少女X家庭教師X依存 作:霧里
いつもの通学路。いつもの昇降口。いつもの教室。
何も変わらない。
そのはずだ。
なのに、他人の視線が気になってしょうがなかった。
「おはよう」
教室の扉をくぐると同時に、朝の挨拶に迎えられる。
友人というわけじゃない。社交的なクラスの誰かが、分け隔てなく接してくれたというだけ。
けれど、私は上手く言葉を返せなかった。
いつもより輪をかけて、酷い態度を取ってしまう。
変わらない。そのはずだ。
彼女たちにとって、私はクラスメイトの一人でしか無いし、もっと言えば教室の隅に溜まっている埃みたいなものだろう。目立たないようにやり過ごせばいい。
なのに。出来なかった。
ビクっと肩をすくめた私は、逃げるようにその場を立ち去ってしまう。
教室の奥へ。背中を撫でる視線から逃げ出した。一言でいい「おはよう」と返せば誰も気にはしないのに。
「どうしたんだろうね?」
「さぁ? いつもあんな感じじゃない?」
「そうだけどさー」
囁き声が耳に障る。
悪目立ちをしてしまった。幸いにも、それ以上気にかけられる事もない。
変に絡んでくる子がいなくて本当に良かった。彼女たちの無関心さが頼もしい。
授業が始まっても、先生の声は耳に入ってこない。
静かな時間。自分の鼓動の音だけがずっと頭に響いてる。気が気じゃない。
息苦しい。もしかしたらこの音ですら、誰かに聞かれているんじゃないか。
漏らした吐息の熱さを 気取られたりはしないだろうか。
「篠宮さん……篠宮さん?」
「あっ、えっ、はいっ……!?」
先生の呼ぶ声に、はっとなる。
慌てて顔を上げた私は、勢いのままに立ち上がってしまった。
スカートの端から指が離せない。胸の前で手を握って、恥ずかしさにただ耐えた。
股下に風が通うたび、心臓が飛び出しそうだ。何も言い出さない私に、少しずつ周りからの視線も集まってくる。
お願いだから、私を見ないで。
クラスからの視線に晒された私は、まったく動けなかった。
そんな はずはない。まだ、バレてはいないはず。自分に言い聞かせるのがやっと。
「体調が悪いんですか? 座っていいですよ。辛いなら、いつでも保健室に行ってくださいね。じゃあ、後ろの……」
丁寧にスカートを折り曲げながら席につく。布の端が椅子に引っ掛かりはしないかと、後ろが気になって仕方がなかった。周囲からの視線が散っていく中、悠真だけが私を見つめていた。気にかけてもらえる。普段なら嬉しいはずなのに、今はダメ。
目を逸らす。
彼の表情を見てられなかった。おかしいのは私の方。
彼はただ、心配してくれているだけなのに。見ないで欲しい。そんな価値なんて私にはない。いや、もうそんな程度の価値しか無いのかも。
視姦されている。
視線が胸元を撫でた。そんな気がしただけ。勝手な言いがかりだ。思い上がりも甚だしい。肩をすくめて縮こまる。その場から逃げ出したかった。見られるほどに、彼からの視線を強く意識してしまう。
授業が終わった途端、彼は私に話しかけてきた。
椅子を引いて立ち上がり、近づいてくるまでの僅かな時間。何を言われるかもわからない。一歩、一歩と、聞こえる足音。立ち止まらないで……。俯いたまま強く願った。彼の影が私に落ちる。心臓が止まってしまいそう。
何処かに呼び出されたらどうしよう……。
皆の前で晒し者にされるかもしれない……。
そんなこと彼がするはず無い。でも、もし……。最低な妄想が、甘美な魅力を放った見えた。違う。最低なのは私の方だ……。だって、彼は最初から何も変わっていない。
「大丈夫か? 篠宮。体調が悪いなら保健室とか……」
ただ、心配してくれただけ。優しいんだ。でも、その優しさは私にとっての未練にしかならない。
「平気……。ちょっと、うん。大丈夫だから。次、移動だよ? 先に行ってて? 私も後から行くから」
「でも……。あっ、いや、うん。分かった」
勘違い、してくれたのかな。全然そういうのじゃないのに。
彼の頬が赤くなる。心配そうな表情から一転して、気まずそうに目をそらされた。
デリカシーが足りないだなんて。教室の向こうで からかわれている後ろ姿が、随分と遠くに映る。
置いていかないで。
その言葉をぐっと飲み込んだ。
独りきりの教室で、私は座ったまま動けない。
