※この作品はR-18です。

異世界にて   作:ちま

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見知らぬ世界でⅣ 旅立ち

 

 

朝、カミュが起きたとき既にイレブンいなかった。ベッドサイドテーブルには『公務に行きます。』と書かれたメモ。カミュは溜息を吐き、広い部屋の中で一人頭を抱えた。

――どうするよ?逃げられねえとなると、本当に王子と結婚することになっちまう。

この状況を切り抜ける良い知恵も浮かばず時間ばかりが過ぎていく中、城に家族が訪ねてきたと城仕えの者から知らされた。そしてカミュが案内された応接室には――

「マヤ!?」

カミュの元居た世界のマヤとそっくりな、ただし十代半ばを過ぎたあたりと思われる女性が待っていた。カミュの言葉に女性が怪訝な顔をする。

「ちょっと見ない間にボケたのかよ、兄貴?オレはミアだ。」

「あ、ああ。」

「兄貴が無事に見つかったって聞いて、すぐに駆け付けるはずが、ちょっと仕事が立て込んでてな。…っとに、失踪騒ぎなんて起こしてしょうのない兄貴だぜ。」

――口調までそっくりだ。

カミュは気を取り直して遠慮がちに口を開いた。

「ミア、さん。そのことで少し訊きたいことがあるんだ。」

「ミア“さん”!?」

 ミアが驚いてまじまじとカミュを見た。

「驚くのも無理はねえ。俺はエリックじゃない。ロトゼタシアという世界からきたカミュというんだ。」

「ロトゼタシア!?」

 カミュはロトゼタシアのこと、勇者イレブンのこと、命の大樹の核をウルノーガが破壊したこと、イレブン王子との経緯をミアに話した。

「だから、俺は元の世界に戻って散り散りになった仲間を捜し出さなきゃならないんだ。」

「…ふうん、そうだったのかよ。俄かには信じられねえ話だな。」

ソファに寄り掛かりながらじっと話を聞いていたミアはそう言って組んでいた脚を下ろし少しばかり背を丸めた。そしてまじまじとカミュを見て。

「けど、ピアスが兄貴のものだった、ってことは、だ。もしかして精神だけが入れ替わっちまったとか?兄貴もそのロト…何とかって世界にいるのかもしれねえ。」

「精神が…そうか!だからピアスも…」

「まあ、仮説でしかないけどな?」

 ミアがやれやれ、という風に頭を振り、改めてカミュに向き直る。

「…けど、戻らなきゃならないならどうしてあんた、王子と婚約したんだ?城中、あんたと王子の婚約話で持ち切りだぜ?」

「う…それは、王子が俺をエリックだと思い込んでいて、その、俺は必死に人違いだと言ったんだが、信じてもらえなくて仕方なく…な。だが俺とエリックが元に戻れば解決だろ?」

「あー…それは、どーだかな。」

 ミアは後ろ頭を掻いた。

「兄貴は逃げたんだぜ?身分を隠していたイレブンもイレブンだけどよ。兄貴のことだから、きっと騙されていたと思ったんじゃねえかな?」

 

『…将来を約束した君が姿を消して、僕は国中、君を探させた。』

 

 イレブン王子の言葉がカミュの頭の中でリフレインした。

「…王子とエリックは将来を約束した仲だったんじゃないのか?」

「は?兄貴はそんなこと一言も……あ?もしかして…イレブンが身分を明かす前に約束したのかもしれねえな。んで身分を知って逃げたんだから、もうそこでオワってるだろ…」

「……」

 カミュはぽかんとしてしばらく二の句が継げなかった。だが何とか気を取り直して。

「と、ともかく、イレブン王子はエリックを愛している。何としても探し出さなきゃだよな。エリックと俺が入れ替わったことに何か心当たりはねえか?」

「何もないぜ?」

「そうか…」

 カミュの明らかに落胆した様子にミアが慌てて気遣った。

「な、なあ…あんた、…カミュ。そんなに落ち込むなよ。他にも何か知っている奴がいるかもしれないしよ。」

 ミアのその言葉でカミュははっとした。ムウレアのセレン女王。彼女は地上の出来事を海の底に居ながらにして知ることができた。街や国の名前こそ違え、そっくりなこの世界にも海底王国は存在するかもしれない。

