取調室の空気は、いつも以上に重く澱んでいた。
高遠
彼女は先日、軽井沢の別荘で陵辱された被害者だった。
「本当に、どうかしてたんです。車のシートを汚してしまって……申し訳なくて、パニックになって……。佐藤さん(影山の偽名)に何を言われても、逆らえませんでした」
美奈は俯き、か細い声で語り始めた。
その言葉の端々からは、今なお彼女を縛り付ける罪悪感が滲み出ていた。
高級車のシートを汚したという小さな失態が、いかにして彼女の尊厳を完全に破壊する入り口となったか。
「彼はあなたを許すと言いながら、罰を与えたのね?」
「はい……。でも、最後には『これで許してやる』って……。すごく優しくなって……。だから、私が悪かったんだって、そう思ってしまって……」
罰と許し。鞭と飴。
犯人は被害者の心に罪悪感という楔を打ち込み、それを巧みに利用して支配下に置く。
美奈の証言は犯人が単なるサディストではなく、人の心理を冷徹に計算し、操ることに長けた怪物であることを裏付けていた。
特に失禁を伴う手口は他の被害者の証言とも一致する。
「ただ……帰ってからよく考えたんです……最近ニュースで流れていた、婦女暴行犯の手口に似てるような気がして……」
「ありがとうございます。辛いことを思い出させてごめんなさい。あなたの証言は必ず役立てますから」
しかし、その言葉とは裏腹に、
美奈が語る「お仕置き」の光景、繰り返される失禁の屈辱。
その一つ一つが、あの廃病院での忌まわしい記憶を鮮明に呼び覚ます。
検診台の上で無様に体を晒し、内臓をかき回され、意思とは無関係に汚物を垂れ流した自分自身の姿と、目の前の被害者の姿が不意に重なった。
その瞬間、股間の奥に、じわりとした熱が宿るのを
それは恐怖や同情とは全く異なる、場違いな興奮の兆しだった。
「……っ」
次に
親友同士でアルバイトに応募し、共に地獄を味わった二人の間には、もはや以前のような親密な空気はなかった。
互いに視線を合わせようとせず、重い沈黙が二人を隔てている。
「あいつ……私たちに、お互いに浣腸させようとしたんです」
先に口を開いたのは智美だった。彼女の声は怒りと屈辱に震えていた。
「由香が、八個も頑張ったのに、失敗して……。それで、今度は私がされる番になったのに……私、たった四個で……漏らしちゃって……」
そこまで言うと智美は言葉を詰まらせた。
隣で聞いていた由香の肩が、びくりと揺れるのが分かった。
「あんたが早く漏らしたから!」
由香が、堰を切ったように叫んだ。
「あんたが根性なしだから、私もあんな目に……! あいつに汚いまま犯されたんだよ! あんたのせいで!」
「私のせいじゃない! あいつが仕込んだ薬のせいよ! すごくお腹が痛くなって……!」
「嘘つき! 言い訳しないでよ!」
取調室は二人の罵り合いで修羅場と化した。
犯人は、ただ肉体を陵辱しただけではなかった。
二人が育んできた友情という、目に見えない大切なものまで徹底的に破壊し尽くしたのだ。
そして、
「犯人の顔は見たの?」
「……はい。はっきりと。最初は人の良さそうな顔してたのに……最後は悪魔みたいな顔で、私たちを見下ろして笑ってました」
犯人は自らの顔を晒した。
それは、これまでの慎重な犯行手口からは考えられない、重大な変化だった。
なぜ?
