※この作品はR-18です。

転生先は日本の軍人一族でした。   作:白狼悠

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12話 卒業と離れ離れ

卒業式は春の光に包まれ、桜の花びらが校庭を淡く染める。白鳥敬一少尉と実は、同期生たちと肩を並べて壇上に立っていた。校長から卒業証書を受け取るその瞬間、二人の胸には達成感と不安が入り混じる。――これからの日々は、甘くはない。けれど、この瞬間だけは、すべてを忘れ、ただ誇りを胸に刻むことができる。

 

式が終わり、配属先が告げられる。白鳥敬一少尉は佐世保基地の駆逐艦「時雨」の艦長として、実は横須賀基地の沿岸警備隊の一等兵としての配置が決まった。互いの目を見つめるが、言葉はなかなか出てこない。――別れはすでに、遠い未来のように感じるのに、確実に迫っていた。

 

「……そっか、離れ離れになるんだな」

「うん……でも、私、絶対に頑張るから」

 

二人は黙って手を握り合う。握った手の温もりが、恐怖や不安を押し流し、少しだけ勇気をくれる。こうして目の前の時間が、二人にとって最後の穏やかなひとときになってしまうのだと、どこかで二人とも気づいていた。

 

翌朝、汽車の駅に立つ二人。蒸気の匂い、汽笛の音、人々のざわめき――すべてが胸の鼓動を早める。敬一は一歩ずつ、汽車に近づく。実は目を潤ませ、涙で頬を濡らしながらも、笑顔を作ろうと必死だ。その表情の奥にある切なさが、敬一の心をぎゅっと締め付ける。

 

「敬一……行ってらっしゃい、白鳥敬一少尉」

「必ずまた会おう」

「うん、絶対だ」

 

互いにぎゅっと抱きしめ、最後の温もりを確認する。敬一は涙をこらえ、深呼吸して汽車のステップに足をかける。窓から手を振る実の姿に、胸の奥が熱くなる。――こんなにも大事な人を、すぐに遠くに置かねばならないことの残酷さ。

 

汽車がゆっくりと動き出す。実はホームに立ち続け、手を振りながら追いかけるように走る。泣き声が駅舎に反響し、敬一は握り返す手に力を込める。視界の端で小さくなっていく実の姿。心のどこかで、今この瞬間が永遠に止まればいいのに、と願ってしまう自分を抑えつつ――やはり、時間は止まらない。

 

――こうして二人の新たな航海が始まった。海も空も広く、見知らぬ任務が待ち受ける。けれど、この別れの痛みこそ、再び会うための誓いの証。距離が生む不安も、互いの想いを確かめるための試練にすぎないと、敬一は心の奥で知っている。

 

汽車の加速に合わせて、敬一は拳を軽く握り窓の外の実に向ける。涙で滲む視界の向こう、実の小さな姿が少しずつ遠ざかっていく。だが心の中では、二人の誓いと温もりが、強く確かに残っていた。

 

汽車の速度が徐々に上がる。蒸気の匂いと金属の振動が全身に伝わる中、敬一の視界には、まだ必死に手を振る実の姿がある。小さくなる背中に、心が張り裂けそうになる。――いや、これはただの別れではない。幼馴染であり、親友であり、そして――心から愛する人との、初めての長距離の別れなのだ。

 

「……実、しっかりしろよ」

つぶやきながらも、胸の奥は苦しく、自然と涙が溢れる。手を振り返すことしかできない自分に苛立ちも覚える。理性は、こうして状況を整理しろと命じる。けれど心の底は、まるで戦場の真ん中に置かれたかのように、制御不能である。

 

ホームの向こうで、実は涙をぬぐいながらも笑顔を作ろうとしている。その努力が、より一層敬一の胸を締めつける。――ああ、どれだけの人がこの瞬間、同じように痛みを感じているのだろう。だが、今の俺には、ただこの痛みを受け止めるしかない。距離は物理的には数百メートルかもしれない。しかし心の距離は、もっと遠く感じる。

 

汽車の先頭がホームを離れ、警笛が響き渡る。実は小さな手を精一杯伸ばし、走る敬一の目を必死で追いかける。その姿に、敬一は思わず拳を握りしめる。――この手の温もり、目の奥の涙、心の震え、それらすべてを胸に刻みつけなければ、後悔する。いつか再び会うその時のために。

 

「また会える……必ず」

心の中で繰り返す言葉に、涙が一層こぼれる。理性は叫ぶ、「早く現実に目を向けろ」と。しかし、感情はあまりにも生々しく、理性を無力化する。――愛とは、常にこのように人を無力にするのか。覚悟していたはずなのに、心はあまりにももろい。

 

汽車は加速を増し、ホームの実の姿がどんどん小さくなっていく。だが、敬一の心の中では、距離は決して縮まらない。いや、縮まないからこそ、次に会う瞬間の喜びは、今日の何倍にもなるのだ。――そう信じるしかない。たとえ目の前の景色が涙で滲み、胸の奥が痛みで痺れようとも。

 

目を逸らせば、窓ガラスに映る自分の姿。涙で滲んだ瞳と、固く握った拳。――無理やり理性で押さえつけても、心の中の熱量は消えない。恋はいつだって、こうして予想外の痛みを伴って人を成長させるのだろう。

 

汽車はついに駅を離れ、敬一は視界に残る実の小さな背中を最後まで追い続ける。――そしてその背中は、これからの長い任務、未知の航海、嵐のような日々において、心の中で静かに力となり続けるのだ。

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