「はやく、いどう……。はぁ……っ」
立ち上がろうとして、足に力が入らなかった。太ももが擦れた拍子に、甘やかな痺れが私を包む。
この感覚を、私はよく知っていた。
1日中。朝からずっと。他人の視線を感じてた。
もし、気づかれたら。見られてしまったら。思えば思うほど、何気ない視線に舐められるようだった。
私を見つめる彼の視線を思い返すだけで、肌が火照ってしまう。
顔が熱い。汗ばんだ肌に、ブラウスが纏わりついて気持ちが悪い。
心も、体も縛られる。まるで変態みたいだ。肌着も、下着も、なにも着けないで。
制服の下は丸裸。そよぐ風にも心臓が高鳴った。後ろに誰かが立つだけで、冷や汗が吹き出しそうになる。
もう、我慢できない。
1日や2日ならまだ。それが3日、4日と続くと辛くなる。
「一日、下着を着けないで過ごしてごらん?」
そんな事出来るわけがない。否定した私に、先生がそれ以上求めてくることはなかった。最初は耳に残る程度。囁くような先生の言葉は、次第に頭の中で大きくなる。どんなに耳を塞いでも聞こえてきた。
「あぁ……今日も着けてるんだね」
落胆はされていない。むしろ、からかわれているような雰囲気さえあった。
家に帰ると、先生はスカートを捲るように要求してくる。
私はそれに逆らえない。恥ずかしさと、悔しさと、僅かな期待を込めて、下着を晒す。
でも……。
先生は触れてくれなかった。
肩を抱かれることも。手を重ねることも。キスだって。
最初に出会った頃よりも距離が遠い。今までのことが悪い夢だったのか、私を乱暴に抱くことだってしなくなった。その代わりに、嗅ぎ慣れた母の香水の匂いを強く感じるようになる。
一体なにが楽しいの?
裸がみたいって言うなら、いくらでも見せるのに。先生になら私はいつだって。
指先が私を撫でた。甘い痺れに誘われる。じぃんっと、響く快感が悩ましい。
ほんの手慰みだった。気まぐれに指が動いただけ。
「ぁぁぁ……っ」
熱い吐息が口から漏れる。響いた声に慌てて周りを見回した。
もう、授業が始まってしまう。クラスの皆は次の教室に移動してしまって、残っているのは私だけ。
そういう日なんだ。
勘違いしてもらえたのが良かったのか、そっと距離を置かれたまま取り残される。
廊下にはまだ人の気配がするけれど、それも時間の問題だった。
♪♪♪♪
授業の始まるチャイムの音。程なくして人の気配は静まり返る。
隣のクラスから聞こえてくる教師の声だけが、唯一の雑音になった。
ダメだ。
こんな所で。
私は、何を……。
でも、ちょっとだけ。言い訳なら、次々と浮かび上がってきた。
いまさら誰かが戻ってくるもないだろう。少し気分を落ち着けたら、今日は早退してしまおう。誰かに見つかる前なら。授業中の今ならきっと、バレることも無いはずだ。
我慢できない。
一度でも、求められる心地よさを知ってしまえば、独りで慰めるのは あまりに虚しい。それでも、いい。触れたい、触れられたい。意地を張るのも限界だった。
どうにかして昂りを抑えないと、もう一歩だって歩けない。不意に出来た空白。
人目の途絶えたこの瞬間は、あまりにも魅惑的に過ぎた。
「せんせいが……悪いんだから」
相手にされない不安と、触れてもらえない不満。抱えた欲求に下腹が重くなる。
自意識過剰だ。誰も私のことなんて、言うほど他人は周りを見ていない。
悠真だってそう。目の前で、私が何も着けないでいるのに気づきもしなかった。
それでも、見られるんじゃないか。思うだけで堪らなくなる。誰かに私を見て欲しい。小さな小さな欲求は、こんがらがって性欲と絡み合う。
変態……。
自分で自分を罵倒する。
肌が火照る。羞恥心じゃない。もっとその先の色に染まっていた。ダメなのに。
でも指が止まらない。完全にスリルがリスクを上回る。
最初はただ撫でてみただけ。
触れるよりも まだ軽い。なのに指先はヌルリと滑って、浮かんだ雫を拭い去る。
ゾクゾクした。気持ちがいい。快感に脳が焼かれていく。
こんな所、誰かに見られたら。ううん、見て欲しい。こんなエッチな私を見たら、先生は絶対我慢出来ないはずだ。
例えば、先生が家庭教師じゃなくて、私の担任だったりしたら……。
教室で自分を慰めてる私を見たら、どうするんだろう?
