※この作品はR-18です。

無口な幼馴染の「お店ごっこ」で身も心も搾り取られる話   作:松木ユキ

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30分コース!?

「……ん?」

 

 お昼までぐっすり眠っていたところ、枕元から着信音が響いた。誰だ、俺に電話なんてかけてくるのは。怪訝に思いながら身を起こして、置いてあったスマホの画面に目をやると――

 

「!?」

 

 おびただしい数の着信履歴があり、寝ぼけていた頭が一瞬で覚めた。なんだなんだ、いったい何が起こっている!?

 

「ま、真衣!?」

 

 大量の着信履歴も真衣からだし、今電話をかけてきているのも真衣だ。マジでどうしたんだ!? 慌てて画面をタップして、電話に出る俺。

 

「も、もしもし?」

「カズ、なんで出てくれなかったの?」

「そりゃ、寝てたから……」

「そう。……良かった」

 

 何が良かったの!? こっちはもう今の状況すら分かっていないんだが!?

 

「で、何か用?」

「ごっこ遊びするって、言ったでしょ」

「……あ、ああっ!」

 

 そういやそんなこと言ってたな! ……本気でやるつもりなのかよ!? 冗談か間違いだと思ってた!

 

「私、ずっと待ってたから。今すぐ来て」

「えっ、せめて朝飯とか」

「だめ。それに、もう朝じゃない」

 

 ふと、壁に掛けてある時計を見る。……たしかに。

 

「いいから来て。早く」

「わ、分かったよ」

「じゃ、待ってるからね」

 

 そこで電話は切れた。プー、プーと鳴るスマホを耳につけながら、思わずその場で固まってしまう。

 

 朝から待ってたのか? 俺と「ごっこ遊び」をするために? ……そこまでして俺とやりたい「ごっこ遊び」ってなんだ? 本当になんなんだ?

 

 とにかく行ってみるしかない。真衣は俺の家によく来るけど、俺が真衣の家に行くのは久しぶりだな。いったい何が待ち受けているのやら……。

 

***

 

真衣:鍵は開いてる 親もいないから、私の部屋まで上がってきて

 

 玄関の前で呼び鈴を押そうとしたところ、ちょうどスマホにメッセージが届いた。どうやら部屋まで直接来い、と言いたいらしい。

 

「お、お邪魔しまーす……」

 

 扉に手をかけ、ゆっくりと開く。綺麗に掃除されたフローリングの廊下と、すぐ横にあるじゅうたん敷きの居間が目に入った。たしかに電気がついておらず、誰もいない様子。

 

「真衣、来たよー……」

 

 少し大きめの声で呼びかけてみたが、返事はない。やっぱり上の部屋にいるみたいだし、上がらせてもらうか。

 

 履いてきたスニーカーを脱いで、真衣のサンダルの隣にそっと並べる。エアコンも効いておらず、廊下はかなり蒸し暑い。

 

 廊下を進み、階段の前にたどり着いた。タンタンという足音を立てて、ゆっくり上の階に登っていく。なんだか緊張するな。女の子の部屋に行くから……というより、好きな子の部屋に行くから落ち着かないって感じだ。

 

 二階に上がると、暗い廊下の奥に、扉の隙間から光が漏れている部屋があった。あそこが真衣の部屋だけど……昼なのに電気をつけているのかな、珍しい。

 

 廊下を進んでいき、扉の前に立つ。それにしても「ごっこ遊び」って何なんだろうなあ、本当に。首をかしげつつ、ノックした。

 

「真衣、来たよ」

「……」

「真衣?」

「い、いらっしゃいませ。ご予約の寺北(てらきた)和彦さまですか?」

「!?」

 

 何事!? 予約って何!?

 

「よ、予約なんてした覚えないんだけど」

「……カズ、『ごっこ遊び』って言った」

「へっ?」

「カズはお客さん、なの」

 

 も、もう「ごっこ遊び」が始まってるって言いたいのか!? 何の店なのかも分からないのに!?

