少女X家庭教師X依存 作:霧里
「君の為だから」
その言葉を信じんたんじゃない。信じるしかなかったから。信じたかったから。
玲司の背中を見送った彩花は立ち尽くしたまま、そっと部屋の扉を撫でた。
けれど、そこから先には一歩も動けない。
取っ手を押し込んで、外に出るだけ。子供にだって出来ること。
想像してしまった。扉の向こうで行われている行為。男と女の睦み合い。
二人が本当に愛し合っているのなら、まだ受け入れることも出来たのかもしれない。色々問題はあるけれど、それでも……まだ。
いつの間にか、牢獄は鳥かごに変わっていた。
母が扉を叩くこともなくなって随分立つ。自室にいる間は、怖いことは何もない。
先生の作ってくれた安全地帯の中で、小鳥のように餌を待つ自分だけがそこにいた。
「ふふっ……」
ふいに笑いが漏れた。
小鳥だなんてさ。なに、自惚れてんだろう。貴女はそんな可愛いものじゃないでしょう? 例えそうだったとしても、世界一 醜い小鳥じゃない。自分の成長した姿に、母親の面影が重なって見えた。その姿は白鳥どころか、アヒルでさえもない。
扉に背中を預けて部屋を見る。ここに私を示すものは何も無かった。
あるのはとまり木だけだ。勉強机にベッド。クローゼットには、学校の制服と、いくつかの私服くらい。以前は残っていた私物も、捨てられてしまった。伸ばしていた髪も短くされて、出来上がったのは勉強すら出来ない私。勉強以外のことは徹底的に削ぎ落とされた。
「……先生」
吸い寄せられるように、彩花は机のそばに立っていた。
いつも、あの人が立っているところだ。
伸ばした指先で、そっと机を撫でる。少しでも、そこに先生の気配が残っていて欲しかった。けれど、唇に当てた指先には、何の味も、匂いもない。
温もりさえも掻き消えたように、エアコンで冷やされた指先は冷たいだけ。
無意識だったのか、それとも……
股間にむず痒いものを感じたときには、そこから離れられなくなっていた。
じんわりと、体が熱くなるのを感じる。自身の熱に気づかない振りをしながらも、少しずつ体が傾いていくのを止められない。まるで、先生に手招かれるようだ。
隣にあの人が立っている。頭の中では もう、その手に抱き寄せられていた。
手をついて、腰を落とす。
机の角に股間を押し上げられて……違う。自分から股間を押し付けてた。
勉強机の丸い角で良かった。木の温もりのようなものを僅かに感じて、少しだけ気が紛れる。
「はぁ……っ。れいじ、せんせいっ……!」
擦れる程度の刺激だった。太ももの内側、その奥へと、机の角を迎え入れる。
衣擦れの音が聞こえて、一瞬ヒヤリとした。苦しくなった胸を、ぎゅっと押さえる。呼吸が荒くなり、吐息に熱が絡みだす。
イケないことをしている。
本当なら嫌悪すべきなのかもしれない。
ただ、自分を慰めているだけなら良かった。好きな男の子の事を思いながら なら、きっと普通の事だと想う。
でも、これは違う。自覚があった。
母と同じこと。その真似事は、自傷行為と何も変わらない。傷だらけの心に傷を増やす。「辛い」って言えば頭を撫でてくれた。「悲しい」って泣いて見せれば、優しく抱きしめてもくれる。先生に慰めてもらうために、可愛そうな自分を利用した。
よく頑張ったね。偉かったね。もう、頑張らなくて良いんだよ。僕が守ってあげるから……。先生の優しい言葉の数々が、傷口に染み渡り、痛みが和らぐ。
でも、どうしてか傷口は塞がらないまま。その理由を考えたくなくて、行為に没頭してしまう。
「ただいまっ、お母さんっ♪」
その声に、視線が動いてしまった。
窓の向こう。隣家の庭先。洗濯物を取り込んでいる女性に、抱きつく女の子。
普通の幸せがそこにはあった。窓一枚隔てた向こうが、随分遠い。本当なら自分にもあったかもしれない幸せが、酷く妬ましくなった。
いや、どうかな。
見た目は普通に見えるだけで、あの家も、どこかしら壊れているんじゃないか。
元気よく家に帰ってきた女の子も、それを優しく抱きとめた女の人も。
見えないところでは、どうなってるのかもわからない。後ろ暗い話の一つや二つ、探せばいくらも出てくるんじゃないか。
ほとんど願望だった。
分かってる。
でも、そうじゃなきゃ、自分だけがあんまりにも報われれない。
机の角が、自身を擦る。硬いだけの異物感は、指でなぞるのに比べれば、むしろ痛みに近い。けど、それがよかった。自分の指で慰めるだけじゃ、あんまりにも惨め過ぎる。
普通の刺激じゃ物足りない。他人の不幸まで望んでしまう自分を罰したかった。
無機質な冷たさに苛まれる。「イケない子だね」深く響く先生の声を、頭の裏に聞いていた。「ごめんなさい」私が謝っても、先生は許してくれないんだ。机に体を押し付けられた私は、苦しくなって足を開く。
「お仕置きだよ、彩花」囁く声に、私を責める色はない。
行為の始まるを告げる声だ。下腹から、じんわりとした熱感が湧き上がる。
