「ん…」
「目が覚めた?」
カミュが目覚めたのは広いベッドの上だった。大きな窓から差し込む朝の白い光が眩しい。首だけ動かして隣を見ると、イレブンが身体ごとカミュの方を向き、優しい笑みを浮かべて彼を見つめていた。裸だった。一瞬何故イレブンと同じベッドで寝ているのか不思議に思ったが。
「おはよう、エリック。」
彼の次の言葉で目の前のイレブンが勇者のイレブンではないことと昨夜のことを思い出した。
「…はよ。」
とりあえず、挨拶を返す。イレブンは片手をそっとカミュの腰に廻した。後始末をしてくれたのか、あれだけ激しい性交をしたのに不快感はなかった。ちゅ、とイレブンが触れるだけのキスをする。カミュは起き上がろうとして、手が頭上で戒められているのに気づく。
「な…これ解けよ!」
怒って言うが。
「最初に言っただろ?僕と結婚してずっと傍にいると誓うのなら、戒めを解いてあげる、って。」
「俺はエリックじゃない!俺は…あっ…」
イレブンがカミュの腰に廻していた手で乳首をカリ、と爪で引っ掻き、カミュは身を撥ねさせた。
「くぅ…」
震えながら、痺れるような甘く苦しい疼きが弱まるのを待つ。そんなカミュを見つめながら、イレブンが静かに話し出した。
「…将来を約束した君が姿を消して、僕は国中君を探させた。国境の峡谷の底で君を見つけたとき……僕は絶望で気を失いそうになったよ。でも幸運にも君はどこも怪我していなかったから、思わず泣いてしまうくらい安堵したっていうのに…頭を打ったの?それとも…別人のフリをして僕を騙そうとしてる…?」
「……」
カミュは何も言えなかった。頭を打っても騙そうともしていないが、エリックであることを否定すれば今のように身体を苛まれる警戒と、このどうしようもない状況に対する苛立ちが、言葉を塞いでしまう。カミュが黙っていると、イレブンが溜息を吐いた。
「エリック、お水、要る?」
「…くれよ。」
予想はしていたが、やはり昨夜のように口移しで与えられる。水を飲ませた後、イレブンがカミュの口から溢れた水を上掛けの端で拭う。そして……
「そうだ!こんなに爽やかな朝だもの、少し身体を動かそっか?」
突如、イレブンが言った。彼の言葉から戒めを解いてくれるのかと期待したが、イレブンはベッドから降りて服を着、手近にあった椅子をベッド脇に引き寄せ脚を組んで座っただけだった。
「おい…?」
――身体を動かすんじゃないのか?
カミュはイレブンの行動に疑問を抱くがふと、彼がベッドの上の自身を見つめる光景が、導きの教会で勇者が目覚めるのを見守っていたときの自分と重なってカミュは懐かしい気持ちになった。状況は大分違うが。そのとき。イレブンが聞き慣れない言語で何かを呟くのが聞こえ、同時に窓から差し込んでいた光が何かに遮られて暗くなったので、カミュはそちらに顔を向けた。
「なっ…」
明るい朝の光の中、窓辺に昨夜カミュを苦しめた暗緑色の触手スライムが出現していた。スライムは見かけよりも素早い動きでベッドに近づくと上掛けを剥ぎ取り、裸で拘束されたカミュへと無数の触手を伸ばしてきた。
「や、やめろ!ひゃ!?」
あまりの悍ましさと恐怖にカミュが悲鳴を上げる。だが触手は止まることなくツルツルした丸い先端でカミュの首や腋、乳首、脇腹、臍を擽り出した。
「やっ…ああん!や…ん、ふふ、あ…ん、や…ふふ…あ…ふふ…」
