翌日、公務を終えた後、僕はエリックの家へと向かった。着く頃には昏くなっていた。
「待ってたぜ?入ってくれ。」
エリックが微笑んで僕を家の中に招き入れる。僕がエリックに手土産を手渡した際に彼の耳元を見ると、金色のピアスが煌めいていた。
「思った通り、すごくよく似合ってる…」
「ありがとな?すげー気に入ったぜ。」
エリックが嬉しそうに微笑む。僕がダイニングに足を踏み入れたとき、食事が二人分しか用意されてないことに気が付いた。
「ああ、ミアはアンバーさん家に泊まりに行ってんだ。」
エリックが察して僕が訊く前に説明する。
「そ、そうなんだ。」
「さあ、食べようぜ?」
エリックに促されて僕たちは食卓に着いた。マッシュポテトにラザニアにサラダ、スープ。彼の料理はどれも美味しい。途中、エリックは風呂の用意をしてくると言って席を立ち、戻って来た。何となく緊張しながら他愛のない話をしつつ、夕食を終える。
「お前が先に風呂に入ってくれよ?」
「うん、ありがとう。」
僕は風呂を使わせてもらい、用意されていたバスローブを着てリビングルームに戻った。エリックが僕とすれ違いざま、肩に手を置き、
「俺の部屋で待っていてくれよな?」
と囁く。僕はエリックの掌の下で硬くなった。
ほどなくして僕の待つエリックの自室のドアが開き、バスローブ姿の彼が入って来た。ランタンの明るい光が満たす中、ベッドに腰かけた僕の元へとやってきて、ごく自然に僕の隣に腰を下ろす。彼が僕に開いて見せた掌に小瓶が載っていた。
「香油だ。…その、繋がるときに使うんだが、今日無理に最後まですることはねえ。」
エリックはそれをベッドサイドテーブルの上に置き、僕の肩に手を載せて、
「そんなに緊張しなくてもいいぜ?」
と微笑む。そんな彼の様子に僕はある疑念が湧く。
「…エリック、もしかして初めてじゃないの?」
「は?いや、初めてだぜ?けど俺、お前より年上だしよ、余裕のあるとこ見せてえんだ。」
僕は肩に置かれたエリックの手が僅かに震えているのに気づいた。
「…もう、君ときたら、」
僕は笑ってエリックをベッドに押し倒し、深く口づける。
「はぁっ…」
口づけを解くと、エリックは大きく息を吐いた。僕と間近で見つめ合う。澄んだ蒼い瞳が綺麗だと思った。僕は一度身を起こすとエリックのバスローブの腰紐を解き、前を開く。程よく筋肉がついた細身の身体。滑らかな白い素肌に薄茶色の慎ましい乳首が二つ、胸に小さな影を成していた。僕はコク、と唾を飲み込み、エリックの首に顔を埋め、キスを落としていく。
「イ、イレブン、ちょっと待っ―あ…」
たぶん初めて与えられる快楽に戸惑ってエリックが僕を押し戻そうとしたので、僕は脇を撫で上げ、乳首を親指の腹で擦った。そこは柔らかく、しっとりとしているように感じた。エリックがぴく、と身体を竦め、一瞬押し戻そうとする腕の力が抜けたので、僕は彼の手首を捉えてシーツへと縫い留めた。
「あ…イ、レブン、」
滑らかな彼の首から鎖骨、胸へとキスをする。
「あっ…」
片方の乳首を口に含むと、エリックが声を上げた。
「あ…あ…」
吸い、舌で転がし、押しつぶす。二つとも丹念に口で愛撫すると、僕は彼の手首を放してエリックの細い腰を掴み、親指で円を描くように愛撫しながら臍やその周りに唇を這わせた。擽ったいのか、エリックが軽い笑い声を立てて僕の髪を掻き回しながら身を捩る。次に僕は彼の脚を片方ずつ持ち上げて腿の内側に沿って恭しくキスをし、それから僕はエリックの下腹に顔を埋め、まだ兆していないエリック自身にキスをした。
「あ…っ…」
エリックがビク、と震え息を呑む。僕は一度身を起こし、帯を解いてバスローブを脱いだ。エリックが僕の下腹部を見てフリーズしたのがわかったが。
「…エリック。」
少し掠れた声で呼び、構わず彼に覆い被さろうとした、そのとき。
「ま…待ってくれ、」
エリックが焦った様子で僕を押し戻した。
「エリック?」
「あ…その、やっぱ、今日は、やめねえか?」
僕はエリックを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫。痛くないようにするから…僕に任せて?」
僕のを見て、不安になったんだね?本にも書いてあった。『受け入れる側が相手の性器を見て怖気づくのはよくあることです。』って。