甘い痺れを期待して、背筋が震え上がった。何も知らない振りをして腰を揺らすと、机の角が更に食い込んできた。吐息が上がり、視界が霞んでいく。
「はぁっ、はぁっ……」
いつもより、ドキドキする。
まだ、日もある内にこんな事して……
誰もが寝静まった深夜とはまるで違う。切り裂くようなサイレンも、囁くような虫の音も聞こえなかった。外は明るく、傾き出した陽の光が私を照らす。
窓の外には、生活の音があった。人の声、車の音、猫の鳴き声から、小鳥の囀りまで。
伝わってくる空気の中に、一つ、一つと混ざり合う。
その中にはきっと、私の音も混ざっているはずだ。
重たく吐き出した吐息も。身動ぎをするたび聞こえる衣擦れの音も。
くちゅり……。絡むような水音に頬が熱くなる。
聞こえる訳が無い。
外には音が溢れている。私なんかの独り善がりが聞こえるのなら、先生たちの「お話し」は、とっくに問いただされているはずだ。
そこで、目が合わなければ。
窓の外。見下ろす庭先。母親に甘える女の子。ふと、見上げてくる視線が重なった。
その瞬間、心臓が止まったような気さえした。ごくり……息を飲み込んだ。
首を傾げた女の子の唇が動く。ふわりと浮かぶ柔らかい笑顔。母親に呼ばれた女の子は、私のことなんかすぐにも忘れて、家の方に戻っていった。
緊張で強張った体から力が抜けていく。
まだ、ドキドキしていた……
窓ガラスに映る顔が赤い。潤んだ瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだ。
もう少し窓の近くに立っていたら、ガラスが白く染まるんじゃないか。
お姉ちゃんのエッチ……
違う。そうじゃなかったはずだ。あの子は確かに何かを言っていたようだけど。
声は届いてない。唇の動きさえぼやけたまま。なのに、笑顔が焼き付いて離れない。ニヤリと、嘲笑ってはいなかったか? 惨めな私をからかうみたいに。
家に戻った女の子は、母親に言うんだ。あのお姉ちゃん、一人でエッチしてたよって。恥ずかしいね。可愛そうだねって。
ぎゅっと、胸が苦しくなった。
今にも掻き毟りたくなる衝動に指が震えだす。
情けなくて、みっともなくて。
外から見た私は、きっとそうなんだろう。
それを言う あなた達は、さぞ幸せなんだろう。
一つ、二つ、ブラウスのボタンに指を掛けた。
パチっと軽い金属音が微かに響く。少し胸が軽くなった。ブラのホックが外れ、抑えのなくなった膨らみが僅かに揺れる。
もし今、あの子が戻ってきたら。
次の瞬間に、部屋の扉が開いて先生に見られたら。
何も言い訳できない。着替え中だって言うのも苦しい。
机の角に跨って何を着替えるっていうの。半端にブラウスを着崩して、濡れた下着が肌に張り付く。腰を揺すれば、胸が揺れた。乳首の先がブラウスに擦れて、甘い痺れに包まれる。
窓ガラスに映る自分の痴態から目を逸らしても、興奮は収まらなかった。
何も無い部屋で、独り自分を慰める。くちゅり……聞こえる水音さえ空虚だ。
熱い吐息は空回り、漂い始めた女の気配に空気は重たく沈んでいく。
ぎぃ……と、机の軋む音に鼓動が跳ねた。
見られる自分を想像して、更に胸が締め付けられる。
見られたい。見て欲しい。羞恥心さえ、快感に変わって燃え上がる。
「せんせっ……せん、せい……わた、わたし……っ♥」
甘い声が喉を震わせ、アゴが持ち上がる。机の角が深くに刺さって、背筋が震えった。膝が笑い、つま先が浮き上がってしまいそう。なのに、腰の動きが止められない。机に両手をついて、大きく動かすたびに、頭の中が白くなる。
気持ちがいい。この瞬間だけが、嫌なことの全部を忘れさせてくれた。
どんなに惨めでも、快感に抗えない。「ひぃっ……♥」漏れた悲鳴さえ、興奮にまみれていた。背筋が伸びて、視界が広がる。庭先の向こう側。そこの小路から歩いてくる人影を見つけて、ぶわぁっと全身が熱くなった。
汗が浮き上がり、涙が溢れる。
その瞬間。ピンっと糸を張った様な快感が、プツリと切れた。
見られた……かな? わかん、ないや……。
ぽた、ぽた……
涎と、涙が、机の上に滴っていた。ガクガクと足が震えて、もう立っていられない。机にしがみついていた手が滑り落ち、膝から崩れ落ちた。
ベトリとする。へたり込んだ床の上は濡れていた。開いた足の内側が気持ち悪い。
「あはっ、あはは……」
知らず笑いが溢れてしまう。机をベトベトにして、床までぐっしょり。
下着から滲み出す熱は、冷えた床に私の体温を移していく。快感の残り火が、汗を浮き上がらせる反面、心は酷く冷え切っていた。早く片付けなきゃいけないのに、体は動かない。窓を開けて、空気も入れ替えないといけない。
でも……
「せんせい、が……悪いんだから、ね?」
それが、何に見えたんだろう? 愛液で汚れた指先をペロリと舐めた彩花は、恍惚と息を吐き出していた。
角オナからしか得られない栄養がある。