影山晶は新たな芸術のテーマを見つけていた。
きっかけは「M_Queen」と名乗る女からもたらされた熱烈なメッセージだった。
他の被害者たちが恐怖と絶望に沈む中、彼女だけが自らの「施術」を正確に記憶し、更なる屈辱を渇望していた。
その特異性は影山の内に眠っていた新たな探求心に火をつけた。
この女は、己の芸術を真に理解し得る、初めての存在かもしれない。
その出会いは影山に一つの問いを突きつけた。
男女の絆とは、一体どれほど強固なものなのか。
愛や信頼といった目に見えぬものが、己が仕掛ける根源的な屈辱の前に、いかに脆く崩れ去るのか。
それをこの目で見極めたいという衝動が、彼の全身を駆け巡っていた。
これは、M_Queenという特異な存在を迎え入れる前に、凡俗な人間たちの関係性を贄として捧げる、一種の儀式でもあった。
舞台に選んだのは山々に抱かれた群馬の温泉郷。
偽名を使い、湯治客を装って宿に紛れ込んだ影山は、獲物を探してロビーや湯上り処を冷徹な視線で観察した。
すぐに彼の目に留まる一組の男女がいた。
物腰の柔らかそうな優男と、その隣で幸せそうに微笑む、少し肉付きの良い女。
彼らの醸し出す平凡で満ち足りた空気こそ、破壊するに相応しいキャンバスに思えた。
影山は二人の動きをそれとなく観察し、宿泊している部屋を特定すると、自室に戻って、静かに夜の帳が下りるのを待った。
夕食の喧騒が遠のき、各部屋に布団が敷かれ、浴衣姿の宿泊客たちが湯上がりの気怠い弛緩に身を委ねる頃合い。
影山は標的の部屋の前に立った。手には小さな湯呑みが一つ。
ドアの向こうからは楽しげな男女の笑い声が微かに漏れ聞こえてくる。
彼は息を整えると、ゆっくりとドアを叩いた。
「もしもし、お宿の者でございます」
しばらくの間があって、中から「はい」という男の声がする。
「夜分に申し訳ございません。先ほどお部屋係の者から、お使いのシーツに綻びがあったと報告を受けまして。新しいものをお持ちいたしました。すぐに済みますので、交換させて頂いてもよろしいでしょうか」
もっともらしい口実だった。
数秒の沈黙の後、内側から錠を外す音がして、ゆっくりとドアが開く。
浴衣姿の男が、少し訝しげな顔で影山を見つめていた。
その視線が影山の手にある湯呑みに注がれた、その一瞬。
影山は、ためらうことなく湯呑みの中身を男の浴衣の裾目掛けてぶちまけた。
ツンと鼻を突く灯油の刺激臭が、一瞬にして温泉宿の情緒を切り裂く。
「なっ……!?」
男が驚愕に目を見開くのと、影山がその体を突き飛ばし、開いた隙間から部屋の中へ押し入るのは、ほぼ同時だった。
バランスを崩して畳に手をついた男の目の前で、影山はポケットから取り出したライターの火をカチリと灯す。
揺らめく小さな炎が彼の冷酷な目を不気味に照らし出した。
「焼け死にたくなければ、黙って言うことを聞け」
地を這うような低い声。
それは先ほどの宿の人間を装った柔らかな口調とは似ても似つかぬ、有無を言わせぬ暴力の響きを持っていた。
灯油の匂いと目の前で揺れる炎、そして影山の放つ圧倒的な威圧感に男は完全に恐怖に支配された。
彼は悲鳴を上げることもできず、這うようにして部屋の奥で呆然と立ち尽くす彼女の元へと駆け寄った。
女は状況が飲み込めず、ただ震える彼氏の背中を見つめている。
「二人とも声を出すな。俺の言う通りにしなければ仲良く焼死体になるだけだ」
影山はそう言いながら、携えてきた二リットルのペットボトルを彼らの前に掲げて見せた。
無色透明の液体が中で揺れている。
それはただの水に過ぎなかったが、恐怖に支配された二人には、それが部屋中に撒き散らされるのを待つガソリンか灯油の塊にしか見えなかっただろう。
影山はゆっくりと部屋の錠を閉めると、懐から取り出した三つのピンク色の容器を畳の上に無造作に放り投げた。
それは誰もが見慣れた、いちじく浣腸の容器だった。
彼は顎で男をしゃくり、冷たく命じた。
「それで、その女に浣腸してやれ。全部だ。そして、中身が出るところを、お前のその目でしっかり見てやれ」
「え……?」
男は意味がわからず、戸惑いの声を上げた。
浣腸? なぜ? 状況があまりに突飛で、彼の思考は完全に停止していた。
隣の女も、恐怖と混乱で顔を青ざめさせている。
影山はそんな二人の様子を鼻で笑うと、ねっとりとした口調で、より具体的に、いやらしく指示を告げた。
「まだわからねえのか。女は裸になって四つん這いだ。尻をこっちに高く突き出せ。男は、その浣腸を三つ全部、女の尻の穴にぶち込んで、薬液を一滴残らず中に入れてやれ。全部入ったら、女は尻を上げたまま、できるだけ我慢するんだ。……ここまで説明して、まだわからないか? 俺は気が短いんだぞ」
影山の声には焦れるような圧がこもり始めていた。
その言葉が二人にこれが冗談でも何でもない、紛れもない現実なのだと突きつける。
女の瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
