少女X家庭教師X依存 作:霧里
乾いた音が部屋に響いた。
いつぶりだろうか、母親に頬を叩かれるのなんて。
よっぽど腹に据えかねたに違いない。見上げたその顔が々しく歪んでいく。
「この泥棒猫」次にそう言われたって 何にも不思議じゃなかった。
可笑しいんだ。
何ていうかな。必死過ぎて笑いをこらえるのが大変だ。
自分が連れ込んだ男を 娘に盗られるってどういう気分なんだろう?
きっと、悔しいんだろうなぁ。きっと、惨めなんだろうなぁ。分かるよ、うん。
だってそれは、私がいつも抱えてた感情だから。
「もう知らないっ! お前なんか産まなきゃよかったっ。お前さえ居なきゃ私だってっ! お前なんか、お前なんかっ!!」
娘じゃない。
あーあ、言っちゃった。それを言うんだ。
未練もあった。少なからずの愛情も。それでも私にとっては母親だから。
当たり前に愛してほしかったから。ギリギリの所で繋がっていた絆が千切れた瞬間、母への興味が急速に薄れていく。
目の前で騒いでいるこの人は何?
さっきまで私の母を自称してはいたみたいだけど、止めてほしい。そんな気持ちの悪いことを言わないで。もう知らないのは私の方だ。
「なにそれ? 勝手に産んでおいて、要らなくなったら捨てるんだ? 知ってる、お母さん? 無責任っていうんだよ、そういうの。子供が癇癪起こしてるのと同じ。お母さんいつも言ってたよね? 立派な大人になれないって。悪いんだけど、私はお母さんみたいにはなりたくないかな?」
「このっ! だまりなさいっ! 私の言うことを聞いてれば良かったのよっ!! いつもいつも言い訳ばかりで、そんなだからあなたはっ!」
また、頬を叩かれた。
でも全然痛くない。流石に涙は溢れてしまうけど。
今まで母に感じていた 恐怖や無力感はなかった。もうこの人に愛情を求めることもないんだろう。そもそも、こんなのに誰かを愛するなんてできるんだろうか?
「聞いてたじゃないっ! 友達もっ、恋人も作らないでっ!! ずっと、ずっと……俯いて勉強ばっかりっ。それで私はこんなになってるんだよっ。自分にできないからって人にさせないでっ! お母さんの理想を押し付けないでよっ!!」
大声を上げた所で、たじろぐ母じゃなかった。
むしろ火に油。また手が振り上げられる。けど、何も怖くなかった。
だって、私はもう一人じゃない。下腹にそっと手を当てただけで、勇気が湧いてくる。言いなりになんかならない、気持ちよくなんかさせてやらない。
守りたい。覚悟があった。この子にまで同じ思いをさせるなら、私が一緒に死んでやる。
「私ね、先生とエッチしたんだ」
たった一言で、彼女は動きを止めていた。
怒りすぎて、体が固まっているようだ。その表情は、みるみると憤怒の色に染まっていく。沸騰したやかんみたい。我慢できなくなった私は、とうとう笑みを零してしまった。
「ふふっ……あははっ。ダメな日だったのにね? 先生離してくれなかったの。いっぱいいっぱい中にだされちゃった。ごめんなさい。私がお姉ちゃんになるより、お母さんが先にお婆ちゃんになっちゃったね」
ねぇ、ねぇ、お母さん? いまどんな気持ち?
女としての魅力もない。母としての価値もない。もちろん妻としても最低だ。
私には未来がある。その全部を手にすることだってきっと出来る。根拠のない自信に満ち溢れていた。
「待ちなさいっ、彩花っ!!」
聞かない。聞いてやらない。
母を突き飛ばし、階段を駆け下りた。
部屋から雄叫びが聞こえてくる。物を投げつけ、滅茶苦茶に暴れまわる音も。
好きにしたらいいよ。そこに必要なものは残っていないから。いらないの。全部、お母さんに上げるね?
気分がいい。
清々しい。
玄関から飛び出した私を 待っていたのは 満点の星空だ。
正確にはただの街灯でしかなかったけれど。それを見上げることもなかった私には全てが新鮮に映る。
先生、待っててね?
