※この作品はR-18です。

少女X家庭教師X依存   作:霧里

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鳥かごの傷痕

 

 

「君の為だから」

 

その言葉を信じんたんじゃない。信じるしかなかったから。信じたかったから。

 

玲司の背中を見送った彩花は立ち尽くしたまま、そっと部屋の扉を撫でた。

 

けれど、そこから先には一歩も動けない。

取っ手を押し込んで、外に出るだけ。子供にだって出来ること。

想像してしまった。扉の向こうで行われている行為。男と女の睦み合い。

二人が本当に愛し合っているのなら、まだ受け入れることも出来たのかもしれない。色々問題はあるけれど、それでも……まだ。

 

いつの間にか、牢獄は鳥かごに変わっていた。

 

母が扉を叩くこともなくなって随分立つ。自室にいる間は、怖いことは何もない。

先生の作ってくれた安全地帯の中で、小鳥のように餌を待つ自分だけがそこにいた。

 

「ふふっ……」

 

ふいに笑いが漏れた。

 

小鳥だなんてさ。なに、自惚れてんだろう。貴女はそんな可愛いものじゃないでしょう? 例えそうだったとしても、世界一 醜い小鳥じゃない。自分の成長した姿に、母親の面影が重なって見えた。その姿は白鳥どころか、アヒルでさえもない。

 

扉に背中を預けて部屋を見る。ここに私を示すものは何も無かった。

あるのはとまり木だけだ。勉強机にベッド。クローゼットには、学校の制服と、いくつかの私服くらい。以前は残っていた私物も、捨てられてしまった。伸ばしていた髪も短くされて、出来上がったのは勉強すら出来ない私。勉強以外のことは徹底的に削ぎ落とされた。

 

「……先生」

 

吸い寄せられるように、彩花は机のそばに立っていた。

 

いつも、あの人が立っているところだ。

 

伸ばした指先で、そっと机を撫でる。少しでも、そこに先生の気配が残っていて欲しかった。けれど、唇に当てた指先には、何の味も、匂いもない。

温もりさえも掻き消えたように、エアコンで冷やされた指先は冷たいだけ。

 

無意識だったのか、それとも……

 

股間にむず痒いものを感じたときには、そこから離れられなくなっていた。

じんわりと、体が熱くなるのを感じる。自身の熱に気づかない振りをしながらも、少しずつ体が傾いていくのを止められない。まるで、先生に手招かれるようだ。

隣にあの人が立っている。頭の中では もう、その手に抱き寄せられていた。

 

手をついて、腰を落とす。

 

机の角に股間を押し上げられて……違う。自分から股間を押し付けてた。

勉強机の丸い角で良かった。木の温もりのようなものを僅かに感じて、少しだけ気が紛れる。

 

「はぁ……っ。れいじ、せんせいっ……!」

 

擦れる程度の刺激だった。太ももの内側、その奥へと、机の角を迎え入れる。

衣擦れの音が聞こえて、一瞬ヒヤリとした。苦しくなった胸を、ぎゅっと押さえる。呼吸が荒くなり、吐息に熱が絡みだす。

 

イケないことをしている。

 

本当なら嫌悪すべきなのかもしれない。

ただ、自分を慰めているだけなら良かった。好きな男の子の事を思いながら なら、きっと普通の事だと想う。

 

でも、これは違う。自覚があった。

 

母と同じこと。その真似事は、自傷行為と何も変わらない。傷だらけの心に傷を増やす。「辛い」って言えば頭を撫でてくれた。「悲しい」って泣いて見せれば、優しく抱きしめてもくれる。先生に慰めてもらうために、可愛そうな自分を利用した。

 

よく頑張ったね。偉かったね。もう、頑張らなくて良いんだよ。僕が守ってあげるから……。先生の優しい言葉の数々が、傷口に染み渡り、痛みが和らぐ。

でも、どうしてか傷口は塞がらないまま。その理由を考えたくなくて、行為に没頭してしまう。

 

「ただいまっ、お母さんっ♪」

 

その声に、視線が動いてしまった。

 

窓の向こう。隣家の庭先。洗濯物を取り込んでいる女性に、抱きつく女の子。

普通の幸せがそこにはあった。窓一枚隔てた向こうが、随分遠い。本当なら自分にもあったかもしれない幸せが、酷く妬ましくなった。

 

いや、どうかな。

 

見た目は普通に見えるだけで、あの家も、どこかしら壊れているんじゃないか。

元気よく家に帰ってきた女の子も、それを優しく抱きとめた女の人も。

見えないところでは、どうなってるのかもわからない。後ろ暗い話の一つや二つ、探せばいくらも出てくるんじゃないか。

 

ほとんど願望だった。

 

分かってる。

 

でも、そうじゃなきゃ、自分だけがあんまりにも報われれない。

 

机の角が、自身を擦る。硬いだけの異物感は、指でなぞるのに比べれば、むしろ痛みに近い。けど、それがよかった。自分の指で慰めるだけじゃ、あんまりにも惨め過ぎる。

 

普通の刺激じゃ物足りない。他人の不幸まで望んでしまう自分を罰したかった。

無機質な冷たさに苛まれる。「イケない子だね」深く響く先生の声を、頭の裏に聞いていた。「ごめんなさい」私が謝っても、先生は許してくれないんだ。机に体を押し付けられた私は、苦しくなって足を開く。

 

