少女X家庭教師X依存 作:霧里
学校の玄関。
彩花が靴を履き替えていると、後ろから声を掛けられる。
「おはよう、篠宮」
慣れ親しんだ声。けれど、記憶よりも低くなった声。
咄嗟に名前を呼び返そうとして、口ごもってしまう。彼をなんて呼んで良いのかわからない。「悠真」口癖のように、名前を呼びそうになった。
廊下の片隅に張ってあった私の似顔絵。
窓ガラスに映って見えた今の私より、少し幼く見えた。
それが手癖だったのかは分からない。あるいは、彼の中にいる私が当時のまま、幼いままの私だったのかも。けれど一つ。分かったことがある。「佐藤 悠真」ああ、そうだ。似顔絵の下に書いてあった彼の名前。それを目にすると同時に、忘れていた記憶が浮かんでくる。
男女の区別なんてしなかった頃。
それとなく意識し始めた頃。
クラスの子達に冷やかされて、ケンカをしていた事もあったっけ?
懐かしむ反面、恨めしくも思う。
どうして、私の手を離したの?
自分だけ他の子と遊んで、楽しそうにして。私はどんどん一人になるしか無くて。
ああ、違う。彼はちゃんと誘ってくれていた。「一緒に遊ぼう」「一緒に帰ろう」断ったのは私の方。最初は、小さな意地っ張り。「友達」だと言われたのが少し面白くなかった。「勉強しないと」「急いで帰らないと」そう言って、彼から逃げたのは私の方。
一人になって、いつも振り返るんだ。
追いかけてきてくれないかと期待してる内に、思い出は記憶の底へ埋もれていく。
甘えん坊。あの頃から私は何も変わってない。
母に甘えられなくなって、彼に甘えるようになって、それがダメなら今度は先生。
それで、何か一つでも解決したことなんて無いのに。
彩花と悠真。昔みたいに名前で呼び会えない。篠宮と佐藤。それが今の私達の正しい距離感だ。同情か、お節介か。美術室で声を掛けてくれた時だって、一人ぼっちの私を見かねたに違いない。
「うん。おはよう、佐藤くん」
その瞬間の彼の顔を、私はまともに見ることが出来なかった。
****
「食べないのかい?」
差し出されたショートケーキを前にして、彩花はスカートの端を握りしめた。
なにかに耐えるように。勇気を振り絞るように。けれど、言葉は声にはならなかった。
先生とおしゃべりする時間。
甘いケーキと、楽しい会話。
ずっと、ずっと、待ち望んでいたもののはずなのに。
心がドキドキしてた。
恋の音色とは違う。胸を占めているのは、言葉にならない不安だけ。
この不安を口にしたら、全部終わってしまうんじゃないか。見ない振りをする。
今までだってそうしてきた。母と何をしていたって私には関係がない。
少しでも、先生が私に構ってくるなら。最後に私を選んでくれるなら、そう決めたはずなのに。
思い出さなきゃよかった。
どうして、もっと早く声を掛けてくれなかったの?
未練が後ろ髪を引いていた。
きっと未だに、私は彼のことが……。こんなことになる前なら、もっと素直になれたはず。でも、そんな未来は自分で潰してしまった。今の私は、彼に合わせる顔がない。
まだ、お腹に違和感が残ってる。
それを、意識すればするほど、自分の情けなさや、彼への申し訳なさに胸が締め付けられるようだ。だから、だから、だから……。はっきりさせないといけない。
先生の気持ち。私のことを本当はどう思っているのか。
あんな風にされたのに、まだ信じるの?
