勇者が旅しているうちに。〜勇者の母親。魔法使いの姉。戦士の妹。〜 作:ユリイカ
フィオから貰ったサンドウィッチを食べたからか、午後からの仕事もつつがなく終わる。同僚から詰問されるかと思ったが、今日は頻繁に襲撃が発生してそんな暇もなかった。ある意味、魔獣どもに助けられた。
しかし定時を過ぎて帰る頃になっても、名も知らぬ道着姿の少女に預けた籠は戻ってこなかった。
「それで、サンドウィッチあげちゃったんですか?」
「すまんな、フィオ。せっかく作ってくれたのに。半分くらいは食べたんだが」
いつものように訪れた〈白羽根〉で、俺は仕込みを手伝っていたフィオに謝罪する。サンドウィッチは彼女が俺のためにと丹精込めて作ってくれたものだ。それを無断で他人に渡すというのは、あまり褒められた行為ではない。
しかしフィオは事情を聞いて、小さくため息をつきつつも眉尻を下げた。
「いいですよ。レリオさんはそういう方ですから」
「フィオ……」
「ちなみにですが、鳥の香辛料焼きが入ったサンドウィッチは召し上がっていただきましたか?」
「香辛料焼き? そんなものあったか……?」
寛容にも許してくれたフィオだったが、次なる問いに俺が首を傾げると急に硬直する。
サンドウィッチは色々な具材が挟んであったが、俺が食べた中に香辛料の効いたものはなかったように思う。もしかしたら、少女が食べてしまったのかもしれない。
「それがどうかしたのか?」
「あ、い、いえ……。なんでも……」
露骨に狼狽えるフィオに疑念が深まる。じっと見つめていると、彼女はシアの方へ助けを求めるように視線を向けた。
「大丈夫。ゲキレツの実もあの量なら問題ないわ」
「おい」
「運動してる子ならむしろ身体の調子が良くなるくらいだと思うから」
「おい。何を入れたんだ」
まったく、油断も隙もない。
最初に媚薬効果のある食材が入ったサンドウィッチは弾いたつもりだったが、まだ残っていたらしい。そんなものを少女に食べさせてよかったのかと不安が過ぎるが、シアは健康に影響はないと太鼓判を押す。治癒術師がこういうことをするのは、職業倫理に関わるんじゃないのか?
「ちょっと身体が元気になるだけのスパイスですよ。カレーなんかにはよく入ってます」
「カレーねぇ」
たまに遠方にある砂の国から訪れる商隊が、カレーという料理を露店で売っている。あれもスパイスがたっぷりと使われたもので、確かに食べれば疲れが取れる料理だった。
「フィオちゃんもレリオさんの身体を労っているんですよ。だから、これもぜひ食べてみてください」
そう言ってシアがカウンターに並べたのは、いつもの料理と比べると少々形の崩れたものだった。ちらりと側を見ると、フィオが緊張の面持ちでこちらを向いている。
なるほど……。
「もぐ。……美味いじゃないか」
「っ! あ、ありがとうございます!」
もの自体はシアもよく作る、ジャガイモとソーセージを煮込んだ料理だ。名前もないような家庭料理だが、よく味が染みて思わずため息がでる。流石にシアのものと比べられるほどではないが、それでも丁寧に作られたことはよく分かる。
フィオが、シアに教えてもらいながら作ったのだ。本来ならば包丁を握ることも必要ないはずの彼女が、一から全て自分で。
あっという間に完食すると、彼女は瞳を潤ませて銀盆で口元を隠していた。
「レリオさん……っ! やっと、食べてくれましたね♡」
「うん? うぐっ!? な、なんだこれ、身体が……!」
銀盆の向こうで、フィオは笑っていた。
俺は身体が急激に発熱し、ドクドクと激しい鼓動に困惑しながら器を見る。丁寧に盛られた料理のなかに、細かく刻まれた何か――。
「まさか、また盛ったのか!?」
「うふふっ♡ ……ただのトウガラシですよ」
「……うん?」
いたずらが成功したように、フィオが珍しく茶目っ気のある笑みを浮かべる。シアもまた、呆れたような顔でこちらを見ていた。
どうやら、これはただのトウガラシらしい。砂の国から運ばれてくる香辛料の一種で、辛味の特徴的なもの。刺激は強いが、危険物めいた滋養強壮効果はない。かなり高価なスパイスのはずだが……。カイシュタリア家ならばいくらでも仕入れられるのだろう。
まんまと乗せられたことに気が付いて、顔から火を噴きそうだ。おずおずと座り直すと、フィオがすっと密着してきた。
「たしかに料理には変なものは入れてません。入れてませんが……レリオさんがそんな気持ちなら、私も喜んで歓迎しますよ?」
「フィオ……」
彼女は腕を絡めて耳元で囁く。
「私、シアさんのおかげで少し体力もついてきたんです。だから、もっと激しい運動をしても大丈夫になったんですよ」
フィオは個室での営みを"体力作り"と称している。実際のところ、玉の汗を滲ませるような激しい運動と、シアによる治癒術の施行は、彼女の身体を頑強にしていた。
それでもまだ、彼女はか弱い乙女だ。連日のように俺の乱暴な動きに付き合わせてよいはずがない。
「――なんて、紳士的なレリオさんは考えていると思いますけどね? わたし、激しくされるの、嫌いじゃないんですよ」
「……っ!」
俺の内心を見透かして、フィオは囁く。挑発するような瞳が、こちらを見つめていた。
まだ、日が沈み切らない夕刻。客もこれから訪れるだろう。〈白羽根〉は忙しくなるはずだ。それを分かっていてなお、俺はゆっくりと立ち上がった。
フィオの華奢な肩を抱き、強く引き寄せる。彼女は驚いた声を出しながらも抵抗しない。
「シア、ちょっと個室を借りていいか?」
「もちろんです」
「ちょっと、フィオと話をしてくる」
「ごゆっくり♡ お店は私ひとりでもなんとかなりますからね」
全て分かった上でシアは送り出す。
貴族の令嬢を手荒に扱うのは気が引けるが、それを抑える余裕がなかった。フィオを抱いたまま、防音処置が万全に施された部屋へ。ここの結界は他ならぬフィオによって、さらに強化されている。一度ドアを閉めてしまえば、たとえ彼女が泣き叫ぼうと、その声は聞こえない。
「今夜は立って帰られると思うなよ」
「っ♡ はいっ、両親もシアさんのことを信頼していますから。一晩なら許してもらえると思います」
カイシュタリアの両親も、娘が日に日に元気になっていく様子は知っている。シアに対する信頼は厚く、一泊程度なら問題はない。たとえそこで娘が何をしようとしても。
個室の中にはベッドがひとつ。淫靡な明かりに照らされて、薄闇のなかに浮かんでいる。ドアを閉じれば、外界から完全に隔絶された小さな世界になる。
「フィオ。今から君を犯す。もう、何を言っても遅いぞ」
「――はいっ♡」
穢れを知らぬ純白の少女は、にこりと微笑む。宣告された言葉の意味を理解していないはずもない。彼女は望んで、理性のない野獣に身を差し出すのだ。
気が付けば、俺はフィオをベッドに押し倒し、破るように制服を剥ぎ取っていた。幻想的な少女の柔肌が露わになり、彼女は頬を赤くする。慎ましい胸の先端が、物欲しげに膨らんでいる。
俺は思考が白く塗りつぶされていくのを感じながら、フィオの細い身体に覆い被さっていった。