※この作品はR-18です。

“女難の対魔忍”暗躍譚 ―対魔忍RPGX HAERESIS―   作:holdics

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「ほい、頼まれてた物はこれで全部だね。追加料金はいらないよ」

「ああ、すまんな。…この『石』の件、本当に他の連中には勘づかれていないんだな?」

「一通り調べた限りではね。まあ、狡賢くて鼻が利く奴ってのはどこにでもいるもんだ。いつまでも隠し通せるとは思わんことだね」

「分かってるさ。こっちとしちゃ後一月、いや2週間ほど時間が稼げりゃいい。この町に広まるだけならまだいいが、外に出ていくようなら荒っぽい手段を取らざるを得なくなるんでな」

「その前に製造元とかルートとか、諸々を押さえるって訳だね。うちとしちゃ、アミダバラであれが流行るのもごめんだね。何とか上手くやっておくれ。…ところで、あっちの騒ぎは行かなくていいのかい?」

「ああ…そろそろケリがついたころだろうから、後始末には向かうさ。お宅の魔女も付いてるんだ。不覚は取っても逃がしてはいないだろう」

「おや、随分と買ってるんだねえ…そのボウヤを」

「……まあ、ある意味では信頼してるな。だからこそ、目を離せないんだがな」



Main Story : Rinko / Rin 04

「……それで、結局どうなったんだ? その……上原先生と蓮魔先生は」

 

「え? ええ……まあ、とりあえず無事です。廃ビルでの騒ぎが収まってから来てくれた救護班の人たちに連れられて、直ぐにアミダバラの病院に入りました。その後五車が手配した車でこっちまで運ばれて、今は重傷者用の医務室で休んでいる筈ですよ」

 

 それを聞いて、凛子先輩は「そうか」と安心した顔で息を吐いた。どうやら顔が強張っていたのは慣れないバイトのせいだけでなく、恩師の現状を心配しての事だったらしい。

 

 現在時刻は午後11時ちょうど。場所は東京地下深くにある背徳の都市、ヨミハラ。

 俺は今、高坂静流先生がヨミハラで経営しているバーでバイト中だ。ちなみにアミダバラで「ラバースーツ女」の騒動がおきたのは三日前の話である。

 

 俺はちょくちょく小遣い稼ぎと情報収集を兼ねてここで働かせてもらっているが、今日は何と「あの」秋山凛子先輩が一緒だ。彼女は本日がバイト初日らしく、表情がいつもと比べて硬く接客態度もぎごちない。

 が、生来生真面目な凛子先輩はどんな事にも手を抜かない。また強面の用心棒やオークの傭兵が相手だからと言って尻込みしたり、こんな街で暮らしているからと客達を侮蔑したりするような性格でもない。緊張しつつも丁寧に、実直に注文を受け、配膳し、勘定をしている。決して器用とは言い難いが人当たりの良い凛子先輩に、あからさまに悪感情を向ける様な客はいないだろう。

 

 まあもっとも、それは凛子先輩の容姿―もっと言えば胸と尻の谷間をこれでもかと強調した本日の衣装による補正は大分かかっているだろうが。

 客である野郎共の目は入ってきたときからその2点に釘付けである。というか、明らかにそれ目当ての客が引っ切り無しに入ってくる。この店はいつもそれなり以上に人気ではあるが、今日はいつにない盛況ぶりだ。

 

(……というか、何でバニー?)

 

 今、店内にいる女性陣(と言っても店長と凛子先輩だけだが)は所謂バニースーツ姿で仕事をしている。その所為で只でさえ人目を惹く凛子先輩のボディラインが完全に曝け出されている。

 それどころか、乳房は全体の3割ほど(2センチ程下にずれたら乳輪が見えそう‼)しか服で覆われていないし、お尻に至ってはほぼ丸出しなハイレグ姿だ。腹部に巻かれた桜色の帯が良いアクセントとはなっているが、この出し過ぎな格好に添えられていては逆に外されることを待っているようにも見えてしまう。脚に至っては片方が網タイツ、片方は太ももに紐を1つ結んだだけ、と辺に拘りが入っている。

 総じて、ファッションセンスを変態性に全振りしたようなコーディネートだ。

 

 ヨミハラにはこれよりふしだらな恰好を女性にさせている店などいくらでもあるが、ここはそういうのを「売り」でやっている訳ではない―筈だ。というか、ここの店主は俺たちの先生なわけで、生徒にこんな格好をさせるのは職業倫理的にまずいのでは……。

 

「仕事で必要なことならば、致し方ない……」と顔中を真っ赤にしながら着替えることを承諾した凛子先輩も気合が入り過ぎだろう。別にこの恰好がここの制服というわけでもないし、業務命令だから着ろ、と強制されたわけでもない。

 まさか、静流先生があのスーツを出してきた時の「これ着て接客してくれたら時給アップね♪」なんて話に釣られたなんてことはないだろう。『逸刀流』師範代を務める先輩が俺みたいに小遣い不足で悩んでいる訳はなく、金遣いが荒いなどという話も聞いたことがない。

