高橋美咲を絶望の底に突き落としたあの日から、影山晶の中には奇妙な虚しさが渦巻いていた。
モニター越しに見たあの光景は確かに一瞬の昂奮と征服感をもたらした。
しかし、それはあまりにも一方的な鑑賞であり、被写体との間に真の「対話」は存在しなかった。
ただ壊れていく様を眺めるだけでは、もはや彼の倒錯した欲求は満たされない。
影山が次の獲物に求めるもの。
それは自らの意思で屈辱的な行為を選択し、それを懇願するに至るまでの心理的プロセスを演出すること。
犯されるのではなく、自ら犯されることを望ませる。
漏らすのではなく、自ら進んで排泄という禁忌を犯させる。
それこそが、究極の支配であり、至高の美なのだ。
「自分の意思で小便をさせる。そして浣腸をねだらせる……」
そのコンセプトが脳裏に浮かんだ瞬間、影山の全身を新たな欲望の電撃が貫いた。
獲物のプライドという最後の砦を内側から崩壊させる。
そのためには物理的な暴力や直接的な命令ではなく、抗いがたい生理的苦痛を餌にして、彼女自身の選択として屈辱へと誘導する必要があった。
彼はそのための舞台装置と小道具を冷徹な演出家のように頭の中で組み立てていく。
場所は都会の喧騒から完全に隔絶された空間がいい。誰にも邪魔されず、助けを呼ぶ声も届かない、閉ざされた舞台。
彼はインターネットで物件情報を検索し、都心から車で数時間かかる山間部にある、一軒の古民家を短期で借りる契約を結んだ。
囲炉裏のあるだだっ広い和室、分厚い土壁、そして周囲に民家はほとんどないという立地は彼の計画にとって完璧な環境だった。
次に獲物の選定だ。
今回はオーディションなどという回りくどい手段は使わない。
もっと確実に、そして油断させやすい方法を選ぶ。
彼はスマートフォンの画面をなぞり、出張マッサージサービスのサイトを閲覧した。
長時間対応、深夜派遣可能。
レビューには「丁寧な施術」「話しやすいセラピストさんでした」といった好意的なコメントが並んでいる。
彼は数ある業者の中から一つを選び、最も高額な三時間のプレミアムコースを予約した。
ターゲットは、その日の夜に派遣されてくるであろう、名も知らぬ一人の女性。
多めの報酬は警戒心を解くためのただの撒き餌に過ぎない。
その夜、指定した時刻きっかりに、古民家の玄関の引き戸が遠慮がちに開かれた。
現れたのは中谷香織と名乗る三十代半ばほどの女性だった。
化粧気は薄く、清潔感のある服装に、大きなマッサージ用のバッグを肩から下げている。
疲れたような、しかし実直そうな瞳が印象的だった。
「こんばんは、中谷と申します。本日はよろしくお願いいたします」
「どうも、山田です。わざわざこんな山奥までありがとうございます。どうぞ、上がってください」
影山は今回も人当たりの良い「山田」という人間のペルソナを完璧に演じていた。
彼は香織をだだっ広い和室へと通し、床に敷かれた布団にうつ伏せになって施術を待った。
香織は手際よくバッグからタオルやオイルを取り出し、施術の準備を始めた。
静かな夜の闇の中、聞こえるのは虫の声と、時折吹く風が木々を揺らす音だけだった。
「お客様、肩がずいぶん凝っていらっしゃいますね。デスクワークか何かですか?」
「ええ、まあ。脚本を書く仕事をしてまして。つい根を詰めちゃうんですよね」
影山は適当な嘘をつきながら、香織の巧みな揉みほぐしに身を任せた。
彼女の指は的確に凝りの芯を捉え、心地よい圧が全身の緊張を解きほぐしていく。
一時間ほどが経過した頃、影山はゆっくりと身を起こした。
「すみません、少し休憩してもいいですか? 喉が渇いちゃって。お茶でも淹れますが、中谷さんもいかがです? 長丁場になりますし」
「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
香織はにこやかに
この男は客としては非常に丁寧で、気遣いのできる人物に思えた。
影山は台所へ立つと、急須に茶葉を入れ、二つの湯呑を用意する。
そして、香織の死角になる位置で、ごく自然な動作で彼女に出す方の湯呑にだけ、無味無臭の睡眠薬の粉末をそっと混入させた。
「どうぞ。熱いのでお気をつけて」
差し出された湯呑を香織は何の疑いもなく受け取った。
温かい緑茶がマッサージで火照った体にじんわりと染み渡っていく。
短い休憩の後、マッサージは再開された。
今度は仰向けの体勢で脚や腕のオイルマッサージが始まる。
しかし、再開から三十分ほどが経った頃、香織の体に明らかな異変が訪れた。