着の身着のまま。家を飛び出した私は、先生との待ち合わせ場所に向かって駆け出していた。
****
あの日から、何も言えなくなった。
廊下ですれ違っても、教室で目が合っても、そっと目を伏せ避けられる。
謝ろう。踏み込む足が前に出ない。瞼に焼き付いていた。
教室で一人物思いに耽る彩花の姿。見えてしまった。いや、自分から覗くことを選んでしまった。
細い指先を受け止めた素肌が、艶やかに形を変えていく。
胸の膨らみから目が離せなかった。もっと見たい。視線で舐め回す。今でも思い出せた。彩花を見るたび裸体が重なって、胸を叩く鼓動に はっとさせられる。
きっと顔にも出ていたはずだ。
誤魔化すように視線を剥がす。俯いたのは頬の赤みを隠すため。
右に、左に、互いに顔を背けた。示し合わせた訳じゃない。それは多分、まだ仲が良かった頃の名残りだった。
ある日、彩花が学校を休んだ。
そんな事、誰も気にはしない。朝のHRの後ですら話題にもならなかった。
俺だってそう。休んでいるのか。そんな日もあるんだろう。ありきたりな心配をする振りはしてみても、心の何処かでホッとしていた。
勝手に覗いて、勝手に気まずくなって、居なくなったことに安心する。控えめに言っても最低だ。
だから、罰が当たったんだろう。
2日、3日と、彩花の休みは続き、何も無いまま週末に入ってしまう。
俺に出来ることは何もない。
ついこの間までは、彼女の居ない生活のほうが当たり前だったんだ。
少し懐かしさに触れてみた所で、結局 彩花との関係が変わることもなかった。
今更か。
助けになりたいと思った。けれど、彼女は俺の助けなんて望んでいたのだろうか?
ただのお節介。気づけば俺の知らない所で勝手に助かっていたのかもしれない。
先生……。
そう、誰かは分からないけれど。熱に浮かされた彼女が 唯一口にした誰か。
ただの横恋慕に 嫉妬する権利なんてない。分かっていても、ムシャクシャして堪らなかった。休みの間に彩花が何をしているのか、つい邪推をしてしまう。
もういいか……。
いつまでも未練がましい。
スマホの画面を指で撫でる。
SNSに放置されたままのアドレスは、時が止まったかのように動いていない。
何度か連絡しようとして、結局そのまま。「おはよう」と、朝の挨拶1つも出来てはいない。格好ばっかり気にしてた。もっと連絡していれば、彩花の変化にも気づけたかもしれないのに。
踏ん切りがつかない。
後は浮かび上がった確認の文字に 触れるだけ。
せめて ちゃんと振られたかったな。今更なんだと罵倒されたい。私は先生と幸せになるんだ。面と向かって言われれば、未練も何もなかったのに。
やめよう。
いつまでも初恋を引きずってられない。
これ以上考えていると、彩花に八つ当たりしそうだ。お前が悪いんだって。
何もしなかった自分を棚に上げてさ。「さようなら」心の中で呟いた。
なのに。
なんだこれ。
唐突に紛れ込んだ一件のメッセージ。
内容も何も無い。ただ分かるのは、送り主が彼女だったと言うだけ。
添付された画像ファイルには、知らない部屋と、見慣れない人影が映っていた。
「あや、か……?」
ベッドの上に転がされている少女に目が留まる。
怯えたような顔をして、必死に何かを叫んでいるように見えた。
一枚……一枚……。
画像を送るたび、服がどんどん剥ぎ取られていく。
拒みきれていない。人影は一人じゃなかった。二人か、撮影した人も含めればきっともっと……。多少暴れた所で、彩花一人の力じゃどうにもならない。
絹を裂くような悲鳴が聞こえてきそうだった。
襟首を掴まれ、ブラウスのボタンが弾け飛ぶ。必死に掴んでいたスカートが引きずり降ろされた。スマホを撫でる指が止まらない。早く、早くっ。次が見たい。彩花の安否が気にかかる。
本当にそれだけだったのか?
指は震えて、喉は渇いて……。
「はっ、はっ、はっ……っ」
呼吸が、上手く出来なかった。
最後に指先が触れたのは、1つの動画ファイル。
ダメだと思う。止めろと理性が叫ぶ。分かってる。内容には予想がついていた。
「まってっ、せんせっ! やだっ、なんですか、この人たち。ねぇっ、まって、先生っ、せんせいっ……!!」
聞こえてきた悲鳴に胸が締め付けられた。
必死に助けを呼び、求める彩花の声。だけど、先生と呼ばれた男は振り返りもしない。赤の他人だったとしてもだ。泣いてる女の子を前に、ここまで無関心になれるんだろうか?
