※この作品はR-18です。

少女X家庭教師X依存   作:霧里

8 / 19
唇に残る熱

 

聞き慣れたチャイムの音。

 

美術室に集まった生徒たちに、二人組を作れという教師の声が響く。

大抵は男女で分かれる中、異性とペアを作ってみたり。少し騒がしくしながらも、そこには確かな青春があった。

 

「ねぇねぇ、一緒にやろうよ?」

 

隣に座っていた女の子が、誰かに呼ばれて席を立つ。

それを横目に見ながらも、彩花は俯いたまま動けなかった。クラスの人数は ちょうど偶数。余りなんて出るわけもない。それでも余ってる自分は確かに残り物なんだ。

 

特別、いじめられている わけじゃない。

 

ただ、友人がいないだけ。最初の内は、声を掛けられることもあった。

けれど、勉強ばかりの生活に、誰かと関係を築く余裕なんてない。

 

違う。家の中ではそうかも知れない。放課後だって自由にならない。

でも、学校の中だけなら、上手いやりようもあったんじゃないか。そう出来なかったのは、そうしなかったのは……。

 

これで席次が一番だったなら、まだ言い訳も出来たんだろうな。

 

多少成績が上がったところで、何が変わった訳じゃない。

いつも上位に名前を連ねてる人たちに比べれば、足元に居る私の変化なんて些細なものだ。キラキラと輝くあの子達の影の下。このまま授業を抜け出したってきっと、誰も気づかないんだろう。

 

いつものことだ。

 

虚しいのか、寂しいのか、胸が苦しくなる。

早く、先生に会いたいな。最近はもう、そればかりだ。時間が過ぎるに任せていた。どうせ、そのうち 誰かが声を掛けてくるだろう。二人組みを作りきれなかった、私よりマシな余り物。嫌々ながら ため息をついて、貧乏くじを引かされたみたいに。

 

「一緒にやらないか?」

 

最初は、その言葉の意味が分からなかった。

そもそも、私に話しかけているなんて思いもしない。同じ言葉を隣で繰り返されて、ようやく顔を上げることができた。

 

「え? わたし……?」

「そうだよ。回りもほとんど決まってるし、早く決めないと変な空気になるだろ?」

「それは……でも」

 

言われなくても分かってる。その変な空気を、一番に吸ってきたのは私だ。

どうして? とは思う。女の子が相手でも、渋々と言った具合なのに。

どうして男の子の方から、声を掛けて来たのかわからない。さっきまで私を見向きもしなかった子たちが、好奇の視線を向けてくるのもイヤだった。

 

「ダメか?」念を押されて、断れる訳もない。

どうせ、余りで組まされるのなら同じこと。余計に変な空気を作るよりは良い。

私が頷いてみせると、彼はホッとしたように微笑んだ。

 

男の子と向かい合って座る。

 

授業とは言え、少しだけ気恥ずかしくなった。

それも、お互いの似顔絵を描こうだなんて、どうしたって顔を覗き込まないといけない。

 

美術の歴史ならともかく、実技となるとからっきし。

なんとなく輪郭は描けたつもりでも、それがどうしても彼には見えなかった。

そこに、幼さの影はない。むしろ、私がなぞっている線の一本一本は、大人びて見える。

 

「なぁ、篠宮?」

「ぇ、ぁ……なに?」

 

声を掛けられて、ドキッとした。

ちょっと見せてと言われたらどうしよう。上手いとか下手とかよりも、彼の顔を見ながら別の人を想っていたのには気が引けた。「君が見せてくれるなら」そう言えば、引き下がってくれるだろうか? 