つい、指に力が入った。
ヌチュっ……と指先が、温もりに包まれる。
抵抗なんて無い。中はもう しとどに濡れそぼっていた。先生のに比べたら、私の指なんて小指くらいのものだろう。
くちゅり……。
聞こえた音に、目の前が白む。
運動場から聞こえてくる生徒たちの歓声。音楽室から響くピアノの伴奏。
ふいに、聞き慣れた出席番号を呼ばれた気がして背筋が伸びた。
ガタっと椅子が鳴って縮こまる。隣の教室からだ。立ち上がった誰かが、教師に促されるまま教科書をなぞり始めた。
息を殺して、気配を探って、誰も来ないことにホッとする。
バクバクと音を立てる心臓をなだめながら、見上げた時計にはまだ余裕があった。
授業が始まってまだ10分と経っていない。その余裕が、私の警戒を解いていく。
もうちょっと、後ちょっとだけ……。
このままじゃ終われない。
「せ、んせぃ……。だめ、こんな、とこ……だれか、きちゃっ……っ♥」
募り積もった不満は、僅かな妄想さえも甘い毒に変えていく
そう、教室だって構わないはずだ。先生に抱きすくめられた私は、強引に体を弄られるの。大きな男の人の体に、押しつぶされそうになりながら私は喘ぐ。乱暴に胸を揉まれて、太い指に中を掻き乱されるんだ。
恥ずかしくて、痛くて、怖くて、でも……。
この瞬間だけは、私を見てもらえるから。
それが余計に空しい。誰も見てくれない、見てもらえないのにこんな事。
胸元に隙間風が入り込む。冷えた心を体の熱で誤魔化すように、行為にのめり込む。
「あっ♥ はぁっ、はぁっ、ふぅっ……んっ、はっ、あぁ……♥」
わざとらしかった声色も、次第に生々しくなっていく。指で私を擦るたび、体から力が抜けていった。甘い痺れが背筋を伝い、腰が勝手に揺れ始める。
開けた胸元に手を忍ばせた。優しくは出来ない。膨らみに沈ませた指で揉みしだく。こんな所見られたら……。想像した自分の姿に魅せられる。
「わた、わたしは……わるい、こ、です。教室で、一人で……なぐさ、ううん。おなにぃっ……して。してましたぁ……あぁぁ♥」
いった、いっちゃった。
エッチなことしながら、エッチなこと呟いて。私……ダメになる。
だって、先生が。先生だったらきっと……。「どうして欲しい?」って、そう言うから。
ゆっくりと足を開かされるの。太ももの内側を撫でられながら、先生の手のひらが近づいてきて。でも、触れてくれない。懇願するように先生を見つめても、優しく笑みを返されるだけ。
やだ、やだ……。
子供をみたいに首を振った。それでも先生は何もしてくれない。
辛いの、切ないの。ああ、そうだ。先生に教えてもらったんだ。息を呑んだ私は、魔法の呪文を口にする。
「おねがい、します……」
指の根本まで埋まってしまった。ガタっと椅子が跳ねた。
やめて、そんなにしたらバレちゃうから。そう言っても、先生はやめてくれないんだ。それどころか、慌てる私の姿を愉しむように、もっと激しくするんだろう。
ああ、でも……。
一本じゃ足りない。物欲しさに堪えきれず、二本目まで咥え込む。
それでも届かない。大事なところに、一番触れたいところに。先生が欲しい。
もう誰だって。泳いだ腰がズルっと滑った。椅子から落ちそうになって、机にしがみつく。
酷い有様だ。
溢れた愛液のせいで、スカートも椅子の上もベチャベチャだった。
弾んだ胸の膨らみの先で、乳首が物欲しそうに揺れている。
