※この作品はR-18です。

少女X家庭教師X依存   作:霧里

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朝の匂いが残るまで

 

 

何をやっているんだろう?

 

「うちに来ないか?」

 

病院からの帰り道。悠真に言われるままついてきてしまった。

家に戻りたくないっていうのはそう。最後の曲がり角を前にして、私は彼から離れることが出来なかった。

 

「おかえり」

 

ただ 温かった。迎えてくれた彼のお母さんの笑顔。それは、いつも窓際から見下ろしていた親子の姿に重なって見える。羨望と嫉妬。あれだけ欲しかったはずの愛情を向けてもらえたのに「ただいま」の一つも返せなかった。

 

学校には行けてない。

 

毎朝、お母さんと一緒に悠真と彼のお父さんを見送るのが日課になる。

いつまでもお客様気分じゃいられないし。なにか手伝いたかったのはそうだけど……。

 

包丁を手にした私は、そのまま動けなくなった。

 

目の前が涙で滲む。呼吸が乱れ、動悸が収まらない。

切り損ねた玉ねぎにしてやられたんじゃなかった。チカチカと途切れ途切れの思考に挟まるのは、悠真を刺した時の感触と血の生温さ。

 

包丁が指からすり抜けていく。

 

あの時と同じだ。ゆっくりと流れていく時間を止められない。

ダメっ……。思ったときには手遅れだった。私は悪くない。悠真が急に飛び込んでくるから……だから。吐き気が込み上げた。そんな言い訳を思いつく自分が嫌になる。悠真は私を許してくれた。お母さんにも手打ちにされてそれっきり。

でも、本当のところはどう思ってるかなんて分かりはしない。

 

包丁に手が伸びる。

 

そのまま私を刺し貫いて欲しい。

 

けれど、いつまで経っても何も起こらなかった。

包丁がまな板から滑り落ちる音も、肌を裂く痛みもない。私はただ、目を閉じて固まっていただけ。

 

「おっと……危ない危ない」

 

その声にようやく目を開けることが出来た。

隣には、彼のお母さんが困った顔をして笑っていた。指先には赤い線が走って見えたのに、どうして私はまだ叩かれてすらいないんだろう?

 

あまりに居心地が悪かった。

 

私のせいだ。せっかく良くしてもらっているのに怪我までさせて。なのに、返せるものなんて一つもない。

 

「……ごめん、なさい。私、その、向こうに行ってますね」

 

逃げた。逃げ出した。

 

謝罪の言葉を差し出すのがやっと。

引き止められていなかったら、そのまま自分の家まで駆け出していたことだろう。

 

「待ちな。カレー一つ作れないでどうすんだ?」

「どうって。そんなの……」

 

レトルトでもなんでも。食べるのには困らないはずだ。

自分がそんなに顔に出る方だとは思ってなかった。むしろ今まで無表情に務めてきたつもり。呆れたような溜息が一つ。その仕草は、癇癪を起こした子供の前に立つ母親のものだった。

 

「そりゃね? あんた一人がつっつくならレトルトでもいいけどさ? 私でもそうする。でもね、男二人だよ? 茹で釜が溢れるっての。量作って黙らせるのが結局早いんだ」

 

そんな事言われたって、実感は湧いてこない。

家族で食事をした記憶なんて……。リビングで食事をしていた父を見かけることはあっても、その時にはもうインスタント食品に溺れていたように思う。

一人一袋。ご飯だって電子レンジで温めるだけ。思い描く家族の食卓に、手作りなんてものは出てこなかった。

 

「あの、でも……。お掃除とか、私がしますから。料理はちょっと……」

「いいや、ダメだね」

 

ならせめて……。逃げようとした私を、だけど逃がしてはくれなかった。

改めて包丁を見ても目眩がするのに、手伝うどころか邪魔にしかならない。

 

「家じゃ飯を作るやつが一番偉いんだ」

 

そのポジションを私に譲って、彼女は私にどうしろっていうんだ。

悠真と、そのお父さんを侍らせろとでも? 人の家を乗っ取るみたいなこと。

だいたい包丁も満足に握れないで料理も何も……。

 