 

「俺のこと、覚えてる?」

「え?」

 

けれど、問いかけは意外なものだった。

自分の事を覚えているか。言われて、初めてハッキリと彼を見たのかもしれない。

思えば、何処か見覚えのある面影だ。けれど、どう首を傾げたって思い出すまでには至らなかった。「ごめんなさい」口癖のように謝罪した私は、恐る恐ると彼に問いかける。

 

「……その、昔、あったことある?」

「うん」

「そっか……ごめんなさい」

「あははっ。やっぱり忘れてるか」

「その……名前、教えてもらっても? もしかしたら……思い出せるかもしれないし?」

「うーん……秘密。似顔絵、どうせ後で貼られるだろ? その時に答え合わせな?」

 

良かった。気分を害してはいないみたい。

悪戯に笑う彼の顔を見て、ふいに唇が動きそうになった。それが彼の名前だったんだと思う。けれど、呟く先から言葉は掻き消えて声にはならない。

「どうかした?」不思議そうな表情を浮かべる彼に、少しだけ気が緩んでしまった。

 

「……意地悪?」

「ちがうって。思い出してくれたほうが嬉しいからさ」

「そう、なんだ……?」

 

すねたように唇を尖らせる自分が信じられなかった。

まるで、いつもそうしているかのような声色に戸惑ってしまう。

嫌悪感も、警戒心もない。こう言っても許される。自然と私は彼に甘えることが出来ていた。

 

 

***

 

放課後の帰り道。伸びる影が、今よりもっと短かった頃。私は誰かと歩いていた。

 

「私、来年から違う学校に行くの……ごめんね?」

「なんで謝るんだよ? いい学校なんだろ?」

「うん。お母さんは……そう言ってたけど。でも今みたいに遊べなくなるし」

「それはっ……」

「それは?」

 

覗き込んだ顔が霞んで見える。名前だって出てこない。

大切な思い出。大切な誰かだったはずなのに。

 

「学校が違ったって、いつでも遊べるだろ? その……友達っ、なんだから俺達」

 

友達……友達か。言われて嬉しい反面、少し寂しくなった。

自分でも分からない感情が揺れている。何か、もっと、別の言葉を期待していたんだ。

 

受験の日が近づくにつれて、母の言葉は厳しくなる一方だった。

放課後に彼と遊ぶ時間も減っていく。休日さえも家から出られない。

それも、受験が終われば開放されると思ってた。もうちょっとだけ、あとちょっと頑張れば……。また、二人でいつも通り遊べるんじゃないかって……。

 

「彩花ちゃん」

 

ああ、どうしてかな。顔も、名前も、思い出せない。

落ち着いた声音が深く響いた。私を呼ぶ声だ。でもそれは、授業中に聞いた彼の声とは違っていた。うつら、うつらと、肩が揺すられ、差し込む光に瞼をこじ開けられる。

 

「おはよう、彩花ちゃん」

「あ、はい……。おはよう……ございます、先生。その……私」

「あははっ。大丈夫だよ、ちょっと疲れてたのかな?」

 

気づけば、私は自室にいた。

 

ううん、それは最初から。さっきまで、夢の中にいたという方が正しい。

頬杖が崩れたんだろうか? 突っ伏した机の上は滅茶苦茶だ。散らばった問題用紙には、シワさえ寄っているものもある。目覚めたばかりのせいか、頭が酷く重たい。唇の端に水気を感じて、顔から火が出そうになった。

 

でも……どうして、今になって。ずっと忘れてたのに。

 

今更 思い出してどうしようっていうの? 名前はまだ……。でも、たしかに私は彼の事を知っている。仲が良かった。何かきっかけでもあれば、その先に進めていたほどには。

 

少し、申し訳なくなった。

 

思い出してくれた方が嬉しい。私だってそうしたい。

旧友の事を忘れたままにしているのは、やっぱり薄情だ。心が揺れていた。

この感情はなんだろう? 期待というのか、打算と呼ぶべきか。私は、あの子をなんて呼んでいただろう? 記憶の中よりも大人びていた彼を、なんて呼んだら良いんだろう? おぼろげな記憶の中、何か温かいものに触れようとして……。

 

「彩花ちゃん?」

「あ、はい……」

 

先生の声に引き止められた。指先に触れていた感覚は、するりと逃げて、それが何だったのかもう分からない。

 

「大丈夫かい? まだ、ぼぅっとしてるみたいだけど?」

「いえ、ちょっと……気になることがあって、だから」

 

寝起きのせいかな。まるで水の中にいるみたい。

意識を揺り起こそうと頭を振っても、グラグラと目が回ってしまう。

 

叱られるんじゃないか?