 そもそも、彼女はこんな所で働くことを考えるような性格じゃない。本来は自発的にヨミハラへ近づくことすらないだろう。ならば静流先生が態々スカウトしたのだろうか。だとしたら、「こんな」格好をさせてまでこの店の客足を増やす理由が分からない。

 

 このバーはあくまでヨミハラにおける高坂静流―ひいては対魔忍の拠点として機能することが重要なのだ。現地における情報収集基地及び非常時のセーフハウスという本来の姿が目立たないようにするために、酒場という外装を被っているに過ぎない。

 客が一切来ないというのも体裁が悪いが、こんな破廉恥な手段を用いてまで繁盛させる必要はない、どころか秘密が露呈する可能性が増えて危険なだけではないのか。

 

 いや、こんな事は俺如きが考えるまでもない。潜入調査や後方攪乱を主任務とし、ある意味敵地のど真ん中であるここで魔族を含む住人たちの信頼を得て、この魔都ヨミハラの町内会長にまでなりおおせた「花の静流」ともあろう人が、そんな初歩的事実を忘れる筈もない。

 きっと俺なんかには分からない深い理由があるんだろう―と1ヶ月前までの俺なら考えたかもしれない。だが今の俺は、静流先生が何の狙いもなく、こういう事を面白半分でやりかねない人だという事も知ってしまっている。

 いや、仕事に私情を挟むという意味ではない。可能な限り楽しい形で仕事をこなすべく工夫を凝らす、とでも言うべきか。しかもその楽しみ方が、最近主に俺を揶揄うという形で実行されているのが困りものなわけで。

 

「──ふうま? 聞いているか?」

 

「……はい? ああ、『ラモス・ジン・フィズ』1つですね。すぐに」

 

 いけない、考え事に夢中で危うく注文を聞き逃すところだった。

 急ぎながらも丁寧に、シェイカーへジン、ライムジュース、レモンジュース、シュガーシロップ、生クリーム、卵白、そして数滴のオレンジ花水とバニラエキスを注ぐ。

 

 最初は接客に清掃だけやるという話だったのに、今では一端のバーテンダーをやれてしまっている俺も俺だ。当然時子には内緒である。

 確か初めて作ったのはバイト3回目の仕事終わりだったか。静流先生に乗せられて試しにマティーニをシェイクで作ってみたら、「映画の見過ぎよ」なんて笑われながら試し飲みされた。

 すると最初は目を丸くして俺を見つめ、次第に疑わし気な目つきになって「あなた、さては初めてじゃないわね」と言われた。

 どうも素人の仕業とは思えないくらいの出来栄えだったらしいが、俺自身は一応未成年なので酒を大っぴらに飲めないし、第一酒に強い訳でもない(知識は多少あるが)。シェイカーを手に取ったのだって本当にその時が最初だったというのに、教師にそんなことを言われても嬉しいどころか困惑するだけだった。

 

 今だって、何でこんなことやってんだろ俺、と思いながら『ラモス・ジン・フィズ』を作り終え、その次に注文を受けた『マルガリータ』の作成に取り掛かる。

 俺以上に酒場との縁がないだろう凛子先輩が渡すものを間違えないか心配だったが、流石に先輩はそつがない。勤務開始して2時間半ほど経つが、今のところミスは0だ。

 凄いなあ、と感心する暇もなく、いつもより6割増しで忙しい仕事の波に忙殺されながら時間を過ごしていると、あっという間に日付が変わってしまった。

 

 

 

「はーい、じゃあ本日は閉店でーす。……こら、子どもじゃないんだから駄々こねないの。ちゃっちゃとお会計すませて。は~い、それじゃあまたね。……こらっ、尻を撫でようとしない。罰金払って出禁になりたいの?」

 

 閉店時間が過ぎたため、手慣れた言動で客を店から出す静流先生。この店はヨミハラでは珍しく、閉店時間が午前0時だ。

 かくいう静流先生も、今日はバニースーツ姿である。凛子先輩も相当グラマラスな体型だが、流石にこの金髪美女の方が1周り上だ。

 というか、紐と見紛うような細い布しか付けていない胸と半透明なハイレグしか身に着けていない下半身を見ると、完全にソッチ系の店から出てきた女にしか見えない。

 確か以前、露出が激しい服は好きじゃないとか聞いた気がするのだが、あれは仕事上の必要性や戦術的優位性に基づくものなのか? なければ趣味だという事になるが。

 

「ふー、全く……あ、2人ともご苦労様♪ 特に凛子ちゃんは初めてなのにすごいわね。お客さん上手に捌いてたじゃない。このままウチの店員になってほしいぐらいよ」

 

「ありがとうございます。私もこういう経験は積みたいと思っていますので、機会があればまたお願いします。……その、できればその時は、普通の格好で」

 

「あはは。これは期間限定サービスだから心配しないで。……そうね、手伝ってくれたあなた達には話しておいた方がいいかしら」

 

