しかし「シュウジが結ばれるべきなのは、薔薇のララァ」と思い、失恋したと思い込んでいたマチュは彼の思いに応えることができずにいた…。
そんな二人のまえに"コチラの世界のシュウジ・イトウ"が現れる。
彼は、「マチュのために世界を書き換える」と彼女を連れ去り…
すれ違いを乗り越えて結ばれるシュウジとマチュ
そしてGQ世界のシュウジと"向こう側"のアマテ・ユズリハのお話
(マチュ…ちょっと、お願いがあるんだけど…。)
(ん?どしたの、シュウジ?)
(スカートやズボンの丈、もう少し長くしてほしいんだ。)
(え…似合って、なかった…?それともシュウジの好みじゃなかった、とか…。)
(いや違うんだ…。その、この前出かけたときにジロジロ見てる連中がいたから、それで…。)
(‥‥他の男に見られたくないってこと?)
(…うん。)
(………わたしを、独り占めしたい…の?)
(…うん。マチュは、僕のだから。)
シュウジと出会ってもうすぐ一年。
流れた月日のなかで色々と変化が起こったけど、その中でも大きなモノはよく"夢"を見るようになったことだろう。
シュウジ曰く、NTである私が"あちら側の世界"からきたNT…つまりシュウジと出会ったことで、"あちら側"を夢という形で観測できるようになった…
らしい。
もっとも観測できるのは"あちら側"にいる、元々この世界にいたというシュウジと…"あちら側"の私の私生活ばかりだ。
同じ顔をしているとはいえ、他人の私生活を覗き見するのには罪悪感が湧いてくる。
…観測した内容によっては、とても他人には言えないようなモノもあるし…いや、決定的な場面は流石に見たことは無い、まだ。
で、なぜ今になって夢の内容を思い出すことになったかというと…
「アマテ、さっきから何を見てるの?気に入ったのがあったら買ってあげるよ。」
「え!?い、いや別に…絶対に欲しいってわけじゃ…!」
特になにか欲しいモノがあるわけではなくショッピングモールを周るだけの、二人一緒の時間を過ごすことが目的のお買い物デート。
ブティックの前を通りがかった時に、展示されているマネキンが目に入ったのだ。
正確にはマネキンが身に着けているミニスカート…夢でみた"あちら側"の私が身に着けているモノにそっくりなミニスカートに目を奪われたのだ。
(これは…ちょっと、穿くのに勇気が…。)
展示するときに疑問に思わなかったのだろうか…そんな考えが浮かぶほどに丈が短い。
こんな布面積では、そりゃ人目を引くだろうし、恋人である彼も気が気じゃないだろう。
けど…。
(これを穿けば…"マチュ"っぽくなれるかな…。)
勇敢で、優しくて、そして強く。
好きなヒトのためならば、地球の重力にだって挑む彼女は私にとっては一種の憧れだ。
…いま隣にいる、愛しいヒトがかつて思いを寄せていた女性というのもあって、私は"マチュ"に少しでも近づきたかった。
親友の艶やかな黒い長髪を真似て、長年伸ばして愛着も湧いた自分の髪をバッサリと切ろうかと思う程度には。
それを止めたのは、他ならぬシュウジだった。
直接言葉にしてもらったわけではない。ただ…髪飾りをプレゼントしてくれたのだ。
『アマテに似合うと思って…気に入ってもらえたら、嬉しいな。』
そうはにかむ彼の笑顔に隠された優しさがとても嬉しくて…今ではこの黒く長い髪は私にとってはアイデンティティの一つと言ってもいい。
今の私で…"アマテ"のままでいいんだ、と。
だけど。
(スカートくらいなら、真似てもいいんじゃないかな…。)
伸ばすのに時間がかかる髪の毛と違って、服装ならばただ着替えるだけ…お手軽に変えられるものだ。
これくらいなら、シュウジも別に気を遣う必要もないだろう…そう思い隣に視線を向ければ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
心なしか頬が赤く染まった恋人が、ガラス越しにミニスカートを睨んでいた。
心を読み取ってくる彼からすれば、私がこのミニスカートを買おうかどうか迷っていることなど全てお見通しで。
そこから飛躍して…想像したのだろうか。
このちょっと過激な丈のミニスカートを穿いた私の姿を。
「…ねぇ、シュウジ。」
「えっ、あ…あの、ゴメン。ボーっとしてた…なんだい?」
「その…えっと…見たいの…?」
「‥‥え゛。」
「だから!…見たいの?コレを、穿いた、私を。」
「いや…その…あの…。」
たっぷり一分、耳まで真っ赤になったシュウジは…ただコクリと、頷いた。
女性向けのブティックについてきてもらうのには気が引けたため、シュウジには近くのベンチで待ってもらうことにして。
ひとり、ミニスカート片手に試着室に乗り込んだ私は途方に暮れていた。
「…外を歩くの?コレで…?」
姿見に映る、スカートを試着した自分の姿に戦慄する。
まさかここまでとは思っていなかったのだ。
太腿まで丸見えだ。少し走っただけでそこから上まで見えてしまいかねない。
店員さんは「今人気の商品なんですよ~~。」と営業スマイルしていたが、これが流行りのスタイルなのか…!?
