夕暮れの校庭を抜け、俺と実は町へと向かった。
「敬一、こっちに新しい店ができたんだって!」
実が元気に前を歩く。その後ろ姿に目を奪われる。ポニーテールを解いた髪が肩にかかり、淡いブルーのワンピースが柔らかく揺れる。
――正直に言うと、俺の心臓はバクバクしている。普段の制服姿も可愛かったが、私服になるとまた別の魅力がある。無防備さと上品さが混ざり合い、理性が危うい。
「……あの、実、その服、似合ってるな」
思わず口にすると、実は顔を赤らめて俯いた。
「え……そ、そんなこと……!」
その小さな声が、胸に刺さる。
街は戦後の再建期で、ところどころ工事中の建物が残るものの、商店街には活気が戻っていた。露店や喫茶店、駄菓子屋には子どもたちの笑顔が溢れる。
「じゃあ、まずあの駄菓子屋に行こうか」
俺が提案すると、実は嬉しそうに頷き、手を軽く握る。
――手を握るだけで心が熱くなる。小さな幸福が胸の奥に広がる瞬間だ。
駄菓子屋の中は、戦後の物不足を経ても色とりどりの菓子が並ぶ。
「わぁ、なつかしい!」
実は目を輝かせ、ラムネ菓子を手に取る。
「一緒に食べよ、これ」
俺が差し出すと、実は恥ずかしそうに笑う。
「え……あ、ありがとう」
小さな手が指先に触れ、その感触に心臓が跳ねる。
駄菓子屋を出て、次は文具店に寄った。色とりどりのノートやペンに、実は目を輝かせる。
「敬一はどれが好き?」
「俺? うーん……君が選ぶものなら何でもいいな」
口に出すと、実はまた顔を赤くして俯く。
町を歩きながら、実は戦後の町や自分の好きなものの話をしてくれる。
「この喫茶店、昔は映画館だったんだって」
「へぇ、戦後はこうやって少しずつ変わっていったんだな」
そして、ちょっとしたラッキースケベ発生。
路地の段差で実がつまずき、腕を伸ばして俺の肩につかまる。
その瞬間――ワンピースの裾がふわっと膨らむ。
――思わず反応してしまった。
「……なんだこれ、どうしてこうなるんだ!」
心の中で叫びつつ、必死に平静を装う。
実は両手で裾を押さえ、顔を真っ赤にする。
「け、敬一……見ないで……!」
そのかわいらしい恥じらいに、心が締めつけられる。
午後の陽射しが傾き、カフェに入る。窓際に座ると、実は窓の外を眺めながらアイスクリームを口に運ぶ。
「うん、やっぱり甘いものは癒されるね」
「だな、こういう時間も悪くない」
会話は途切れず、笑いも絶えない。たまに実がつまずいたり、俺が支えたりする小さなハプニングも楽しい。
――夕日が町を朱に染め、長い影が二人の足元に落ちる。守るべきもの、守られる幸福、そしてこれから訪れるかもしれない小さな波乱――すべてが今日を特別にしていた。
帰宅の時間。駅前で別れ際、実が少し身を乗り出す。
「じゃあ、また明日ね」
――その瞬間、おでこに軽くキスされた。
「……っ!」
頬が熱くなる。恥ずかしそうに微笑む実の表情が胸に刺さる。
――ああ、今日の思い出は、夜のおかずになるやつだ。
股間の反応を押さえつつ、頭の中ではラッキースケベの記憶とおでこキスが渦巻く。
「う、うん……また明日」
実は小さく手を振り、帰路につく俺も手を振り返す。
夕暮れの町並み、駄菓子の匂い、実の香り……すべてが今日の幸福として胸に刻まれる。
夕暮れの駅前。帰り道の分かれ際、私は少し勇気を出して敬一に近づいた。
「……敬一、今日はありがとう」
頬が熱くなるのを感じながら、自然と小さく微笑む。
そっと顔を近づけ、敬一のおでこに軽くキスをした。
「……っ!」
驚いたように目を見開く敬一。私の頬は真っ赤で、心臓がバクバクと速く打っている。
「また明日ね」
恥ずかしさと照れくささで顔を少し背けながら、私は手を振る。
敬一は少し照れたように笑い、でも優しく手を振り返してくれた。
――ああ、これで気持ちが少しでも伝わったかな。
帰宅後、部屋に入ると、心臓の高鳴りがまだ収まらず、布団に丸くなってしまう。
今日の出来事――おでこにキスしたこと――が頭から離れず、顔を手で覆いながら恥ずかしさに焦ってしまう。
廊下の隙間から、両親がそっと見守っているのに気づく。
「ふふ……これが娘の初恋ね」
「無理に何か言わず、見守ってあげよう」
優しい声と視線に、少しだけ安心しつつも、私の胸はまだドキドキしていた。