彼女は何かを諦めたように、震える唇で彼氏の名を呼び、小さく
そして自ら浴衣の帯を解くと、白い肌を露わにし、言われた通りに畳の上で四つん這いになり、屈辱に震えながら高く尻を突き出した。
その姿は、まるで祭壇に捧げられる生贄のようだった。
男は唇を噛み締め、悔しさに顔を歪ませながらも、畳に転がったいちじく浣腸の容器を一つ手に取った。
愛する女に自らの手で屈辱を与えなければならない。
その事実に彼の心は張り裂けそうだったが、逆らうことは許されなかった。
彼は震える手で容器のキャップを外し、涙に濡れる彼女の尻穴へと、その先端をゆっくりと押し当てた。
ノズルが冷たく内壁に触れた瞬間、女の体がびくりと大きく跳ねる。
男は意を決して容器を強く握りしめた。
影山が特殊な調合を施した塩化マグネシウムの高濃度水溶液が彼女の腸内へと注ぎ込まれていく。
「ひ……っ!」
女の体は驚愕に打ち震えていた。
影山は、その様子を愉しむように眺めながら、さらに追い打ちをかける。
「おい、全部入れる前に漏らしたらどうなるか、わかってるんだろうな? この部屋が火の海になるだけじゃ済まさんぞ」
その脅し文句は女の恐怖を極限まで煽った。
彼女はもはや、羞恥心などどこかへ消え去っていた。
ただ、この地獄を早く終わらせたい一心で、彼氏に向かって懇願する。
「お願い……早く……早く、全部入れて……!」
その悲痛な叫びに促され、男は二つ目、三つ目と、立て続けに浣腸液を彼女の体内に注入した。
三本目の容器が空になり、男が力なくそれを畳に落とした、その直後だった。
「あ……ぁあッ……!」
女の喉から抑えきれない悲鳴が漏れた。
彼女の肛門が意思に反して大きく開き、ごぽり、という鈍い水音と共に、便秘で溜め込んでいたのであろう黒褐色の塊が勢いよく噴き出した。
それは一度では終わらない。
強烈な下剤の効果で誘発された痙攣が、彼女の腸を何度も収縮させ、グロテスクな汚物の塊が次から次へと産み落とされるように畳の上に広がっていく。
むせ返るようなひどい悪臭が密室に充満した。
その光景を目の当たりにした彼氏の顔に、隠しようのない嫌悪の色が浮かんだ。
彼は思わず顔をしかめ、後ずさりしそうになる。
その微かな反応を影山は見逃さなかった。
「よし、四つん這いはもうやめだ」
影山は、まだ終わらない排泄感に喘ぐ女に命令した。
「こっちを向け。お前が出したその汚物と、お前の彼氏の顔を、よおく見てみろ」
女は嗚咽を漏らしながら、ゆっくりと体を反転させた。
彼女の視線の先には自分が撒き散らした、目をそむけたくなるような光景と、その向こうで呆然と立ち尽くし、困惑と嫌悪が入り混じった表情を浮かべる彼氏の姿があった。
愛する男が自分を、そして自分の体から出たものを、汚いものを見る目で見ている。
その事実が、肉体的な苦痛以上に彼女の心を深く鋭く抉った。
女が絶望に打ちひしがれ、終わらない便意の波に身をよじっている最中、影山は男に向かって次の命令を下した。
「おい、その女を抱いてやれ。今すぐだ」
「そ、そんな……」
男は狼狽した。
悪臭が立ち込めるこの惨状の中で、汚物にまみれて泣きじゃくる彼女を抱けというのか。
あまりに非現実的な命令に、彼は動けずにいた。
すると影山は再びライターの火をちらつかせた。
「聞こえなかったのか?」
死の恐怖が男の理性を麻痺させる。
彼は怯えたように彼女に近寄ったが、極度のストレスと嫌悪感に苛まれた彼の体は正直だった。
浴衣の下の陰茎は情けなく縮こまり、完全に萎えきって垂れ下がったまま、何の役にも立ちそうになかった。
その無様な姿を見て、影山は嘲るように鼻を鳴らした。
「役立たずは引っ込んでろ」
影山は一瞬で男に詰め寄ると、その脇腹にスタンガンを強く押し当てた。
激しい電流が走り、男は短い悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。
影山は痙攣する男の両手を背中に回させると、結束バンドで固く縛り上げ、部屋の隅へと蹴り転がした。
そして、彼は標的を、まだ終わらない便意と屈辱にあえいでいる女へと変える。
影山は彼女の髪を掴んで布団の上へと引き倒すと、抵抗する間も与えず、自らの硬く猛り立った肉棒を汚れたままの彼女の膣へと乱暴に突き立てた。
「ああああッ!」
女の絶叫が部屋に響く。
「静かにだ」
影山はドスの効いた声で女を制すと、それ以降は構うことなく、ただ自らの欲望を満たすためだけに腰を振り続けた。
それは交合というよりは、一方的な陵辱であり、支配の儀式だった。
彼は満足するまで獣のように彼女を犯し、その体内に熱い精液を注ぎ込んだ。
事を終えた影山は、ぐったりと横たわる女と、隅で無力に転がる男を一瞥し、吐き捨てるように言った。
「近頃の男女関係とは、こんなものか」
その言葉だけを残し、影山は誰にも見咎められることなく、静かに温泉宿を後にした。
残された部屋には破壊された男女の残骸と、消えない悪臭だけが満ちていた。