違う。そうじゃない。信じるしか無いんだ。
彼の気持ちには応えられない。父はいないのと変わらない。母はもう邪魔なだけ。
先生の情に縋るしか、心持ちを保てない。それが例え、野良猫にエサを上げる程度の情だとしても。
「どうして、ですか?」
「なにがだい?」
「……」
不思議そうな顔。変わらない。いつもの優しい声音とともに、首を傾げて。
それでも私が無言でいると、小さなため息と共に、先生の顔から表情が抜けていく。
「照れ隠しだよ。そう言ったら信じるかい?」
こぼれた涎を拭うようだった。
持ち上がる口角、唇を舐めた舌先の動き。獲物を見定めるような眼光が私を射抜く。
「信じます……。先生が、そう言ってくれるなら、私は」
嘘つき。
私も、先生もだ。それくらい分かる。
けれどもう、他にどうしようもない。先生からの愛情が欲しい。まるで甘いケーキみたい。味をしめてしまった。刷り込みだと分かった今も、その美味しさが忘れられない。
「こっちにおいで」
手招きされる。
ベッドの縁に腰掛けた先生は、ズボンのジッパーに指をかけた。
微かな金属音が耳に障る。ゆっくりと広がっていく その隙間。暗がりから まろびでたソレから慌てて目を逸らす。
足が動かない。どうしていいか分からなかった。
お尻は椅子に張り付いたまま。急にそんなのを見せられても困る。
「ぁ……ゃだっ……!?」
動こうとしない私に痺れを切らしたのか、急に手首を掴まれた。無理矢理に引き込まれる。傾いていく体を止められない。ゴンっと、膝が床にぶつかり、鈍い音が部屋に響いた。
手と足を床に付けて、四つん這にされる。
先生の前に ひざまづいた私は、もはや奴隷のようだった。
掴まれた手首に指が食い込む。大人の人の、男の人の太い指と大きな手。
それに比べたら、私の手首なんて枯れ枝と変わらない。振り回された木の棒のように、気まぐれ一つで簡単に折れてしまいそうだ。
繋いだ鎖を引きずるように、体が先生の方へ引きずられる。
抵抗しようと身を引いても無駄。せいぜいが散歩を嫌がる子犬の有り様にしかならない。
「出来ないかい?」
声色は優しいのに。きっと以前の私なら、素直にそう受け止めていた。
「いやだ」って言えばやめてくれる。先生は、私に乱暴なんてしないと本気で信じてた。
けど、今は……
「できない」確かにそう言えばやめてくれるんだろう。
けれど、そこまでだ。言うことを聞かない女なんて必要ない。先生にとってはそう。私の価値はそこで終わってしまう。最後に一度、掃き捨てにされれば良いほうだ。
顔が良くて、気遣いも出来て。どうしているかは分からないけど、お金だって持っている。それでモテないはずがない。代わりなんていくらもある。
今この家にだって。私がダメといえば、その足で母の所に向かうんだろう。
それは、それは……それだけは。
嫉妬か、愛情か、執着なのかも分からない。
ただただ不愉快だった。
ここにきて、また母の面影がちらつくのか。
遅れてきた反抗期。真っ当な家族の形をしていれば、そんな風に笑われることも出来たのだろう。
私の中から出ていって。
かさぶたを剥ぐような胸の痛みに顔を顰める。傷痕を隠すために傷口を増やす。
痕跡の一つも残したくなかった。先生は私のものだ。時間も、友達も、幸せも、散々私から奪ったのだから、一つくらい くれても良いでしょう?
「どうしたら……良い、ですか? 私その……初めて、で。だから」
声が震えていた。
先生の口元が歪んで見える。
興味は持って貰えたみたい。今この瞬間に捨てられることはないはずなのに、どうしてか胸がざわついた。安心するよりも、不安が大きい。
お腹に残る違和感が、ジクジクと疼く。脳裏に浮かぶ光景は、犯されている自分の姿だ。
初めてだった。
睡眠薬か何かのせいなんだろう。目が覚めた後も、何も分からないまま。
ただ、熱い。快楽に心が溶ける。先生に抱かれている強烈な事実だけがそこにあって、夢なんだと納得してみれば、すんなりと体は落ちた。
終わってみれば後の祭り。
その瞬間に、途方もない消失感に包まれる。
失くして、失くして、きっとまた失くすんだろう。
これは警告だ。無意識に身を守ろうとして、太ももを引き寄せる。
けど、そこにはもう守るべきものなんて残ってない。失くした実感が無いから、心がまだ納得してないから。
だったら今ここで、帳尻を合わせればいいじゃない。
悪魔が囁く。なのに、私を引き止めるはずの天使の声は聞こえない。
漫画のようにはいかないんだな。自嘲ですらない。諦観が笑みに変わって滲み出す。
手を引かれるまま体を起こされ、無理矢理に引き寄せられる。
饐えた匂いがした。下着の中に籠もっていた汗の匂いにむせ返る。
顔を背けようとしても、抑えられた頭は動かせない。視線の端で揺れる影を、視線で追ってしまう。忌避感と、興味と、綯い交ぜなった感情は泥のように濁っていた。
熱く、濡れて、張り付くようだ。
頬に押し付けられた肉感に、顔が引きつった。
思わず出そうになった悲鳴を無理に飲み込む。
濡れそぼった肉の棒を、何に例えていいのかも分からない。
舌を出す ヘビにも思えたし。蜜に濡れた めしべのようにも思う。
膨らんだ亀頭。血管の浮き出た陰茎。そんなの知らない。男の人のものなんて、まともに見たこともない。
