無口な幼馴染の「お店ごっこ」で身も心も搾り取られる話 作:松木ユキ
大学一年生の前期は慌ただしく過ぎて行き、あっという間に夏休みになった。他の連中はやれ海だBBQだと盛り上がっているが、インドア派の俺は家にいることが多い。実家暮らしだし、家にいた方がいろいろと楽だからなあ。
今日も今日とて、朝から自室のPCに向かってオンラインゲームをしていたのだが……ネットを介して一緒に遊んでいた友人が、何やら変な話を語りだした。
「でさ、その店の女の子がマジで可愛かったの!」
「そ、そうか」
「もうおっぱいも綺麗でさあ、マジでフェラもうまくてさあ!」
「……よかったな」
そう、この友人は風俗遊びにハマっているのである。十八歳になったから、と夜の街に消えたが最後、すっかりその魅力に取りつかれてしまったらしい。さっきからヘッドセット越しにずっとエロい体験談を聞かされているけど……お前の情事なんか興味ないっての!
「
「嫌だよ、金かかるじゃん」
「いやいや、金を払う価値はあるんだって! お前なんか彼女もいねえし、どーせ童貞だろ!?」
「うるせえよ!」
たしかに彼女はいないけど……そういうお店に行くことには抵抗がある。なんとなく浮気みたいで嫌なんだよ。
「いいからさ、調べるだけ調べてみろって!」
「あ、ああ」
あまりに友人がしつこいので、マウスに手を伸ばした。FPSのソフトを終了して、ブラウザを起動する。ええっと……履歴には残したくないから、シークレットタブにしておくか。
「で、なんて調べればいいんだ?」
「そうだなあ……まずはオナクラとかどうだ?」
「なんだそれ?」
「手コキとかしてくれる店だよ。なんつーか、デリヘルのお手軽版みたいな」
「へえ……」
とりあえず、「○○(俺の住所) オナクラ」と検索欄に打ち込み、エンターキーを押してみる。うわっ、いかにもなサイトがたくさん出てきた。
「なんかいろいろ出てきたんだけど」
「まあまあ、適当な店のページ開いてみ? 世界変わるぞ?」
「そんなにかよ」
どれどれ、トップに表示されたのは「おててでご奉仕♡ ○○店」とな。開いてみっか。えっと、「十八歳以上です」にチェックして……
「うわっ!」
「どうした!?」
「下着姿のお姉さんがたくさんいる!?」
「当たり前だろ、風俗のサイトなんだから」
友人の冷静なツッコミを受けつつ、しげしげとサイト全体を見回す俺。「料金形態」「利用方法」「お問い合わせ」なんて、各項目を見れば普通のサイトだけど、やっぱり強烈だな。
「あっ、この後用事だった! じゃあな、お前も楽しめよ~!」
「ここで切るのかよ!?」
なんだこいつ、勝手に風俗サイトに誘導しておいて!? ……仕方ない、
「カズ、お邪魔した?」
「うえっ!?」
後ろからの声に振り向くと、そこにいたのは……幼馴染の
「な、なんでいるんだよ!?」
「この本、今日までに返してって言ったのはカズじゃない」
「そっ……そうだったな」
ジーパンと黒いTシャツに身を包んだ真衣は、その手に数冊の文庫本を抱えていた。そうだ、小説を貸していたんだったな。だからって、わざわざ今返しに来なくてもいいじゃんか……!
「でっ、でもなんで勝手に入ってきたんだよ!?」
「何回もノックしたけど、返事がなかったから……」
真衣は長髪をまとめたポニーテールを揺らして、表情を変えずに首をかしげた。相変わらずの凛とした顔つきに、思わずドキリとさせられてしまう。
この真衣というのは、昔から隣同士の家に住んでいる幼馴染だ。小中高と一緒で、今でも同じ大学に通っている。
真衣の両親は仕事で家を空けることが多かったから、昔からよく俺の家で一緒に過ごしている。小さい頃から大人しかった真衣とは、外に行くよりも本を読んだりトランプをしたりして遊ぶ機会の方が多かった。
俺は……小さい頃から、真衣のことが好きだ。整った顔つき、シャンプーのCMに出られそうなくらい綺麗な黒髪、時折見せる優しい笑顔。幼い頃の俺の心を掴むのには十分な要素が揃っていたのだ。
ずっと好きではあったのだけど、告ったりしたことは一度もない。というのも……真衣は昔からクールで無表情なものだから、感情が読み取りにくいのだ。
だから、真衣が俺のことをどう思っているのかが分からなくて、どうしてもあと一歩が踏み出せていなかった。幼稚園の頃から一緒にいて喜怒哀楽も掴めない、なんて情けないにもほどがあるけどな。
「ねえ、カズ」
「な、なんだよっ!?」
じっと見合っていると、真衣が表情を変えないまま口を開いた。そして俺の背後にあるモニターを指さし、一言。
「そのサイト、なに?」
「え~っ、とお……」
風俗のサイトを覗いているときに好きな女の子がやってくる、なんてイベントが起こり得るとは思わなかったなあ! っていうか別に好きで開いているわけじゃないし! 全部
「カズって、そういうお店行くんだ……」
「ちっ、違うっ! 一回も行ったことないから!」
「じゃあなんで調べてるの?」
「それはっ、そのっ……友達に唆されて……」
「嘘はよくない」
「ほっ、本当だよっ!」
「カズ、そういうお店行きたいんだ。ふーん……」
てっきり幻滅されるか怒られるかの二択かと思っていたけど……真衣は神妙な面持ちで何かを考えていた。なんだよ、幻滅のもっと下があるのか? 超幻滅? ……嫌われたらいやだなあ。
「とりあえず、この本返すから」
「わっ」
真衣が急に文庫本を渡してきたので、慌てて両手で受け取った。振り返ってそれを机に置き、再び後ろを向くと、既に真衣は部屋を出ようとしている。
「もう帰るのかよ」
「やること出来たから。あとで連絡する」
「お、おう」
やること……ってなんだろう。まさか俺のちんちんを切り取りにでもやってくるんじゃないだろうな!? 頼む、それは勘弁してくれ……!
***
その日の夜。風呂から上がって自分の部屋に戻り、ベッドに置いておいたスマホを手に取ると――真衣からメッセージが届いていた。
「ん?」
スマホのロックを解除して、アプリを開く。なになに……
真衣:明日、ごっこ遊びするから家に来て
……??? ごっこ遊び? この歳で!? 何を考えているんだ!? でも真衣の誘いだから、断れないしなあ。
和彦:分かった 行くよ
とりあえず返事をして、枕元にスマホを放り投げる。まあいいや、今考えても仕方ない。
明日、明日考えてみよう――