イズマの風紀は大丈夫なんだろうか。
「ぐ、うぅ…。」
だが思い返してみれば、夢の中の彼女の服装スタイルは今鏡に映っている自分に酷似していた。
走るどころか飛び跳ねる彼女が、スカートの奥に隠れた下着を見せたことはない…少なくとも私の記憶にはない。
意外と大丈夫なんだろうか。そういうものなのだろうか。
…勇気を、出す時なのだろうか。夢の中の憧れのように…!
「あ…アマテ。おかえり。その…よく似合ってるよ!」
まだ薄っすらと赤い頬のシュウジが迎えてくれる。
その前に立つ私のスカートは…件のミニスカートと比べるべくもない、平凡なモノだった。
強いて言えば、膝から若干上…程度の丈だ。
結局勇気が出なかったのだ。自分の肌を衆目に晒す勇気が。
「…良かった。」
「…え?」
「いや、変な意味じゃなくてさ…。」
どこかホッとした声のシュウジに、反射的に疑問の声を上げてしまった。
頬を搔きながら、視線を泳がせるシュウジはやがて、しっかりと私と目線を合わせる。
「流石にあれだけ短いスカート穿かれたら…我慢できる自信がないから…色々と。」
「っっ!!」
思わぬカミングアウトに、今度は私がうろたえる番だった。
自分の顔に集まる熱が、耳まで真っ赤に染まっているであろうことを嫌でも自覚させてくる。
「あ…が、と…。」
「え?」
「あ、ありがとう…似合ってるって、言ってくれて…。」
「…こちらこそ、ありがとう。僕のために、着てくれたんでしょ?」
「‥‥うん。」
なんとか絞り出した感謝の言葉に、感謝の気持ちを返してくれるシュウジ。
それがとても嬉しくて、幸せで…。
だから、忘れていたのだ。今の自分の"守備力"がいつもよりも格段に低くなっていることに。
ビュウゥゥッ!
ショッピングモールの中を、コロニーが造った人口の風が吹きすさぶ。
「「あ。」」
それによって捲り上げられた布を、一瞬遅れて押さえつける。
まさか。こんな漫画やアニメみたいなことが。夢の中では大丈夫だったのに、なんで。
恐る恐る、恋人のほうを見やれば。
耳どころか全身真っ赤なシュウジ・イトウがそこに立っていた。
「~~~~~~~~~~~っ!」
「ア、アマテ!ゴメン!ほんとにゴメン!!」
恥ずかしさのあまり、その場でうずくまった私を必死で宥めようとするシュウジの奮闘は約一時間も続くのだった‥‥。
おまけ
「シュウジ!どうコレ!新しいルームウェア!」
「うんちょっと待とうかマチュ。流石に丈が短すぎるよなんならチラチラ見えてるよ。てか薄くない布地が透けてない?」
「でも…ここ私たちの部屋だしさ…独り占め、できるよ…?」
「うん落ち着こうマチュというか僕。あ待って近づいてこないで今ギリギリだからほんとマチュのこと大事にしたいからケダモノになっちゃうから!」
「シュウちゃんはなにを我慢してるんだろう?マチュのことでシュウちゃんが我慢する必要なんかないのに…。」
「マチュ、セメスギダ!セメスギダ!」
「ハイハイ、今晩ハロは私の部屋で寝ようねー。」