なのに……
それを目にした途端、頬が熱くなった。全身がむず痒くなって、お腹の疼きが強くなったみたいだ。そそり立つ男性器に、頬を擦られる。上に、下にと、繰り返される内、微かな水音が響き出した。やがて、塗りつけられた欲望が滴を作り、首筋を撫でるように流れ落ちていく。
指先で撫でられるような甘酸っぱさ。微かな快感に体が震える。
大きく息を吸い込めば、その匂いが直接鼻についた。
男の人の匂い。その獣の臭さに目眩がする。胸が苦しい。自分の体が使われている恐怖。それよりも、強く求められる高揚の方が何倍も強い。そこに自分の価値を見いだせて、心底安心する。薬なんか飲まされなくたって、とっくに私の理性は壊れていた。
「咥えてごらん?」
頬が先走りに塗れる頃には、彩花は抵抗することさえやめていた。
言われるままだ。薄く開いた唇の隙間を、亀頭の先が撫でていく。先端から溢れた先走りが、少女の唇を艶めかしく彩った。
頭を撫でられ、髪を梳かれる。
耳をくすぐられて、頬を撫でられた。
たったそれだけで、僅かに残っていた忌避感すらも溶け去った。
鼻先を掠める亀頭を前に喉が鳴る。それでも鼓動は落ち着かない。頬の裏、舌の隙間から次々と涎が溢れだす。
独りでに、口が開いていた。
唇の隙間を分け入って、先生が中へと入り込んでくる。
塩気と生臭さ。
決して美味しいものじゃない。けれど、分かってしまった。
ソレを咥えた瞬間に、先生の吐息が僅かに乱れる。口の中で大きく波打つ脈動は、更に熱を上げていく。
気持ちがいいんだ……
私の口で、先生が喜んでくれている。
上目遣いに顔色を伺うと、常にはない笑顔で笑いかけてくれた。
嬉しい。私が欲しかった笑顔だ。でも、それがどうしてこんなにも虚しいんだろう。
「ほぅ……。結構、いいじゃないか。彼にも、やってあげていたのかな?」
「……っ」
じわり……涙があふれそうになった。
そんなこと。そんなの。思い出せさないで。
「あははっ。ごめんごめん。彼とは何でも ないんだもんね?」
なんでもない。そのはずだ。
付き合ってたわけでもなければ。友人としての縁も、この間まで切れていた。
でも、それに頷いてしまうのは……。ズキリと胸が痛んだ。まだ心のどこかで未練が引っかかっている。
今ならまだ、引き返せるんじゃないか。
遅れてきた天使の囁きに、舌の動きが止まってしまった。
「ほら、ちゃんと咥えて。もっと舐めるんだ。そうだね、飴玉を転がす見たいにさ?」
けれど、先生は私の葛藤を許さない。
腰を入れられ、亀頭の先が喉奥を掠める。
反射的にエヅイてしまった。脳裏を過った彼の顔は霞んで見えて、すぐに先生の色に塗り替えられる。忘れたくはない。けど、支えにするには脆すぎる。
どうして、どうして、どうして……
恨み言? それを言う資格なんて私にはないのに。彼がちゃんと私の手を掴んでくれていれば。私がもう少しだけ素直だったら。きっとこんな風には、まだ別の道だって。
「んっ……ちゅっ、ぱっ。はぁ、ぁっ、つ、んっ、ふぅ、んふぅ……はぅ、あっ」
ベッドの前でひざまづいた私は、先生の体に手を伸ばす。
腰に手を添えて、股間に顔を寄せて、必死に縋り付いた。口の中で先生が膨らんでいく。大きく震えるたびに、亀頭の先から汁が零れる。気持ちがいいんだ。喜んでくれている。ぽっかりと胸に空いた穴を埋めるため、鼻息を荒くした私は亀頭にむしゃぶりつく。
そう、飴玉を舐めるみたいに。
溢れる汁を唆るみたいに。
髪を撫でていた先生の指が力みだす。
両手で頭を抱えられて、股間に強く押し付けられた。
「やっ!? あっ、せんせ……っ。まっ、ちゃんと、する、から……くるし、こわぃの、つよくは、だめっ……。やだっ、んっ、けほっ! あ、あっ……」
くすぐったいより、もはや痒い。無数の陰毛に口の周りを引っかかれた。
口は塞がれ、鼻もつぶされ。呼吸もろくに出来ないまま、先生の動きが熱を上げる。なんとか隙間を作ろうと、両手に力を込めてみても、先生の手は振りほどけない。むしろ、余計に力はまして、亀頭が何度も喉奥を突いてくる。
余りの息苦しさに身を捩った。暴れた足が床を叩くたび、心が冷える。
こんなに音を立てたら、母がくるかもしれない。こんな所を見られたら、母に何をされるかもわからない。
「せんせっ、やめ……音が、やだっ! おかあさっ、バレ……ちゃっ、んっ。ふっ、ぁっ。はふっ、はぁぁっ、んんんぅ……!!」
抵抗する私を黙らせるように、先生は亀頭を突き上げた。
喉が塞がれる。声が出ない。鼻息ばかりが荒くなる。アゴがはずれてしまいそう。
パンパンに膨らんだ肉棒に、口を強引に開かされる。
その瞬間だった。
ゾッとするような獣の臭さに、頭の中が白く染まる。
塩気が強くなったかと思えば、それを押し流すほどの苦みが口の中に広がっていく。濃くて、重たい。粘つく塊。唾液じゃない。飲み込み損ねた鼻水のような気持ち悪さに、口内が汚されていく。
「けほっ、あっ、はっ、んっ、はっ、けほっ……!!」
吐き出そうとして、頭を抑えられた。
直接に喉奥に流し込まれる。
ごく……ごく……っ。
飲んでも、飲んでも、飲みきれない。
塊が喉にへばり付いて仕方ない。なのに、次から次へと流し込まれる。
完全に溺れてしまった私の意識は、次第に遠のいていった。