 

「えっと……ここは何をする店なの?」

「入れば、分かるから」

「……?」

 

 何も分からない。真衣は何を考えているのか昔から分からなかったけど、こういうベクトルで分からなかったことは初めてかもしれないな……。

 

「わ、分かったよ。俺がお客さんな」

「うん」

「はい、予約した寺北ですけど」

「お待ちしておりました、お入りください」

 

 真衣の丁寧な案内に、頭の中にいくつもの疑問符が湧き出てくる。居酒屋か何か? それともレストラン? 病院? 予約が必要な店(というかサービス業)なんて、いくらでもあるしなあ。

 

「し、失礼します」

 

 とにかく入ってみよう。ドアハンドルを掴み、ゆっくりと扉を押し開く。見えてきたのは、綺麗に掃除されてほとんど物が置かれていない床、整理整頓された学習机、そして本や教科書が並んだ本棚。ってあれ、脱衣かごみたいなのが置いてあるな。何のためだろう。

 

 肝心の真衣は、真っ白なTシャツと黒いズボンに身を包み、中央の座布団に正座していた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 真衣は膝に手をついて、深々と頭を下げた。ポニーテールが揺れる様にドキッとしながら、思わず俺も礼をしてしまう。……ってあれ、俺の分の座布団がない。

 

「えっと、俺はどこに座ればいいの?」

「そ、そちらのベッドにおかけください」

 

 妙に緊張した表情で、俺のすぐ横を指さす真衣。そうだっ、死角になっていたから忘れていたけどベッドがあるんだったな。部屋に二、三歩だけ足を踏み入れ、真衣の指さす方向に顔を向けると――

 

「……!?」

 

 そこにあったのは、真っ白なシーツの上にバスタオルが敷かれたベッドだった。これ……なんかいかがわしい店で見るやつじゃないの!? 行ったことないけど!

 

「さあ、おかけください」

「おかけくださいって……えっ、えっ?」

「どうぞ、遠慮なさらず」

「そうじゃなくて……って、えええっ!?」

 

 よく見れば、奥に置いてある枕のそばに……ティッシュとローション!? しかも小さくて薄い袋が何個かあるけど、あれって……ゴムだよな? なんで、なんで真衣があんなもの……。

 

「ちょっ、どういうこと!?」

「よ、『夜のお店ごっこ』だから。カズ、行きたがってたでしょ?」

 

 真衣はそっぽを向いて、淡々とそう呟いた。行きたがってたわけじゃないし、だいいち「夜のお店ごっこ」ってなんだよ!?

 

「い、行きたがってたわけじゃねえって!」

「あの、どうぞおかけください。時間が決まっておりますので」

「うえっ!?」

 

 よく見ると、真衣の手元にはキッチンタイマーが用意されており、既に「30」の文字が記されていた。30分コースってこと!? だとすると、ソープでもヘルスでもなくて……

 

「当店はオナクラとなっております」

「そこまで合わせなくていいってば!!」

 

 真衣のやつ、俺がオナクラのページを見てたからってこんな凝った遊びを計画してたのかよ!? なに!? そういういじり!? こいつ風俗のページ見やがってクスクス……ってこと!?

 

 なんだよ、昨日は妙な態度だったから「案外気にしてないのかな」とか思ってたのに!! 蓋を開けてみれば滅茶苦茶気にしてるんじゃねえか! やっぱり怒ってるのか!? 手の込んだ仕返し!?

 

 ちくしょう、真衣って意外と遊び心のあるやつなんだな。ここは大人しく従っておくとするか。

 

 観念してベッドに腰かけると、真衣も立ち上がって俺の隣に座った。ぴったり膝がくっつくくらいの距離だから、柔軟剤の匂いか何かが漂ってくる。

 

「ち、近くない?」

「これもサービスですので」

 

 いざこうしてみると……なんだか心が落ち着かない。普段は意識しないのに、「夜のお店」だと思うと妙に緊張してしまう。

 

「ではお客様、こちらをどうぞ」

「これって……」

 

 どこから取り出したのか、真衣は一枚の紙を手渡してきた。A4サイズだけど、ご丁寧にラミネート加工までされている。……ん? なんか付箋だらけで何も見えないぞ?