 そう言い、店の中央にあるテーブルへ俺たちを手招きする静流先生。俺と凛子先輩は閉店作業をしている手を止め、先生の誘いを受ける。

 

「凛子ちゃんには初めて話すわね。じつは最近、このヨミハラで全く新しい魔薬が出回っているらしいの。それを摂取すると強い快楽が得られるけど、依存性は殆ど無いわ。ただし、使い続けると恐ろしい副作用が現れるの。それが……」

 

 これ、と静流先生がバッグに手を入れ、2枚の写真を取り出した。以前見せられたものと同じかな、と一瞬思ったが、見た瞬間違うと分かり驚愕した。顔は見ていないが、凛子先輩の驚きは事前知識のある俺の比ではないだろう。

 

「……また、被害者が出たってことですか。しかも、こっちの方……」

 

「やっぱり見れば分かるわよね。そう、どっちも一昨日この町で発見された、以前報告されたとのは別のケースよ。街の情報屋が撮影してたの」

 

 説明しつつ、写真を軽く指先で叩く静流先生。

 

「左の方は前の男と同じ、恐らくは貧民街に居着いていた誰かでしょう。でも右は違う。名前は伏せるけど、ここヨミハラの高級住宅街に住んでいる親子よ。大きい方が父親で、小さいほうが息子。……どう、凛子ちゃん? 元はどんなだったか、この写真から分かる?」

 

 話を振られ何も言葉を発せず、ただ無言で首を横に振る凛子先輩。まあ初見なら妥当な反応だろう。

 写真に写っている奴は3人とも、以前見たものより遥かに人間離れした姿に成り果てていた。頭は首から大分背中側へ移動している。服はおろか皮膚さえそこかしこが裂け、その割れ目から針金とも触手とも見分けがつかない紅く細長い物体が数十本飛び出している。

 更に言えば元は人型だった筈だが、画像を見る限り2足歩行ではなく“6足”歩行をしている。細かい灰色の体毛に覆われた、かつて手として使っていた部分は前脚と化して地面を踏みしめ、明らかに指が5本以上に増えている。

 そして何と脇腹の中央部から左右に2本の足が生えている。基本は前脚と同じような構造をしているっぽいが、中折れしてМ字を描いているそれはまるで蜘蛛のようだ。即ち人間の下半身と蜘蛛の胴体部、そして胸から上は四足獣といった様だ。前脚と中脚の対角線上の交点あたりに移動した頭部はあらぬ方向を向いており、真っ黒に濁り切ったその瞳からはどうにも自我を感じられない。

 正直長々と観察したくもない成り果てっぷりだ。鹿之助に見せたら冗談抜きで嘔吐するか気絶するか、失禁……は流石にしないだろう。

 

「ホラーゲームのクリーチャーとしちゃ良い造形だと思いますが、現実にこんなものが出るのは勘弁ですね。……一応聞きますけど、この人たちはどうなりました?」

 

「最終的には私たちが倒して、遺体は自治会の方で“処理”されたわ。特に右2人の方は住んでた場所が場所だからそれなりの手練れが警備にいたはずだけど、結局私達が到着するまではまともに相手できたとは言い難いわね。口から猛毒の糸は吐くわ、手足だけでコンクリートを砕くわ、大変だったわよ……正直な話、私1人じゃ手に余るわ」

 

「私たちって……応援の対魔忍を呼んでたんですか?」

 

「いいえ。突然の事態だったからそんな暇なかったわ。だから現地の協力者とね……ほら、ふうま君はよく知ってるでしょ。彼女たちよ」

 

 そう言われ、俺はああ、と声を上げる。このヨミハラで対魔忍以外に静流先生が頼る戦力と言えば、“あの人たち”しかいないだろう。

 

 ……と、何故か凛子先輩が俺に非難的な視線を向ける。理由が分からなかったため不思議そうに見つめ返すと、直ぐに我に返ったかのように視線を外した。

 問い質そうかと思ったが、静流先生の説明が続くために俺も気持ちを切り替えた。

 

「まあ、その助っ人を呼んだ甲斐あって割と簡単に片はついたんだけど、何分この2件がほぼ同時に起こったものでね。この貧民街で起きた方がタッチの差で早く情報が入ってきていたからこちらの方を先に対応しただけなんだけど、その所為で自治会の一部から追及を受けちゃって。『優先順位がおかしい』ってね。全く……ああ、御免なさい。ここで言うことじゃなかったわね」

 

 軽く謝罪をする静流先生に、俺は苦笑を返すしかできない。どんな組織や街であろうと、人が集まる以上“政治”の問題は付いて回る。俺みたいな若造には到底想像できない苦労があると思うと、ついついこういう愚痴を言いたくなる気持ちは理解できる。

 

「……それで、その『新型魔薬』とやらは確保できたのですか?」

 

 そこでようやく、凛子先輩が口を開いた。その問いを聞いた静流先生は、少しだけ頬を歪める。明らかに顔中から悔しさがにじみ出ていた。

 

