しかし「シュウジが結ばれるべきなのは、薔薇のララァ」と思い、失恋したと思い込んでいたマチュは彼の思いに応えることができずにいた…。
そんな二人のまえに"コチラの世界のシュウジ・イトウ"が現れる。
彼は、「マチュのために世界を書き換える」と彼女を連れ去り…
すれ違いを乗り越えて結ばれるシュウジとマチュ
そしてGQ世界のシュウジと"向こう側"のアマテ・ユズリハのお話
どうしてこうなったんだろう…羞恥心に茹だる頭で、半裸のアマテは考えていた。
すぐ隣では裸のマチュが"脱がされた"衣服で体を隠しながら「スケべ!変態!!ケダモノ!!!」と、三つの単語を繰り返し喚いており
前に目を向ければ、視界に映るのは"二人の"シュウジ・イトウが土下座する姿であった。
「…あれ?」
キラキラと煌めく粒子の中で、アマテは首を傾げた。
彼女の経験則にならえば、この光る空間は所謂"夢のなか"であり、その内容は"あちら側(とアマテは呼んでいる)"にいる自分とその恋人の私生活であったはずだ。
彼女自身、プライバシーの侵害だと思っていたが、どうも自分では夢の内容は制御できないらしく、多少罪悪感を感じながらも「夢は夢」と割り切りことにしていた。
が、今回は…
「あ~~!アンタ!ひょっとして"アマテ"!?」
「え…っと‥‥そっちは…"マチュ"?」
「私のこと知ってるの!?」
目の前に"赤い髪のアマテ・ユズリハ"が現れたのだ。
「うん…時々、夢で見てたの。マチュと…そっちのシュウジのこと。」
「そうなの!?私たちも見てたよ、アンタたちのこと!」
どうやら夢で覗かれていたのはお互いさまだったよう…"たち"?
マチュの発言に引っかかる部分があったアマテは「もしや…。」と思い、周囲を見渡した。
「あ…いた。」
「お~~い!シュウジ~~~たち~~~~!」
予想通り、同じ空間にいた二人の少年に向けて大声で呼び掛けるマチュ。
なんとなく、負けてはならないと思ったアマテもブンブンと両手を大きく振る。
それが要因になったかは不明であったが、二人の"シュウジ・イトウ"は、まるで競い合うように駆け寄って来た。
「「マチュ!!/アマテ!!」」
「うわっ、声でっか。」
「ど、どうしたの、シュウジ?」
出会ってそれなりに時間を共にしたが、ここまで大声を出すのは珍しい。
よくよく見てみれば、二人の表情は…特に"アマテのシュウジ"はどこか暗いモノであるようだった。
「「‥‥‥。」
口を縫い合わせたように黙る少年たちにつられるように少女たちも口を閉じてしまう。
しばしの間、場を支配していた沈黙を破ったのは…"マチュのシュウジ"。
「‥‥アマテとは、どう?」
「‥‥どう?とは。」
「仲良くやってるか、ってこと。」
「君とマチュに負けないくらいには。」
「‥‥‥‥そっか、良かった。」
眉をひそめたのも一瞬、ホッとしたと言わんばかりにマチュのシュウジが笑う。
それに顔のこわばりがほどけたアマテのシュウジは、腰を90°曲げて頭を下げた。
「あの時は…本当にゴメン。謝って済むとは思ってないけど…。」
「顔を上げて。確かに、怒ってないって言えば嘘になるけけど…キミを責める気は本当に無いんだ。」
もう一人の自分に頭を上げさせて、マチュのシュウジは真っすぐに相手を見た。
自分の行いが要因となって、悪夢の日々を過ごした少年を…。
「君には幸せになってほしい。君は…マチュを除けば唯一、僕の苦しみを知ってくれている人間だ。」
けれど…と俯くマチュのシュウジ。
「それは君が望んだわけではない。君がやったことは元をただせば、僕に返ってくる。」
「そっか…じゃあ、これだけは言わせて。」
「ありがとう。君とマチュのおかげで、僕はアマテに出会えたんだ。」
過去を清算し合い、二人の少年は握手を交わした。
それを見守る少女たちの瞳もまた潤んでいた‥‥。
「それにしてもさぁ。」
四人で地べた(といっても地面と呼べるモノなどない空間だったが)に座りながら雑談していたら、急にマチュのシュウジが呟いた。
「僕とマチュに負けないくらい、はちょっと大げさじゃない?」
「‥‥それ、どういう意味。」
がらりと変わった空気に、マチュとアマテは身を寄せ合う。
自分たちの恋人に怯えに気づかず、少年たちは静かに…しかし確実にヒートアップしていく。
「自惚れだって言ってるの。僕たちは、世界のほうが合わせるってくらいの運命で結ばれてるんだよ。」
