少女X家庭教師X依存 作:霧里
気絶する暇もなかった。
腕を掴まれ、無理矢理に体を引き起こされる。肩が外れてしまいそう。
鈍い衝撃がお腹を襲った。胸が潰れて息が苦しくなる。
頬が冷たい。クシャリ……掴んだ紙切れが手の中でゴミに変わっていった。
ああ、そっか……。
もう必要ないんだ、こんなの。
せっかく、楽しくなってきてたのにな。私にも出来るんだって……もっと勉強したかったのに。頬から零れた涙が、くすぐったくって笑ってしまう。
固い机の上に押し倒され、背中から体を押さえつけられる。藻掻けば藻掻くほど、そこにあった問題集が散らばっていった。立っていられない。恐怖と混乱で足が震える。その場に倒れ込んでしまいそう。
あんなこと、言わなければ よかった。あんなこと、しなければ よかった。
どうして? どこで? 間違った場所が分からない。どこから直せばよかったの?
恨み言を辿っていけば、受験に失敗したあの日に立ち返る。
ドキドキしながら見上げた掲示板に、自分の名前はなかった。
何度も、何度も、見返しても変わらない。周りが歓声を上げる中、苦々しく曇っていくお母さんの顔が、私を責め立ててくる。
そこからだ。
たった一度失敗しただけで、そんなにも、こんなにも、狂ってしまうんだ。
首根っこを掴まれた みたいに体が持ち上がる。
衣擦れの音が悲鳴のようだった。ボタンが弾け、背中に冷や汗が伝う。心臓が痛い。恋の音色に隠れていた不信感が、今になって警報を響かせた。
体格の差を思い知らされる。
同年代の女の子たちと比べたって大きい方なのに、手のひらに覆われ、潰されて、揉みしだかれた胸の膨らみが、指の隙間から溢れてしまいそう。乱暴に掴まれた肌が焼け付くみたい。その痺れが、胸の内へと根を張るようだった。
ゆっくりと、けれど確かに食指は伸びてくる。痛みに変わる痺れの中、鼓動に紛れたもう一つの音色。
肌が熱くなった。
じっとりと、浮かんだ汗が僅かな隙間を埋めていくと、先生の手の感触を近くに感じてしまう。痛みとは違う熱が生まれて、肌が火照りだす。
でも、そんなこと。
乱暴にされたかった訳じゃない。けれど、そうされることを望んでもいた。
一人で慰めているときはいつだって。優しい先生が、目の色を変えて私に迫ってくる。大人の男の人が、私なんかに夢中になってくれている。つい、乱暴にしてしまうくらい、求められて、愛されて、それが堪らなく嬉しくて。
「いや……せんせぃっ、だめっ……やだぁ」
口にはしながらも、下心が疼いてしまう。
どっちが自分の本心なのかも分からない。
求められることを喜ぶ私。奪われる事を恐れる私。
でも、それでもだ。何より一番怖かったのは、誰からも必要とされないことだった。どんな形でもいい。ただ、使われるだけだとしても。
手の中で潰されていた問題用紙が、机の端へと転がっていく。
そこには何も無い。床に落ちてしまえばゴミと同じ。私と同じ。それだけはイヤ。
私にはまだ、使い道があるんだって。そうじゃないと、先生にも捨てられてしまう。
パンっ……!
乾いた音がした。
衝撃が全身を駆け巡ると同時に、頭の中で何かが弾けた。
お尻が熱い。心臓が鷲掴みにされたみたいに竦み上がる。慌てて後ろを振り返ると、先生は手を振り上げていた。
パンっ……!
肌と肌が触れる音。スカートを捲られ、丸出しになったお尻に先生の手が落ちてくる。「ぃっ……!」小さな悲鳴が押し出された。抵抗しようとして、でも体が動かない。下手なことすれば、余計に酷いことになる。そう、母に躾けられてきた私は、顔を背けて次の衝撃に耐えるしかなかった。
「ほら、ちゃんと立って? お尻をこっちにむけるんだ」
アメとムチ。酷い態度と優しい声音。どっちが本当の先生なの?