こんなの見つけたら、先生がほっとくわけがない。指が伸びて、乳首を転がされる。私がむずがるのを見計らって、きゅっと摘まれるんだ。
「あっ……♥」
響いた嬌声に、教室の静けさが波打った。
隣のクラスまで聞こえたりはしなかったろうか。息を呑んで、気配を伺うその間も……先生は動きを止めてくれない。
「だ、め……まって、せんせ、今……は……ダメ。バレ、ちゃ、ほんとにダメなのに」
指が止まらなかった。
くちゅり……くちゅり……。
水音が大きくなる。
太ももの裏に濡れたスカートが張り付いた。汗を吸ったブラウスに肌色が浮かびあがる。頭がぼぅっとするの。気持ちいいこと以外考えられない。内から湧き上がる快感に沈んでいくみたい。
気持ちいい、気持ちがいい……。
中で先生のが大きくなる。奥を突き上げられるたび、椅子が音を立てた。
ガタっと鳴り響く音に、だけど快感が上回る。揉みしだかれた胸が熱い。
快感から逃げようする私を先生は離さない。より強く掴まれて、オモチャみたいに使われるんだ。
全部、全部が遠のいていく。
頭が真っ白になって、何もわからない。
もしかしたら大きな声をあげちゃってたかも。そのうちに誰かがきて、わたし本当に終わっちゃうんだ。
それも、いいのかな。
教室でオナニーする変態女。なんでもない私だって、少しくらい誰かの記憶に残りたい。あはは……そんな顔しないでよ、悠真。あなただって、別に私の何でもないじゃい。
でも、先生は違うんだ。
私にこんな恥ずかしい思いさせて、平気な顔するの。
平気な顔してお母さんと抱き合って、ほんとに最悪。あんな女、いなくなればいいのに。私だけ、先生は私だけのもの。先生だけが私を気持ちよくしてくれるの、愛してくれるんだ。
だから、だからね?
ほら、みて、みて……っ。
「あっ、ぁぁぁっ……!? つぅ、ふぅっ、んっ……! ふぅ、はぁ……ゃっ♥」
指先が締め付けられた。ざわめく腟内が、奥へ奥へと波を打つ。
誘い込むように。でも、いつまでも満たされない。ピンっと、伸ばした指先は空振ったまま。
だらり……。
胸元から手が落ちる。絶頂の熱が遠のくと、中から指が抜け出した。
隙間から濁った愛液が溢れ出す。絶頂の後、放心したまま私は動けない。
気持ちは良かった。けれど、物足りない。自暴自棄と言えたならまだ可愛い方。
実際はもっと酷い。破滅願望みたいな衝動が渦巻いていた。
誰か、来ないだろうか……。
疼く下腹をそっと撫でる。いっそこのまま、滅茶苦茶に犯されたい。
ぼんやりと教室の扉を見つめた私は、心の何処かでそんな事を願っていた。
****
お節介だ。それも、悪い意味で。
次の授業が始まっても、彩花は教室に来なかった。
きっと、保健室で休んでいるんだろう。もしかしたら早退したのかもしれない。
男の俺には言いづらいこともある。ましてや、一度手を放した俺に頼るなんてな。
それでもだ。
遠慮なんかしてたら、余計に彩花は遠ざかる。再び伸ばした手を、掴み損ねたままじゃいられない。ちょっと確かめるだけ。保健室と、教室と、何処かで倒れてなければそれで良い。
授業中。静まり返った廊下の途中。普段は他の生徒たちで賑わう中に、今は俺一人だけ。保健室にはいなかった。後は自分の教室を覗いたら授業に戻ろう。
「あっ♥ はぁっ、はぁっ、ふぅっ……んっ、はっ♥ あぁ……」