「残念ながら今回は回収できなかったわ。全部使い切られてたって可能性はあるけど、誰かに持ち出されたって線も否定できないわ。もしそうなら、さらなる被害が起きることは何としても防ぎたい……とは思うのだけどね……」

 

「……難しい、でしょうね。ヨミハラはそこまで広くないですが調査できる所も限りがある。他人がおいそれと踏み入れない場所も結構ありますし」

 

「ええ、誰も彼も腹の中を探られたくない者ばかりだしね。下手に藪をつつけば蛇どころか龍が飛び出しかねないのよね、比喩抜きに」

 

 ヨミハラは人間であろうと魔の存在であろうと、表の世界に居場所のない、あるいは表に決して出せない厄ネタを抱えた者が多く住まう魔の犯罪都市だ。

 たとえ対魔忍の任務が人の世に仇なす魔の討伐であろうと、おいそれとこの街を排除できない理由がそこにある。下手に武力を行使すれば、最悪日本を道連れにできるだけの力がここの深部には存在していると思っていい。

 

 しかし逆を言えば、ヨミハラという街はそんな“危険物”たちを地下深くに封じ込めておける絶好の牢獄でもある。

 そしてたとえ牢獄であろうと、それなり以上の人数が集まって共同体となり、自治によって秩序を生み出すことができれば、とりあえず平和らしきものは実現する。

 

 そう、たとえ相手が俺たちにとって宿敵といえる『ノマド』であろうと、互いに益があるのならこの町のために協力することはできる。常に爆発しうる危険要素を孕んではいるものの、今は確かに相互不可侵による共存の形を実現できている。

 共倒れするくらいなら、気に入らない相手でも握手くらいはする。その程度の理性がお互いにある限り、この平穏は続くだろう。

 

 最も最近の話を聞く限り、ノマドとの関係も単なる敵対とは異なってきているようだ。2ヶ月ほど前に、さくら先生が何かの任務であちらの幹部である『魔界騎士』イングリッドと共闘した事をきっかけに、非公式ではあるが少しずつ五車とノマド間で交流が持たれるようになったらしい。

 これまでの経緯がある以上速やかに関係改善とはいかないだろうが、対魔忍と魔族という水と油同然の関係だった両者が、徐々に交じり合う兆しは出てきたという事だ。さくら先生本人がそれを意識していたかどうかは知らないが、このまま進めば彼女は歴史に残る功労者となるだろう。

 この流れを歓迎する動きも、拒絶する動きも出てくるだろう。だが俺としては、同じ土地に住む以上交流が進むのは自然の成り行きだと思っている。むしろこのヨミハラという街ができて数十年はたつというのに、今まで頑なに話し合いを拒んできたということの方がちょっと信じられない。

 いや五車学園ができる前の時代、特に俺が生まれた時期辺りの対魔忍たちは内輪の争いに忙しく、そんな事ができる余裕が無かった、というのは事実なのだが。

 いや、しかしそれにしたって―と、俺みたいな若造は考えてしまう。

 

 本質をつくのが得意な凛子先輩は俺のように物事を斜め読みせず、一番重要なことを直截に尋ねる。

 

「しかし、このままではまた犠牲者を生み出してしまいます。事が魔薬によって引き起こされているというならば、あらゆる手段を用いて供給元を突き止めなければならないでしょう。その目星は付いているのですか?」

 

「ええ。そちらは裏が取れたわ。ふうま君と九郎さんがアミダバラへ行ったときに集めてきてくれた手掛かりのお陰で、大まかにだけど国内のルートも掴めてきたわ」

 

「それ調べたのは殆ど九郎さんですけどね。俺は燐先生と蓮魔先生を助け出すのに必死だっただけですし」

 

 と肩を竦める俺。しかし静流先生は意味ありげに微笑み、

 

「それも立派なお手柄よ。ねえ、凛子ちゃん?」

 

 唐突に同意を求められ、どういう訳か先輩は顔を赤くして、

 

「えっ!? あ、ああはい。ふうまは、よく、やってると、思います……」

 

 と、しどろもどろな答えを返す。フォローする言葉が出てこなかったというわけではなさそうだが、何をそんなに慌てているのだろうか。

 そしてそれを見た静流先生は満面の笑顔。何なんだ一体。

 

「ふふ。で、その調査の結果なんだけど。まず以前から懸念していた『アンダーエデン』の関与なんだけど、ここはほぼシロだって事が分かったわ」

 

「アンダーエデン?」と首を傾げた凛子先輩に、「娼館です」と俺が小声で教えると、先輩は再び顔を真っ赤にして目を背けた。

 その姿を見て増々静流先生の笑みが深くなる。正直不気味だ。

 

「シロ、ってことは魔薬の密売には関与してないと? た……新型魔薬を持っていたウチの生徒がちょくちょく出入りしていたって話があったのは?」

 

 危うく『対魔石』という名前を言いそうになってしまった。一昨日この新型魔薬の件は必要最小限の人員にしか知らせず、外部で『対魔石』という呼称を使うことは禁ずる、というアサギ校長からの通達が届いている。