触手は大男の指先を思わせる感触だった。昨夜のように性的な責め苦ではないものの、幾ら身を捩っても触手は追いかけてきて弱い処ばかり弄り、カミュは堪らず身悶えた。
「あ…も、やぁっ!ああ…ん!ふふ…あ…ん、あぁ…ん!」
イレブンはカミュの悶える様を暫くじっと見つめていたが、再び何かを呟き、触手の動きを緩く撫でるようなものへと変えた。
「あ……ん……ふふ……あ……ん、あ… …」
カミュが白いシーツの上で、目を閉じて微笑みながら甘い声で喘ぐ。
「…エリック。君がエリックだと認めないことに何か理由があるの?将来を約束した恋人の僕にも言えないこと?」
「……あっ……ん、ふふ……あ、…ち、がう、……あっ……ふふ……俺、は……ん……カ、ミュ… …」
「……暫くしたら使い魔たちを寄越すから。」
「!?…待っ…あん…っ…」
溜息を吐いた後それだけ言ってイレブンは立ち上がり部屋を出て行った。ドアが閉まる音がしてカミュは広い部屋に一人、残された。
「あ……ん、あ……」
触手は間断なくカミュを苛んでくる。その不快な感触にカミュはまるで大男が自分に覆い被さり、太い指先で身体を弄っているかのように錯覚する。ふいに、彼の頭の中に蘇った声があった。
『オーブを何処に隠したか言え。』
――グレイグ将軍。
デルカダールに囚われていたとき何度も繰り返された尋問。だがカミュがオーブの在り処を頑なに言わなかったにも関わらず、拷問されることはなかった。
――俺はアイツの目が嫌いだった。
彼は明らかにカミュに昏い情欲を抱いていた。恐らくカミュの方から性的な取引を持ち掛ければ喜んで応じたに違いない。きっと”そう”なったときのためにカミュを痛めつけなかったのだろう。
――くそ、こんなときに思い出すなんてよ。
カミュは心の中で毒づいたが、一度思い出してしまった記憶は容易に像を結んだ。グレイグ将軍がカミュに圧し掛かり、口端を歪めて笑い、見下ろしている。将軍の武骨で大きな手がカミュの首を悪戯に撫で廻し、腋と脇腹を擽り、乳首の先端を弄り、臍を指先で掻く。
「や……あ……ん、ふふ……あ…っ…、いや、だ……、あ……ん、ふふ… …」
幻想の中で、グレイグ将軍に戯れのような拷問をされてカミュは嫌悪と快楽に苛まれながら、喘ぎ続けた。
*
暫くすると使い魔の美女二人がイレブンの自室へとやってきて、触手スライムを退かせカミュの戒めを解いた。カミュはぐったりとしてしばらく動けなかったが、二人は甲斐甲斐しく世話をし、身支度を整えさせ、朝食を摂らせる。
「散歩されますか?」
朝食を終えた後、使い魔の一人が尋ねた。
「部屋から出られるのか?」
「私たちと一緒であれば。」
二人の監視下でなら部屋から出られるとわかり、カミュは二人が許してくれる処は全て隈なく歩き回った。ここは何処なのか、イレブンは何者なのか、とにかく知らなければならないことが多過ぎた。
――窓から見える景色だけじゃここが何処かわからねえな。
カミュが考えながら歩いていると、偶々兵士たちの詰め所と思しき部屋に足を踏み入れた。そこでカミュは壁に貼られた大きな世界地図を目にする。地図の上には大きく‘エルドレア’と書かれていた。
――エルドレア?
ロトゼタシアと同じように見えるが、よく見ると街や国の名前がカミュの知るものとは違っている。
――イレブンにそっくりな青年に俺にそっくりだというエリック…もしかして、ここはロトゼタシアの平行世界なのか?
