客室は広く豪華だった。暖炉に火が入れてあり、部屋の中が暖かい。カミュは一人になって急に空腹を感じたが、身体が気持ち悪くて堪らなかったので、先に風呂に入ることにした。
浴室はイレブンの自室のものに比べたらずっと狭いが、それでも十分に広かった。バスタブは大の大人二人が入っても余裕があるくらい大きく、ヘンドリック卿の悪趣味に付き合わされた後に風呂に入ることを見越していたのか既に十分なお湯が溜められていて、白い泡が雲のように浮かんでいた。バスタブの前には大きな鏡があり、裸の自分が映るのが何となく落ち着かなかったが、少し温めの湯に浸かってしまうと気にならなくなった。
――これでハープが手に入る。あとは船で-…
と考えを巡らせていたそのとき、いきなり浴室のドアが勢いよく開いた。
「なんっ…!?」
「私も入れてくれ。」
前をタオルで隠しただけの、全裸のヘンドリック卿がずかずかと入って来て、バスタブのカミュの後ろに無理矢理割り込んできた。
「おい、オッサン!」
カミュは驚きバスタブから出ようとしたが、ヘンドリック卿が片腕でカミュの腰を容易く捕らえ、引き戻す。
「お前が気に入った。ほら、ディナーで汚れてしまった身体を洗ってやろう。」
「ばっ…放せよ!」
カミュは暴れたが、力強いヘンドリック卿の腕はびくともしなかった。
「ククッ、元気がいいな。」
彼は笑い、持っていたタオルをいとも簡単に端の少し手前までビーッと縦に裂いて細長い紐状にすると、カミュの両手首を片手で纏めて捉え、ぐるぐると縛り上げてしまった。
「な、何してんだよ!?解けよ!…!?」
次にヘンドリック卿は拘束したカミュの腕を持ち上げ、腕の輪の中に自身の頭を潜らせた。彼が頭を上げてしまえば、上背のないカミュはどう足掻いても腕を外すことができない。さながら‘肉鎧’のようである。そして…
「…ひゃっ!?」
ヘンドリック卿がガラ空きの脇のラインをするりと撫でたのでカミュは驚いて身体を撥ねさせた。
「ハハ、擽ったがりなのか?」
カミュの反応を見て楽し気に笑うと、ヘンドリック卿が彼の大きく開いた腋を擽る。
「やっ…あははは、あはは、ははは、やっ、ん!ああー!!」
カミュはお湯をざぶざぶと零すほど擽ったさに暴れたが、ヘンドリック卿の首に‘掛かっている’状態ではどうにもならなかった。
「ククッ、やはりお前は擽ったがりなのだな。」
「ひゃっ…ん!やっ…」
腋を擽る最中に時折片手を臍へと伸ばし、不意打ちでほじくるように掻くと、その刺激でカミュの身体がビクン、と大きく撥ねてヘンドリック卿は満面の笑みを浮かべた。
幾ばくかの時が過ぎて。バスタブの前の鏡に映るカミュをニヤニヤしながら、彼を息ができなくなるほど擽った後、ヘンドリック卿は今度は彼の滑らかな胸に存在を主張する尖った乳首を人差し指でくりくりと弄り始めた。
「や…っあ!」
「硬くなっているな。」
中指と薬指も使って愛撫すると、乳首の先端だけでなく、乳輪とその周辺まで太い指が余すところなく擦り、ゾワゾワとした快感がカミュの背に這い上る。
「あ…ん、や…」
カミュがふる、と震え、逃れようと身を捩るが、カミュの動きに指先もぴったりとついていき、まったく逃れられない。弄られ続けて乳首がジンジンと過敏になってくると、それを見越したように指先で引っ掛けるように掻く。
「も…や…ぁ…」
顎を上げて白い咽喉を晒し、眉根を寄せて切なそうな貌をするカミュを鏡越しに見て、ヘンドリック卿はごくりと生唾を飲み込んだ。――そして。ヘンドリック卿がカミュの”前”に手を伸ばす。
「ひっ…」
自身のモノと双球を掴まれ、カミュが身を強張らせる。
「固くならなくていい。悦くしてやるから…」
「や、やめろ!」
カミュが頭を激しく振り、拒絶を示すも、卿は大きな手でそれらを包み込み、愛撫し出した。
「あ…ああ…い…嫌、だ…」
掌と4本の指でカミュ自身を扱き、先端を親指で弄り、双球を揉むうちに、カミュの抵抗は弱まり、艶っぽい喘ぎ声を零し始める。
「あ…ん、…はっ、……ぁ…」
鏡に映る、カミュの快楽に翻弄される貌をじっと見つめながら、ヘンドリック卿は彼を高めていった。そして――
「あ!ああ!あぁーー!!」
強めに扱かれ鈴口に爪を立てられて、ついにカミュは達した。仰け反り身を震わせた後、カミュは目を閉じたままくったりと頭を垂れ、艶めいた吐息を零した。