 逆に言えば凛子先輩はこの件に関わらせることにした、という事なのだろう。しかし、これは一体誰の判断なのだろう、とふと俺は気になった。

 

「彼らが魔薬を求めてあそこにいっていたのは間違いないわ。でもそれは確かな情報があってではなく、ヨミハラで広まる根も葉もない噂を鵜呑みにしての事だったみたいね。流石に『クスリあるか?』って従業員や客に聞いて回ったりはしなかったみたいだけど、大分怪しい動きは目についたらしいわね。最後には腕ずくで追い出されたようね」

 

「大きい娼館だからそういうものを扱う人も情報も集まるだろう、て事ですか? ……まあ荒唐無稽とは言えないかもしれませんが。大分ヤバいことしてません、それ?」

 

「それはそうよ。もしこれが『アンダーエデン』での話じゃなかったら、即私の耳に入って対応できたのにね。そういう店にとって不都合な話は一切外に漏れないようになっているのよ、あそこ。周辺住民にたまたま娼館外で彼らの話を盗み聞きしていた人がいなかったら、今も詳しい事情は分からずじまいだったかもしれない」

 

 ホントやり手だわ―と呟く静流先生の声音には、少々の疲れと静かな怒りが込められていた。これは相当苦労したらしい。

 

「……しかし、それだけガードが固いという事は、裏でこっそり魔薬を扱っていても気づかれないのでは?」

 

「良い指摘ね凛子ちゃん。私もそう思って突っ込んだ調査をしてみたわ。具体的にはあの店の主、リーアルに直接話を聞いてみたの。勿論、ヨミハラの町内会長としてね」

 

「! ……それは大分思い切りましたね。それで、そのリーアルは何と?」

 

「流石に確かな情報は何も。でもいくつか貴重な話は聞けたわ。……と、いけない。長話になるんだからお茶くらい淹れないとね」

 

 ちょっと待ってて、と言いカウンターに向かう静流先生。

 自分がやりますよ、という俺の提案に、「いいのいいの。もう営業時間過ぎてるんだから、2人ともお客よ。私がもてなす側なんだから気を遣わず、どうぞ座ってて」

 そう言い、手早く紅茶を3つテーブルに持ってくる先生。

 微笑みと共に出されたそれを、俺たちはありがたくいただくことにする。

 

「さて、リーアルの話ね。まず、彼自身はやはりこの新型についての情報は持っていたみたい。でも関りは一切無いし、その手の話には乗るつもりは“毛頭ない”らしいわ。商売柄媚薬やアロマの類は取り扱っているみたいだけど、こういうヤバい薬は見聞きするのも御免だと言っていたわ。これ自体にはまあ、嘘はなさそうね」

 

「根拠もいくつかあるのよ」と言いながらティーカップを口に運ぶ静流先生。

 彼女が淹れてくれた紅茶は何度か飲んだことがあるが、他では味わえない芳香と甘さが癖になる逸品だ。

 面と向かって聞いたことはないが、恐らく茶葉は人間界のものではないだろう。最もすっかりこの味の虜となってしまった今では、たとえそうだとしても飲むのを控えるつもりはない。

 

「まず、彼の本業はいたって順調だから、わざわざ魔薬商売に手を出す必要がないってこと。意外に思うかもしれないけど、裏社会で成功するためには商材を1つに絞ることは絶対条件なの。薬物、装飾品、女、武器……儲け話なんていくらでもあるけど、金になるからってあれこれ手を付けるのは絶対ダメ。短期的には良くても、リスク管理の面で必ず酷い破綻を迎える。『アンダーエデン』の経営者ともあろう男が、この事を弁えていないとは思えない」

 

 成程、それは頷ける話だ。

 一般企業でも業種を無暗に広げるのは失敗の元だ。ましてや非合法な商品ってやつはどれ1つとしてまともな保険は掛けられず、時として損失の代償に金以上のものを支払う羽目になる。間違っても気軽に手を出していいものではないだろう。

 

「もう1つ。『アンダーエデン』は対魔忍と積極的に敵対していない。これは彼自身強調していたし、これまでの調査では疑わしい点も見つかっていないわ。ま、だからといって仲良くする気はないみたいだけどね」

 

「……それは、信じられるのでしょうか。話で聞いただけですが、そういった店は隙あらば我々を奴隷娼婦にするべく狙っていると……」

 

「凛子ちゃん……」と無知な生徒を窘める静流先生。そういう所作が一々絵になるあたり、やはり教師なんだなあ、と俺は改めて思う。

 

「そういう不埒な輩がいるのは事実よ。でもね、そんな奴がこのヨミハラでデカい顔するのを、私が黙って見過ごすと思う? そりゃ私もリーアルが真っ当な人間だとは思わないし、阿漕なこともやってるのは間違いないわ。でも私たちの活動や街の存続そのものに悪影響を及ぼすような真似はさせないし、彼らにしてもそんな行為は回り回って自分の首を絞めるだけだわ」

 