「ミア、他に知っていそうな者を思い出したんだが――」

「ホントか?」

「ただ…彼女の処へ行くためには船が必要なんだ。あとマーメイドハープも…」

「人魚のハープか…聞いたことねえな。オレ、船を持ってるダチがいるから、そいつにも訊いてみるよ。」

「悪ィな。赤の他人の俺のために。」

「失踪した兄貴も一枚かんでんだ。気にするなよ。…さあて、そろそろオレは行くとするか。あ、これ、オレん家の住所。オレに用があれば使ってくれよ?ギルドに言づけてくれてもいいぜ?」

 ミアが手近にあったメモ紙にさらさらと書いてカミュに手渡す。

「ありがとな。」

 礼を言うカミュにミアは微笑み、別れの挨拶をして部屋を出て行った。

 

*

 

 ――精神が入れ替わった。

新たな可能性に気づかされたカミュはもう一度イレブンに話してみることにした。ふと壁に掛かった時計を見ると、そろそろ正午になろうとしていた。

「やべっ!早くイレブンの自室に戻らねえと。」

 カミュが急いで部屋に戻ると、約束通りイレブンは戻って来ていた。

「ミアが来ていたんだってね?」

「ああ。」

「僕たちの婚約、喜んでくれた?」

「あ、ああ。」

――今話したいのはそのことじゃねぇ。

カミュはおざなりに頷き、続ける。

「…それでその、俺がロトゼタシアという世界から来たことは話したよな?」

「またその話?」

イレブンは心底うんざりした様子でカミュを見た。

「最後まで聞いてくれ!確かにピアスはお前がエリックに贈ったものだった。でも俺はエリックじゃない。ミアが言うには、俺とエリックの精神が入れ替わったんじゃないかって…」

「……」

「ミアも協力してくれることになったんだ。だから頼む、俺とエリックが元に戻る方法を探すために、お前の掛けた魔術を解いて俺を行かせてくれ!」

「…僕は君を行かせたくない。」

「必ず帰ってくる!…頼むよ、イレブン。」

 ――何でそんなに必死に?

 イレブンはカミュの懇願に昨夜、自分を通して大切な誰かを見ているような彼の双眸を思い出した。――そして。王子は一つの可能性に思い至る。

「その…もしかして、君の居た世界の僕にそっくりだという勇者は君の大切な人なの?」

 ――だからそんなに必死なの?

「………は?いや、違うぜ?あいつは仲間で友達だ。…まあ、あいつには世界を救う使命があるから、皆にとって大切な存在だけどな。」

 ――違う?それなら君が必死なのは勇者の使命のため?

 カミュが勇者を想っているわけではないと知ってイレブン王子は安堵した。だが。

――遅かれ早かれ彼を行かせなければならないだろうか?

王子が願いを聞き入れない限りカミュはずっと今のように言い続けるだろう、と心の中で嘆息する。

「…もう。言い出したら聞かないんだから。……わかった、いいよ。」

イレブンは諦めてとうとう、言った。

「ホントか!?」

「でも君の望みを叶える代わりに、僕の遊びに付き合ってくれる?」

カミュが顔を明るくするが。イレブン王子がカミュをタダで行かせるわけは、もちろんなかった。

「遊び?」

 イレブンはソファに背を預け、訝し気に訊き返すカミュにいっそ優しく微笑みながら両腕を広げた。

「さあおいで、ロトゼタシアのカミュ。」

 カミュが王子の意図を測りかねて躊躇し立ち尽くしていると、イレブンが再び促す。

「来ないの?…ほら、魔術を解いてもらいたいんでしょ?」

 カミュは戸惑いつつも王子に近づき、膝を跨ぎ肩に手を置いて彼と向かい合ってソファに座った。イレブンがにっこりと笑い、カミュの細い腰に手を添える。

「キスして?うんと甘いやつね?」

 素直にカミュはいつもと違い、低い位置にあるイレブンの唇にキスをした。彼が今まで自身にしたキスを真似て、だが遠慮がちに上唇と下唇を食み、僅かに舌を出して口の隙間を舐める。イレブンが口を開いて招くとカミュは舌を差し入れ、彼のものと擦り合わせた。キスしている間、イレブンはカミュの腰に添えていた手で彼の脇のラインを撫で上げ、薄いシャツ越しに腋を親指で擦った。