すべての事情聴取を終え、疲れ果てて自室のマンションに戻った
智美と由香の叫び声が耳から離れない。
そして、彼女たちの語る屈辱的な体験が鮮明な映像となって何度も脳裏で再生される。
親友の尻に浣腸のノズルを差し込む感覚。
限界寸前で必死に耐える親友の姿。
そして、決壊の瞬間の絶望。
その光景を思い浮かべるたびに、あの日の廃病院の記憶が蘇り、股間の熱はより一層強くなっていく。
これは異常だ。
刑事として、人として、あってはならないことだ。
そう頭では理解しているのに、体は正直に反応してしまう。
自分でも何をしているのか分からないまま、スカートと下着を脱ぎ捨て、冷たいタイルの上に四つん這いになる。
あの日の記憶をなぞるように、自分の尻に冷たいノズルを宛がった。
内部に液体が注ぎ込まれる感覚が、恐怖と背徳的な興奮を同時に呼び起こす。
「ん……っ」
しばらくして訪れる穏やかな便意。
それはあの日の、内臓を焼かれるような激痛とは比べ物にならない。
だが、この行為そのものが、
彼女は、あの検診台の上で経験した絶望的な無力感と、自分の意思とは無関係に体が反応してしまった、あの倒錯した感覚を思い出していた。
被害者の話を聞けば聞くほど、その記憶は鮮明になり、屈辱であったはずの体験が、なぜか甘美な毒のように心を蝕んでいく。
もう、ただ思い出すだけでは足りなかった。
もっと強い刺激が、もっと深い屈辱が欲しい。
被害者たちが味わった絶望を、自分ももう一度、この身で体験したい。
あの男に、もう一度、あの検診台の上で徹底的に弄ばれたい。
そんな狂った願望が芽生えていることに、
刑事としての正義感と、女としての歪んだ欲望。
その間で、彼女の精神は引き裂かれそうになっていた。
自慰行為を終えた後、虚しさと自己嫌悪の波が押し寄せる。
それでも翌日にはまた、被害者の証言を聞きながら、あの背徳的な興奮を求めてしまう自分がいた。
その頃、張本人である影山晶は都内の高級マンションの一室で、苛立ちを募らせていた。
(つまらん……)
彼はソファに深く身を沈め、手元のタブレットに映し出されたニュース記事を眺めていた。
ここ数週間、世間を騒がせている連続陵辱事件。
その主犯が自分であるという事実に、もはや何の興奮も感じなくなっていた。
結城美奈も、智美と由香も、彼の脚本通りに見事に壊れていった。
だが、その過程は彼にとって既視感のある、ただの作業でしかなかった。
失禁させ、浣腸を施し、罪悪感を植え付け、支配する。
その一連の流れは、もはやマンネリと化していた。
特に、大学生二人を同時に相手にしたあの倉庫での一件は、彼に「飽き」を自覚させる決定的な出来事だった。
友情が崩壊していく様は、それなりに楽しめた。
だが、行為そのものに新しさがない。
もっと斬新な、自分自身が心の底から震えるような、新たな凌辱のアイデアが浮かんでこない。
その事実が、彼のプライドをひどく傷つけていた。
(このままでは、ただの変質者と同じだ)
彼の犯行は芸術でなければならない。
そこには常に他者の追随を許さない独創性と、神の視点からの絶対的な支配がなくてはならないのだ。
そこで、彼はスパイスを加えることにした。
智美と由香に自分の顔をはっきりと見せたこと。
それは衝動的な行動ではなかった。すべては計算ずくの演出だった。
「これで警察は俺の顔を知る。特徴も伝わるだろう」
影山は口の端を吊り上げて、歪んだ笑みを浮かべた。
これまでの匿名性の高い犯行とは違い、これからは警察に追われるというスリルが常につきまとう。
街を歩くだけで、職務質問をされるかもしれない。
どこかで、俺を追いかける刑事とすれ違うかもしれない。
そのリスクこそが、退屈しきった彼の日常に新たな興奮をもたらす最高のスパイスになるはずだった。
「次のゲームの始まりだ」
彼はタブレットを放り投げ、立ち上がった。
警察という巨大な敵を相手に、いかにして自分の芸術を貫き通すか。
その新たな挑戦に、影山の目は久しぶりに危険な輝きを取り戻していた。
一方、
被害者の証言を聞くたびに、この行為は繰り返され、日常と化していた。
(もう一度……)
彼女の唇から、無意識に言葉が漏れる。
(もう一度、あの屈辱を……あの男に会いたい……)
刑事として犯人を追いながら、同時に、一人の女として犯人に抱かれることを望む。
その矛盾した欲望は、もはや彼女自身にもコントロール不可能なところまで膨れ上がっていた。