出来てしまった。

 

目の前には鍋いっぱいに煮えたぎるカレーの山がある。

切り揃えられた冷凍野菜に助けられた。パックに入った豚肉だってそう。

最後まで包丁に触れることもなく、カレーを完成させてしまった。

 

「ほら、簡単だろ?」

「……うん」

 

炒めて、煮込んで、混ぜるだけ。

 

なんか釈然としないけど、たしかにこれはインスタントには出せないボリューム感だった。

 

 

****

 

空っぽだ。

 

『いただきます』皆で唱えた後、食卓は戦場と化した。

カレー鍋と炊飯器。見ているだけでもお腹いっぱいになりそうな量だったのに、気づけばあっという間。私が一皿突いている内に、次から次へと手が伸びる。

 

正直、ついていけない。

 

余りのペースの早さに、ご飯をよそってあげる暇すら見つけられなかった。

 

悠真のお母さんも、お父さんも、彼自身だって。「少しは味わえ」だの「肉ばっかりとってんじゃねぇ」だの。遠慮という言葉を何処かに置いてきたような食べっぷりだ。

 

残ったカレーどうするんだろう?

 

3日は続くだろうかと思っていたのに、私の憂慮なんて杞憂にすらならない。

 

「どうだった? 初めて自分で作ったカレーは?」

「おいしかった……です」

 

変なの。心がフワフワしてた。濡れた指先の冷たささえ気にならない。

真っ新になったお皿は雲のように軽かった。なのに、ちょっと物足りない。

私がおかわりを考える頃には、鍋が空になってたせいだ。

 

「ふふっ……。今度からは多めによそっとくんだね」

「……そうします」

 

からかい混じりの笑顔がくすぐったい。「うん」と頷いてしまった自分にも驚いた。不満が顔にも出ていたのか、頬を突かれた私はされるがまま。

顔を背けて、嫌がって見せるのが精々。逃げればいいのに、手放すのが惜しい。

鍋底に固まった汚れでさえ誰にも渡したくはなかった。

 

 

****

 

 

誘って誘われて、不自然なくらいにあっさりと。

 

病院でしでかした事を思えば、今まで何もなかったことのほうが不思議なくらいだ。部屋で二人きり。彩花を抱き寄せたことまでは覚えてる。気づけば自然とベッドに押し倒していた。抵抗なんて無い。それを分かった上で彼女の体に手を掛ける。

 

ボタンが外れ、開けた胸元が大きく揺れた。

 

眩しいまでの肌色と、色づいた乳首。不意打ちだった。これからブラをどう脱がそうか考えていた矢先。飛び込んできた光景に息を飲む。全身の毛が逆立った。

興奮とも苛立ちともつかない衝動。目の前の女体から目を離せない。

 

ゆっくりと、震えた指先が胸の膨らみへと伸びていく。

 

きっと柔らかいんだろう。ほぅと吐き出した息が喉に絡む。自身を包まれた時の感触を思い返しながら、触れようとしたその瞬間。

 

「ねぇ……」

 

呼びかける彩花の声に意識を取り戻す。

引き止めるためじゃない。嫌がる素振りもなかった。頬を染めたままそっぽを向いて、どこか別の所を見ているようだ。

 

「カレー……美味しかった?」

「え__」

 

どうして今? 予想外の問いかけに思考が止まる。

「止めて」だとか「早く」だとか。期待していたのは拒絶か催促の言葉だ。

そのどちらでもないカレーの話。飛び出してきた雑談に、ささくれ立った興奮が引いていった。

 

「ああ、うん……美味かった」

「そっか……」

 

それっきり。彩花はまた口を閉ざしてしまった。

後は好きにして。自分の身は顧みない。投げやりな態度にも思う。

止めるべきだ。理性が警笛を鳴らしている。けれど、続きがしたい。病院での奉仕が、脳裏に浮かんでは消えていく。

 

何度も、何度も……。

 

目の前がチカチカする。

 

頭がクラクラした。

 

