※この作品はR-18です。

“女難の対魔忍”暗躍譚 ―対魔忍RPGX HAERESIS―   作:holdics

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ちょっと短いですが、ふうまの登場しないサイドストーリーの導入です。


Side Story : Crow & Mask 01

 

 Homines id quod volunt credunt

(人間は、己が望むことを信じる)                                                       

                                                            

                  ──ガイウス・ユリウス・カエサル著 『ガリア戦記』

 

 

 

 

 

「……やっぱり、これを座右の銘にするセンスはよく分かんないのよねえ、私」

 

「格言に文句付けるとは偉くなったもんだな。というか暇なだけだろ、お前」

 

 図星を突かれ、うぐ、と唸る女。

 その名を桐生美琴と言う。人格に問題はあるが、魔科医としての腕は現代随一である。

 対魔忍を想起させる肌にフィットしたハイレグのスーツに黒いレザーレギンスと、男の獣欲を煽るような格好だが、それは目の前にいる男に向けたものではない。

 無論実利を考えた結果でもない。単に彼女が奇抜な恰好を好むというだけである。

 

「だぁ~ってぇ……こういうただ待つってだけの時間は苦手なのよ。

 じっとしてたら無駄に緊張するだけだしぃ……あんたはよく平気よね」

 

「ほう、お前に緊張という概念が理解できたとは驚きだ。

 後は倫理観とか社会常識とかもインストールしてくれたら尚喜ばしいんだがな」

 

 私はアンドロイドじゃないっつーの! と美琴からツッコミを受けた男は八津九郎。

 褐色肌で禿頭の巨漢だが、諜報員としての能力は対魔忍の中でも抜きんでている。彼は黒いビジネススーツを着込んでおり、顔と相まって裏社会の幹部と見紛うような出で立ちだ。

 2人がいるのは九郎のオフィスであり、入口の上にある壁には先述した格言が掲げられている。

 厳選したホワイトオークの木板に、九郎自身が彫刻と装飾を施し文字を白墨液で書いたのだ。 

 

 九郎は今、デスクで着席しながらとあるファイルを読んでいる。

 彼にとって今後の活動方針を定める重要な記録が記されており、その内容を吟味するのに集中したい。傍に居てダル絡みしてくるマッドサイエンティストは、端的に言って邪魔でしかなかった。

 といって無視を貫くと余計に厄介なので、適当に返答はしてやっている。

 ちなみにファイルの文章は点字で記載されている。別に普通の文字でも能力を使えば読めるのだが、こちらの方が楽なので同僚たちは気を使って態々こうしてくれている。

 

「……でさぁ、どうなの。アナタご自慢の『彼』の様子は?」

 

「話すほどの事でもないな。お前の方こそ、対魔石の解析は進んでいるのか?」

 

 え、あ、いやぁ……と言いながら頬を掻く美琴。

 明らかに痛いところを突かれたという顔を見せた彼女に、九郎はふん、と鼻を鳴らす。

 

「絶好のサンプルが2体もいるんだぞ。少しは楽になっただろう」

 

「……私が言うのもなんだけどさぁ、仮にもヤバい目に遭った同僚をその言い方はどうなの?」

 

「本人の前では言わんさ。それよりお前の成果の方が問題だろう。まさか弟に負けるなんてことはあるまいな?」

 

 その一言は、九郎の予想以上に美琴のプライドを傷つけたらしい。

 表情こそ変化は無かったが、わずかな間ではあるが瞼が不規則に痙攣した。

 しかし、直ぐに平静を取り戻し、

 

「んーなワケないわよ。あの愚弟が人から指示された案件に集中できるわけないし。誰かさんの妹の尻追っかける方がよっぽど楽しいんじゃない?」

 

 と、笑いながら座っているパイプ椅子を回転させ、九郎に背を向けた。 

 美琴の弟とは、五車の保険医である桐生佐馬斗のことだ。お互いに自分の方が上だと言って譲らないが、九郎から見ればあらゆる意味でどっこいどっこいである。

 ちなみに彼にとって姉とは永遠に関わり合いたくない存在であり、彼女にとって弟とは永遠の下僕である。

 