「なあ…俺が今いる処は何処なんだ?」
使い魔の美女二人はカミュの問いに不思議そうな顔をした。
「この国で生まれ育ったあなた様はよくご存じのはずでは?」
「すまねえ、本当にわからねえんだ。教えてくれねえか?」
二人は顔を見合わせたが、一人が口を開いた。
「ここはダンドラシル王国。今我らがいるのは王城です。」
カミュはもう一度地図を見た。ダンドラシルを探す。
「ユグノアがあった場所、か?」
「「ユグノア?」」
「あ、いや。何でもねえ。…なあ、ならあのイレブンは何者なんだ?」
また二人は顔を見合わせたが一人が、
「ダンドラシル王国の王子です。」
と答えた。
*
「イレブン!」
夜、自室へと戻ってきたイレブンにカミュは駆け寄った。イレブンは一瞬驚いたように目を瞠ったがすぐにカミュの腰を抱き寄せると片手で頬を包み、キスをした。面食らって為すがままだったカミュは程なくして我に返り、イレブンを押し戻した。
「ばっ…、イキナリ何すんだよ!」
「何、って…僕にお帰りのキスをするために駆け寄ってきたんじゃないの?」
当然でしょ、と言わんばかりに、頬を染めて口をパクパクするカミュをイレブンは怪訝な貌で見つめた。カミュは気を取り直して。
「そ、それよりも、衝撃の事実がわかったんだ。」
「衝撃の事実?」
「ああ。ここは俺の知る世界じゃなくて、別の世界だったんだ。どうしてかは知らねえけど、俺は元居た世界からこの世界に来ちまったらしい。」
「エリック、何を言っているの?」
「とにかく、俺の話を最後まで聞いてくれ!」
カミュは王子を手近な椅子に座らせるとロトゼタシアのこと、勇者イレブンのこと、命の大樹の核をウルノーガが破壊したことなど、すべてを語った。
「……もし君の話が本当だとして、証拠はあるの?」
カミュの話を聞き終えたイレブンが訝し気に尋ねる。
「証拠…はねえけど、全部本当のことだ、嘘は言ってねえ!」
「それなら君のその…ピアス、見せてもらってもいいかな?」
「ピアス?何でまた…構わねえけど…」
カミュは両耳に嵌るピアスを外し、王子に手渡した。
「……君は嘘つきだ。」
「は?」
「これを見て?」
王子に言われてカミュがピアスの内側を見る。それぞれのピアスに文字の上半分と下半分が彫られていて、ピタリと重ね合わされたそれは『愛するエリックへ 君のイレブンより』と読めた。
「僕が君に贈ったものだ。」
「な…何で…俺は、知らない。このピアスはバイキングの奴らから…」
「そんな作り話をでっち上げるほど、僕と結婚するのが嫌なの?」
「ち…違う!本当に俺は…」
イレブンが椅子から立ち上がり、カミュの傍まで来ると顎を捉えて上を向かせ、
「君が何でそう頑ななのかわからないけど、僕は君を諦めることはないから!」
と怖い顔で言った。
*
「あっ…あん…あ…や…ぁ…」
「どうしてそんなに強情なの?」
イレブン王子は昨日と同じように使い魔を両脇に侍らせ、触手スライムに身体中を苛まれるカミュを呆れたように見ながら溜息を吐いた。昨夜と今朝、散々カミュの身体を苛んだスライムはすっかり弱い処を把握していて、彼の服を剥ぎ取り、T字に拘束するとすぐに触手を伸ばしてきた。首や鎖骨、腋、脇腹、臍を触手の丸い先端が擽り、乳首と性器にも取りつき、いやらしく弄る。
「あ…ああ…ん、あん、ああ…ん、あ…ん…」
「僕と結婚すると言ってくれればすぐに解放するのに。」
浴室に立ち上る白い湯気の中、カミュの白い肢体が艶めかしく揺れる。逸らされた喉。閉じられた瞼から涙が頬を伝う。ひっきりなしに零れる喘ぎに開いたままの口端から、涎がつーと零れた。