 

「ちょっ、何も見えないじゃん」

「ああ、今お剝がしします」

「えっ?」

 

 そう言うと、真衣は左端の付箋とその一個右の付箋をペリペリと剥がした。そこに見えてきたのは――「コース」「オプション」という文字。ちょっ、これって……

 

「料金表かよ!?」

「どうぞ、お選びください」

 

 真衣に言われるまま、再び紙に目を落とす俺。まずは「コース」からだ。えっと……付箋で隠されていないのは「30分」のコースしかない。なんだこれ、レベルが上がれば上のコースが解禁されるってこと? RPGじゃないんだから。

 

 さて、次は「オプション」か。と言っても、こちらも一個だけしか見えておらず、それ以外は全て付箋で隠されている。なんだろ、唯一のオプションは――

 

「『ランジェリー姿』ってなんだよ!?」

「その名の通り、私が下着姿でサービスさせていただきます」

「!!!?!!?!?」

 

 ま、真衣が脱ぐのか!? 本当に!? ……嘘だろ!?

 

 ちょっと心の整理が追い付かない。てっきりただの冗談か何かだと思っていたのに……真衣は本気で俺に「サービス」しようとしているのか。

 

「いかがなさいますか?」

「えっと、さ……」

「何でございましょう?」

「『タメ口』ってオプションはないの? 敬語だとなんか……」

「そのようなオプションはありませんが、対応させていただきます。……これでいい?」

 

 無機質な敬語から、真衣らしい言葉遣いに戻り、それに伴って声色も温かくなった。よかった、ちょっと違和感があったんだよな。……いや、そもそもこの状況に違和感があるんだけど!

 

「な、なあ。本気なのか? 『ごっこ遊び』なんだよな?」

「『ごっこ遊び』だけど、サービスは本気。私、カズのために一生懸命用意したから……」

「えぇ……」

 

 ど、どうしよう。まさかこんなことになるなんて思わなかった。真衣とは……幼馴染ではあるけど、付き合ってはない。だから「こういうこと」をするような関係になるなんて思わなかったんだ。

 

 でも……いいんだよな? 真衣が「本気」って言っているんだから、そういうことだよな? 真衣も、俺になら「そういうこと」をしてもいいって思ってるんだよな? ……じゃあ、断る理由はないよな。

 

「じゃあ、30分コースで頼む」

「分かった。料金は先払いだから」

「えっ?」

「先払いだから」

「お代とるの?」

「夜のお店なんだから、当たり前でしょ」

 

 ……!!!?!!!? 何!? 真衣の奴、エロいことして幼馴染から金を巻き上げようとしてるの!?

 

「えっ、ちょっ、どういうこと? 俺、いくら払うの?」

「そこに書いてある」

 

 真衣に言われるがまま、さっきの料金表を見てみると……たしかに書いてある! オプションとコースの下の欄に! ……って、これ「時価」って書いてあるじゃねえか! そんな寿司屋みたいな風俗なんて聞いたことねえぞ!

 

「ちょっ、『時価』っていくらなんだよ!?」

「私が決める。私がオーナーだから」

「いくら巻き上げるんだよ!?」

「お金は取らない。その代わり、物(・)々(・)交(・)換(・)だから」

「ぶ、物々交換?」

「えっと……」

 

 真衣は少し俯いて、上目遣いで俺の顔を見た。逡巡するかのように、何かを言いよどんでいる。

 

「ま、真衣?」

「あのね、30分コースの料金はね……」

 

 そっと俺の耳元に顔を寄せる真衣。吐息が耳たぶにかかって、身体がゾクッと震える。その状態で、数秒間の沈黙が流れたあと――絞り出すように、真衣はある一言を紡いだ。

 

「カズが『好き』って私に言ってくれること、だよ」

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