叩かれたお尻を今度は優しく撫でられる。敏感になった肌がザワザワと揺れて、その刺激を無視できない。次の衝撃に怯えるようでいながらも、先生の手の動きに目を奪われる。言われるまま。震える足で、なんとかお尻を持ち上げた。繋がれた鎖を引かれるようだ。
抵抗しようなんて気も起きない。染み付いた処世術が私を許さなかった。
ただ、憧れが強かっただけだと思えば諦めも付く。だって、私は何もしらないから。男女の行為なんて、こんなものなんだ。望んでいたのと違うだけで、先生を責めるのは間違ってる。
きっと、お母さんだってこんな風に……。
一瞬、想像してしまった母の痴態に、吐き気が込み上げてきた。
今の自分は同じなのか? そんなことない。先生は、先生になりに私を愛してくれてるはずだから。そうじゃなきゃ、こんなこと……。
胸を掴まれ、お尻を揉まれて、体は熱くなるのに心は冷たいまま。
独りで自分を慰めている時よりも、まだ虚しい。あの頃は、こんな風になるなんて思いもしなかった。乱暴をされることに、少し興奮を覚えていた自分もいる。
「ぁっ……♥」
そんなだからか、つい声が漏れてしまった。
甘く、切なく響く声。乱暴をされても、感じてしまうイケない私。一つ、声を漏らすたび、胸に絡まる葛藤が解けていくようだ。
その声を先生が聞き逃すはずもなかった。
「イケない子だね。自分でも、こんな風にしていたのかい?」
耳元で囁かれる。頭の奥にまで声が響く。動揺に心が揺れた。期待と興奮が煽られて、下腹が重たくなる。足から力が抜けていき、お尻が机の下へずり落ちた。
パンっ……!
衝撃が全身を駆け抜ける。背筋が伸び上がり、悲鳴の中に艶が混じる。
「まったく。彩花ちゃんは物覚えが悪いね? これじゃあ、お母さんが愛想をつかすのも分かるかな」
優しい罵倒。先生の言葉が胸を刺した。
いやだ、聞きたくない。そんなの私が一番分かってる。先生まで私が悪いっていうの? お母さんと同じにならないで。私だって、ちゃんと……なのに。
もう、必死だった。
お尻を持ち上げるというよりも、下腹を机の上に乗せる。お腹が押されて息苦しくなっても、もう自力で立っていられない。膝が笑ってる。腫れぼったく感じるお尻を撫でられるだけで、自分の輪郭が崩れ落ちていく。
「でも、大丈夫だよ? 君がいい子になるまで、僕が付き合ってあげる。たとえ、お母さんが見捨ててしまっても。お父さんが諦めてしまっても。もちろん。あの彼が、君のことを忘れてしまってもさ」
僕だけは、君の味方だから。
僕だけが、君の事を分かってあげられる。
「愛しているよ、彩花」
****
それが、トドメだった。
耳元で囁いた愛の言葉。その一言で、わずかに残っていた抵抗も鳴りを潜めた。
一番言われたくなかった言葉の後に、一番欲しかった言葉を投げかけられる。
塞いだはずの耳に届いた甘言を、彩花が聞き逃すはずもなかった。
もう一度聞きたい。もっと言って欲しい。僕が何もしなくたって、彼女の方から擦り寄ってくる。
尻尾を振る犬みたいだ。
「ぇ、ぁ……。わた、私も……先生のこと、先生が、好き。好きですっ、先生っ!」
軽々しい愛の言葉に笑ってしまいそうだ。
自分からお尻を持ち上げる姿は、いっそ滑稽ですらある。
ああ、いけない。させたのは僕か。なら、ちゃんと可愛がって上げないと。
それは、飼い主としての義務だろう。
得難い興奮だった。
一夜の関係じゃない。手慰みに抱いていた母親とも違う。
捧げられた純心。何もわからないうちに純潔は奪われた後だというのに、僕という存在から離れられない。
大した抱き心地だ。
あまりの柔らかさに、このまま押しつぶしたくもなる。
力を入れれば入れるほど、胸の膨らみに、お尻の柔肉に指が沈んでいった。
肌が赤く染まる。興奮の色とは違う、白い肌に浮かんだ赤い手形。真っ当なら痛みも感じるだろうに、彩花はただただ可愛らしく鳴いてみせた。
「んっ、っ、ぁ、ぃっ。ふぅ、はぁ……いい、です。先生、もっとっ、私。いいですから……っ」