「子供だってっ! お腹に、私っ……。先生とのっ……ねぇ? ねぇってばぁぁっ!!」
掴んだ手を振り払われる。
その瞬間の彩花の顔を、なんと例えていいか分からない。絶望……とも違う。
急に足場が崩れたら、俺もこんな顔をするんだろうか? 信じていた人に裏切られた。それを受け止めきれていない。
親に縋る子供のようだ。
先生の背中を追いかけ立ち上がった彩花は、ベッドに引き戻された。
きっと、俺でも敵わなかっただろう。目に見えて分かる筋肉の形。ガッシリとした腕に 掴まれた彩花の細腕は、簡単に折れてしまいそうだ。
後ろから組み付かれて体の自由を奪われる。
蹴り出した足は簡単に掴まれて、抵抗らしい抵抗もさせて貰えない。
「いやっ……やめっ。はなしっ、て。せんせい、わたし……やだ。せんせいとじゃないと、こんな、まって。やだ、ぃゃぁ……」
彼女の衣服が剥ぎ取られていくのを、見ているしか出来なかった。
悲鳴は涙声に変わって、暴れる足から力が抜けていく。
愉しいんだろうな。小動物に悪戯をするような気持ちは俺にも分かる。
けれど、それはもう悪戯じゃすまなかった。脂ぎった男たちの嘲笑から、次第に余裕がなくなっていく。
呼吸は荒く、激しくなって、目の前の少女の裸体に引き寄せられる。
太い男の指が胸に沈み込んだ。揉みしだかれ、指の隙間から肉が溢れ出す。
息を飲んだ彩花は怯えたように震えだしていた。
「やめて……」
小さく首を振り、涙を流して懇願する。
幼気な少女の泣き顔は、だけど彼らの獣欲を刺激しただけだった。
大柄な男たちに挟まれて、出来ることなんて何も無い。振り回した腕が 男の胸板を何度も叩く。近づいてくる体を押しのけようと、掴んだ肩に指が食い込んだ。
だけど、それだけ。「あっ……」と、彩花の口から悲鳴にも似た声が漏れた。
粘ついた水音が耳に絡む。二人の距離が徐々に縮まり、腰と腰とが重なり合った。
密着して、 押し上げられて、彩花の体が浮き上がる。
「う、ぐっ……ぁっ、ぁっ……ゃっ、ぃぁ」
声にもならない。大粒の涙が 彩花の頬を流れ落ちていく。
俺はそれを見ているだけ。彼女の涙を拭ってやることも出来やしない。
パンッ……!!
平手で打ったかのような音だった。
一度大きく腰を引いた男が、勢いをつけて腰を打ち付ける。
衝撃のまま、彩花の小さな体が大きく跳ねた。逃げることも許されない。
掴まれた腰を持ち上げられる。等身大のオナホみたいな扱いだ。
分かっていたことだった。そんな扱いを受けているのに、彩花は一度だって奪われることを拒みはしなかった。
顔も知らない男たちに犯される。
そこに忌避感はあっても、初めてを失う恐怖は一度だって顔を見せない。
先生と呼ばれていたあの男。きっと一度や二度じゃない。彩花が学校で物思いに耽っていた日も。まだ彼女と話せていた日にだって。休みの間中もきっと。俺の知らない彩花がそこにはいたはずだ。想像した光景に胸が掻き乱された。苛立ちにも似た興奮が 俺を画面に釘付けにする。
「あっ、んっ、ひぃっ……んっ、ぁっ……あ、ぁぁぁ……っ」
掘削のような抽挿を受け止めながら、彩花の声は次第に上ずって聞こえてきた。
乳首を摘まれ嬌声が跳ねる。乱暴にねじり上げられて大きく胸を逸らす。
弾む吐息さえ、男達の動きに合わせるようだ。
見間違いであってほしかった。
男達に犯される彩花の表情に女を感じてしまう。
後ろの男が彩花のアゴを捕まえると、無理矢理に唇を奪っていった。
頬の裏で蠢く何か。重なった唇の隙間から 涎が一筋と流れ落ちていく。
「んちゅっ、はっ、あっ、んっ、ちゅぅ……ゃっ、はっ、ちゅっ……♥」
だんだんと結びつきは強くなり、鼻息が荒くなる。
奪うような動きから、貪るように。されるがままだった彩花も、自分から舌を伸ばして男を受け入れ始める。
ゴクリ……。
細い喉が小さく動いた。
何かを飲み干すように、繰り返し、何度も、とても初めての動きとは思えない。
熱に浮かされた彩花は、当然のように喉を鳴らし続ける。恍惚として見えた。
まるで、甘いジュースでも飲み干すように。
喉がカラカラに乾く。
飲み込んだ唾さえも張り付いて息が詰まった。
助けなきゃいけない。けれど、スマホの向こうに映る彩花には、俺の声も、手だって届かない。こんな動画があるってことは、今更駆け出した所で全て終わっているはずだ。
俺の出る幕なんてありはしない。
とっくの昔に俺の出番は終わっている。
「あっ♥ はっ、はっ、んっ、ゃぁっ♥ ん、ふぅ……ふぅ、あぁぁぁ♥」
男のモノを受け入れながら、彩花は大きなため息を漏らす。
そこに苦痛の色はなかった。犯されている自分に酔いしれている。快感からじゃない。悲鳴は変わらず。泣きながら笑っていて。嬌声を上げるほど、男達は喜んで彩花を犯すから。先生に捨てられた心の穴を、別の何かで埋めるみたいだ。
くそっ、くそっ、くそっ……!!
