"キラキラ"が見える運命の相手と出会うお話
マチュ:違和感を感じたまま大人になる
婚約者がいるようだが…?
シュウジ:"キラキラ"を共有できる誰かと出会うことが出来ずに大人になる。
画家の道を歩んでいたようだが…?
Let's get the Begininng ☆
「うげぇ…。」
確認したメールの内容に思いのほか大きな声が出てしまい、つい周りを見回す。
何人かコチラをチラっと見たような気がしたが、流石はビジネス街に繋がる電車の中。
他人の独り言に構っている暇などない、とばかりにすぐ目線を手元に移す。
実際、自分もスマホアプリで今日の予定の確認をしていたところだ。
そこに一通のメールが届いた…婚約者を名乗る男から。
『今夜、以前お話ししたバーに行きませんか?』
長々と口説き文句も並べられていたが、要約するとなんことはないお誘いである…一見すれば。
「魂胆みえみえだっつーの…。」
汚らしい下心に辟易する。
件のバーは、ホテル街のすぐ近くにあるのだ。
例えばバーで酔いつぶれたとして、すぐそこに"休憩"できる場所がある…どういうことかわからないほど子供ではない。
会うたびに胸や臀部に視線を集中する男の考えそうな謀だ。
「どうしよう…。」
厄介なのは、そのような下劣な視線は他人がいる場所では一切向けられてこないということだ。
母などは、あの男の猫かぶりにしっかり騙されている。
何故婚約者である自分には一切遠慮せずに性欲を隠そうとしないかというと…自分が圧倒的に優位な立場なのを自覚しているからだろう。
ユズリハ家は俗に言う"上流家庭"なのだが、男はそれを大きく上回るほどの上流階級だ。
それこそ…このイズマ・コロニーの中枢に食い込むほどに。
「行かなきゃ、ダメだよねぇ…。」
随分と諦めが良くなってしまった自分に溜め息がでる。
十代だったころは、気に入らない誘いなど突っぱねては母にお小言をくらっていたことだ。
大人になって、母の苦労を知りソレに報いたいと思うようになった。
だから…この誘いを断るわけにはいかない。
ココで自分の感情を優先すれば、一番被害が及ぶのは母なのだ。
ピルルルルルルルル
「!」
どう返信しようか、迷っているうちに電車の発車を知らせるベル音が鳴りひびく。
慌てて掲示板を確認すれば目的の駅だ。
一旦スマホをしまって、大急ぎで電車から出て改札口へと向かう。
「うわっ。」
「きゃっ!」
改札口から出て、「早く返信したほうがいいな」とスマホを取り出したところで誰かとぶつかってしまった。
カラリとスマホが転がっていく音とバサリと薄い紙が散らばる音が、ビジネスマンたちの雑踏に掻き消される。
「すいません、大丈夫ですか?」
顔を上げれば、目が隠れるほど髪を伸ばした青年が私のスマホを片手にもち、もう片方の手をこちらの差し伸べてくれていた。
(優しいヒトだなぁ…。)
不注意だったのはコッチのほうなのに、散らばった自分の荷物ではなく、私と私のスマホのほうを優先してくれたのだ。
ならば、コチラもそれに倣うのが筋というものだろう。
「大丈夫です。すいません、私のふちゅうい、で…。」
一旦手を取って立ち上がり、散らばってしまったノートを拾いあげる。
画家なのだろうか、素人の私でもわかる中々見事な芸術品のなかに…一枚だけソレが混ざっていた。
「‥‥‥‥‥‥キラ、キラ…。」
グラフィックアートというものだろうか、まるで"朝日に照らされた海"を彷彿とさせるソレに、一瞬で私の心は奪われてしまった。
「…え、わ、わかるの?これが…キラキラが。」
「うん…!わかる、わかるよ!これ、キラキラだ!」
興奮をそのままに、まるで子供のような口調で青年のほうに目をやれば…。
─前髪の隙間から見える瞳からも、キラキラとした輝きがみえた─
「僕は…シュウジ。」
「わ、私…マチュ。」
数秒、目と目があったまま固まった私たちは、まるでソレが決められていたかのように自己紹介をした。
私にいたっては、幼少期の愛称を名乗ってしまったが、何故か今は…その名前が相応しい気がして仕方なかったのだ。
これが私…アマテ・ユズリハとシュウジ・イトウの物語の始まりであった。