 静流先生の言葉には筋が通っている。常識的に考えれば『アンダーエデン』がこんな取引に絡んでいる可能性は無いだろう。

 しかしそれでもなお、凛子先輩の懸念についてもっと真剣に考慮すべきではないだろうかと、俺は考えている。

 

『アンダーエデン』が怪しいという話ではない。ヨミハラという街そのものが内包する混沌は、どんなに深堀しても尽きることはないのではないか。高さも底も見えない真の悪意の前には、俺たちの信じる常識など、穴の開いたコンドームより頼りない代物でしかないのではないか。

 それなりの時間をこのバーで過ごし、良い奴にしろ悪い奴にしろ、結構な数の住民と接してきた結果、俺は今漠然とした拭い難い不安を、ヨミハラに抱いている。

 

 今日来た客の中に、俺はおろか凛子先輩や静流先生ですら敵わない力を持つ魔族がいたかもしれない。対魔忍など何人殺そうが何も感じない殺人鬼が紛れていたかもしれない。

 言うまでもなく9割9分9厘、俺の考え過ぎだ。しかし残り1厘の疑念を否定する材料がない故に、こんな考えが頭にへばりついて離れてくれない。

 俺たちはいわば怪物の口に飛び込んだ餌に過ぎないのではないか。どんなに強くなろうが対策を練ろうが関係なく、誰かの気分一つで声も上げられずに咀嚼され嚥下されるのではないか。そんな埒もない想像は、ヨミハラの実情を知れば知るほど強くなっていく。

 

「……では、何者がヨミハラに新型を持ち込んだのでしょうか」

 

 俺は内心に抱えた怯えが顔に出ないよう、務めて冷静に質問する。隊長として任務に就くようになってから、思考や感情と言動を切り離す作業は最早慣れっこだ。

 

「うん、そこが本題ね。……その前にふうま君、骸佐君たちの動向、あなたはどこまで把握してるかしら?」

 

「……何故、今その話を」

 

 いいから―と話を促され、渋々口を開く。まさか本当に関係のない話をさせる訳もないだろうから、今は言うとおりにするしかあるまい。

 

「動向、という程大したものは……龍門が持っていた東京キングダムのシマを掠め取ってからは、ひたすら地盤固めに奔走している……ように見えます。ノマドと組んでバイオテロなんてものを引き起こしたんですし、そうそう反発は収まらないでしょう。何を企んでいるにせよ、暫く派手な動きはできないと思います」

 

「うん。まあ、私の見立てもそんな感じ。じゃあもう一つ確認するけど、彼ら二車の一派がその地力を高める一環として、龍門の金庫に仕舞われてたアブない品々を売却して小金に変えている……って話も聞いてるわね」

 

「ええ。アスカ達がそこから流出したものを押さえるために動いたって事も聞いてます。何でもアサギ先生の細胞を悪用して作られた生物兵器だったとか」

 

「あら、そこまで話したのあの子?」

 

 困ったわねぇ、機密なのに―と頬に手を当てる静流先生。困ってるならその含み笑いは何なんですかね。そして、何故凛子先輩はそこで険しい表情になるんですか。

 

「……凛子ちゃんは、龍門という組織についての知識はあるかしら?」

 

「はい。表向きは中華連邦に蔓延る犯罪結社……という事になっていますが、裏の顔は党や軍の密命を受けて表に出せない汚れ仕事をする、一種の諜報機関と聞いています。……しかし、そんな奴らがアサギ先生の細胞を悪用するとは……慙愧に耐えません」

 

 義憤に燃える凛子先輩を見て、俺と静流先生は顔を見合わせ、僅かに苦笑する。

 名実ともに五車の柱であるあの姉妹が敵組織に捕らえられ、凄惨な性的調教を受けて尚精神力で耐え切り、逆にその組織を壊滅させた―という類の逸話は、五車の学生なら聞いていない筈はない。生徒間の話は単に男共の下卑た妄想に過ぎないと聞き流していたとしても、他ならぬさくら先生自身が当時のエピソードを授業中の雑談で披露したりするのだから、その信憑性には疑いの余地がない。

 それを知っていて尚、そのような「真っ当な」反応ができるあたり、彼女の人格は本当に善性の塊なのだろう。俺みたいな男とは違って。

 俺はそう心の中で嘆息し、静流先生に話の続きを聞く態勢を取る。

 

「……それで、その話が何か?」

 

「ええ。当然だけど今の事態は龍門にとって好ましくないでしょ? 自分たちの『領土』を奪われた挙句、資産を勝手に売り払われたんだから」

 

「まあ、普通の反社なら即報復ですね。龍門なんてデカい組織の事だから、ヒットマンはそれこそダース単位で飛んでるでしょう。……普通はその筈、なんですが」

 

 そこなのよ―と静流先生は俺に右手を向ける。良い質問をした生徒に対する反応を受けて、内心ちょっとだけ誇らしげな気持ちが湧き上がる。

 

「私も一通り調べたけど、これまで本国から龍門の殺し屋なり工作員なりが送り込まれた形跡が一切ないの。不思議に思って向こうの伝手を総動員してみたけど、どうやらそれどころじゃない、っていうのが実情らしいわ」