手が止まらなかった。
股間が熱くて熱くて仕方がない。
悔しい。空しい。でも、他に衝動の抑え方を知らなかった。
こんな事になるのなら……。あの日、彩花を襲っておけばよかった。逃げ出した彩花を捕まえて、校舎の影に押し込む。「逃げたら皆にバラすぞ」最低な脅し方もあったはずだ。怯える彩花に手を掛ける。その瞬間を想像しただけで 興奮が加速した。
あの豊かな胸に指を埋めて見たかった。細い腰を掻き抱いて、何度も何度も、欲望をぶつけて喘がせたかった。彩花のことなんか考えもせず、無責任に中出ししたら、どんなに気持ちよかっただろうか。他の誰かに無茶苦茶にされるくらいなら、いっそ 俺がそうしてやればよかった。俺なら捨てない。もっとずっと大切に、彩花のことを。
身勝手な理屈が頭を染める。
もう、限界だった。
「ゆうま……。ごめん」
何だよ、それ……。
冷水を浴びせかけられたみたいだ。真っ赤になっていた頭から血の気が引いていく。胸の中に残っていた苦悩と、後悔を練り固めたような吐露だった。
男達に犯される中、彼女が何を思ったのかわからない。都合の良い幻聴だ。
耳をそばだてても、聞こえてくるのは乱れた女の嬌声だけ。それでも、もう一度名前を呼んでほしかった。
今更すぎる。
彩花の痴態を食い入るように見つめていた自分が、急に情けなく感じてしまう。
全てが、今更すぎた。マグマのように煮えたぎる射精欲が渦を巻く。
自身を掴む手に力が入った。汗と 先走りと で泥濘んだ手の中を 肉棒が滑り抜けていく。
ブレーキが効かない。
心も、体も、もう止まらない。
歯を食いしばり、駆け上がってくる精液を 押し留めようとしても無駄。
一瞬の開放感のあと、画面の向こうで彼女も声を上げていた。精液を飲み込むように腰を泳がせ、果てる。ピンっと張っていた背筋は解けて、ベッドに崩れ落ちた。
白く濁ったスマホの画面。降り掛かった精液が彩花の体を汚していく。
動画の再生はだ終わらない。もう、やめてくれ。萎えたはずの陰茎に血が巡ってくる。俺の精液で汚された彩花が、また別の男に犯され始めていた。
一瞬目があった気がした。
そこに光はなく、自分のことすら見えていない。
口元はだらしなく緩んで、考えるのを完全に止めている。男の上に跨りながら、抱き合うように腰を踊らせる。その姿は壊れたオモチャみたいで、嫌なくらいに妖艶だった。
*****
静かな家だった。
明かりも付いていなければ人の気配も感じられない。
「彩花?」
名前を呼んでも返事はなかった。
玄関に鍵すら掛かっていない。不審に思った俺は、それでも靴を脱いで恐る恐る家に上がる。
虫の知らせだったのか。
動画の再生が終わった後、着の身着のまま家を飛び出した。
会ってどうする? そんなの二の次だ。窓越しでもなんだって、せめて顔が見たい。今動かないと、本当に取り返しがつかなくなる。理由のない焦燥感に急かされていた。
廊下の先。近くにあった扉を開けて覗き込む。
目を刺したのは、不吉なくらい真っ赤な夕日。
ソファとテレビとが並んで、一見すれば普通のリビングのようだ。小綺麗に片付いてはいる。けれど、不思議と生活感は感じない。ホテルの一室を覗き込んだような違和感がそこにはあった。
ふと、視界の端で鈍色が輝く。
「彩花っ!」
思わず叫んだ。
怖ろしいほどゆっくりと、包丁の切っ先が動いて見える。
彩花は 俺を一瞥することもなく、その手を下ろそうともしない。考える前に駆けていた。赤く染まる彩花の体。夕日が影から溢れてしまう前に 止めなきゃならない。