 

渡されていた問題集は、途中からまったくの白紙で終わっていた。体が強張り、縮こまる。授業中に居眠りをしてしまった。正確には、先生が「お話し」から戻ってくるまでの間に、うたた寝をしてしまっただけ。そんなつもりなんか全然なかったのに、気づけば意識が途切れていた。

 

「なにか悩み事? 良ければ話してみない?」

 

けれど先生は、いつもの柔和な笑顔を浮かべてくれていた。

ホッとする。緊張が解けて、肩から力が抜けていくようだ。安心しきった私は、ぽつり悩みを吐き出していた。いつものように。甘えるんじゃない、縋るように。

 

言うべきじゃなかった。

 

これじゃあ、まるで恋愛相談だ。誤解されたくない。

昔よく遊んでいた男の子の話。それが、胸に引っかかっているだけ。

「ごめんなさい」そういって、強引に話を切り上げようした。だって、私はこの感情を口にする気はなかった。決して叶うことのない気持ち。今になってそうだと思う。話している内に、そうなんだと分かる。

 

なのに、先生に先を促されると、考えるよりも前に口が動いていた。

 

信頼からじゃない。むしろ、誘導されているような違和感さえあるのに、抗えない。まだ夢の中に居るみたいだ。起き抜けの重い頭は、考えるのも億劫で、先生に言われるまま答えてしまう。

 

「好きだったの? その子のこと?」

「……そう、何だと思います」

 

口にしてはっとする。心臓が きゅぅと締め付けられて、顔から血が引くみたいだ。

「あ、ちがっ……」慌てて取り繕っても遅かった。先生の笑顔は変わらないけれど、それが大人の対応に思えてならない。

 

「違うのっ。違うんですっ、せんせいっ……私はっ!」

「落ち着いて、彩花ちゃん」

 

その続きさえ、言わせてもらえなかった。

振り返った私の目の前に、指が一つ。たったそれだけで、私は何も言えなくなってしまう。「しー」と、内緒話をするようだった。自身の唇に、人差し指を当てた先生は、その指先を私の方へと差し向ける。まるで、秘密を共有するように。

 

間接キス。

 

違う。

 

先生の唇が触れていたのは、指先の向こう側だ。

それでも、意識しないでいられない。思い出しかけていた彼の事なんて忘れて、私の全部は指先一つに奪われた。

 

薄く開いたままの唇から、先生の指へと湿り気が移る。

漏らした吐息に熱を感じて、先生の顔をまともに見られない。

 

鼓動の音が強く響いていた。

 

手を重ねられたときよりも。胸の縁に触れられた時よりも。

たった一つ、指先から目が離せない。今までの、どんな触れ合いよりも先生を近くに感じる。ゴクリ……喉を鳴らすと、流れ込んできた涎に息が詰まった。

 

まるで、口紅でも塗り拡げるように、先生の指先がヌルリと滑った。

 

もう少し。

 

あと少し。

 

先生が力を入れるか。私が唇を開いたら。指が中へと入ってきてしまう。

胸が苦しい。まだ、何もされていないのに体が熱を帯びていく。指先が唇に触れているだけ。キスをしているわけでもないのに、性の予感を無視できない。

 

ああ、でも、想像が止まなかった。

 

熱く濡れた私の中に、先生を受け入れる。

その行為は、思い描いた何かと酷く似通っていた。「彩花ちゃん」優しく名前を呼ばれて、視線が泳ぐ。どこを見ていいかわからない。差し出された手から伸びる指先は、見えないほど近くにあった。唇がなぞられ、摘まれ、弾かれる。

 

こつっと、硬い音がした。驚いて肩が跳ねる。

 

爪と前歯が擦れる音。唾液に濡れた先生の指先が、モゾリと動く。薄く開いた唇の奥へ。下アゴを押し下げられて、歯の隙間へと潜り込んでくる。

 

「噛んじゃダメだよ?」

 

頷いた私は、閉じかけていたアゴから力を抜いた。

「いい子だね?」先生の笑顔が、歪んで映る。不意に持ち上がった口角が、欲望を映すようだった。嬉しい。鼓動が弾んでしまう。まるで、キスでもしてるみたい。先生にとって、私はなんでもないんじゃないか。いつもどこかにあった不安が溶けていく。

 

指先と舌先が触れ合った。

 