思考が、まるで濃い霧の中を彷徨うようにまとまらなくなる。
瞼が鉛のように重くなり、焦点が合わない。
自分の手の動きが、やけにゆっくりと、そして遠く感じられた。
「……お客様、申し訳……ありま……せん。少し、めまいが……」
かろうじて言葉を紡ぐが、呂律がうまく回らない。体がぐにゃりと力を失っていく。
「あれ、どうしました? 顔色が悪いですよ。具合が悪いなら無理しなくていい。少し休んでもらって構いませんよ」
影山の声が水の中から聞こえるようにくぐもって響く。
香織は近くにあった座椅子に体を預けるのが精一杯だった。
申し訳ない、プロとして失格だ、という思考が頭の片隅をよぎったが、それを上回る強烈な眠気が彼女の意識を急速に飲み込んでいく。
抗う間もなく、彼女は深い眠りの底へと沈んでいった。
その瞬間、影山の纏っていた善い人の仮面が音もなく剥がれ落ちた。
彼の瞳には獲物を前にした捕食者の冷たい光が宿っていた。
彼はまず、眠りこける香織の体を慎重に観察する。
完全に意識を失っていることを確認すると、その衣服に手をかけ、手際よく一枚一枚剥ぎ取っていった。
やがて、彼女の白く滑らかな裸体が古民家の薄暗い照明の下に晒される。
影山は物置から運び込んでいた麻縄の束を手に取ると、熟練した職人のような手つきで、その体を緊縛し始めた。
手首、足首、胴体、太腿。縄は肉に食い込み、柔らかな皮膚を歪ませ、いびつな起伏を作り出す。
それはもはや、一人の人間ではなく、縄という素材によって再構成されたオブジェのようだった。
「美しい……」
影山は完成した「作品」をあらゆる角度からうっとりと鑑賞した。
緊縛によって強調された肉体の曲線、苦悶とは違う無意識の弛緩、そして完全に無防備で無力なその姿。
彼の歪んだ美意識は、この上ない満足感に満たされていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
香織の意識が深い海の底からゆっくりと浮上してきた。
最初に感じたのは、体のあちこちにくい込む縄の痛みと、手足が全く動かないという絶望的な事実だった。
ぼやけた視界が徐々に焦点を結ぶと、自分が全裸で亀甲縛りのような状態で床に転がされていることに気づく。
そして、目の前には、あの「山田」と名乗っていた男が冷たい表情で自分を見下ろしていた。
「……っ!? な、なに……これ……!?」
困惑は瞬時に恐怖へと変わった。
眠る前の記憶が断片的に蘇る。お茶を飲んで、それから……。
「目が覚めたかい、香織……いや、中谷さんだったかな。ようやく本番の始まりだ」
影山は香織の叫びを無視し、天井から吊り下げられた滑車に彼女の両手を縛る縄の先端を引っかけた。
ギリギリと音を立てて縄が引き上げられ、香織の体は強制的に立たされる。
両腕は万歳の形で頭上に固定され、つま先がやっと床に触れるだけの不安定な状態。
さらに彼は、彼女の片足首に別の縄を結びつけると、それを横の柱に括り付け、高く上げた状態で固定した。
その体勢は、股間を完全に開き、無防備に晒すためのものだった。
「ひっ……や、やめて……! やめてください……!」
恐怖と屈辱に香織はただ泣き叫ぶことしかできない。
影山はそんな彼女の姿を満足げに眺めると、小さな軟膏の容器を取り出した。
「これはね、今日のために特別に用意した媚薬なんだ。君を最高に気持ちよくさせてあげるよ」
彼はそう囁くと、震える香織の膣の入り口に、そのクリーム状の薬物を、ほんの少しだけ塗りつけた。
ひんやりとした感触の後、すぐに異変が起きた。
それは快感などでは全くない。
体の内側から、まるで無数の虫が這い回るような、猛烈な、狂おしいほどのかゆみだった。
「あ……っ、か、かゆ……い……! いやぁぁぁっ!」
掻きたい。掻きむしりたい。しかし、手足は固く縛られ身動き一つ取れない。
かゆみはどんどん強くなり、意識の全てを支配していく。
もはや恐怖よりも、この耐えがたい苦痛から逃れたいという本能が勝っていた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、彼女はただ泣き叫ぶ。
その姿を冷ややかに見つめながら、影山は悪魔の囁きを口にした。
「可哀想に。そんなにかゆいのか。いいことを教えてあげよう。その薬は水溶性だ。だから……自分の小便で洗い流せば、少しはましになるんじゃないかな?」
「……え……?」
香織の動きが止まった。
小便で? ここで? この男の前で?