「……それにしてもアミダバラの件は結構厄介だったわねぇ。

 腕利きの女対魔忍を拉致して洗脳改造しただけでなく、液化した対魔石を塗布して毒に用いるなんて……。

 彼女が攫われた経緯とか、アミダバラで暴れてた理由とかは、まだ分かってないんでしょ?」

 

「蓮魔の記憶は丁寧に消されていたし、一通り捜索しても何の手掛かりも出なかったんでな。蓮魔に取り付けられていた装置も完全にスクラップになってて解析不能。あの大暴れがテストの一環だったのか、不慮の暴走だったのかも分からん。分かったのは蓮間の改造をやったのが、お前に劣らない変態マッドだったって事ぐらいだ。

 上原の方は、そんな蓮魔が弄られている画像を送りつけられて、あんな所まで誘い出された……てのは確からしいがな。何故あいつなのかは、同じく分からん」

 

「……じゃあ、やっぱりテストだったんじゃない? 対魔忍同士を戦わせて対魔石の効力を確かめて、あわよくば新しい実験材料も捕らえる。筋は通ってると思うけど」

 

「通ってはいる。だが何で態々アミダバラなんだ。性能テストの類にはうってつけの場所かもしれんが、その分変な横槍が入る可能性も高くなるんだぞ。いや偶然俺たちがアミダバラ入りしてなければ、間違いなくもっと事態は混乱していたし、他の連中も参戦していた。

 なのに、あの周辺で不審な動きをしている連中も、その痕跡も一切なかった」

「あー……つまり騒動を監視している様子も、不測の事態に応じて回収に動き出す連中もいなかった、って事? 

 ……まあ、観察は望遠とか衛星とか方法はあるけど、周りに人員配置をしてないのは不用心すぎるわよね。調査の確度はどんくらいなの?」

 

「アミダバラに関しては、西園寺たちの仕事は当てになる。ノイの調査でも、あの騒動に乗じた動きは“魔術の面でも”なかったようだ。物事に絶対はないが、近くで蓮魔を見張る動きは無かったと思っていいだろう」

 

「……壊れた装置がデータ収集用のものだったとして、データだけ取って後のことはどうでも良かったとか? だとしたら随分適当な話だけど」

 

「敵の正体も分からん以上、根拠もなしにあれこれ想像しても始まらん。だから解析を進めろと言っている。

 今回は術が暴走するだけで、しかも直ぐ収まったから良かったが、下手をすればアミダバラが化け物だらけになっていたかもしれないんだぞ」

 

 はぁーい……と美琴が気の抜けた返事をしたのとほぼ同時。

 デスクに置かれた固定電話のコール音が部屋の中に響き、1コール目が終わる前に手が受話器を取った。

 

「俺だ。……ああ、だと思った。すぐ行く。桐生博士も一緒だ。

 …………ああ、そうだな。お客さん達がそれでいいと言うならそうしよう。……ああ、頼む。

 あ、それとあいつらの様子はどうだ? ……そうか。いや、ならいい。ありがとう」

 

 九郎が受話器を置くより早く、美琴は席を離れオフィスの出入り口に立つ。

 扉の開閉を行うタッチパネルの横に左手を置き、右手を腰に当てて振り返り、不敵な笑みを九郎に向ける。

 まるでこれから煌びやかで猥褻なショーでも始めるかのような仕草だ。

 

「『レディースアンドジェントルメーン!』……ってやつかしら? あ、今日のお客はレディースだけだっけ」

 

「あんまりおふざけが好きな連中じゃないからな、いつもの5割増しは真面目にプレゼンしてくれ。……それとせめて白衣は着てこい。視線誘導は逆効果にしかならんぞ」

 

 

 

 八津九郎は今、日本海に浮かぶ海上基地にいる。

 現在地は能登半島と朝鮮半島を直線で結んだライン上で、半径100キロ以内は完全に海しかない。ぎりぎり日本国の排他的経済水域内に浮かんでいるが、どの国の海図にもこの基地の存在は記されていない。