驚いて舌を逃がすと、先生の指は無防備になった口内を弄り始めた。

舌の内側、歯茎の裏側を指でなぞられる。「んっ……」奥に入り込んでくる指に喉を押されて、えづいてしまう。視界が滲んで、涙が溢れた。反射的に押し返しそうと、動く舌を止められない。

 

息苦しい。柔らかな肉を捕らえるように、伸ばした舌が絡め取られた。

 

自分でも触れたことのない場所への刺激。口を強引に開かされているのに、ゾクゾクしていた。指で舌を愛撫されて、背筋が甘く痺れだす。

 

今、私は先生から与えられている。一人で慰めるばかりの日々に、ようやく希望が見えた。苦しいのは、私が慣れていないせい。このまま何もしないでいると、呆れた先生はやめてしまうかもしれない。

 

それは、イヤだった。

 

クチュリ……音がした。ほんの小さな水音に導かれるように、舌を伸ばす。

先生の指は、私の指よりも太かった。自分で食んでいた時よりも、口を開いていないと咥え込めない。口を開いた分だけ、涎が溢れて、首筋を汚していった。

 

くすぐったい、恥ずかしい。雫が肌を撫で落ちる感触に、興奮が重なっていく。

 

舌って柔らかいんだな。それとも先生の指が固いのかな?

思うほど力を入れていないのに、指を受け止めた舌は、包み込むように形を変えていった。それに、自分で思った以上に敏感だった。

 

舌を押し返す異物感に、ザラリとしたものを感じる。

 

角張った関節、指紋の凸凹、硬い爪に引っかかれるような その感触。乾いていた肌が、唾液でふやけていくのさえ分かってしまう。

 

どうしたらいいの?

 

指を咥えた私は、何にも言えない。けれど、何も言わなくても舐めた指先から先生が伝わってくる。それが嬉しかった。いまのは、くすぐったかったのかな?

こうした方が気持ちがいいのかな? 些細な指の震えは、曖昧な言葉よりも雄弁だった。

 

「んちゅ……んっ、ちゅっ……ぱっ、はぁっ、ぁっ、あ、あっ……んんぅ♥」

 

夢中になっていた。夢中で先生の指を吸っていた。

丁寧に、丹念に、指紋のヒダを伸ばす。爪の間にも、舌先を潜り込ませた。

吸って、舐めて、ちゅっと音がするたび、胸が苦しくなる。恥ずかしさで頭が煮えたぎってしまいそう。

 

ぽたり……

 

アゴから涎が滴り落ちる。白いブラウスが黒く染まって、下着の色が浮き出てくる。先生の視線が、胸元を撫でた。指先に力が入って、舌が押し込まれる。

触りたいんだ、私に。いつも、隠していたのかな? いつも大人びて見える先生が素直に見えた。

 

可愛いって言ったら怒るかな?

 

さり気なく胸を寄せて、彩花は身を捩る。

ブラウスの内側に溜まった熱気が押し出され、汗の匂いが立ち昇った。

その匂いは甘く、男を誘うようだ。堪らなくなった玲司は指を伸ばすと、ブラウスの上から彩花の胸を包み込む。

 

「はぁ……」

 

思わず息が漏れた。重苦しいため息。衝動を必死に抑え込む男の吐息。

支配欲が満たされる一方で、征服欲が湧き上がる。これでは物足りない。

もっと、この少女を貶めたい。でも、まだだ……。

 

誘惑に抗いきれず、胸に触れてしまったのが少し悔しかった。

 

されるがままだった少女が、自分の女を理解し始める。色づく変化に口元が緩んでしまいそうだ。その意味も深くは知らないまま、男を繋ぎ止めるために女を使う。何とも健気で、憐れで、だからこそ愛らしい。

 

薄いブラウスと下着程度では、彼女の存在感を誤魔化せなかった。

手のひらに乗る確かな感触。男の指を受け入れながらも、形を保つ柔らかな胸の膨らみ。これだけのものがあれば、誰もが放っておかないだろう。今になって話しかけてきた昔なじみだって、一体何が目的だったのかもわからない。

 

玲司は一人ほくそ笑む。

 

その笑顔の意味に、彩花は気づけなかった。

 

 




指舐め。思ったより……えろいな
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。