そんな屈辱的なことができるはずがない。
しかし膣の入り口を焼くようなかゆみは一瞬の躊躇すら許してはくれない。
脳が焼き切れそうなほどの苦痛。
もう、プライドがどうとか、羞恥心がどうとか、そんなことを考えている余裕はなかった。
「……いや……でも……あぁっ! かゆい! かゆい!」
数秒間の葛藤の後、彼女はついに屈した。
顔を真っ赤にし、奥歯を食いしばり、下腹部に力を込める。
ジョロ……と、熱い液体が彼女の脚を伝い、膣口に塗られた薬を洗い流していく。
床に小さな水たまりができた。
そして影山の言った通りだった。
尿が薬を洗い流すと、あれほど猛威を奮っていたかゆみが嘘のようにすっと引いていく。
「はぁ……っ、はぁ……っ……」
地獄から解放された安堵感に香織は大きく息をついた。
全身の力が抜け、吊るされた腕に全体重がかかる。
だが、その安堵は、ほんの束の間のものだった。
影山は、まだ残っていた軟膏を指にたっぷりと取ると、今度は無防備に晒された彼女の尻の穴へと、容赦なくそれを塗りたくった。
「さて、第二幕の始まりだ」
冷たい軟膏がねじ込まれた瞬間、先ほどとは比べ物にならない絶望的なかゆみが彼女を襲った。
場所が場所なだけに、羞恥心と不快感、そして内側から直接脳を掻き回されるような狂おしい痒みが彼女の理性を完全に破壊した。
「ああああああっ! いやだ! そこは! やめてええええっ!」
今度ばかりは小便のように自分でどうこうできる問題ではない。
どうすればいい。どうすればこの地獄から抜け出せるのか。
パニックに陥る彼女の目の前で、影山はカバンから無造作に何かを取り出し、床にばらまいた。
それはピンク色の見慣れた形のプラスチック容器。いちじく浣腸だった。
十数個の浣腸が床で虚しく転がっている。
「
影山の声は悪魔の誘惑そのものだった。
香織は床に転がるピンクの容器と、嘲笑う男の顔を交互に見る。
浣腸をして、この男の前で排便する。
それは人間としての尊厳の完全な死を意味した。
しかし尻の中心から全身へと広がっていく地獄のようなかゆみは、そんな倫理観やプライドをいとも簡単に焼き尽くしていく。
「……っ……う……」
「なんだ? 聞こえないな。して欲しいのか? 欲しくないのか?」
「…………して……ください……」
蚊の鳴くような声だった。しかし、それは確かに、懇願の言葉だった。
「……浣腸……してください……お願いします……」
屈辱に震え、涙を流しながら、彼女ははっきりと口にした。
その言葉を聞いた瞬間、影山の口元が歪み、恍惚とした笑みが広がった。
計画通りだ。彼女は自らの意思で屈辱を選んだのだ。
「いいねえ。そういう素直な子は好きだ。で、いくつ欲しいんだ? 言ってみろ。ひとつくらいじゃ、中のかゆいのが全部出てこないかもしれないぞ?」
ひとつ。その言葉に香織は絶望的な計算を強いられた。
もし、ひとつでかゆみが収まらなかったら? この地獄が続くとしたら?
もう嫌だ。
一刻も早く、この苦しみから解放されたい。
プライドなど、もうどうでもよかった。
「……みっつ……3つ、お願いします……」
彼女は最後の理性を投げ捨てるように叫んだ。
影山は「上出来だ」と呟くと、床から3つの浣腸を拾い上げ、彼女の背後に回った。
そして懇願の通り、その先端を彼女の穴へと一つ、また一つと差し込み、中の液体を全て注入していく。
冷たい液体が腸の中に流れ込む感覚。
そして薬物が腸壁に浸透したせいか、あるいは極度の屈辱と恐怖が引き起こした錯乱か。
強烈な便意が彼女を襲い、抗う間もなく中身を排泄してしまった瞬間、彼女の体はビクンと大きく痙攣した。
それは便意とは似て非なる、脳天を貫くような鋭い快感だった。
「ひっ……あ、あうっ……!」
信じられないことに、イってしまったのだ。
汚物を垂れ流しながら、性的快感の絶頂に達してしまった。
一度目の排泄でかゆみは少し和らいだが、浣腸液と混じり合った媚薬はまだ腸内に残っている。
二度、三度と、注入された浣腸液に促されるように排泄を繰り返すたびに、同じように背徳的な快感が彼女の全身を駆け巡った。
もはや彼女の精神は完全に崩壊し、喘ぎ声と嗚咽を漏らしながら、ただ快感と屈辱の波に翻弄されるだけの人形と化していた。
その壊れきった姿に満足した影山は、再び彼女の正面に立つと、今度は自身の膨張した肉棒を取り出した。
彼は先ほど彼女自身が尿で洗い流した膣にもう一度かゆみ薬を塗りたくり、抵抗する気力も失った彼女の中に己を突き入れた。
「ああ……いい顔だ……最高だよ、君は……」
絶頂に達した影山は満足げに溜息をつくと、香織の体から己を引き抜いた。
そして、まるで壊れた玩具に興味を失った子供のように、彼女を縛り付けていた縄をナイフで無造作に切り落とした。
解放された香織は崩れるように床に倒れ込んだ。
しかし彼女を待っていたのは安らぎではない。
再び猛烈なかゆみが膣の中から蘇ってきたのだ。
「あ……ああ……かゆい、かゆい、かゆいッ!」
彼女は、もはや人目を憚ることも忘れ、必死に自分の指を膣の中に突っ込み、内壁を血が滲むほど掻きむしった。
その狂乱の姿を影山は一瞥すると、静かに古民家を後にした。