しかし「シュウジが結ばれるべきなのは、薔薇のララァ」と思い、失恋したと思い込んでいたマチュは彼の思いに応えることができずにいた…。
そんな二人のまえに"コチラの世界のシュウジ・イトウ"が現れる。
彼は、「マチュのために世界を書き換える」と彼女を連れ去り…
すれ違いを乗り越えて結ばれるシュウジとマチュ
そしてGQ世界のシュウジと‥‥のお話
人類の半数が犠牲となった一年戦争。
総人口の半分が死んだ…すなわち50%の確率、二分の一…二人に一人の人間が命を落とすということだ。
私自身が、その二人に一人の一人にならなかったのは…率直に言ってしまえば、親のおかげだ。
サイド6 イズマ・コロニー…連邦からもジオンからも中立を主張した生まれ故郷は、戦争の最中も終わった後も、比較的に安定した情勢を保っていた。
そんな平和なコロニーに家庭を築けるほどに努力したのが私の両親だ。
すなわち私は生まれた時から、否生まれる前から両親の恩恵を受けていたことになる。
ならば、その両親の言いつけをキチンと守り、安定した将来とやらのために勉学に励むのが筋というものだろう。
が‥‥
「あ~、ミスった~‥‥。」
人口の雨が降るなか、今日も今日とて学校終わりからの塾へ向かうために駅の改札口を通過しようとする直前で、妙なメールが届いたのだ。
ソレに気を取られて立ち止まった結果、目的地へと続く電車に乗り遅れた挙句に何らかのトラブルで運行休止となってしまった。
「どうしよ…急に暇になっちゃった…。」
塾に今日は欠席することを伝え、母にも事情を連絡しておいた。
ちなみに返って来た返事は「今日くらい子供らしく遊んでもいいじゃない。」というモノだ。
全く、自分の子供に理解のある親で頭が下がる思いだ。
「あ、ニャアンから返信きた。」
急にできた時間をどうにか有意義なモノにしなければという強迫観念のもと、数年前に知り合った親友に誘いをかけた。
色々と訳ありな経歴もあって、同年代よりも遙かにしっかりした…それでいてちょっと子供っぽいところもある彼女は、すぐさまコチラに向かってくるとのこと。
「ほんと…周りに恵まれてるよなぁ…わたし。」
自分を取り巻く家族や友人の有難みを噛み締めながら、傘をさし待ち合わせ場所へと向かう。
やがて待ち合わせ場所である橋が見えてきたが…
「うん?」
橋の下、悪天候も相まってより濃くなった暗闇の中で、キラリと光る"ナニカ"が見えた気がした。
まるで遠い宇宙の彼方で微かに光る星のような輝きが…。
(なんだろう?)
気のせいで済ませるのは簡単だ。でもなぜか私はそれが気になって仕方なかった。
ぐるりと周囲を見渡し、親友の姿が見えないことを確認して…私は橋の下へと足を向けた。
(!? 人がいる…!)
年頃は私と同じくらいだろうか。青い髪の少年が膝に顔をうずめて座り込んでいた。
(難民…?)
一年戦争が終わってから6年…未だに戦争の後遺症に苦しむ人々は大勢いる。
目の前の少年もまた、故郷を失い行く当てのない人間なのだろうか。
(どうしよう…!)
仮に、彼が難民なのならばすぐに役所に連絡して対応してもらうのが一番いいだろう。
…だが、何故だろうか。
スマホから電話する、そんな簡単なことが私にはできなかった。
少しでも目を離せば、彼がまるで最初から"この世界にいなかった"かのように消えてしまうと思えてならなかったのだ。
(…いやだ…。)
心の中に浮かぶ非現実な思考に、私はムキになっていた。
彼を見失いたくない、なんとかして接点をもちたい…そんな考えが湧き上がって仕方が無かったのだ。
「ね、ねぇ。アンタ…こんなところで何してんの?風邪ひくよ…ほら、雨も降ってるし…。」
「‥‥‥‥‥‥。」
勇気を振り絞って声をかけるが、彼からは何も返事が返ってこない。
雨音で聞こえなかったのだろうか。今度は少しだけ大きな声で話しかけよう。
「あのさ!もし難民だったら、役所に行けば支援プログラム受けられるよ!場所がわからないなら案内するし!」
「‥‥‥‥ほっといてくれ。」
「っ!」
返って来た拒絶な言葉に、ぐらりと足元が揺らぐような感覚に襲われる。
冷たい声色に怯んでしまったが、目の前の少年が幻ではなく現実に存在している証明だと自分を鼓舞することで持ち堪えた。
とはいえ、このままでは現状は変わらない。
(寒い…。)
人口の雨に加え水場に近い此処の気温は、他の場所よりもずっと低い。
いつからここにいるのだろう…このままでは本当に体調を崩してしまう。
いや…もしかしたらもう…!