投げ出された女の体。今度こそ触れられる。手に入れられる。

ズボンを脱がせ、下着を引き抜いた。彩花は拒まない。自分から足を開いてみせられたら、もうどうにも止まれなかった。彼女の体に覆いかぶさり、唇を貪ろうとした瞬間__。

 

「なに、泣いてんだよ」

 

返事はない。

 

ただ、一度だけ鼻が鳴る。

 

ガツンと、拳骨を落とされたみたいだ。いつか、母さんに叱られた時と同じ衝撃に目が覚めた。これ以上は続けられない。甘え……じゃないな。死にかけたんだ。

一度くらい抱かせろって言う権利はあると思う。言うだけならタダだ。

分かってる。彼女はきっと断らない。俺はそれを利用しただけ。

 

あんまりにも卑怯だ。

 

後悔が心を締め付けた。罪悪感を抱く権利さえ俺には……。

「まってっ!」瞳から大粒の涙が零れ落ちた。引き止める声に心が掻き乱される。

「おねがい」縋る声を震わせて、身を引こうとする俺を彩花は掴んで離さない。

 

「無理するなよ。俺が、バカだっただけだから……」

「ちがっ、ちがうのっ。いいっ、悠真はそのまま……私をっ、だから……」

「そんな泣かれてっ、出来るわけっ!」

「聞いてよっ!! おねがっ、おねがいだから……じゃないと、私っ」

 

完全に水掛け論だ。いや、そもそも会話になってもいない。

お互い自分の事ばかりを口にして、相手のことなんて目にも入っていなかった。

 

「だって、悠真もそうでしょうっ! 使い終わったら私なんかもうっ。なのに、なんで? 大怪我までさせたのに、お母さんも、お父さんも私に優しくて。

 

でも……できないの。

 

料理も、洗濯も、私じゃなくたっていいっ。悠真に、こんなことしかして上げられない。でも、でもっ。エッチしたらもう……いらないでしょ? 私なんか。

やだ、やだよぉ。一緒に居たいのに。家に……帰りたくない。あんなとこ、もう。

ひとりは……ぃゃ」

 

頬を覆う涙。拭っても、拭っても、後から後から流れ出す。

正解が分からない。こんな状態の彩花に手を出して良いものか。けれど、何もしないでも彼女は自分を見失う。安い言葉なら幾らも思いついた。「そんなことない」「ずっと一緒だ」そのどれもが空虚に響く。ああ、くそ「結婚しよう」って、階段飛ばしに告白すれば満足か?

 

「彩花っ!」

「ひっ……」

 

俺だって、冷静じゃなかった。

泣きじゃくる彼女に怒声を浴びせてしまう。手が出なかったことだけがせめての救いだ。頬を覆う両手を剥ぎ取る。驚いた彩花と目が合ったが、そんなことに構ってる余裕はなかった。

 

「んっ!?」

 

キス、口づけ、接吻。唇を重ねて、それを奪う。

彩花が初めて抵抗してくれた。前歯がゴリゴリと削れそうだ。唇の裏から血の味が滲んでくる。それでも、彼女を決して離さない。誘われるまま、流されるままじゃいられなかった。押し付けでもなんでも、俺はちゃんと彩花が欲しいんだって伝えないと何も始まらない。

 

荒い鼻息が次第に収まってくる。

 

涙の跡が乾き始める頃には、暴れていた両腕からも力が抜けていった。

 

 

「……なん、で?」

 

呆然と呟いた。

 

その時、私は初めて悠真の顔を見た気がする。

「なにが?」じゃない。質問を質問で返さないで。私が聞きたいのは……。

 

「好きだ」

 

違う。

 

「愛してる」

 

それも違う。

 

「結婚しよう」

 

違うの。

 

「じゃあっ、明日もカレー作ってくれっ!」

「……うん」

 

また、泣いちゃった。でも、濡れた頬は何故だか温かかった。

 

私の中に悠真がいる。

 

初めて、誰かと一つになれた。

 