「あ、けど…!?」
僕は自身のバスローブの帯を拾い上げるとのエリックの片方の手首に素早く巻きつけて縛り、帯の端をベッドの支柱に結び付けた。
「な…」
エリックが驚いて、帯を解こうと自由な方の手を戒められた手首に伸ばしたが、その手も僕は難なく捕らえた。
「エリック、僕を信じて?」
僕はエリックの腰の下から彼の帯を抜き取り、それでもう片方の手も同じように戒める。
「イ、イレブン、頼むから解い-あ…」
バスローブを両腕に通しただけの、ほぼ全裸の状態でエリックをベッドに拘束すると、僕はエリックの身体中に愛撫と口づけを施し、兆し始めた彼自身を口に含んだ。エリックが震える吐息を零す。
「あ…イレ、ブン…」
僕が舌と、口に収まりきらない処は手で愛撫すると、エリックが切なげに喘ぎながら腰を蠢かせる。
やがてエリックが快楽に溶けて、声に艶と甘さが混じるようになると、僕は漸く彼自身を解放した。その頃には彼のモノもすっかり頭を擡げ透明な先走りを零していて、エリックも目を閉じたままぐったりと浅く息をしていた。
僕は頃合いだと思い、先程エリックが置いたベッドサイドテーブルの上の香油に手を伸ばした。エリックの両脚を抱え上げて肩に掛けると小瓶の蓋を開け、中の液体を掌に垂らして利き手の指を浸し満遍なく馴染ませてから、ぬるついた指先で彼の尻の奥まった処に触れた。
「あっ…」
エリックが驚いて目を開ける。僕は指先でそこを撫で擦り、つぷりと中指を侵入させた。エリックが反射的に逃れようと腰を動かしたが、僕が彼の片脚をがっちりと肩に抱えているためほとんど動くことができなかった。
「あ…は…あ、ん…」
ナカを探られ、エリックが喘ぐ。エリックが事前に多少解していたのがわかったが受け入れられるレベルには程遠く、僕は慎重に丁寧にそこを解していった。
やがて指が三本入るようになると、漸く僕は指を抜いた。その頃には痛いほど張り詰め、先端から零れた先走りを幹に伝わせていた僕自身にも香油を塗り込む。
「エリック…」
愛しい恋人の名を呼び、彼の脚を胸につくくらい折り曲げて、秘所に僕自身を宛がう。
「イ、イレブン、待っ…あーっ!」
ずぷりと、先端が挿入った。
「あ…あ…あ…」
エリックが目を見開き、天井を見つめる。僕はゆっくりと慎重に身体を進め、彼を拓いていった。そして――
「…全部、挿入った。エリック、僕を見て?」
ショックのためか、放心したように天井を見つめたままだったエリックがのろのろと僕に視線を向ける。
「エリック、やっと、君と一つになれた。」
僕は彼の中のキツさに耐えながら微笑んだ。
イレブンが形の良い艶やかな濡れた唇を僅かに開き、はあっ、と色香を含んだ吐息を吐く。端正な貌に落ちかかる乱れた栗色の髪越しに熱の籠った、海のような碧の瞳で俺を見つめる。着痩せするタイプなのか、服の上からではわからなかった肩や二の腕、胸にはしっかりと筋肉がついていて、俺はイレブンの美しさに暫し見惚れた。
彼をずっと、弟のように愛してきた。けれど今、生まれたままの姿で、身体を重ねて。――繋がって。彼の熱情と真摯な愛情に、俺は泣きたいような気持になった。
「イレブン…キスして?」
自然と、言葉が口を吐いて出た。彼を味わいたくて堪らなかった。
僕はエリックに強請られ、彼にキスをした。
「…ふっ、…ん…」
彼は自ら口を開いて僕を招き、互いの舌を絡め、擦り合わせる。
「愛しい人…」
口づけを解くと僕は優しく微笑み、美しい恋人を見下ろして動き始めた。枕に乱れ、散らばる青い髪も、空のような蒼い瞳も、柔らかい唇も、白い肌理も、細身の身体も、優しいところも。君の全てが好きだ。
「あっ、あっ…あっ…」
奥を衝くと、エリックが苦し気に喘ぐ。最中、僕のモノが彼のナカのある一点を擦る度にエリックがより一層切なげに喘ぎ、その快楽から逃れようとするかのように頭を振った。
「いいよ、イッて?」
僕はエリックのスイートスポットを狙って激しく衝き上げながら、彼の完全に勃ち上がったモノを握り、扱き始める。
「やっ…あ、あ…あ…あ…っ、…ああーーっ!!」
一際大きく喘いで、エリック自身が弾けた。僕は彼が達した後も衝き続け、限界を迎える直前に僕自身を彼の中から引き抜き、彼の腹に白濁を散らした。
