傷つき、外の世界に連れ出されてなお"自由"になれない少女のために
少年は海を目指す
マチュが最初から"カバスの館"のような娼館にいたら…というifの世界線です。
草木も眠る丑三つ時、目が覚めてしまった私は赤く塗装された金属の塊をよじ登る。
人型のソレの胸部に位置するコクピット…開け放たれたハッチの向こうで彼が、シュウジが眠っていた。
『僕はいつもここで寝ているから。』
そういってトレーラーに存在する唯一のベッドを私に譲った彼。
最初は私に気を遣ってくれているのだと思い、「別に私は床でいい」と「ベッドはシュウジが使って」と訴えたが
コクピットでスヤスヤと眠る彼を何度も見て「ああ、ここが一番落ち着いて眠れる場所なのだな」と納得した。
そう彼はここが一番落ち着くのだ。
温もりを持つ私の隣ではなく、冷たい金属の塊であるガンダムの中が…シュウジにとって安らぎの場所なのだ。
突き付けられた現実にギュウッと唇を噛み締める。
悔しい、悔しいとモビルスーツに嫉妬する自分のみっともなさに涙が出てくる。
滲む視界のなか、細心の注意を払ってモビルスーツから撤退する。
安らぎの場所になれないなら…せめてシュウジの安眠を妨げることだけはしたくなかった…。
「今日は一緒に寝ませんか…今日は一緒に寝ませんか…。」
鏡に向かってひたすらに予行練習をする。
かつて娼館にいた頃は息を吐くように言えたセリフは、シュウジのまえでは喉から先には飛び出してくれなかった。
それを乗り越えようと、練習に励むこと一時間…そろそろ覚悟を決める時だろう。
「………よし!」
パチンッと頬を張り、意気揚々と自室を飛び出す。
目指すは決戦の場、シュウジが寝床とする赤いガンダムのコクピットだ。
「シュウジ……まだ、起きてる~~~?」
蚊に掻き消されそうな音量で、ガレージの入り口から呼び掛ける。
返事はない。
深呼吸を三回、コクピットを目指す。
「…いた。」
返事がないことから察してはいたが、もう眠りについていたようだ。
もっと早く行動に移すべきだった。
後悔するも、ここで引き下がるわけにはいかない。
朝焼けに照らされる海に溶かされた心が、もっともっとと私を急かす。
シュウジを、求めてやまない心が。
「おじゃましま~す。」
先ほどよりも更に小さな声で、コクピットに入り込む。
こうなれば気づかれないように、コッソリ同衾してしまえ。
そして朝になったら、驚くシュウジに「これからは一緒に寝よう…?」とねだるのだ。
我ながら完璧な作戦だ、と自画自賛している…その時だった。
「へ?」
間の抜けた声が口から出ていく。
コクピットハッチが閉じたのだ。
間髪入れず、驚く私の身体を何かが引っ張り込む。
「捕まえた。」
耳をくすぐる、愛しい声。
聞こえてくるだけで、私を幸せにしてくれる…世界でたった一人だけのヒト。
顔を向ければ、暗闇のなかでもハッキリとわかる。
「マチュ。」
ニッコリと笑うシュウジがいた。
「今日は一緒に寝ようか。」
これは決定事項とでもいうように、腕の中に閉じ込められる。
(きっと、私はこれからずっとこうなんだろうな…。)
私の心を先読みして叶えてくれる…そんな魔法使いのような"恋人"に白旗を上げて
世界でも最も安らぐ場所で、私は眠りに落ちていった。
また一つ、勇気を振り絞ってくれた愛しい彼女。
この温もりを手に入れるならば、それ以外は何もいらない。
彼女に出会うまえから、僕はずっとずっとこうだったんだ。
だから、君もそうなってくれてもいいだろう?‥‥‥‥マチュ。