俺の名は藤井颯太。今年で二十九、立派なアラサーだ。
転生モノといえば、大抵はニートや引きこもり、クズばかりが主人公になるが、残念ながら俺はちゃんと職に就き、真面目に働いている。……え、彼女? そんなものいるわけがない。リア充なんてくたばれ。
つまりだ、彼女いない歴=年齢。そんな俺が、今こうして――。
あれはいつのことだったか。帰宅途中、駅のホームで列車を待っていたら、突然背中を押され線路へと突き飛ばされた。そこから先の記憶はない。おそらく即死だったのだろう。
だが――次に目を開けたとき、俺の視界に映ったのは、ばあちゃん家のような古い天井と、胸の大きな若い女、そして屈強な男の姿だった。
(……は? 何が起きた? 突き飛ばされて……死んだはずじゃ……?)
「ねぇあなた、この子の名前、どうしましょうか?」
「そうだな……“敬う”に“一”と書いて、敬一はどうだ?」
(おい、触るなオス猿。触るならその姉ちゃん――いや、ママにしてくれよ……)
二人の格好はどう見ても戦前の日本のもの。ふと視線を向けたカレンダーには「1937」の数字。……は? 日中戦争が始まってるだと!? もし神がいるならぶん殴ってやりたい。たとえアマテラスだったとしても。
――それから二年。俺は二歳となり、言葉も歩行も覚え、ある程度は自由に動けるようになった。
ここで両親を紹介しておこう。まず、俺の母――爆乳美女の蓮華(れんげ)。ナイスネームだ。次に父、一郎。……なんというか、名前の付け方が適当すぎる。だが仕事はしっかりしているらしく、ちらっと見えた階級章は中将クラス。どうやら鎮守府を任されるエリートらしい。艦これかよ。
俺もいずれ海軍に入るのだろう。そしてお気づきの通り、今は1939年。第二次世界大戦が始まった年だ。だがこの世界では歴史が少し違う。日本はドイツと仲違いし、代わりにアメリカと手を組んだという。どうやら中国問題で意見が合ったらしい。これなら大勢の人が死なずに済むのかもしれない。
――そして4年後、1943年。俺は6歳になった。やったぜ。
この年になると外に出て遊びたくて仕方がない。
「母上、外へ遊んでまいります」
「あら、最近よく出かけるようになったけど……お友達でもできたの?」
母・蓮華は相変わらず優しい。この時代、身分の高い家では子どもが勝手に出歩くと叱られることもあったそうだ。もしそうなら“箱入り息子”……いや、俺は“箱に息子を入れたかった”がな。
外に出ても、友人と呼べる相手は少ない。だが一人だけいる。
「敬一!」
唯一の友人、白狼 実(しらお みのる)。ポニーテールがよく似合う可愛らしい女の子だ。母親が抜群のスタイルらしく、将来はきっとナイスバディになると俺は勝手に期待している。
ある日のこと。
「ねぇ敬一、もし私が海軍に行くって言ったら、どうする?」
「ん〜……」
おいおい、冗談はよせよ。俺と同い年なのに、もうそんなことを考えているのか? ……いや、もしかするとこの世界では女でも軍に入れるのか? 俺と同じように――。
その日の夕暮れ、俺は家に戻った。屋敷の廊下は磨かれ、夕日が障子を朱に染めている。
母・蓮華は縁側に腰かけて編み物をしており、父・一郎は居間で軍の書類に目を通していた。普段の俺なら、彼らの邪魔はしない。だが今日は、どうしても伝えたいことがあった。
「父上、母上……」
声をかけると、二人は同時にこちらを見た。俺は一呼吸置き、思い切って口を開いた。
「もし、将来俺が海軍に入ることになったら……友人と、同じ部隊や部署にしてくださいませんか」
自分でも驚くくらい真剣な声だった。普段はほとんど我がままを言わない俺が、初めて心から望んだことだった。
蓮華は少し目を丸くしたあと、優しく笑った。
「まぁ……敬一がそんなことを言うなんて。本当に大切なお友達なのね」
父・一郎は黙って俺を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「海軍の人事は容易く動かせるものではない。だが……お前が初めて口にした願いだ。できる限り考慮してやろう」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「ありがとうございます……父上、母上」
俺は深く頭を下げた。
たった一つの小さなわがまま――それでも、俺にとってはこの世界で初めて「誰かと共にいたい」と願った瞬間だった。
入学式
――桜は散りかけていたが、俺たちの始まりを祝うには十分だった。
帝国海軍兵学校の門をくぐる。そこに――実。
「敬一!」
振り返った実が、春風に髪を揺らして笑う。
……おいおい。
久しぶりに会ったら、すげぇ大人っぽくなってんじゃねぇか。
胸元……やばいな。制服のボタンがはち切れそうだぞ。
これは俺の知ってる「真面目な幼なじみ」じゃない。
ナイスバディすぎるだろ……!