少女の細い首筋に、汗の雫が光る。額には、脂汗の一つも浮かんでいるかもしれない。それでも、彩花は健気に興奮を訴えてくる。誘うようにお尻を揺らして、膝で泣きながら僕(おとこ)を誘ってみせた。
僕の興味が離れることを何より怖れて。
僕からの言葉をもう一度聞きたくて。
「可愛いよ、彩花」
ふわり、香る、その匂い。
柔らかい髪の中へと顔を埋めて、息を大きく吸い込んだ。
甘く香る果実のようだ。性格も体型も、そんなものは好みでしか無い。彩花にあって、母親にはなかったもの。そんな乙女の香りに、興奮が煽られる。
舐め取った汗の雫でさえも、甘露のように舌を痺れさせた。
「んっ……♥」
震えた喉から漏れた音色に、快感の色が混じり始める。伸ばした指と、親指との間に乳首を挟み込み、軽くこね回す。鼻に掛かる吐息。緊張が抜けきらなかった横顔に、僅かな隙が見えた。
「どうしてほしい?」
「どうって……」
分かっている。顔を俯かせたまま、僕を覗き見る視線には明らかな期待があった。
乱暴にするだけじゃない。含みのある優しさでいい。猫じゃらしに飛びつく猫みたいなものだ。彩花はきっと、自分から指を伸ばすだろう。
「いつもはどうしているの?」
「……」
答えない。耳の先まで赤く染めた彼女は、肩を竦めて縮こまってしまう。
その反応だけで十分だった。端的な言葉でいい。
今の仕草一つでも、普段から物思いに耽っていることは明白だ。自分が分かりやすいだけなのに、僕には隠し事が出来ないと勝手に思い込んでいる。
「彼のことを考えてしていたのかな?」
「ちがっ!? 私はっ……そんなんじゃないのっ! あ、いや……違うんです。違うから……」
思った以上の反応だった。普段の彩花からは想像も出来ない焦りよう。
彼女の琴線に触れたもの。僕への好意を疑われた事だけじゃない。何よりも、奪われることを恐れるかのような反応だった。
宝石か。実際は、ビー玉 程度の思い出だろう。
子どもの頃、誰しもが手にしたことのあるガラス玉。なんてことはない ただの思い出でも、それは彼女に残っていた最期の宝物だ。もう使い道なんてなくたって、それを捨てるなんて出来やしない。
「本当に?」
「本当……です。だって、いつも……先生のことを想ってて。それで、我慢できなくなって。先生が、変な触り方するから。どうしても、気になっちゃって。だから……」
普段より、口数が多いのが何よりの証拠だった。背中に隠した何かから、僕の意識を逸らそうとしているのが丸見えだ。
「僕が悪いんだ」
「ちがっ……そうじゃっ、んぁっ♥」
口を塞ぐように乳首を摘み上げた。途端に、彩花は面白いように体を震わせて、甘く鳴いた。不意打ちのような快感に耐えられるほど、彼女の理性は強くはない。
ガクリと膝から崩れ落ちそうになる。お尻を撫で回していた手のひらに、少女の肉感が押し付けられた。
「もしかして、僕にお仕置きされたいのかな?」
耳元で囁く声に、彩花は慌ててお尻を持ち上げる。
首を振って否定はしても、薄い肌を覆う赤みは隠せない。
「いいんだよ? 恥ずかしがらなくても。君のお母さんだって、少し乱暴にしてやると、面白いように喜んでくれたものさ」
「やめてっ! やめて……ください。お母さんのことは……母と、一緒にしないで」
何が違うものかよ。
今度は明確な拒絶だった。けれど、あえて口にはしない。
母と一緒にされたくない。自分は母より愛されていると思えばこそ、今の状況だって受け入れられる。そうじゃなきゃいけない。だって、そうじゃないと君は耐えられないんだよね? 自分を押し殺してまで積み上げてきた全部が、無駄だったなんて考えたくもない。
もう少し頑張れば幸せになれるから。
少しはマシな未来があるはずだから。
そう思うなら、ここにいるべきじゃないな。今すぐ家を飛び出して、まっすぐ彼のところに行くべきだ。意地っ張りめ。今更なんだと思っているのか?
いや、違うな。僕が初めてを奪ってしまったから、引くに引けなくなったのか。
可愛そうに。
悪い男に引っかかったんだよ、君は。