教室の扉を開けるその瞬間。囁き声に体が固まった。
他のクラスから聞こえてくる教師たちの声より明らかに小さい。ピアノの伴奏が止んでいなければ、最悪のタイミングで鉢合わせていただろう。
あいつ、こんなところで何やって……。
いや、違う。何を勝手に嬌声だと勘違いしてるんだ。
苦しくなって喘いでるだけ。その筈なのに、扉を開ける指が動かない。
頭を振って妄想を追い払う。そんな事を考えてしまう自分が恥ずかしい。
釘付けになってしまった。
教室の片隅で独り、物思いに耽る少女の姿。
艶めかしい肌色と、熱を孕んだ吐息を漏らしながら自分の体を弄っている。
「せんせい、せんせい……」虚ろに聞こえるその声は、誰かを呼んでいるようだ。
ぎゅぅっと、心臓を鷲掴みにされた。
その時、彼女が呼んだ名前は自分じゃなかった。そんな当たり前の事が、胸に突き刺さる。今まで何もしてやれなかったんだ。想われることが無いなんて当たり前じゃないか。
それでもいい……。
そうだとしても……。
先生って誰だ?
彩花に浮いた話なんて聞こえてこない。見ている限りでは、特定の教師を気にかけている様子もない。きっと、そういうシチュエーションで自分を慰めているだけ。少しばかり突飛な妄想くらい、俺にも覚えがあった。
でも、やっぱり……ちょっと悔しいな。
その先生が何処かの誰かじゃ無いのなら、少しくらい意識されたいと思う。
ガタッ……。
何かを引っ掛ける音。それと同時に、浮ついてた嬌声が鳴り止んだ。
慌てて扉から手を離した俺は、壁に背中を押し付けたままへたり込む。
早く立ち去るべきだ。そう思っても、足は動かない。何処かで期待していた。
しばらくして、再びくぐもった嬌声が聞こえてくると、ますますその場から離れがたくなる。
まだ二人で遊んでいた頃。
彩花に異性を感じるようになって、多分それが俺の初めてだったはず。
その気まずさと言ったらなかった。彩花の顔を見るたびに、とんでもない罪悪感に包まれたのを思い出す。
丁度その頃からだ、すれ違うようになったのは。強引に連れ出そうとしても、手が出なくなる。自然と顔を合わせる機会も減っていって、気まずさに甘えた部分もあった。今まで距離が近すぎたんだ。周りと見比べたって、もう少し距離をとってもいいくらい。だから、これが普通だって自分の気持ちに蓋をした。
最低だ……。
分かっていても、自身に手が伸びる。今までずっと我慢してきたのに、急にこんなのを見せられたら堪らない。俺にだって欲はある。彩花の事が欲しい。
あの頃の俺には、湧き上がる感情の抑え方なんて分からなかった。それは、今も変わっていない。
膨らんだズボンの上から擦る程度。
廊下の真ん中で、チャックを下ろす度胸までは出なかった。彩花の痴態が目に焼き付いている。その姿は、今までのどんな妄想よりも俺を興奮させていた。
少女の裸体。晒された白い肌に浮かぶ桜色のぽっち。甘い声色に、何度も体を震わせて。その薄い唇から自分の名前が呼ばれる瞬間を想像する。
……悠真。
あの頃のように。その続きがあったならと。
滲んだ先走りが、とうとうズボンにまで染み出してきた。下から上に扱くたびに押し出されてくるようだ。ビクビクと腰が震え上がる。心臓が早鐘を打って、下腹で生まれた熱が全身へと回ってきた。
吐息が熱い。
頭がボヤける。