 

「「それどころじゃない?」」

 

 何だか綺麗にハモってしまった。今度は俺と凛子先輩が目を合わせ、静流先生が吹き出しながら説明を続ける。

 

「ふふふ……いえ、どうやら骸佐君たちがキングダムに居を構えた少し後ぐらいに、向こうでも大規模な抗争が勃発したみたいなの。

 龍門っていうのはいくつかの犯罪組織が寄り集まって出来た連合体……ギルドみたいな体制でね。現在その代表になっているのが『12天使』っていう麻薬密売組織のトップなんだけど、この男が自分の娘に殺されて、組織を乗っ取られた。つまりお家騒動ね。それに反発する連中との対立が、この抗争が起きた直接の原因みたいね」

 

「……12天使の名前は有名なので知ってましたが、龍門の一員だったことや、そんな抗争が起きてたってことは初耳ですね。報道とか、されてました?」

 

「いいえ、全く。さっき凛子ちゃんが言っていた通り、龍門は中華連邦政府とズブズブだからね。お上に迎合した現地メディアは勿論、外国の報道陣だって取り上げる訳はないわ、記者やテレビ局員だって命は惜しいもの」

 

 それともう1つ―と言いながら、静流先生は手元のバッグから写真を1枚取り出す。テーブルに置かれたそれに目を落とす俺たちの視線を誘導するように、そこに写った1人の人物を指さす先生。

 

「さっき“大規模”な抗争って言ったけど、起きていた日数自体は多分数日足らずだと思う。それこそウィルスを使って一気に幹部連中を抹殺した二車の連中みたいに、電光石火の早業だったんでしょうね。

 ただし、殺した人間の数は恐らく彼らの数十倍、いえ事によれば数百倍に昇るでしょうね。何せ龍門傘下のうち、少なくとも12天使クラスの組織が3つ壊滅しているんだから。そのレベルとなると、構成員は軽く見積もって万単位になるもの。龍門は世界各地に支部や支援組織を抱えているし、その総数となると100万は確実ね」

 

「100万、て……」

 

 思わず呟き、そして絶句。

 向こうの大陸に住む人間は日本列島の10倍以上であり、中華系裏社会の人数もその人口数に比例して大きいのは当然だ。とは言え、流石に格が違うと形容してしまいたくなる数の違いをはっきり聞かせられると言葉を失ってしまう。

 確か、今日本の暴力団員って1万5千人くらいじゃなかったっけ? 半グレや国際的組織のメンバーを含めても、到底3万人には届くまい。争ったら喧嘩にもならないな。

 

 今更の話だが、世界中で年々犯罪件数は増加している。

 日本みたいに魔族の対応に追われている国は流石に少ないが、そもそも人間の犯罪組織が多国籍化あるいは半合法化し、法規制の隙間を縫って悪どく利益を上げている。すると警察や司法機関も犯罪者を逮捕し対立し続けるより、そいつらを黙認し利用してしまったほうが得だ、と考えるようになってしまう。  

 所謂癒着・腐敗の流れだが、中華連邦はその典型例だ。

 もっと酷い言い方をすれば、彼の国は総力を挙げて社会の腐敗を進めてきたといっていい。何せ人間も魔族も元対魔忍も、国籍どころか種族さえ問わずに取り込んで犯罪結社を作り、そいつらをスパイとして使い好き放題やっているんだから。

 治安維持や国家繫栄のための必要悪だと、おそらく首脳部の連中はしたり顔で言い放つのだろう。国内外から略奪し搾取したそれらの財が、誰の懐に入っているのかは決して話さずに。

 しかしそんな悪事に関わる人間が7桁もいるとなると、これは確かに単なる組織犯罪ではなく、国家事業と呼んでいいのかもしれない。決して褒められたものではないし、中華連邦の政治家全てが悪党とは思っていない。しかし残念ながら、最早少数の正義漢が立ち上がった所でどうなるものではないのだろう。

 

「その抗争の引き金を引いたのが、この写真の娘よ。1週間も経たないうちに敵対組織の人間をそれだけ殺し、なおかつ龍門という大組織そのものの崩壊を防いでいるんだから、只者ではないのは間違いないわ。絶対にお友達にしたくないタイプなのも確かね」

 

「……若い、ですね。というより、その……」

 

 凛子先輩が画像の女を見て、言い淀む。今までの話から想像できる悪辣な女傑、とでも言うべき人物像が、自身の目に入る姿という情報と結びつかずに戸惑っているのだろう。

 かく言う俺も、そのギャップに脳の処理が追い付いていない。何故って、静流先生の細い指によって指し示された女はどう見ても──

 

「女の子、ですよね。……もしかして、サイボーグとか?」

 

 俺の発想に、静流先生は首を横に振る。

 

「ビックリなことにこれが生身の本人よ。撮られたのが大昔って事でもないわ。2年前に父親、つまり先代の『12天使』首領が主催したパーティに出てた姿を隠し撮りされたものね。