伸ばした手が熱くなる。
ヌルリとした何かが肌を撫でるが、気にしてる余裕が無い。
揉み合いになった俺達は、彩花に押し倒される形で床に倒れ込んだ。
濡れた彩花の指先が 胸元に触れる。間に合ったんだ。焦燥感が薄れていく。ようやく掴まえた。伝わる彼女の重たさに、実感が湧いてくる。
「なん、で?」
「なんでって……。お前こそ……ぁっ、なにやって」
「別に、もう良いかなって……」
呟く言葉はあんまりに投げやりだった。痛々しいほどに、感情が籠もっていない。
間に合ってなんかなかった。もう取り返しのつかない所まで、彩花の心は壊れている。後悔の念に押しつぶされそうだ。彩花を気遣う振りをして、一番に自分が傷つきたくなかっただけ。ようやく覚悟が決まったときには、こんな有り様だ。
「ねぇ、今更何しにきたの?」
言葉が胸を刺す。虚ろだった彩花の視線が、いつの間にか俺を捕らえていた。食い入るように、マジマジと。1つ、2つと、落ちる言葉の針がいくつも胸に突き刺さる。
「散々放ったらかしにしたじゃない。私、助けてほしかったのに。一番に、悠真のこと考えてたのに……。いつの間にか分からなくなってた。ねぇ、なんで? 何処で間違えたの私? お母さんが言うから、先生が言うから、言う通りに言われた通りにやって、どうして? なんで悠真は何も言ってくれなかったの? 私はいらなかった? 友達だって……そうじゃなかったでしょ、私達。付き合ってってっ、一緒の学校に行こうって。なんで、なんで声かけたのっ。忘れてたかったよっ、こんなのっ。思い出したって、辛いだけじゃないっ。ねぇ、なんで邪魔したの。もう、良いじゃない。私、頑張ったもん。一人でずっと、誰も褒めてくれないのにっ!! ん、はぁ……はぁっ。
バカだよね? 先生、先生って……
それで知らない人にまで乱暴されて。お母さんもどっか行っちゃった……。
あははっ。仕方ないよね、お父さんも自分のことで大変なんだから。でも、でもね……私。わたしね、もう少しでも見てほしかったよ。本当に一人になっちゃった。もう、やだぁ……っ」
何も言えなかった。
握りしめられた彩花の指先が、幼子のように震えだす。
優しいだけの慰めなんて、今の彼女には届かない。
乱暴なくらいの愛情を注いでやらないと。俺のこと以外何も考えられなくなるくらいの。でも、体が動かなかった。震える手を握ってやりたいのに。今すぐ抱きしめてやらなきゃいけないのに。目の前がぼんやりと見えて、彩花の顔すら霞んでくる。
「俺が、いるだろ……?」
それを言うだけに、残っていた全部を使い切ってしまう。
浮かぶ涙に手を伸ばす。拭った涙の跡が、化粧みたいに彼女の目元を彩った。
「見たんでしょ……アレ」
何も言い返せなかった。それが答えになると分かっていても、後ろめたさに口を塞がれる。
「ねぇ、悠真? 私のこと……抱ける? 私のこと愛せるの? もう、綺麗なところなんて何処にもないのに……。生理もね、きてないんだよ? 先生の……ううん、もう誰のかもわかんないや」
ねぇ、悠真?
悠真ってば……。
起きてよ……バカ。
言葉が形にならない。か細い吐息を漏らすのでやっと。
船を漕ぐような心地よさに瞼が重くなる。唇が妙に温かくなった。「好きだ」一度も口に出来ないまま、俺は意識を手放した。
最後に結ばれたので、ハッピーエンドだと思います。
止めるのが悠真くんじゃなくて、お父さんっていう家族愛的なルートもあるにはあった。
ここまでご覧頂きありがとうございました。
よろしければ、いいね、高評価等、宜しくお願いします。