捨てられないための奉仕じゃない。彼の手を取り、私の胸に置く。

一瞬、大きく広がった手のひらは、戸惑いながらも膨らみを手中に収めていった。

ちゃんと伝わってほしい。言葉よりも確かな私の気持ち。

 

「……どう?」

「どうって……」

「ずっと見てたから。触りたかったんでしょう?」

「……ごめん」

「ふふっ」

 

変なの。ついと、笑いが込み上げる。

なんで今さら照れるんだろう? 今度は胸じゃない。もっと深い所で繋がっているのに。思い出しでもしてるんだろうか? そうなら、ちょっとだけ嬉しい。

 

首に手を回し、ぐっと彼を抱き寄せた。

 

「また、胸でしてあげるね?」

「うっ……」

 

可愛い。口にしそうになるのを堪える。

流石に格好がつかないだろう。エッチの途中に可愛いだなんて。ぎこちない腰の動きも。耳の先まで真っ赤になるのも。もう一杯にまで膨らんでいるのに、まだ大きくしてくれるんだ。遠慮と気遣いは嬉しい。けれどそれは、不慣れからくるもののように思えた。

 

本当に、よかったんだろうか?

 

ダメだと思っても、つい暗い影が忍び寄ってくる。

 

「彩花? 余計な事考えてるだろ?」

「……うん」

 

見透かされてしまった。表情を隠すのには慣れてるつもりだったけど。

でも、そっか……。言われて気づく。今の私は彼を見ていない。後ろめたさに負けて、ベッドの隅に視線を逃がしていた。

 

「本当に良かったのかなって。私は……だって、もう」

「初めてだろ? 俺とするのは……それじゃダメか?」

 

そんなの、ごっこ遊びだ。

 

でも、それで良いのかもしれない。

 

悠真とエッチしてるのに、余計なことを考えたくはなかった。

ゴチャゴチャと頭の中が煩いのは、まだ私が彼に奉仕しようとしているから。

腰の動き、膣の締付け。どうすればもっと気持ちよくなってくれるのか。

初めての女の子は、そんな風には考えないだろう。少なくとも、私にそんな余裕はなかった。受け止めるだけでもう……。心が掻き乱されるような衝撃に耐えるのに精一杯のはず。

 

ダメだ。

 

また余計なこと考えちゃう。

 

「悠真……きて?」

 

だったらもう、忘れさせて欲しい。

 

「私は……大丈夫だから。悠真が好きに動いてくれたら、嬉しい」

 

小賢しいのはここまで。その性欲を煽るように耳元で囁いた。

抱きついていた彼の体が、じっとりと汗ばみ始める。指先が肌に食い込んだ。

胸の膨らみが潰されたまま全然離してくれない。

 

この気配を知っている。

 

途端に、私の体はベッドに押し付けられた。

ムクムクと、欲望が私の中で育っていくの。腰を引き、抜け出る寸前。一気に駆け上がってくる。内側から体を押し上げられ悲鳴にも似た嬌声が漏れた。

 

雫が弾ける。

 

肌がぶつかり合う。

 

あまりの勢いに、そのまま抜け出ていってしまいそうだ。

気持ちを確かめるためでも、私を喘がせるためでもない。射精をするための抽挿に飲み込まれていく。「彩花っ……」苦しそうな声だった。血走った視線に肌を舐め回された。

 

出して。

 

頭の中で声がする。

 

全身に浴びせて貰っていい。中にでも構わない。

その時、私は初めて女の子になった。悠真が私を欲しがるみたいに、私も悠真が欲しくてしょうがない。

 

全部上げるから、全部ちょうだい?

