夜明け。東の空に陽が昇り始め、みるみるうちに空全体が明るくなる。
「…ここにいたの。君、この場所好きだよね。」
後ろから聞き慣れた声がして、城壁の手すりに凭れていたカミュが身を起こし振り返った。
「ここは風が気持ちいいからな。こんな朝早くからどうしたよ?」
城の屋上はカミュのお気に入りの場所だった。
「起きたら君がいなかったから探しにきたんだ。」
「俺がいなくなったとでも思ったのか?」
朝陽が笑う彼のフォルムを暖かく彩る。
「そりゃあ…昔の君を思えばそう思うでしょ?」
「ふはっ、」
カミュが可笑しそうに笑い、イレブンに向き直ると軽く膝を折って一礼した。イレブンも曲げた右腕を上体に引き寄せ腰を折って一礼し、カミュが差し伸べた両手を取った。微笑み、手を繋いだままカミュがステップを踏んで身体を右に、左にと動かす。イレブンも彼に合わせて反対側にステップを踏み、それから自身を軸にしてカミュを優しく振り回すと片手を放し、繋いでいた方の手を頭上に持ち上げて彼をくるりと一回転させた。次に手を取ったまま中央へと導き向かい合って、右手をカミュの腰に廻し、左手で彼の右手を取り、優しく握る。カミュは左手をイレブンの肩に置き、彼を見上げて微笑んだ。イレブンも微笑み返し、ステップを踏み始める。二人で揺れ、回り、踊る。最中、イレブンがカミュを引き寄せたので彼の肩に右腕を廻す。そしてイレブンがカミュの背を支えて後ろに倒したとき、二人は熱く見つめ合った。イレブンはカミュを引き起こすと腕を彼の腰に廻し、軽々と抱き上げる。カミュもイレブンの肩に腕を廻し、二人は間近で見つめ合った。一回転してからイレブンがそっとカミュを下ろすと再び二人は向かい合い、手を取り合って踊る。
漸く動きを止めたとき、二人は息を弾ませながら向かい合った。間近で碧と蒼が交差する。カミュが片方の手でイレブンの頬から肩まで撫で下ろすと、両腕を彼の身体に廻して胸元に凭れた。
「…俺は何処へも行かない。」
暫くして、カミュはぽつりと呟き、イレブンがカミュの撥ねた髪や背を撫でる。
「…元の世界へ戻る手段が得られたとしても?」
「ああ。勇者が世界を救って、妹も目覚めた。…アイツの傍に居れなくてもいいんだ。兄弟なんてモンはいずれ別々の人生を歩いていくものだしな。」
勇者が大きな光球を破壊する光景を最後にマリーナ女王から送られてくる映像が途絶えたため、今仲間やマヤがどうしているのかはわからなかったが、カミュは大樹が蘇った世界で皆が幸せに暮らしていると信じていた。
「カミュ…」
「あーっ!ずるい!私も混ぜて!」
突如イレブンの後ろから小さな女の子の声がして二人は驚いて身体を離した。そこには頬を膨らませ、腰に手を当ててぷんすか怒る、長い青髪をポニーテールに結んだ寝間着姿の少女が立っていた。
「…マヤ。また一人で出歩いて……」
「私もハグ!ハグ!」
「はいはい。」
イレブンがマヤと呼ばれた少女を抱き上げ、額にキスをする。
「お転婆なところも小さい頃の俺の妹にそっくりだな。」
「二人の兄が今アングリラに行っていてきっと寂しいんだよ。」
イレブンがマヤを抱いて階下へと続く階段へと足を向けたので、カミュも頭の後ろで手を組んで彼の横に並び歩き出した。
「…それにしても。まさかこの俺が親になるなんて思いもしなかったぜ。」
「ふふ、僕もミアが三人も産んでくれるとは思わなかったよ。」
イレブンがふと足を止め、空いた方の手でカミュの顎を捉えて唇を奪う。
「…愛してる。」
「俺もだ。」
カミュは笑って、マヤのふっくらした頬にキスすると、最愛の伴侶と娘を抱き締めた。
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