「…はあっ、エリック…」
「イレブン…」
潤んだ碧が見下ろしてくる。快楽の果ての充足感。満たされた気持ち。身体を繋げることは剥き出しの魂を擦り合わせるかのようで、俺の心にイレブンを愛しく思う気持ちが溢れた。
――ああ。俺は、イレブンのことを――…
イレブンが先に我に返って、俺の惨状に気づくとナイトテーブルの引き出しからタオルを取り出し、俺の身体に飛び散った白濁を拭った。
「ごめん。手首、痕にならないかな。」
拘束を解いて気遣わしげに俺の手首を確認する。
「ははっ、そんなヤワじゃねえよ。」
「…あ、ちょっと待ってて?タオルを濡らしてくるよ。」
イレブンはバスローブを羽織り、一度部屋を出ると、濡れタオルを手に戻り、俺の腹部や局部を丁寧に拭った。イレブンに“後始末”されているのが気恥ずかしい。それが済むと俺は汚れてしまった自身のバスローブを脱いで裸になり、イレブンの手を引いた。
「狭ぇけど、俺のベッドでくっついて寝ようぜ?」
「うん!」
イレブンは嬉しそうに笑い、仄かな常夜灯の灯りだけ残して部屋を暗くすると、羽織っていたバスローブを脱いで俺の隣りに横たわる。お互い抱き合うように、相手の温もりと息遣いの傍で、その日俺たちは眠りに就いた。
*
ダンドラシル王国の城下町、街中の片隅にその建物はあった。元々本屋を営んでいたというそれは僕のお祖母様の生家で、今は空き家になっている。エリックと想いを確かめ合ってから彼と二人で過ごす場所が欲しかった僕は、祖母の生家の管理をお祖父様の代わりにすることを申し出て、使わせてもらえることになった。
エリックと半同棲生活を始めて暫く経ったある日。僕にとって姉のような存在のジェイド姫がヘリオドールから遊びに来た。美人で勝気で優しい彼女が遊びに来たときの常で、再会のハグの後は城の庭園を二人で散策しながら話す。快晴の空の下、花も緑も輝いていた。
「一年ぶりかしら?イレブン、あと数か月で成人式ね。あんなに小さかったあなたが、と思うと感慨深いわ。何か不安なことがあれば訊いてね?先輩としてアドバイズできるかもしれないわ。」
「ありがとう、ジェイド。…実は一つ、相談したいことがあって。」
「まあ、何かしら?」
「僕、幼いときから好きな人がいて。」
「まあっ!?それは初耳だわ。どんな人なの?」
「僕より三つ年上の、美しくて優しい…、男の人、なんだ、けど…」
「男性?」
「うん。僕、彼のことを愛してるんだ。」
イレブンは微かに頬を染め、はにかむように言った。
「それで彼とは…」
「三年前から交際していて、…その、実はまだ僕が王子だということを話してなくて。」
「あら、どうして?」
「それは…彼の僕への気持ちが、僕が王子だとわかっても受け入れられるほど強いものかどうか確信が持てないから…」
「まあ…」
「…僕としては成人したら彼と結婚したいんだけど、…どうしたらいいと思う?」
「そうね…」
ジェイドが暫し考え込む。
「…やっぱり真正面から、あなたと結婚する気があるかどうか訊くしかないわね。結婚する気があるほど愛しているのなら、身分を打ち明けても大丈夫だと思うわ。」
「そっか、そうだよね。」
ジェイドは歩みを止めて僕の方に向き直り、繊細な指の背でそっと僕の頬を撫でた。
「イレブン、私の可愛い弟…。覚えておいて?私はどんなときも何があってもあなたの味方よ。そして、これだけは言っておくわ。愛に生まれも性別も年齢も関係ないってこと。…私の恋人も女性で五歳年下。王族でも貴族でもない、辺境の村のヒーラーよ。」
「え…」
「それでも私は彼女を愛していて運命の相手だと感じてる。結婚も考えているわ。だから、あなたも頑張って?」
「わかった。ありがとう、ジェイド。」
「どういたしまして。」
ジェイド姫は明るい陽の光の中、華やかに微笑んだ。
*
数か月後。ダンドラシル王国王子イレブンの成人式が盛大に執り行われた。晴れ渡った空の下、舞い散る紙吹雪の中、城下町の広場を埋め尽くす人・人・人。広場に面したダンドラシル城のバルコニーからイレブンは豆粒くらいの大きさに見える民たちに向けて手を振った。わあっ、と歓声が上がる。
――いつか、僕の伴侶となったエリックと並んでここに立ちたい。隣で微笑む最愛の人を想像しながら、イレブンは手を振り続けた。