 

閉じた指にシーツを巻き込んだ。今まで覚えたことの全部を忘れて、彼の動きに流される。「ゆうまっ、ゆうま……」うわ言のように名前を呼び続けた。

体が浮き上がるんだ。自分がどうなってるのかも分からない。不安で、怖くなって、でも満たされる。腰が抱き寄せられ、お腹の中が大きく波打った。

 

 

 

 

「……あやか」

 

 

 

 

遠くで、彼が私を呼んでいる。

早く返事してあげないと。でも、頭に白いモヤが掛かったみたい。何か考えたそばから、何を考えてるのか分からなくなった。ただ、熱い。お腹が別の生き物みたいに震えてた。背筋が伸びて、ようやく呼吸が出来る。

 

「あっ♥ ゆうまっ、ゆうまっ……すき、すきっ、すきっ……いぅっ、あ、あぁぁぁっ……♥」

 

こんなの、いつもの私からは絶対に出ない声だ。

「もっと」ねだりもしない。「だして」と求めない。何処にでもいる普通の女の子の声。ただちょっと、エッチなだけ。

 

ああ、やっちゃった。

 

力加減を間違えた。シーツを掴んでいた指先から、ビリリと嫌な音が聞こえてくる。どうしよう? でも、今は……わかんない。

 

気づけばベッドに体が沈んでいた。

 

乱れた呼吸はそのままに、胸の鼓動は冷めやらない。

 

行為の後、悠真にキスをされる。

落ち着きたいのに、全然落ち着かせてくれないんだ。気づいてるのかな? また私の中で彼が揺れ動き始めていた。

 

嫌だな……。

 

もう一度。求められるのは凄く嬉しい。

 

そうなんだけど……。

 

キスの後、私達の間には微かにカレーの匂いが漂っていた。

 

 

****

 

目を閉じるのが怖い。

 

次の瞬間には、自分の部屋に戻っているんじゃないか。勉強机で寝落ちていた私は、扉を叩く音に引き戻されるんだ。過去から手が伸びてくる。未来なんて曖昧なものも信じちゃいない。せめて、明日がほしかった。一緒にご飯を食べよう。そんな程度の約束が少しの勇気をくれる。目下のところの悩みは、カレー以外のレパートリーを増やすこと。じゃないと本当に、三日三晩カレーが続いてしまいそうだ。

 

「おはよう」

 

朝、悠真がリビングに降りると、彩花の声に出迎えられた。

キッチンから振り返った彼女の制服姿。朝日に照らされた白いエプロンが、天使の羽のように翻った。漂ってくる味噌汁のいい香りと、焼けた魚の匂い。

包丁を叩く音こそなかったが、お腹が鳴るには十分だった。

 

「無理してないか?」

 

彩花はいつだって俺より先に起きていた。

朝ごはんに、弁当の準備。俺と一晩過ごした後だって、眠い顔一つ見せはしない。

 

「ううん。どうして?」

「いや、朝も早いし。弁当なんか……別にコンビニでもさ」

 

失言だった。機嫌良さそうに動き回っていた彩花の手が止まる。

コンロの火を止めた理由さえ分からなかった。笑顔は崩さないまま。だけど、カウンターに並んでいた弁当の一つが取り上げられる。決して特別なものじゃない。そのほとんどが冷凍食品を並べた程度だ。

 

「……ごめんなさい」

 

だとしても、比べるべきじゃなかった。ただ少し、心配だっただけ。

彩花が好きでやっているのは分かっているはずだったのに。本当にコンビニに行けと言われたら、俺はそうそうに根をあげていただろう。彼女の作ってくれた弁当だ。それを取り上げられてしまっては、素直に頭を下げるしかなかった。

 

「よろしい。朝ごはんも出来たから、早く顔洗ってきてね?」

 

なんだか母さんに似てきたな。

 

得意げに鼻を鳴らす彩花は、どうにもたくましい。

良いことのように思う反面。あんなのが二人もいると思うと少しだけ肩身が狭い。

 

「あ、それ……」

「なに?」

「いや、うん……なんでもない」

「そ」

 

持っていかれた。

 

緑一色。弁当箱こそ返してくれたけど。プチトマトのいなくなったサラダは、どこか精彩に欠けていた。

 

 

【挿絵表示】

 




これはハッピーエンドですか?

最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ、いいね、高評価等、宜しくお願いします。

父親が母親から罵られても ずっと耐えてたのは、少しでも彩花から気を逸らしたかったから。みたいなシーンが最初らへんにあっても良かったかな。勝手に思ってるだけの愛情なんて伝わらないんだけど。
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