「ちょ…、擽ってえよ!」

 カミュが思わず身体を離すと、イレブンは笑って手をカミュの腰まで下ろした。

「これが‘遊び’。僕が公務に戻る時間まで僕の肩を掴んでいられたら、望み通り魔術を解いて君を行かせてあげる。」

「え…」

 イレブンが悪戯っぽく笑い、シャツの上からカミュの肩、鎖骨、程よく筋肉がついた胸、薄い腹と撫でた。そしてシャツのボタンを一つ、また一つと外し始める。

「お、おい…」

 カミュの当惑を余所にイレブンは全てのボタンを外し、シャツを左右に肌蹴させた。白い肌と胸の小さな粒が露わになる。イレブンは目の前に晒されたカミュの半裸に手を伸ばした。

「…まだ腫れが引いてないね。ココ、服に擦れただけで疼くんじゃないの?」

 そう言って、イレブンはカミュの乳首に指先で触れた。

「ん…」

 ピク、とカミュが身動ぐ。イレブンはそこをすりすりと優しく擦った。

「あ…っ!」

 カミュは思わず肩に置いた手を放しかけたが、はっとしてイレブンの肩をぐっと掴んだ。イレブンがくすくす笑い、今度は閉じることのできないカミュの腋をコチョコチョと擽る。

「や…ん!」

カミュの身体がビクン、と撥ねる。

「ふふ、可愛い。」

「や…あ…ふふ…っ、あ…ん、ああ……ん…」

 イレブンの肩から手を放すことができずに、カミュが震え身悶える。そして……カミュの息が上がって苦しそうになると、イレブンは漸く擽る手を止めた。

「はあっ…」

生理的に滲んだ涙で湿った長い睫毛越しにカミュは哀願するような目でイレブンを見た。だが。

「そんな目で見たってダメ。」

残酷に言ってイレブンはカミュの乳首を親指で円くなぞり、先端を擦る。

「あ…」

 ふる、と震えてカミュがイレブンの肩に指を食い込ませる。指先で優しい愛撫を続けると、カミュは眉根を寄せ、艶めいた吐息を吐きながら、目を閉じ俯いた。頬に濃い影を落とす睫毛、僅かに開いた唇。快楽に耐えるカミュの切なげな貌にイレブンは暫く見入っていたが、無防備なカミュの腋に手を伸ばすと再び擽った。

「ああ…ん!」

 カミュの身体がビクン、と仰け反る。

「ああ…ん、ああ、…あ…ん…や…や…」

 それはまるで愛らしい乳首を差し出しているようで、イレブンは思わず顔を寄せその一つに舌を絡めた。

「や…!イレブン…!」

 肩を掴む手に力が入り、イレブンは僅かに眉を顰めたが、指先と舌で巧みに攻め立て、思い切りカミュを啼かせる。

 幾ばくかの時が過ぎて。公務に戻る時間が迫り、漸くイレブンが顔と手を離したとき、カミュは弦が切れたようにイレブンに頽れた。イレブンはぐったりと凭れかかるカミュを抱き締め、

「…君が途中で音を上げるんじゃないかって期待していたのに。」

まだ自身の肩に置かれたカミュの手を見て寂しげに呟いた。

 

*

 

 カミュは午後を告げる鐘の音に意識を引き戻された。目を開けると、自身がソファに寝かされているのに気づく。疲労した身体を何とか起こすと、ソファの傍にあるローテーブルの上にメモを見つけた。

 

『親愛なるカミュへ

 約束通り、魔術は解いておきました。君の帰りを心待ちにしています。

イレブンより』

 

 メモの脇には市井の服が一式と、護身用にだろう、ダガーと旅支度を整えるのに十分な額のゴールドが入った革袋が揃えて置いてあった。

――イレブン王子…俺はあんたに幸せになって欲しい。

王子の心遣いにカミュは唐突に、そう思った。

「イレブン…きっと俺とエリックが元に戻るための方法を探して来るから、待っていてくれ。」

 カミュは誓うように呟き、身支度を整えると、ダンドラシル城を後にした。

 

 

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