「はぅっ…!」
ヘンドリック卿が残滓を搾り取るように性器を強めに扱いたことで、カミュが驚き頭を上げる。その彼の耳に。
「…お前のイくときの顔、よかったぞ。」
ヘンドリック卿が吹き込むように囁き、カミュはカッと頬を染めた。
「こ、の、野郎――あんっ!」
怒って後ろを向こうとしたカミュの腋をヘンドリック卿がこちょ、と擽るとカミュはまたビクン、と身体を撥ねさせた。
「――クックッ、可愛いな。そら、こちょこちょこちょ~~」
「ああんっ!やあっ!あ…はははは、ははは、やめ…あんっ、ははは…っ…」
首の後ろに戒められた手を引っかけられて逃げられないカミュを、ヘンドリック卿がその大きく武骨な手からは想像もできないほど指先を軽やかに動かし、腋、脇腹、首、乳首、臍を縦横無尽に擽る。
「も…やぁっ!あん、ははは、あはは、ああ…ん!やっ…!」
ヘンドリック卿はいやらしく笑いながらカミュを思い切り擽ると、漸く手を止めた。カミュは疲れ果ててがくりと頭を垂れ、肩で息を吐く。卿がふと鏡を見ると、カミュの苦し気な貌にそこはかとなく漂う色香と濃く色づいた乳首が艶めかしく映っていた。そのとき急に、ヘンドリック卿は自身のモノが触れている彼の尻を意識し、衝動的にカミュ自身と双球を一緒くたに包み込んだ。
「や…!」
カミュが嫌がって首を振ったが、彼の中心をやんわりと包んだまま、身体のあちこちをもう一方の手で緩く愛撫すると、喘かな声とともに細身の身体が揺れる。
「あ……ん、あ… …ん、あ… …」
ヘンドリック卿はバスタブに寄りかかって斜めになり、カミュを自身の身体に寄りかからせた。彼の中心から手を放し、両手を使ってつん、と突き出た乳首を指先で愛撫し、掌で脇のラインを撫で下ろす。次に首から胸、胸から腹、腰骨から腿へとゆっくりと撫でた。鏡に映る、頬に濃い影を落とす睫毛に僅かに開かれた彼の艶やかな唇。
「……」
「あ…ん…」
彼の唇に見入っている間も愛撫の手を止めなかったらしく、彼が上げた喘ぎ声で我に返ったヘンドリック卿はその時、彼の唇に自身のそれを重ね合わせたいという強い衝動に駆られた。
――この感情は、何だ?
この青髪の美しい青年に今まで抱いたことのない感情を抱き、ヘンドリック卿が呆然自失する。
「…ぁ……」
それでも無意識に続けていた愛撫にカミュがピクン、と震えたとき、卿は再びはっとして彼を見た。カミュは気を失って――或いは眠って――しまったようだった。
バスタブのお湯はすっかり冷めていた。
*
窓から差し込む青白い月光が俺の下腹の上で上下に律動するカミュの細身の身体と青い髪を、まるで彼自らが発光しているかのように白く輝かせていた。彼が動く度に乱れて貌に落ちかかった前髪が揺れる。苦し気に寄せられた眉、閉じられた瞳、艶めく息遣いを零す開かれた唇。俺は夜の天使の如き彼の美しさに暫し見惚れる。
俺の腹に手をついて自重を支える彼の手首を取ると、俺は上体を起こした。
「今度は俺が動く。」
「え…あ…」
俺は戸惑う彼を押し倒して両手首をシーツに縫い留め、彼のナカを衝き始めた。
「あっ、あっ、ヘニー、は、げし…っ…」
仰け反った白い咽喉から鎖骨にかけての陰影が美しい。
「あ…ああーー!」
「くっ…」
激しい抽挿の果てに、俺とカミュはほぼ同時に達した。
「はぁっ…、ヘニー。」
「…カミュ。」
カミュの溶けた双眸が俺を捉え、俺はごく自然に彼にキスをした。カミュはすぐに俺の首に腕を廻し、応えてくる。舌を絡め、吸い、互いを味わう甘美なキス。彼の身体を愛撫しながら俺は夢中で彼を貪った。息が苦しくなって漸く離れると、彼の夜光の宝玉のような瞳と目が合う。その滑らかな頬に思わず手を添えると、カミュは目を閉じ、甘えるように頬ずりした。俺は愛しくて堪らなくなって、彼の身体中を愛撫し、何度も唇を重ねる。
「あ…あ、ヘニー、…」
カミュが俺の髪を掻き回しながら身悶え、彼の艶姿にまだナカに入ったままだった俺自身が再び熱を持ち始め、硬くなった。俺はソレを一旦抜けそうになるところまで引き抜くと、衝動のままに彼を一気に貫いた。カミュがくぐもった声で呻く。
「あぁ…!もう、だめ、だって…」
「すまない、我慢できそうもない。」
俺はカミュの若い肢体を揺さぶり続けた――