――あ…あ…もう…耐えられねえ…おかしくなっちまう…
「あ…イレ…ブ、ン…お前と、け…っこん、する、から…もう、許し…」
イレブンが目を見開いた。一陣の風のようにカミュに駆け寄る。
「エリック!」
緑色のペットを退かせると、イレブンは頽れかけたカミュを抱きとめた。
「嬉しいよ、エリック。愛してる。」
イレブンはがっくりと項垂れたカミュの蟀谷にそっとキスをした。
*
「あ…イレ、ブン、…」
スポンジが腋を擦り、カミュはピクンと身体を撥ねさせた。目の前に広がる、白い雲のような泡。カミュは温い湯の中で、イレブンに後ろから抱かれながら、身体を洗われていた。
「あ…ん…」
ふいに自身を掴まれてカミュは喘ぎ、身を震わせた。緩く扱かれ、先端を指先で繊細に洗われる。そしてイレブンのもう一方の手は双球をやわやわと揉み、尻の奥まった処を指先でなぞった。
「ふふ、恋人の身体を洗ってあげるの、夢だったんだ。――ああ、もう婚約者だったね?」
愛し気にカミュの身体に触れながら、項にキスをする。
「そろそろベッドに行こうか?」
「…ああ。」
――こうするしか、ない。求愛を受け入れて油断させて、隙を見て逃げ出すしか…
ベッドに移動すると、すぐに押し倒され、情熱的なキスが降ってくる。
「ああ、そうだ。お呪いをさせて?」
カミュの身体中にキスした後、顔を上げたイレブンが言った。
「まじない?」
「そう。君がずっと僕の傍にいてくれるように。」
イレブンはカミュの知らない言語で何かを唱えると、中空に一組の‘手’が出現した。
「な、何だよ、これ…」
「使い魔の‘手’だよ?全身全部召喚するのは魔力を消耗するんだ。手だけなら少なくて済むからさ。」
その‘手’は王子の傍に侍っていた使い魔の美女の手首から先の部分らしかった。それがカミュの手首を掴むと彼の頭上で拘束した。
「な…」
カミュが驚き戸惑う間、イレブンは再び知らない言語で何かを唱え、右手、左手と順に自身の唇に触れさせる。彼の唇と両手が一瞬淡く輝いたが、他には何の変化も起こらなかった。
「今のは?」
「明日になれば、わかるよ。」
イレブンは笑ってカミュの身体に手を伸ばし――腋の下を擽った。
「ひゃ!?あん!ふふ…やめ…あ…ん!や…ん、ふふ…ああん、イ…レ…あんっ!」
イレブンはくすくす笑いながらカミュの身体を擽っていく。腋から脇腹、臍、首。弱い処を順に擽っていくと、今度は乳首に手を伸ばした。
「ああ…ん!」
触手スライムに散々弄られ、過敏になったそこをスリスリと撫で擦り、指先で掻く。
「やあ…っ、イレブ、…あん、やめ…」
カミュが身体を捩って逃げようとするが、拘束され腰に跨られていてはまったく逃れることはできなかった。指で弄った後は舌を絡めるように口に含み、舐め、押し潰す。二つとも十分に可愛がると、首、鎖骨、胸、腹、臍、下腹とキスと愛撫を施していく。
「あ…っ」
急所を口に含まれ、カミュは仰け反った。幹と双球は手で先端は舌で、巧みに弄られてカミュが腰を蠢かせて喘ぐ。
「ああ…ん!あ…も…やっ……」
だがカミュがイく前にそこを解放し、イレブンは身を起こした。そして彼の呟きとともにカミュを拘束していた‘手’が消え失せる。
「…お呪いはしたから、今から目一杯愛し合おう?」
イレブンがぐったりと横たわるカミュの撥ねた青い髪を愛し気に梳きながら、甘く囁いた。
「あ…イ、レブン…ん…」
イレブンが唇にキスをするとカミュも彼の首に腕を廻し、口を開いて招き、互いの舌を絡ませた。
「ん…ん…」
濡れた音が静かな部屋に響く。縺れ合い、触れ合って、繋がり、互いに果てて、二人は微睡みへと落ちて行った――