――落ち着け俺。ここは軍学校だ。
壇上から校長の声が響き、入学式が始まる。だが俺の目は、隣の実の横顔に釘付けだった。
式後の再会
式が終わると、母・蓮華が近づいてきた。
「敬一、おめでとう。」
「ありがとうございます、母上。」
俺は自然と背筋を伸ばす。両親の前ではやっぱり敬語になる。
「あなたが白狼さんね?」
蓮華が実に声をかける。
「は、はいっ! 白狼実と申します。本日はありがとうございます……!」
「ふふ、真面目でかわいらしい子ね。敬一、あなたがわがままを言うなんて珍しいと思ったら……なるほど。」
「え? わがまま?」と実が俺を見る。
母は俺に目を向けて笑った。
「敬一がね、『友と同じ部隊に入りたい』って言ったの。小さい頃から自分を後回しにしてばかりだったのに。」
「……母上、それは……」
「いいのよ。私は嬉しいわ。」
顔が熱くなるのをごまかしながら、俺は視線を逸らした。
――初めてのわがまま。それを叶えたいと思った相手が、実なんだ。
入学からの一週間
月曜日
新しい教室。窮屈な空気。
でも、隣に実がいるだけで全然違う。
「敬一、この計算はここで繰り上げるのよ。」
「おお、なるほどな。助かるわ。」
「……もう、そんな大げさに言わなくていいのに。」
顔を赤くして俯く実。
……いやいや、ちょっと待て。机に身を乗り出すと胸が強調されすぎて……おい俺!落ち着け!
未来の海軍軍人が授業中に何考えてんだ!
火曜日
武道の授業で竹刀を構える実。
真面目そのもので、打ち込む姿は美しい。
「はぁっ!」
「ぐっ……!」
竹刀が肩を打ち抜き、俺はよろめいた。
「ご、ごめん! つい力が……!」
「謝んな。強いのはいいことだろ。」
実は真剣な顔で頷く。
……いやでも、竹刀を振るたびに胸が――いややめろ俺!授業中だ!
水曜日
夕食後、中庭を歩く。月明かりが二人を照らす。
「この学校、厳しいけど……楽しいね。」
「だな。お前が隣にいるからだろ。」
「っ……! 敬一、そういうこと急に言わないで……。」
顔を真っ赤にして俯く実。
その仕草にドキリとする。
――真面目で可愛くて、しかもスタイル抜群。
なぁ神様、試練ってこういう意味じゃないよな?
木曜日 ― 崩れる日常
清掃の時間。重い桶を運ぶ実。
「……っ、すみません……。」
水が揺れて手が震えている。そこに、冷たい声。
「おい、白狼。水一つまともに運べねぇのか?」
三年の森田が腕を組んで立っていた。
取り巻きも数人。
「ひ弱な奴は、この学校には要らねぇんだよ。」
実の顔が青ざめる。
俺の拳は自然と震えていた。
――そうだ。甘い夢は長く続かない。
ここからが、本当の試練だ。
金曜日 ― 崩れた均衡
夕暮れの廊下。
人気のない掃除用具入れの前で、実の悲鳴が漏れた。
「やっ……! やめてください!」
実の制服の胸元を乱暴に掴む森田。
その手が、ためらいもなく柔らかな膨らみに触れた。
「おいおい、意外とでけぇじゃねぇか。」
「ひっ……!」
実の瞳に恐怖が宿る。頬を涙が伝い、肩が小さく震えていた。
……ああ、ダメだ。あれは見ちゃいけない涙だ。
「――そこまでだ。」
俺は廊下の影から一歩踏み出した。
「誰だ……って、一年の白鳥かよ。」
森田が舌打ちする。
「ガキは引っ込んでろ。これは上下関係の教育だ。」
「教育?」俺は鼻で笑った。
「女の胸揉むのが教育かよ。なら俺も教師にでもなるか?」
森田が振り返った瞬間、俺の拳が顎を撃ち抜いた。
「がはっ!」
鈍い音と共に、森田は後ろに吹っ飛び床に転がる。
実が呆然と立ち尽くす。
涙に濡れた頬を見て、俺はゆっくりと息を吐いた。
「……実。」
「け、敬一……?」
「大丈夫だ。俺が来た。」
胸に伸びた森田の汚ねぇ手を払いのけ、俺は実の前に立つ。
成敗
森田が呻きながら起き上がる。
「てめぇ……調子に乗りやがって……!」
「森田。」俺は冷たく言い放つ。
「胸を揉んでいいのはな――蹴られる覚悟があるやつだけだ。」
一瞬、実が目を見開く。
俺はニヤリと笑って肩越しに声をかけた。
「なぁ実。遠慮すんな。思いっきりやれ。」
「……えっ?」
「お前の足で。こいつの股間をな。」
実は顔を真っ赤にした。
「そ、そんな……!」
「いいから。俺が許す。」
森田が怯えた声を上げる。
「ま、待て、やめ――」
次の瞬間――
バキッ!
「ぎゃああああああああっ!!!」
実の足が正確に森田の急所を撃ち抜いた。
森田は床に崩れ落ち、情けない悲鳴をあげて転がる。
――うん。
股間を蹴られた男が廊下で転げ回る光景ってのは、何度見ても痛快だ。
なにせ俺は男だ。痛みはわかる。だからこそ、より気持ちいい。
そしてなにより――
普段は真面目で敬語しか使わない実が、俺のために全力で蹴ったっていう事実。
……はっきり言って、ちょっとエロい。
「け、敬一……わ、私……!」
「ナイスキックだ、実。」
実の頬に残る涙が、ほんの少しだけ笑みに変わった。
――ああ、守りたいって思った。
でもそれ以上に……こいつ、やっぱり最高だな。