少女X家庭教師X依存 作:霧里
夢見心地だった。
ふわり、ふわり、ふわふわと、雲の間を泳ぐような感覚に、母親の温もりを思い出す。もう思い出すこともないと思ってた。まだ覚えてる自分に驚きもする。
胸が苦しい。なぜだか体が熱い。喉が渇いて、あまりの息苦しさに目が覚めた。
いつの間に、眠ってしまっていたのだろう?
最近はいつもそう。ケーキを食べ終わった後、先生が部屋を出ていったのまでは覚えている。必死に起きていようとはするけれど、足元に広がる泥沼に引きずり込まれるようだ。まぶたが重い。気づいたときには机に突っ伏していて、抗えない眠気に飲み込まれる。
「ん……ぁ、れ?」
彩花が目を覚ますと、部屋の中は薄暗くなっていた。
カーテンの隙間から差し込む光が目に刺さり、反射的に顔を逸らす。
身動ぎを一つ。頭の裏に感じる柔らかさと、背中を包み込むような感覚がある。
先生が移動してくれたんだろうか?
早く、起きないと。眠りに落ちる前の最後の記憶。渡されていた問題集は、何ページだって進んでいない。そう思うのに、体は思うように動かなかった。
寝起きの気だるさと言うには、あんまりに しんどい。ズキリと走る痛みに力が抜けそうになる。
「おはよう、彩花ちゃん」
「せん、せい?」
声を掛けられ、ようやく先生が目の前にいることに気づいた。
ぼんやりと浮かぶ面影に目を細める。状況がまるで分からなかった。もしかしたら、私の見間違いなんじゃないかって、目をこすって、頭を振ってみても何も変わらない。
ベッドの上で寝ている自分。
先生を見上げている私。
まともじゃなかった。いつか、こうなる事を望んではいた。けれど、こんな風にされたかった訳じゃない。瞳から涙が溢れてくる。恋慕と、愛情と、嫌悪感と、忌避感と……葛藤が胸に渦巻く。
いつからなの?
体の反応が止められなかった。頬を撫でられただけで肌が震えた。
顎を持ち上げられ、不意に唇を塞がれる。交わした唇が温かい。ふわり……心が弾んでしまう。先生の指を舐めた時と同じだった。恐る恐る、躊躇いながら開いた口の中へ舌が入り込んでくる。
初めてのキス。
異性との深い繋がり。
その心地よさに頭がぼやけた。
心に浮かんだ黒いシミが漂白されていく。なんとか顔を逸らそうとしても、無理矢理に前を向かされた。先生のこと意外何も見えない。反射的に引っ込めた私の舌を捕らえるように、舌先が絡みついてくる。
「んふっ……ぁ、ぁっ、んっ、はぁっ、はっ、すぅっ……ふっ……ぁ♥」
息苦しい。鼻息が荒くなる。自分のベッドの上にいるはずなのに、常には無い匂いの強さに目眩がした。僅かな汗臭さ。リビングや、お風呂場でだって嗅いだことのある匂い。普段は消臭剤で誤魔化されているはずの匂いだ。男の人の、先生の匂いが部屋に充満している。
なんで? どうして? 頭は混乱したまま。先生に求められるのは嬉しい。
けれど、こんないきなり、何も分からないままなのは。
僅かに芽生えた拒絶の心が、少しだけ体に力を取り戻させた。
先生の肩を掴んで、押しのけようとして、けれどビクともしない。
大きな男の人の体が覆いかぶさっている。がっしりと肩に、太い腕。力強い筋肉の動きに、指先が押し返された。
「せんせ……やめ、少し、まっ……ぁっ、んっ……んんぅ」
抵抗らしい抵抗もされなかった。先生の肩に手を置いた私は、自分から抱きついたようにも見えただろう。声を上げても、聞いてもらえない。些細な呟きさえも黙らせるように、また唇が塞がれてしまう。涎が溢れる。絡め取られた舌が、甘く溶けるようだ。気持ちがいい。先生の唾液が、口の中に入り込んできた。
くちゅり……掻き回されて、くちゅり……混ぜ合わされて。苦しさに耐えきれなくなった私は、とうとう喉を鳴らしてしまった。
ごくり……
私達の混ざった唾液が、喉奥へと流れ込んでくる。
倒錯的な陶酔だった。先生のものを私の中へ受け入れる。満たされる喜び。
それと同時に、またどこがズキリと痛む。お腹が熱くなっていた。その熱が、毒のように全身に回ってくる。
「なん、で?」
ようやく、それを口にするのが精一杯だった。
理性なんてどこにもない。「君が悪いんだよ?」言われて、戸惑う。
前からこうしたかった。君が欲しかった。男の前で無防備に寝息を立てるから。
「愛してるよ、彩花ちゃん」
その言葉さえ、信じてしまう。
自分の母親を、戯れに抱いているような男の言葉だ。
普通に考えれば、リップサービスにもなり得ない。その場限り。ううん、その場しのぎでさえあった。
なのに……なのに。
胸が苦しい。
溢れる涙が止まらない。
ずっと、ずっと、その言葉を誰かに言われたかった。
嘘でもいい。今だけでいい。私のだけの、私のものに、なってくれるなら。
ズキリ……お腹が痛い。奥を押し上げられるような感覚に、軽く息を吐き出した。
「んっ……♥ はぁ……ぇ、ぁ」
固くて、熱いものが、私の中にある。
それは、机の角で自分を慰めていた時よりも、もっと深くまで広がっていた。
見下ろした自分の体。ブラウスは開けて、胸の膨らみを隠すものは何も無い。
