八幡森詠子は、聖性と魔性を併せ持つ女だった。
彼女は、自然体で自由に振る舞い、刀剣男士たちをその糸で絡め取っている。
八幡城は、家庭的で穏やかな場所であり、裏では詠子を巡る愛の遊戯盤であった。
ある者は恋をし、従順に。ある者は反発している。刀剣たちの多種多様な詠子への想いは、彼女を悦ばせた。
完成された“美”である刀剣たちを、自らの手で堕とすのが、主の愛玩の仕方である。
そう、あくまで愛玩対象なのだ。詠子は、愛情に愛情を返さない。
愛情は、自分に捧げられるべきものであり、詠子が応えることはなかった。
八幡城の朝。審神者は、近侍に挨拶をする。
「おはようございます、山姥切長義」
「…………」
「本日は、よろしくお願いいたしますね」
「……ああ、よろしく」
「わたくしは、厨へ行きますので、貴方は待機してくださいましね」
「分かった」
詠子は、着物の上に割烹着を着て、燭台切光忠と共に朝餉の支度をした。
彼女は、家事全般が得意である。
朝は、緩やかに過ぎていき、審神者は刀剣たちに命を下した。
「長義。執務室へ行きますよ」
「ああ」
ふたりきりの部屋。詠子が書類を片付ける音だけが響く。
「……主」
「はい」
「俺を、君の一番にしてくれないか?」
「あらあら。それは出来ませんわ。わたくしは、貴方たちの審神者ですもの。誰か一振りを選ぶなんて、とても出来ません」
「主が、俺のことをこんな風にしたんじゃないか…………」
長義は、かつて詠子に矜持をズタズタにされ、現在は彼女を慕っていた。
「まあ。いじらくて可愛いですわね」
詠子は、うっとりとした表情で言う。絶対の支配者の笑みだ。
「主…………」
長義が、詠子を畳に押し倒す。
「うふふ。可愛いですね。わたくしを、そんな目で見て」
彼女には、愛玩動物のように見えている。
「俺を選んで…………」
「……わたくし、怒りますわよ?」と、わざと冷たく告げた。
「ご、ごめん。悪かった。嫌わないで…………」
長義は、詠子の手首の拘束をやめた。
「貴方を赦します。今夜は、ちゃんと可愛がって差し上げます」
「うん。分かった」
頭を撫でられ、長義はほっとする。
その晩。詠子の寝所では、一糸纏わぬ長義の後孔を愛撫する主の姿があった。詠子は、着物を一切崩していない。
「あ、あっ♡」
「気持ちいいですか?」
「ひっ♡ こんな、こんなの♡ 俺じゃ、な♡」
かき集めた理性が、そう答えさせる。
「いいえ。貴方ですよ、山姥切長義。わたくしに攻め立てられて、蕩けているのは」
「あっ♡ あるじっ♡」
「もう一度、訊きます。気持ちいいですか?」
「き、もちいいっ♡」
「よろしい。それでいいのです。偉いですね、長義。わたくしを愛し、わたくしに従い、尽くすのですよ?」
強過ぎる快楽に、山姥切長義は、赤い頬に涙を流し、こくこくと頷くことしか出来なかった。
詠子の調教の成果は、確実に実っている。その甘い果実を、女は美味しそうに食べた。