「お仕置きだよ、彩花」囁く声に、私を責める色はない。

行為の始まるを告げる声だ。下腹から、じんわりとした熱感が湧き上がる。

甘い痺れを期待して、背筋が震え上がった。何も知らない振りをして腰を揺らすと、机の角が更に食い込んできた。吐息が上がり、視界が霞んでいく。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

いつもより、ドキドキする。

 

まだ、日もある内にこんな事して……

 

誰もが寝静まった深夜とはまるで違う。切り裂くようなサイレンも、囁くような虫の音も聞こえなかった。外は明るく、傾き出した陽の光が私を照らす。

窓の外には、生活の音があった。人の声、車の音、猫の鳴き声から、小鳥の囀りまで。

 

伝わってくる空気の中に、一つ、一つと混ざり合う。

 

その中にはきっと、私の音も混ざっているはずだ。

 

重たく吐き出した吐息も。身動ぎをするたび聞こえる衣擦れの音も。

くちゅり……。絡むような水音に頬が熱くなる。

 

聞こえる訳が無い。

 

外には音が溢れている。私なんかの独り善がりが聞こえるのなら、先生たちの「お話し」は、とっくに問いただされているはずだ。

 

そこで、目が合わなければ。

 

窓の外。見下ろす庭先。母親に甘える女の子。ふと、見上げてくる視線が重なった。

その瞬間、心臓が止まったような気さえした。ごくり……息を飲み込んだ。

首を傾げた女の子の唇が動く。ふわりと浮かぶ柔らかい笑顔。母親に呼ばれた女の子は、私のことなんかすぐにも忘れて、家の方に戻っていった。

 

緊張で強張った体から力が抜けていく。

 

まだ、ドキドキしていた……

 

窓ガラスに映る顔が赤い。潤んだ瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだ。

もう少し窓の近くに立っていたら、ガラスが白く染まるんじゃないか。

 

お姉ちゃんのエッチ……

 

違う。そうじゃなかったはずだ。あの子は確かに何かを言っていたようだけど。

声は届いてない。唇の動きさえぼやけたまま。なのに、笑顔が焼き付いて離れない。ニヤリと、嘲笑ってはいなかったか? 惨めな私をからかうみたいに。

家に戻った女の子は、母親に言うんだ。あのお姉ちゃん、一人でエッチしてたよって。恥ずかしいね。可愛そうだねって。

 

ぎゅっと、胸が苦しくなった。

 

今にも掻き毟りたくなる衝動に指が震えだす。

 

情けなくて、みっともなくて。

 

外から見た私は、きっとそうなんだろう。

それを言う あなた達は、さぞ幸せなんだろう。

 

一つ、二つ、ブラウスのボタンに指を掛けた。

パチっと軽い金属音が微かに響く。少し胸が軽くなった。ブラのホックが外れ、抑えのなくなった膨らみが僅かに揺れる。

 

もし今、あの子が戻ってきたら。

 

次の瞬間に、部屋の扉が開いて先生に見られたら。

 

何も言い訳できない。着替え中だって言うのも苦しい。

机の角に跨って何を着替えるっていうの。半端にブラウスを着崩して、濡れた下着が肌に張り付く。腰を揺すれば、胸が揺れた。乳首の先がブラウスに擦れて、甘い痺れに包まれる。

 

窓ガラスに映る自分の痴態から目を逸らしても、興奮は収まらなかった。

何も無い部屋で、独り自分を慰める。くちゅり……聞こえる水音さえ空虚だ。

熱い吐息は空回り、漂い始めた女の気配に空気は重たく沈んでいく。

 

ぎぃ……と、机の軋む音に鼓動が跳ねた。

 

見られる自分を想像して、更に胸が締め付けられる。

 

見られたい。見て欲しい。羞恥心さえ、快感に変わって燃え上がる。

 

「せんせっ……せん、せい……わた、わたし……っ♥」

 

甘い声が喉を震わせ、アゴが持ち上がる。机の角が深くに刺さって、背筋が震えった。膝が笑い、つま先が浮き上がってしまいそう。なのに、腰の動きが止められない。机に両手をついて、大きく動かすたびに、頭の中が白くなる。

 

気持ちがいい。この瞬間だけが、嫌なことの全部を忘れさせてくれた。

どんなに惨めでも、快感に抗えない。「ひぃっ……♥」漏れた悲鳴さえ、興奮にまみれていた。背筋が伸びて、視界が広がる。庭先の向こう側。そこの小路から歩いてくる人影を見つけて、ぶわぁっと全身が熱くなった。

 

汗が浮き上がり、涙が溢れる。

 

その瞬間。ピンっと糸を張った様な快感が、プツリと切れた。

 

見られた……かな? わかん、ないや……。

 

ぽた、ぽた……

 

涎と、涙が、机の上に滴っていた。ガクガクと足が震えて、もう立っていられない。机にしがみついていた手が滑り落ち、膝から崩れ落ちた。

ベトリとする。へたり込んだ床の上は濡れていた。開いた足の内側が気持ち悪い。

 

「あはっ、あはは……」

 

知らず笑いが溢れてしまう。机をベトベトにして、床までぐっしょり。

下着から滲み出す熱は、冷えた床に私の体温を移していく。快感の残り火が、汗を浮き上がらせる反面、心は酷く冷え切っていた。早く片付けなきゃいけないのに、体は動かない。窓を開けて、空気も入れ替えないといけない。

 

でも……

 

「せんせい、が……悪いんだから、ね?」

 

それが、何に見えたんだろう? 愛液で汚れた指先をペロリと舐めた彩花は、恍惚と息を吐き出していた。




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