私の名前は白狼 実。幼い頃から――いや、正確には覚えている限り、敬一のことはずっと頭から離れたことがない。
――あれは、私がまだ六歳の頃。遊び場で一緒になった彼は、私にとって初めての「友達」だった。小さくて、少し頼りなさそうで、でもどこか優しい存在。私はあの頃から、知らず知らずのうちに彼のことを特別に思っていたのだと思う。
小学校に入ると、最初は同じクラスで、毎日のように一緒に遊んだ。放課後の校庭、帰り道の角、笑い声を交わしながら手をつないで歩いた日々。あの頃は、世界が狭くて、でも幸せで、敬一と一緒にいる時間が私のすべてだった。
しかし、学年が変わるタイミングで彼は転校してしまった。理由は聞けなかった。寂しくて、何度も会いたいと願ったけれど、会えない日々が続いた。小学校の教室に入るたび、窓の外を見ては、あの角を曲がるときに敬一が現れるのではないかと期待した。けれど、現実はいつも静かで、私の胸はぽっかりと穴が開いたように寂しかった。
――中学校に進んでも同じだった。互いに学校が違い、友達関係や部活動で忙しい日々。手紙や電話があればよかったのかもしれないけれど、子どもながらにそれを恥ずかしく思い、結局連絡は取れなかった。あの小さな頃の温もりは、思い出として胸に残るだけで、現実の手触りはなくなってしまった。
年齢を重ねるごとに、敬一の存在は少しずつ心の奥で大きくなっていった。思い出すだけで胸が熱くなる――そんな感情を、誰にも言えずに抱え続けた。友達の話や学校での出来事を話すたびに、心の中で敬一と比較してしまう自分。心臓が早くなるのを感じながらも、口には出せず、ただひそかに想いを募らせる日々だった。
中学のある日、ふとした瞬間に初めて気づいてしまったこともある。胸が少し膨らみ、心臓が早くなる自分。敬一を思い出すだけで、心の奥がじんわりと熱くなる。――恥ずかしくて誰にも言えない。けれど、その夜、一人で彼を思い浮かべて少しだけ胸に手を当ててしまったこともある。心臓の高鳴りと混ざった不思議な感覚に、思わず息を止めてしまった。羞恥と胸の熱さが入り混じり、自分でも驚いたけれど、これが「好き」という感情の深さなのだと、痛感した瞬間だった。
時間は過ぎて、ついに海軍兵学校――高校に相当する学校――に入学する日が来た。桜が散りかけた春の朝、校門をくぐると、懐かしい声が聞こえた。
「実ー!」
振り返ると、そこに立つのは――あの幼いころから心に残り続けた、敬一だった。
久しぶりに会った彼は、ずっと大人っぽくなっていて、胸元が少し目立つ制服姿。私の心は一瞬で乱れた。
――おい、落ち着け。ここは軍学校だ。授業中のように冷静でいなくちゃ。
でも、彼の目が私を認めるように微笑んだ瞬間――胸の奥が熱くなった。守ってくれる存在だけじゃなく、私も彼を守りたい、支えたい。
入学式では、周囲の生徒たちが新しい制服に身を包み、緊張した表情で並んでいた。私は敬一の隣に立つと、胸が高鳴り、思わず背筋を伸ばした。心の中で彼の名前を何度も呼びながら、これから一緒に過ごせることを噛み締めた。
授業や訓練の日々も、彼と一緒だと特別に感じた。竹刀の授業では、真剣な顔で打ち込む彼を見て、胸がざわついた。放課後の廊下では、ふとした仕草に心が揺れ、独りで思い出すだけで胸が熱くなることもあった。
――その夜、私は一日の出来事を思い返して、少しだけ自分の心と向き合った。敬一の笑顔、力強く私を守ってくれた姿。胸の奥でじんわりと熱くなる感覚に、手をそっと当ててしまったこともある。恥ずかしくて目を閉じたけれど、それでもその気持ちは確かに「敬一への想い」として残った。
金曜日――廊下でのあの出来事。
胸を乱暴に触られ、恐怖で泣きそうになったとき、彼が現れた。全力で私を守ってくれたあの瞬間、私ははっきりと思った――
「私、敬一が好きだ」
彼が「思いっきりやれ」と言ったとき、顔が真っ赤になったけれど――同時に嬉しくて、認めてもらえた喜びで心がいっぱいになった。
――守られるだけじゃなく、私も彼のために動ける存在になりたい。勇気を振り絞れる自分になりたい――そう心の中で誓った。
それからも、学校生活は楽しいことばかりじゃないけれど、彼が隣にいてくれるだけで、私は少し強くなれる。
――忘れられない思い出、恥ずかしい内心の想い、そして揺るがない「好き」という感情。
それが私を動かす力になっているのだ。