勇者が旅しているうちに。〜勇者の母親。魔法使いの姉。戦士の妹。〜 作:ユリイカ
密林は目も当てられない惨状だ。木々は焼け落ち、炭化し、周囲には焦げた臭いが立ちこめる。既にリザードマンの若者たちが、残火の消火作業に向かっていた。
「いつつ……」
「我慢してください。治癒術で傷は塞がっても、完璧に治るわけじゃないんですから」
とはいえ、魔王軍幹部の"玩弄"のトゥイは討ち倒された。その配下も、フィオとパニーによって瞬く間に掃討された。彼女たちの実力を初めて目の当たりにしたが、やはり勇者パーティの親類縁者というだけのことはある。
そんななか、見事トゥイを討った張本人であるところの俺はといえば、リザードマンの集落の一角を借りてシアの治療を受けていた。彼女の脅威的な治癒術によって傷が塞がり痛みが消え去ったとはいえ、それは魔力を用いたその場凌ぎの応急処置にすぎない。まずはちゃんとした手当をしなければならないと力説され、全身に包帯と薬をベタベタと付けられた。
「人間ノ……強キ方ヨ」
簡素な小屋でされるがままになっていると、遠慮がちな声が戸口から聞こえた。緊張の面持ちで立っていたのは、トゥイに懇願していた老リザードマンだ。彼はこの集落の長老のような立場にあるらしく、俺たちに快く場所を貸してくれた。
彼は小屋のなかに入ってくると、おもむろに四肢を投げ出して地面に倒れた。
「貴殿ノ力デ、我ラハ助カッタ。トテモ感謝シテイマス」
「ああ、いや。そんな感謝されるようなことは」
まさしく身を投げ出すようなリザードマンの最上位の感謝の姿勢は、対面すると居心地が悪い。そもそも、トゥイの怒りの原因となりリザードマンたちの危機を招いたのは俺たちでもあるのだ。ゴニ・ブリガ――この集落の勇者と壮健な戦士たちを殺したのは俺たちだ。
それを知ってなお、長老と女性たち、若い子供たちは感謝してくれている。俺が割り込まなければ、女は魔王軍に攫われ、種族そのものが断絶していたから、と。
「森の蛮族――いえ、リザードマンの方々が、こんなに理性的だったなんて」
感謝の言葉を向けるリザードマンたちに驚いたのは、俺だけではない。冒険者として各地を旅していたシアにとっても、長老たちとの会話は予想外のものだった。目から鱗が落ちたように、彼女の異種族を見る眼差しは変わっていた。
言語を扱う種族というものは、存外珍しいわけではない。しかしリザードマンたちはこちらの想定を上回る。
「我ラハ長クコノ森デ暮ラシテキタ。知恵ヲ付ケナケレバ、生キテハユケヌ。言葉ヲ学ビ、技ヲ鍛エテナオ、滅ビノ危機ヲ迎エテイタガ……」
彼らの口の構造では共通語は難しいだろう。だが、たどたどしくも意思疎通を図るには十分だった。これだけ喋ることができるのは長老くらいのようだったが、それにしても以前までの常識が覆される光景だ。
「多クノ者、強キ戦士タチヲウシナッタガ、民ガ潰エタワケデハナイ。我ラハ再ビ、生キ抜クデショウ」
長老は確信のこもった声で言い、小屋の外をちらりと見る。崩れた家屋も多い集落では、リザードマンの子供も女性も懸命に後片付けを進めている。そんななか、武器を携えたリザードマンに守られ休んでいる者がいた。彼女たちは皆、腹が膨らんでいる。
「子ガ生マレ、育テバ、村ノ力ハ強クナル。今ハ幼イ者モ、鍛錬ヲ積メバ戦士ニナル。我々ハ、希望ヲ失ッテイナイ』
この魔境とも称される密林で、危機的な状況にあることは間違いない。だが、その困難は必ず乗り越えられる。長老たちの瞳に、怖気はなかった。
「勇者殿。貴殿ニモ仲間ガオラレルヨウニ。我ラニモ同胞ガイルノデス」
「えへへ」
長老は俺を勇者と呼ぶ。そんな柄でも器でもないと言っても、彼はどこ吹く風だった。年を重ねるほど頑固になるのは、人間もリザードマンも同じなのだろうか。
