※この作品はR-18です。

転生先は日本の軍人一族でした。   作:白狼悠

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17話 交戦

――1950年代後半。

戦争は終わったはずだった。

だが、海に船を浮かべれば、銃火の匂いは未だ消えちゃいない。

俺はそう思い知らされていた。

 

佐世保を出港した駆逐艦《時雨》。

任務はただ一つ――領海に侵入した国籍不明艦を追跡・警告すること。

 

「艦長、不審船、距離一万八千。速力十五ノット」

美月の報告。無表情の裏で、わずかに緊張が走っているのが見えた。

 

旗は……ない。識別信号も応答なし。

この時点で怪しさは十分だった。

 

「こちら日本国海上警備隊護衛艦《時雨》! 直ちに停船せよ!」

実が拡声器で叫ぶ。英語、日本語、中国語。だが、海に返ってくるのは波音ばかり。

 

――嫌な予感がした。

俺は平和を望んでいた。

だが、現実は甘くない。沈黙は往々にして敵意の表れだ。

 

「艦長!」

実の声が鋭くなる。

「相手、答える気はありません!」

 

直後、不審船が火を噴いた。

水柱が甲板にまで降りかかる。

 

――ああ、やはりな。

撃たれた以上、こっちも撃ち返すしかない。

どれだけ理想を語っても、戦場は理屈を許してはくれない。

 

「発砲確認! 交戦状態!」

美月の声。

 

俺は短く息を吐いた。

「全砲、撃てぇッ!」

 

12.7センチ連装砲が火を吹き、砲煙が視界を覆う。

轟音。衝撃。心臓が跳ねる。

不審船に直撃。火柱。悲鳴。傾き。

 

――これが現実か。

俺は艦長である前に人間だ。

人を殺すのは嫌だ。けれど、殺さなきゃ仲間が死ぬ。

なら、迷う余地なんてどこにある?

 

数分後、不審船は黒煙を吐きながら沈んだ。

 

「……敵艦、沈没確認。生存者、ごく少数」

実の報告が重い。

 

「救助せよ」

俺は言った。

どれほど卑劣でも、命は命だ。

助けるのが、俺たちの義務だ。

 

◆

 

――尋問室。

俺と実、美月の三人は、生き残った薄汚れた男と対面していた。

 

脂ぎった顔に血走った目。

まるで人間というより野犬だった。

 

「お前たち……どこの国の人間だ?」

俺は問う。

 

「答える義務はねえ」

男は鼻で笑った。

 

実が机を叩く。

「ふざけるな! なぜ撃ってきた! 答えろ!」

 

「へっ……俺たちはただ生きるためさ。密漁も密輸も武器も……何でもやる。国なんざ関係ねえ」

 

――そうか。

国に属せず、ただ飢えを満たすために。

それで船を出し、人を撃つ。

……なんて醜い。けど、ある意味で正直でもある。

 

美月が鋭い目を向けた。

「あなた方のせいで、こっちは死者が出てもおかしくなかったのよ」

 

「へっ……軍艦に喧嘩売るつもりはなかったさ。ただ、俺たちも必死なんだ」

 

――必死。

その言葉が耳に残った。

確かに、誰もが必死に生きている。

俺も、実も、美月も、この海で。

 

だが、だからといって銃を向けていい理由にはならない。

 

俺は椅子に身を預け、言い放った。

「……事情はわかった。だが、国を捨てたからといって海を荒らす権利はない。ここから先は法で裁かれる」

 

実が歯を食いしばる。

「艦長……こいつら、許せません」

 

美月は小さく頷き、冷たく言った。

「ええ。でも命は命。だからこそ、法に渡すんです」

 

――海は広い。

その広さは、夢を運ぶと同時に、闇も生む。

そして艦長である俺には、選ぶ義務がある。

理想と現実の狭間で、何を守るのかを。

 

そう、これは“ただの小競り合い”じゃない。

俺にとっては――この海を守る覚悟を試される戦いだったのだ。

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