捲れ上がったスカートの向こうには白い素足が覗いて見えた。ほとんど裸と変わらない。ブラは外され、脱がされたショーツもどこかにいってしまっている。
大きく足を開かされた格好は、少しだけ滑稽だった。
恥ずかしくなって足を閉じようにも、伸し掛かってくる先生の体に阻まれる。
「ダメだよ、彩花ちゃん。ちゃんと足を開くんだ。出来るよね?」
「……」
頷く私は幼子のようだった。不安を押し殺して、先生の肩を掴み直す。
言われるまま足から力を抜いた。「いい子だ」と頭を撫でられて嬉しくなる。
先生の体重が体に掛かり、腰の周りが重たくなった。ベッドの底へと沈んでいくみたい。もっと奥に、ずっと深くに。ズキリとした。感じる先生の熱さに、お腹が煮え滾る。痛みが痺れに変わっていく。繰り返される抽挿に、体が浮き上がりそうだった。
ふわり、ふわり、ふわふわと、甘い夢を見ているよう。
深い所に先生が触れるたび、体が求めてしまう。
大きな背中に手を回して、抱きつく手に力が入る。引き抜かれていく刺激に腰が震えて、背筋が伸び上がった。反射的に太ももが閉じる。足の指が踊りだしそう。また、先生が奥まで入ってきて、言葉を失くしてた。
私の体は、私のものじゃなくなっていた。
先生のものにされていく。与えられる刺激に反応するだけの人形みたいだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」息が上がる。鼓動が乱れる。たださえ、おぼつかなかった頭の中はもう真っ白だ。
「中に出すよ、良いね?」
優しい声音が深く響く。いつもの先生の声。私を安心させてくれる、大好きな先生の声。でもそれは、私を気遣ってくれるものじゃなかった。欲望をぶつけるための準備だ。私を煽って楽しむためだけの言葉。
中に? 何を?
分かっている。わかっているのに。知らないフリをした。
何も考えたくない。先生からの愛情を失いたくない。ただ身を任せていれば良い。
自暴自棄にもなる。それで全部終わるなら、終わってしまえ。何も我慢しないことが、こんなに気持ちがいいのなら。心が震えた気がした。震えた心がズキリと痛む。些細な忌避感だ。でもそれは、感じた愛情との見分けが付かない。
「……はい」
頷いた。頷いちゃった。興奮と期待で、胸が張り裂けそう。
奥を一突き。抽挿が止まる。先生が腰を大きく震わせた瞬間、私の中で何かが壊れた。
****
何が起きたのかわからない。
気づけば完全に日も暮れて、カーテンから差し込んでいた赤い色もすっかりと色褪せてしまっていた。
ベッドに取り残されたまま、動けない。
頭では分かっているんだ。
さっきまで、先生と体を重ねていた。
けれど、実感なんてまるで湧いてこない。
気づけば眠っていて、気づけばベッドに寝かされていて、気づいた時には全部が終わってた。寝ぼけ眼が、今になってようやく覚める。それも今更だ。
嫌だとは……どこかで思っていたはずなのに。熱に浮かされた体は、素直に愛撫を受け入れる。どこに触れられても体は痺れ、快感に思考が乱された。
何かがおかしい。分かっていても、先生の言葉に抗えない。霞んだ理性は体の疼きを止められず、心が求めるままに体を開いてしまった。
ズキリ、心が痛む。
初めては、もっと良いものだと思っていたのに。例え、想像とは違っていても、事実に置いてけぼりにされるよりは良い。まだ、夢を見ているみたい。
部屋に漂う精の残り香。体に残る快楽の残滓。そんなものさえなければ、酷い妄想だったと自嘲も出来たのに。
今の私は一人きり。隣で慰めてくれる人はいない。
制服は乱されたまま。揉みしだかれた胸の膨らみには、まだ先生の体温が焼き付いているようだ。汗も乾いて、冷えた肌に悪寒が走る。湿ったシーツの感触が気持ち悪い。
ズキリ……お腹が痛む。
体を起こそうとして、起き上がれない。痛みが微熱に変わって、軽い火傷のような疼きを生み出した。触れた下腹に傷はない。乾いた何かの痕が、パラパラと剥がれ落ちるだけ。まだ、違和感が残ってる。伸び切ったゴムは、元に戻らない。そんな喪失感も重なって、心は更に重たくなった。
「なん、で……」
ただ、愛されたかっただけだった。誰でも良かった。一人でいい。それは、そんな贅沢な望みなの? なんで、私ばっかり……。こんな、こんなのって、それなのに……。
先生のことを嫌いになりきれない。
まだどこかで、もしかしてって思う。
大人の階段を昇った私は、母よりも一段と高いところにいるはずだ。
今までの自分じゃない。母より私は価値がある。少なくても、先生に愛されるのは私のはずだ。
期待ですら無い願望に縋る。
見上げた先は真っ暗だった。階段を昇ったはずなのに、崖に近づいているような予感さえあった。それでも、それでもいい。今まで積み上げてきたもの。
失くしてきたものが多すぎた。その全部が無意味だったとしたら……。
居ても立っても居られない。後退りしようとして、何も無いことに気づいてしまう。
想像した恐怖に耐えられなかった。