 名前は黄龍。幼い頃から暗殺の英才教育を受けた筋金入りの殺し屋。それ以外の情報は無いわ。この写真を撮った人間も、凄惨な拷問を受けて殺されてる」

 

 それだけの補足説明でも、とびきりのヤバい女だという事は分かる。

 しかし、写真の少女はどう見ても10代に入りたての御令嬢にしか見えない。淡い青味がかかった銀髪をツインテールに纏め、髪色より深い青のチャイナドレスを着て、恰幅の良いフォーマルスーツ姿の男と談笑しているその姿からは、中華の泥濘に咲いた一輪の花とでも言える可憐さが伝わってくる。

 とても万単位の人間を平然と殺せるようには見えない―とは言うが、この世界には天使の皮を被った悪鬼なぞ吐いて捨てるほど実在している。

 更に言えば、五車にも元『ソッチ側』の住人が何人かいる。むしろ、こうした話に一々驚いたり、外面だけを見て先入観を抱く方がズレた感覚なのかもしれない。

 いやそれにしたって、そんな少女が巨大犯罪組織の長になるというのは驚愕するが。

 

「……確認ですけど、人間なんですよね?」

 

「調べた限りでは、ね。誰かさんみたいに若作りが異様に上手いって訳でもなく、見た目通りの年齢なのもほぼ間違いないわ。まあ、言いたいことは分かるわ。じゃあ何でそんな子どもが『12天使』の首領で、更に言えば乱暴すぎるやり方とは言え龍門のトップになれたのか?」

 

 その答えがこれ―と言う言葉とともに、もう1つ写真を取り出して俺たちに見せる先生。俺たちも言われるがままそれに目を通し、そして増々謎が増えた。

 何故って、その画像一杯に映っていたものは、ブヨブヨとした巨体から何十本と生える細長い体をくねらせ、ぬらぬらと液体をまき散らしているもの、即ち―

 

「……触手? の塊ですね」

 

「ええ、『触手獣』と呼ばれるものよ。ふうま君、知らない?」

 

「いえ、全く」俺が首を傾げながらそう応えると、

 

 

「うい~す。よっ、静流ぅ。やってるぅ? ……あれ、小太郎じゃん。まだいたんだ」

 

 と、あんまり場に似つかわしくない軽い口調で客が訪れた。静流先生はその顔も見ずに軽く溜息を吐くと、

 

「亜希……何度も言ってるけど、ウチは基本日付変更と同時に閉店なの。その後から入ってこられても客扱いはしないから、出せるのは水くらいよ」

 

「ああいやいや時間は分かってるって。今のは単なる挨拶だから、今日は飲みに来たんじゃないって。ほらこれ、彼女に頼まれて渡しに来たんだよ。例の魔薬に関する調査依頼、出してたんでしょ?」

 

「え? ええ、そうだけど……何で貴女が?」

 

「いやーフランシスの奴がさぁ、二日酔いだか風邪だかしんないけどえらく具合悪くなっちゃって。いや、鬼だから二日酔いはなんないか……まあともかく、間の悪いことに今事務所にいんのが探偵だけでさ、気の弱った病人置いて空にするわけにもいかないってんで、他の用事ついでにお使い頼まれたって訳」

 

「ええ……だったら貴女が看病……する訳ないわね」

 

「当ったり前じゃん! これがナーサラちゃんやミリアムちゃんならそれこそ寝ずに看病するよ、食事からシモの世話まできっちりとね! だけど何が悲しくてあんな無駄にデカい鬼女の面倒見なきゃなんないのさ。たとえ任務でもお断りだね。……っと、もしかして、お取込み中だった?」

 

「ええ、察しが良くて嬉しいわ。……あ、凛子ちゃんは初めまして、かしら。こちらふうま亜希。とある任務のためにヨミハラに滞在しているの。言うまでもないけど、ふうま一族の方ね」

 

 静流先生の紹介を受け、会釈とともに自己紹介を返す凛子先輩。

 そう、来客とは何を隠そう、俺の遠い親戚である亜希姉だ。昔はそこそこ可愛がってくれたが、彼女の興味対象から外れてからは御覧の通りの塩対応しかされていない。まあ病的なショタコン兼ロリコンである彼女に今も尚愛でられていたとしたら、それはそれで大問題だが。

 何とも間の悪い時に入ってきてくれたものだが、相手が亜希姉とはいえ一応礼儀は必要なので、俺も挨拶は返しておく。

 

「こんばんは。会うのは随分久しぶりですね。この店の常連だって話は聞いてたのに、今まで一度も顔を合わせませんでしたが」

 

「いや……だってお前が店員やってる時に酒飲みづらいじゃん。何か小言とか言われそうで」

 

 何だそれ、どんなイメージだよ。

 俺にも人情はあるからアル中や肝硬変だと分かっている人間に酒を出したりはしないが、酒豪の親戚が飲んだくれようが無表情でおかわりぐらい注ぐぞ。無論お代を払える限りにおいてだし、店内でセクハラなんぞしたら問答無用で出禁にするが。

 

 




 
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