 この基地から海中に柱は一切伸びておらず、完全に建築物の浮力のみで存在している。

 当然波風の影響をもろに受けるし、本来ならば潮流によって否応なく流される筈である。

 

 しかし、この基地にその手の心配は無用だ。

 物理的な抵抗力ではなく、陰陽術による多重結界によって基地全体を覆うことで特定のポイントに固定し、外部からの干渉を防いでいる。

 さらに認識妨害魔術を行使することで、目視や魔術による探査は勿論、衛星やレーダー、赤外線といった方法で探知することもできない。これは現代でも反則レベルのステルス機能といっていい。

 公の海図には何もない海のため、付近を通る船舶が何も知らずに衝突する危険性がある──と思われるだろうが、術者が許可したもの以外が結界に触れた瞬間、基本的に全て透過してしまう。

 つまりセキュリティ面での憂いはほぼ取り除かれており、安全性は日本でも5指に入る要塞だ。

 その性質から察する通り、建設に当たっては対魔忍だけでなく、陰陽師や魔術使いも協力している。

 現在九郎たちは、主にここを陸の上ではやりづらい研究や調査、演習などを行う場として利用しているが、無論それだけのために、手間暇かけてこれほどの施設を作りはしない。真の設立目的は別に存在している。

 更に言えば、この基地の存在を知っている対魔忍は、九郎以外には総隊長である井河アサギだけ。即ち五車の中でも最上級の極秘施設なのだ。

 

 

 

 その基地のヘリポートに、今一機のティルトローター機が着陸した。

 太陽は東の空で光り、天気は雲一つない快晴である。

 侵入者を許さない結界の中といっても、屋根も壁もない屋外では強風が吹きすさんでいる。防風機能まで付けると只でさえ法外な予算がさらに跳ね上がるので泣く泣くオミットしたのだ。

 黒一色なその機体の両側面には星条旗がプリントされており、どの国の所属かをはっきり示している。

 無事に着陸した機内から出てきたのは3名の女性。皆嫌でも人目を惹く美人である。

 

 

「ようこそ名も無き牢獄へ。諸君らが初めての米連国籍を持つお客さんだ」

 

 そう言って出迎えた九郎に、1人の女性が手を伸ばす。

 印象に残る赤みがかった紫色──紫式部と紅桔梗の中間くらいだろうか──の髪が肩まで伸びている。目元は仮面に覆われているが、口周りだけでもその美貌は窺い知ることができる。

 

「こんにちは、ミスター。態々貴方に出迎えてもらえるなんて光栄だわ」

 

 そう言いながら九郎を握手を交わすこの女性は「仮面の対魔忍」と呼ばれている。

 米連国防総省傘下の「DSO(防衛科学研究所)」日本支部の支部長であり、魔都東京キングダムでも「4強」と呼ばれる勢力の1つ「クラブ・ペルソナ」のオーナーでもある。

 

「何、お前相手なら多少は時間を取るさ。……久しぶりだな、ミラベル・ベル軍曹。おっと、もう曹長と呼んだほうがいいかな」

「まだ正式に辞令は出ていません。……本当にお久しぶりですね、『中佐』。最後にお会いしたのは、7年程前でしょうか」

「まだ君が分隊長になる前に俺が渡米した時だから、そのくらいだろうな。それと階級呼びはご遠慮願いたいな。とっくの昔に除隊した身には些かむず痒い」

 

 そう言いつつ次に握手を交わしたのは、黒髪の黒人女性である。

 詰襟のきっちりとした米連の軍服越しでも分かる筋肉で盛り上がった腕や足からは、尋常ではない鍛え上げをされたことが伺える。

 最も、男女問わず大体の者はその逞しい四肢よりも、制服の前面が張り裂けそうなほどに膨らんでいる双丘の方にばかり目が行くだろう。2つの意味で、雌のバッファローを思わせる風格を持っている。