しかし仲間という言葉にシアが目を細める。照れたようにこちらへ寄りかかってきて、柔らかな感触が肩に触れた。
「たしかに、シアもフィオもパニーもよく来てくれたな」
「同僚の方が一人で帰ってきて、偶然私たちも門の近くにいたんです。事情を聞いて、居ても立っても居られなくなって」
彼女たちが来てくれなければ、俺は間違いなく死んでいた。同僚たちが準備を整えて迎え撃つにも時間がかかる。そこを彼女たちは、文字通りに飛んで来たのだ。
窮地を救ってくれた彼女に、改めて感謝を伝えなければ。
「ありがとう、シア。改めて言わせてくれ」
「レリオさんはどこか危ういところがあって、心配だったんです。なんとか間に合ってよかった」
俺の胸に額をうずめて、彼女は絞り出すように言った。彼女にどれほどの心配をかけたことだろう。同僚が戻り、事情を伝えた時、どう思ったのだろう。
勇者アレックスの代わりに支えると言った俺は無責任だった。
彼女は俺に密着したまま、肩を震わせる。服に温かいものが滲み出した。薬の匂いがする腕を彼女の背中に回すと、少しだけ落ち着いた。
「コノ小屋ハ自由ニ使ッテクダサイ。セメテモノ、感謝ノ印デス」
そう言って、長老たちは出ていく。そんな心遣いもありがたい。
彼らがいなくなった瞬間、シアは俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「本当に、心配したんです。間に合わないかもしれないって」
「……すまない」
「許しません。まだ、許せないです」
「俺にできることなら、なんでもするさ」
「……ぐすっ」
彼女の嗚咽が胸に直接響く。今は、どんなことを言われてもあまんじて受け入れるつもりだった。
「……慰めてください」
「え? ああ……」
言われるまま、黒髪に手を伸ばす。なめらかな絹のような手触りのよい髪を撫でる。しかしそれでは不満だったらしい。
「そうじゃなくて」
「えっ?」
シアは一度離れる。年不相応の、子供のようなすね顔をしていた。彼女はおもむろに服を脱ぎ始める。
「ちょっ、シア!? 何をやって――」
「私のこと、慰めてください。レリオさんがもう危険なことをしないって、教えてください」
「慰めるってそういう……。いや、ここでするのか!?」
「リザードマンの皆さんに見られたって恥ずかしくないです! な、なんならその、人間族の子供の作り方なんかも……教えてあげましょう!」
「なんか自棄になってるだろ! ちょ、ちょっと冷静に――うわああっ!?」
治癒術は応急処置であり、失った血も体力もすぐには回復しない。その意味を、俺は身をもって実感した。
強引に俺を押し倒したシアが、そのまま馬乗りになって見下ろしてくる。柔らかく垂れた巨乳が盛大に弾み、先端の尖りが威圧しているようだった。
異種族の集落の真ん中で一糸纏わぬ姿となった彼女は、頬を紅潮させ呼吸も荒い。怪しい眼光でこちらを見つめ、治療のため軽装になっていた俺の胸に手を這わせてきた。
不意に彼女の口元が近づいて、囁かれる。
「それとも、嫌ですか?」
酷使し、疲弊した肉体が、否応なく反応する。
艶かしい吐息に頬を撫でられ、理性はあっさりと退散した。その反応を尻の下で直接感じたシアは柔らかな笑みを浮かべた。
「ふふっ。身体は正直ですね♡」
まるで悪党のような台詞を吐いて、彼女は肉付きのいい尻を浮かせる。激しく昂ぶる肉棹に指を当てがい、とろりと濡れた秘裂へ誘った。
「ああっ! レリオ、何やってるの!」
「少し目を離した隙に……。抜け駆けしないでください!」
突然、小屋の戸が蹴破られ、二人の声が重ねて響く。外で復興作業を手伝っていたはずのフィオとパニーが飛んできたのだ。だが、二人が止める隙もない。シアは躊躇なく腰を沈めた。