっては至難であった。

 

(ごめんミララ、一瞬だけ見ちゃうけど許して……!)

 

ミララに持ち上げられたままのスカートの中を目で捉え、上手く足に通せずつっかえていた右足側をようやく履かせることに成功した颯一。直ぐに終わらせて目を離してあげようとパンツをぐいっと持ち上げた颯一だったが、ミララの形良く豊かな臀部にぴっちりとフィットする白と水色の縞模様パンツを直視してしまい、結局鼻血を垂らすのであった。

 

「……!?どうしたんですかソーイチ、鼻血が!」

 

「あ、ミララありがとうッ……」

 

(ああ、両足とも通った時にもう目を離しておいた方が良かったな……)

 

大慌ての相棒がリュックから取り出したポケットティッシュを受け取って鼻血を拭う颯一は、次回以降ミララのパンツを履かせる際の注意事項を早くも考えるのだった。

 

 

 

 

 

無事に鼻血を止めた颯一はミララと共にモール内を散策していた。ミララは様々な商品の売り場を見ては「あれは何ですか?」と目を輝かせ、颯一の説明を聞いてはうんうん、と頷き楽しそうにしている。中でもミララが特に興味を持ったのはフードコートだった。

リュックのジッパーの隙間からも漂ってくるスパイスや醤油、ソース等のガツンと食欲に働きかける刺激的な香り。そしてクリームやフルーツのふんわりと胸躍る甘い香り。ミララは洪水のように湧き出す涎をごくりと飲み下し、颯一の顔をちら、ちら、と伺う。それを見た颯一も容易に意図を察し、「何か食べようか」と誘うのだった。

 

(目が口程にものを言ってるミララ、可愛いなぁ……)

 

ミララと自分用にハンバーガーとドリンクを買った颯一は、リュックの中のミララにハンバーガーを差し出す。ミララは包装紙を捲る段階から口をあんぐり開けて今にも齧りつきたい、とばかりに身を乗り出していた。そしてハンバーガーが顕になると、一心不乱に食事を始めるのだった。

 

「……頂きますっ!!はぐっ、むぐっ、もぐもぐ……っ!!おいひっ!ソーイチ!これ、ふごいでふへすごいですね!んく……ごくん。」

 

「わっ……!すごい食いつき……そんなに美味しかった?」

 

「はい!何なんですかこれっ、一口でふわふわとじゅわっとしゃきっと……とにかく賑やかで、それなのに喧嘩してなくて……!!」

 

ミララは小さな口でバーガーにがっつき、たちまち全てを口の中に収めてしまう。そしてリスの様にパンパンになった頬の中身を一気にごくんと飲み込み、舌でチロリと口の周りに着いたソースの汚れを舐めとった。

 

「ははは、ミララが喜んでくれたみたいで嬉しいよ。でも喉が渇いたでしょ?はい、これ」

 

颯一は包装紙を受け取り、代わりにオレンジジュースを渡す。

 

「ありがとうございます、ちうぅ……ちゅぅっ、ぢゅるるっ……!!ぷはぁっ!!こっ、これも凄いですよソーイチ……!!甘いのにスッキリしてて、んっ、いくらでも……ごくっ、いけちゃいそうです!」

 

ミララはそれもあっという間に飲み干してしまった。体の小ささに反する早食い、大食いに驚いた颯一がそんな食べ方をして大丈夫なのか聞いてみたところ、

 

「向こうと比べて食べ物があまりにも美味しかったので……。向こうではこの体だから料理とかできなくて、大抵生物しか食べられず……。ボクは食べなくても生きていける体なので何も食べずにいた分、久々の食事でつい食指が動いてしまいました……。とはいえ食べ過ぎた訳でもないので安心してくださいね」

 

ミララはそう照れ笑いを滲ませて答えたのだった。あの勢いで食べて服が一切汚れていないのは、欠片を零すくらいなら全部食べたいって考えを実行したからなのか、と腹を摩る颯一は、リュックの中のミララから紙コップとストローを受け取る。

彼はリュックを前に背負い、ゴミを捨てに席を立った。カラカラ、とドリンクの氷が氷捨てに落ちていく音を背景として颯一はミララに訊いた。

 

「さて、お腹も満たされたところだし次はどこに行こうか?」

 

「それなんですがソーイチ、お友達が言っていた新しいパック、買いに行ってみませんか?」

 

「いいけど……まだ残ってるかな?海斗が買いに行った頃にもう間に合うかギリギリだったんじゃなかったっけ……」

 

「確かにお友達が買いに行った時点では売り切れ間近だったかもしれません。でもチケミスは大人気なんでしょう?それならきっと直ぐに補充されるか、初めから売り切れないほど仕入れるはずです」

 

ミララは右前脚の指を一本立てて説を述べる。颯一もそれに納得し、自然と頷く。ミララの発言はもっともだし、もし売り切れ状態だったとしても、ミララのカードを入手した弾のパックだって売れているだろう。

 

「そうだね、行ってみよっか!パックでデッキを強化して、そのままプレイコーナーにあるARプレイフィールドで試してみよう」

 

「はい!ソーイチの運ならきっとボクと相性のいいカードを引けるはずだって信じてます!」

 

「はは、期待が大っきいなぁ……。でも、ミララの期待になら応えられる気がするよ」

 

颯一は頬をポリポリ掻きながら、彼の運命を一部たりとも疑わない相棒の頭をぽんぽん、と撫でてはリュックを背に背負い直す。そうしてふたりは和やかな雰囲気でカードショップコーナーへと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

「あれ、颯一?おぉ、今度こそ颯一だ!お前も買い物か?」

 

「そうだよ、実は昨日チケミスを始めてさ。新しいパックが出るって知り合いに聞いて買いに来たところなんだ」

 

カードショップコーナーには、先程遭遇した事に微塵も気が付いていなさそうな海斗がいた。

 

「おお!!颯一もついにチケミス始めたのか!バトルできる奴が増えて嬉しいぜ!で、パックを買うんだったらこっちのレジで──」

 

海斗の案内に従って、おひとり様おひとつまでの発売直後のパックに加え、前シリーズのパックも購入した颯一。海斗に礼を言おうとすると、「いいって、俺も今日お前のいとこに助けられたんだし。お互い様みたいなもんだろ」と笑って流された。

普段なら素直に同意するはずの颯一だが、海斗を騙したことになる彼としては素直に頷けなかったのだが、それを見かねた海斗の一言に甘える事にした。

 

「頼ってばっかじゃ悪いって思ってるのか?ならバトルしてくれよ。今から開けるパックの中身で強化したデッキを試したいんだ」

 

「……わかった、そうさせてもらうよ。って言っても確実にデッキに入れられるカードが来るとは限らないけどね……」

 

「それはまあアレだろ、出るって思ってれば出るみたいな!」

 

「……病は気から的な?」

 

「そう、それだわ!」

 

二人は小学校低学年の頃からの友人同士の和やかで気の置けない会話をしながらプレイエリアへと向かうのだった。




ミララちゃんくんにいっぱいご飯を食べさせたい。ジャンクなやつからお高いやつまで……

ミララを描きました。下は着衣verになります

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