「とりあえず!場所変えない!?近くにカフェあるから、コーヒーでも飲んであったまってさ!」
まるで逆ナンみたいだ。
心の中の私がまるで他人事のようにつぶやくが、最早なりふり構ってる場合ではないのだ。
一刻も早く彼を此処から移動させないと…!
「‥‥‥‥‥‥。」
しかしまたしても返って来たのは沈黙だった。
言葉にされずとも「どこかへ行け」と拒絶を突きつけられて途方に暮れた私は、なにか手はないかと周りを見渡した。
(・・・?)
そこでようやく気付いた、壁に描かれたグラフィティアートの存在に。
今までは少年に注目していたのと、そもそも場所が暗かったことで気づかなかった…極彩色の宇宙に。
次の瞬間、私はコロニーが造りだす重力の鎖から解き放たれて、ふわりと身体が浮き上がった。
(なに…これ……!)
塗りつけられたペンキからキラキラと光が放たれる。
それらはまるで天の川のような輝きで私を包み込んでいった。
光の奔流に押し流れるままに向かう先には…一際輝く、赤い星。
(‥‥なんで?なんでわたし‥‥ないてるの?)
眩しくも優しい輝きを見た瞬間、視界が涙で滲みだす。
どうしようもないほどに寂しく、悲しかった。
訳も分からず、ただただ涙が流れて止まらない。
そして…ようやく気付いた。
(そっか…これは、あのおとこのこのこころだ…このさみしさは、かなしみはあのこのものなんだ。)
なにか根拠があるわけではないけれど、それでも私にはわかる。
今私の頬を濡らす涙は、あの青い髪の少年の涙なのだ。
私が彼を見つけたのは、きっとその涙を止めるためなんだ。
さっきから聞こえていた声が止んだ。
雨音で聞き取りにくいのと、誰の話も聞きたくないというのもあって、なにを言われたのかなんて覚えてないけれど。
それでも気配はまだ残っている。
(さっさとどこかへ行ってくれ…。)
かつて悪夢に蝕まれた時のように身体が凍えて、動くどころか口を開くのも億劫だった。
そもそも運命の相手だと思い込んでいた相手に拒絶され、よそ者であるはずの"自分"によって住んでいた世界から追放された僕に行く場所なんてあるはずがない。
このまま朽ち果てるのが僕の運命なんだ…。
「…っ!コレ!アンタが描いたんだよね…こんな綺麗なグラフィティ描けるのに、こんなとこで燻ってるなんてもったいないよ!」
だというのに、まだしつこく声を掛けられる。
すぐそばの壁に描いたグラフィティを引き合いに出されるが…彼女の声を忘れたくないから彼女の言葉に従った、以上の意味はない。
僕には、なんの価値もないただの塗料にしかすぎない。
「こんなキラキラしてる絵…私、初めて見たよ!!」
"キラキラ"…その単語を聞いた瞬間、耳に入った音が聞き覚えのある声であることにようやく気が付く。
なによりも求めた、焦がれた太陽の声。
まさか、そんなはずは…恐る恐る顔を上げれば…。
「‥‥‥‥‥‥。」
目を見開いて、僕を見つめる"黒い髪"のマチュがそこに立っていた…!
やっと上げてもらえた顔に息を呑む。
整った顔立ち、長いまつ毛、暗闇のなかでもハッキリとわかる赤い瞳。
さっきの"宇宙"で見た光の粒子が再び現れ彼を照らす。
(きれい…。)
男性相手に考えたことのない感想が浮かんでくる。
顔に血流が集まって熱が籠るのが自分でもわかる。
たった一度、一目みただけで…私は完全に目の前の"男の子"に魅了されてしまっていた。
「な、まえ…。」
「え?」
「きみの、なまえは…。」
「っ!ア、アマテ!私の名前は…アマテ・ユズリハ!!」
見惚れているところに名前を聞かれて、一瞬言葉に詰まるもなんとか答えることができた。
「‥‥‥‥ま、ちゅ…!」
「‥‥え?」
返された言葉にまた疑問の声をあげてしまった。
頬に一筋の涙を流した少年が口にした"呼び名"は、幼少期の頃の私のあだ名だったからだ。
「なんで…その名前を?」
昔どこかで会ったことがあるのだろうか?
こんなに素敵な男の子、忘れるはずがないのに…。
「シュウジ。」
必死に記憶の海へと潜り込む私に、彼が呼び掛ける。
眼に涙を湛えながら、寂しげな笑みを私に向けて。
「僕の名前は、シュウジ。」
「シュウ、ジ…。」
枯れ果てた荒れ地に降り注ぐ雨のように、耳から入った音が全身に染み渡っていくのを感じる。
Let's get the beginning
記憶の海から引き揚げられたのは、先ほど届いた正体不明のメール。
私と彼の出会いのキッカケとなった…始まりを告げる言葉だった。