 彼女の名はミラベル・ベル。

 米連陸軍の特殊機械化部隊に所属する女兵士であり、国内はおろか世界で見ても有数の強化外骨格の使い手である。

 

「特殊機械化部隊」とは、2070年に試験創設された陸軍の中でも最新の部隊だ。

 歩兵戦闘車に搭乗する「機械化歩兵」とは異なり、所属する戦闘要員の殆どが部分サイボーグ、或いは強化外骨格の使用者で構成されているのが特徴である。

 主な任務は対テロ及び対ゲリラ戦闘、特に近年急増したサイボーグやドローンによる破壊活動を阻止するために出動することが多い。

 更に公表されてはいないが、米連内で活動する魔族の犯罪を阻止し、その跳梁を抑止するという裏の任務もある。その為、数年ほど前から対魔忍と技術や人材の交流を非公式に行っている。

 

 そして、「客」はもう一人。

 桃色の対魔忍スーツで身を包み、淡い栗色の髪を潮風に靡かせている美女がいる。

 “鋼鉄の死神”こと、甲河アスカである。

 口をへの字に曲げ、鋭い目つきで九郎を凝視している。不機嫌な様子を隠す気もないらしい。

 

「……何か言いたいことがあるなら、もったいぶらずに言ったらどうだ?」

 

「あるわよっ! そりゃっ!」

 

 九郎の声に堪忍袋の緒が切れたのか、アスカは風を吹き飛ばさんばかりの大声を上げた。

 人目も憚らず、ダンっと足踏み音を鳴らし両腕を真下へピンと伸ばす様はまるで駄々をこねる子供だ。そんな姿をミラベルは驚愕した顔で見つめ、仮面の対魔忍ははぁと溜息をつき、眉間に手を当てる。

 

「ちっともメールに返事返さないし! 偶に日本に帰ってきても会いにすら来ないし! その癖マダムとはちょくちょく連絡とってたんでしょうが! 今回の事だって私には一言も説明しないし! 一体何だと思ってるわけ私のこと!?」

 

 まるでつれない恋人か不親切な家族に詰め寄る口調だが、実際この2人はそれに近い関係だったこともある。

 

 甲河の里が襲撃を受け、数少ない生き残りとなった幼い頃のアスカは、一時期九郎に面倒を見られていた。最初はアサギが身元引受人になったのだが、何かと反りが合わず喧嘩が絶えなかったのを見かねた九郎が引き取ったのだ。

 その後、両手足を失い瀕死の状態になったアスカを仮面の対魔忍が救出し、既にDSOの一員だった彼女に連れられたアスカもまた、米連のエージェントとなったのだ。

 

 その経緯から、アスカは今も九郎を「九郎兄」と呼び慕っているが、九郎の方はアスカの現在と将来に責任と罪の意識を感じ、敢えて自身から遠ざけている。

 しかしその態度がアスカには無責任な振る舞いに感じられ、九郎も仮面の対魔忍からそんなアスカの心境を聞かされている。故に、今回は彼女をここに呼んだのだ。

 

「返信しなかったのは悪いと思っている。だがアドレスを教えてるだけ、どっかの当主よりはましだろう? ああ、最近交換したんだっけな。怪我の功名ってやつで」

 

「!! ……な、何でその事を」

 

 瞬間、般若の如き表情で仮面の対魔忍を睨むアスカ。

 慌てて仮面の美女は手を顔の前で振り、

 

「ちょっと、私じゃないわよ!? ……まあ、色々話してたのは事実だけど」

 

「今日はその辺を話し合う時間も作ってある。……まあ、ここで長話もなんだしさっさと中へ入るぞ。メインイベントの準備はとっくにできてることだしな」

 

 まだ何か言いたげなアスカをスルーし歩き出す九郎と、怪訝な顔でそれについていくミラベル。

 拳を握り込み怒りを爆発させそうなアスカだったが、仮面の対魔忍に尻を軽く叩かれ促されると、深呼吸を1度行い無理矢理気を落ち着かせ、保護者とともに2人の後をついていった。

 

 

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