「…あんた、歳のわりに元気だな。」
月明りが夜の闇の中、カミュを白く浮かび上がらせている。彼の気怠げな貌が色っぽい。俺は向かい合って横たわる彼の、肩から腕にかけて労わるようにゆっくりと撫でた。行為の後、二人ベッドの中で過ごす眠りに落ちるまでの時間が俺は好きだ。…と思ったものの、前に今のような時間を持ったのは一体いつだっただろう?と僅かな違和感を持つ。
「揶揄うな。何せ恋をするのは初めてなんだ。もっと、もっと欲しいと思ってしまう。」
「ふはっ!俺があんたの初恋の相手なのか?」
「そうだ。…こら、笑うな。」
「くくっ…だってよ…」
「この…」
俺は起き上がりカミュに覆い被さって首や鎖骨にキスしながら腋や脇腹を擽る。
「やっ…はは、ん…っ、ああ…ん!」
更に両手首を押さえ込み、弱点である可愛い乳首を舌で思う存分苛めてやるとカミュは切なげに啼いた。
「年上を揶揄うからだ。」
俺は彼の上から退き、彼の撥ねた青い髪をくしゃりと撫でた。息を乱したカミュが潤んだ双眸で俺を見つめ返す。堪らなく愛おしい。彼が俺の人生に現れてから、俺はどんなに―… …? また、微かな違和感。カミュと出会ったのがいつだったか思い出せない。
「ヘニー?」
名を呼ばれてはっと我に返ると、カミュが訝し気に俺を見上げていた。
「…ああ、すまない。お前と出会う前の孤独な俺を思い出していたんだ。……お前に会えてよかった。」
「…俺も。」
カミュが俺を引き寄せたのが先か俺が顔を近づけたのが先か――どちらでもいい。俺達は息をするのと同じくらい、それが当然のように唇を重ね合わせる。優しく甘いキスはいつまでも続いた――
「……い、おい、オッサン!」
「んむむ…」
ヘンドリック卿は目を開けた。
「目が覚めたか?」
「ここは…む…カミュ…?」
「寝ぼけてんなよ。状況を訊きたいのはこっちだぜ。」
身を起こし、腰から下に掛けた毛布の下で片膝を立てた裸のカミュが隣に寝ているヘンドリック卿を見下ろしている。ヘンドリック卿も半身を起こした。やはり裸だった。窓の外は明るく、早朝と呼ばれる時間はとうに過ぎていると思われた。少し肌寒く、見ると暖炉の火は消えかけていて、二人は暖炉の前に敷かれたラグの上で毛布を掛け、クッションを枕替わりに寝ていた。
――あれは夢、だったのか…?俺は何という夢を…。…そうだ、昨日はあの後…
「昨夜…、風呂でお前が気を失ったので暖炉の傍に寝かせたんだ。」
「それで何でアンタまでいるんだよ?しかも裸で。」
「俺もすっかり湯冷めしてしまったから一緒に暖まろうと…」
「…ったく。風呂に乱入してくるとか…何考えてんだよ。」
「…すまない。ハープを渡すとお前は行ってしまうと思って、…その、もう少し触れた…いや、話がしたくて部屋を訪ねたんだが、風呂に入っていたのでつい…」
「はあっ?何だよそれ。」
「………すまない。」
大男が身を小さくする様子にカミュは舌打ちした。
「…俺が寝てる間、妙な真似してねえだろうな?」
何しろカミュの身体はエリックのもので、イレブン王子と婚約している身だ。
「ああ、隣で寝ただけだ。」
カミュは身体に違和感がないことから、ヘンドリック卿の言葉を信じることにした。不機嫌そうに後頭部をガシガシ掻く。
「…それならいい。さあ、早く部屋から出てってくれ。」
「…ああ。」
ヘンドリック卿は床に散らばっていた服を搔き集めて着ると、すごすごと部屋を出て行った。
カミュは部屋に一人になった途端、急にひどく空腹なのに気づき、ふと執事の言葉を思い出した。すぐに服を着てワゴンの料理を残らず平らげる。それから旅支度を整え、部屋を出た。ホールに行くと老執事アーノルドがいて、彼は朝食の用意が出来ていることを伝えたがカミュはそれを断り、彼の主に取り次いでもらった。
ほどなくしてヘンドリック卿がマーメイドハープを手にホールへとやってきてハープをカミュに差し出した。
「これはお前にやろう。今からお前の物だ。」
「くれるってのか?サンキューな。」
カミュがハープを受け取った瞬間を狙ってヘンドリック卿はカミュの顎を捉え、唇のすぐ横に素早くキスをした。
「婚約者がいなかったら、お前に俺の傍に居て欲しかった。」
寂しそうに言って、背を向ける。遠ざかって行くヘンドリック卿の後ろ姿を見ながら、カミュはハープを手に呆然と立ち尽くしていた。