「‥‥その割には、ソノ運命ってやつに気づくのに大分時間がかかったね。」
「他人に手伝ってもらわないと出会えなかった君が言うの?」
「そもそも君がマチュと出会ったのも、薔薇になった女性におかげじゃなかったっけ?」
いつの間にか、少女たちは手を繋いでいた。
ここまで感情を剥き出しにした恋人たちの姿は、彼女たちからすれば見慣れぬモノであった。
アマテに至っては初めての経験だろう。
しばし、にらみ合ったあと‥‥口火を切ったのはマチュのシュウジだった。
「マチュ。」
「え、なに…うむぅっ!?」
恋人の名を呼び抱き寄せたかと思うと、シュウジは彼女の唇を奪った。
そればかりか、音を立てて少女の唾液を吸い上げ、その代わりと言わんばかりに自身の唾液を注ぎ込む。
完全に口内を占領下におかれたマチュは、自身の水分を略奪され、そのぶんシュウジから補給を受けた。
数分がかりで行われた蹂躙のあと、マチュは力の抜けた身体を恋人の腕に預けることしかできなくなっていた。
「どう?」
これが本物なんだよ、と言わんばかりのどや顔で自分に問いかけるマチュのシュウジ。
それに怯んだのは、アマテである。
目の前で繰り広げられた蹂躙劇に己を投影した彼女は、その場を離れようとするも…
「アマテ。」
「ま、待って!シュウジ、お願いぃぃっ!?」
既に腕を掴んでいた自分のシュウジに、首筋に吸いつかれた。
ジュウッと吸い上げられた皮膚を嬲る舌の感触に腰が砕けるアマテ。
3秒と持たずに脱力した彼女の首筋から鎖骨へと、更にいつの間に緩めていた服の隙間から見える谷間へと唇が移っていく。
その電撃戦の速度に、負けてはいられないと言わんばかりにマチュのシュウジは、恋人の上に覆いかぶさった。
以上が、二人の少女を襲った悲劇の発端である。
密かに憧れていた相手に、己の痴態を晒してしまったアマテはズズッと鼻をすすった。
夢なら早く醒めて欲しい。
「アマテ…。」
土下座していたはずのシュウジが、いつの間にか寄り添っている。
周囲を見渡せば、赤い髪の少女もそのパートナーも姿が見えない。
もうすぐ夢から醒める、何故かわからないがアマテにはわかった。
「ゴメン。ほんとうに…ゴメン‥‥。」
もう何度目かわからない謝罪を繰り返す少年の姿に、アマテは自分の中から羞恥心が霧散していくのを感じた。
結局のところ、彼女は目の前の男の子に弱いのだ。
「…見られたくない。」
「え?」
「わたし…シュウジ以外のヒトに見られたくない。」
そっと少年の手を握ると、アマテはその手を自身の頬に当てた。
「約束して、シュウジ。わたしは‥‥シュウジだけのモノだって。」
「アマテ‥‥!」
感極まった少年は、愛しい少女をギュウッと抱きしめるのだった。
「マチュ。」
「‥‥‥‥‥‥。」
「お願い、マチュ。こっちを向いて。」
キラキラと煌めく空間で赤い髪の少女を抱きしめながら、シュウジは途方に暮れていた。
今回ばかりは本当に自分が悪いと自覚があった。
どうもあのもう一人の自分の前では、感情に抑えが効かないのだ。
「なんでもする。なんでもするから…許して。」
必死にすがる少年の声色に、マチュはデジャヴを感じていた。
そう確か…イオマグヌッソの時だ。
世界を壊すという…絶望の決意を固めたときの声だ。
(バカじゃないの…。)
自分が嫌われたとでも思っているのだろうか。
それこそ宇宙が生まれ変わってもあり得ない。
目の前の男の子への愛情が、毎日毎日溢れんばかりに、新たに生まれ続けていることに気づいてないというのか。
(ニブチン。)
「ゴメンね、マチュ。」
声色が明るくなった。
顔を上げれば、ヘニャリとした笑みを浮かべるシュウジ・イトウ。
これだから心を読める人間は、マチュは大きく溜め息をついた。
「ちょうだい。」
「いいよ。」
「何をって聞かないの。」
「マチュが欲しいって言ったら、なんだって用意するよ。」
ああ、本当に腹立たしい。
どこまで愛しいんだろうか、目の前の恋人は。
もう一度溜め息をついて、マチュは"怒っているフリ"を手放した。
「明日一日シュウジをちょうだい。グラフィティも機械いじりも禁止。…私と一緒に過ごして。」
「もちろん。マチュといられるなら、グラフィティも機械いじりもいらないよ。」
「それはダメ。」
グラフィティを描くシュウジも、機械いじりしてるシュウジも好きなの。
そう告げようとしたマチュの唇を、シュウジの唇がそっと塞いだ。