衣擦れの音に、水音が絡みだした。膨らんだ射精欲に操られ、撫でる指先に力が籠もる。「あやか……」呟くだけで達してしまいそうだ。扉の向こうにいる彼女の様子にも、余裕がなくなってくる。
せめて、一緒にいけたらな……。
相当に気持ちが悪い。他人の自慰を盗み聞きしながらだなんて。バレたら、きっと軽蔑される。でも射精の直前で、そこまで考える理性は残っていなかった。
せんせい、せんせい……。
熱を上げる嬌声に心が締め付けられた。
誰だよ、そいつ。どうせなら、俺の名前を呼んでくれたら良いのに。
そうしたらきっと、その時はきっと、俺は我慢できなかっただろう。教室の扉を開けて、驚く彼女を抱きしめる。そのまま無理矢理にも、していたかもしれない。
そう、ならなくて本当に良かった。彩花を傷つける事がなくて、本当に……。
「あやか……っ!」
彩花の嬌声に合わせて、自身を強めに擦り上げたその瞬間。
ドバっと、吐き出された精液が下着に阻まれた。濡れぼったい水気に股間が満たされる。「くぅぅ……っ」声を抑え込む。仄暗い快感は、それでも今までのどんな行為よりも最高に気持ちが良かった。
「はぁっ……ふぅっ、んっ……ふぅ、はぁ……ゃっ♥」
どうやら、向こうも終わったらしい。
快感の残響が響く中。すっかりと、気の抜けてしまった声だけが聞こえてくる。
そろそろ授業が終わる頃だろうか?
にわかに隣の教室が騒がしくなってきた。
早く、何処かにいかないと。射精の直後の気だるい体を持ち上げた直後。
「ぇ……」「っ……」
気づかなかった。完全に注意が散漫になっていた。
ふいに教室の扉が開く。彩花と目が合った瞬間に、今まで考えていた事の全部が吹き飛んだ。
艶の残った頬。ブラウスから肌色が透けて見えた。主張するように膨らんだ頂上は淡く色づいていて……。何も、着けてないのか?今朝から様子がおかしかったのも、そのせいで?
なんで、そんな……。
居た堪れなかったのか、憐れんでしまったのか。心配していた自分が馬鹿みたいだ。落とした視線の先に見えてしまった。揺れること無く、太ももに張り付いたスカートの裾。その内側から、つぅっと流れ落ちていく雫を目で追いかけてしまう。
何より匂いだ。
甘い。鼻をくすぐる少女の香りに、男がくすぐられる。
それと比べて自分はどうだ。対して違わないじゃないか。
獣じみたイカ臭さ。股間から沸き立つ精の匂いは誤魔化しようもない。彼女も気づいたんだろう。すんっと、小さく鼻が動く。一瞬、驚いた顔をしたかと思えば、すぐに目を逸らされた。
その匂いの意味を知っている。
そんな風に見えた。
妄想の産物だと思っていた先生の影が、輪郭を伴い始める。
何も言えない。問い詰めて何になるっていうんだ。お互いにそうだ。見なかったことにする。それが一番のように思えた。
「あの……私、帰るから。ごめんね、佐藤くん」
「あぁ、うん。気をつけて……ごめん」
何に、謝ったんだろう。
♪♪♪♪
チャイムの音に背中を押されて、逃げていく彼女を追いかける事もできない。
佐藤くん……。呼ばれた苗字に拒絶された気がした。伸ばそうとした手が泳ぐ。
湿ったままの指先に気づいて、掴みどころを見失う。指の隙間からすり抜けていくようだ。残ったのは喪失感と、股間にへばりつく気持ち悪さだけ。
遠のいていく彩花の背中を、ただ見送るしか出来なかった。
ここで襲えてたら、ワンちゃんあったかもしれないのになぁ。お可哀想。