※この作品はR-18です。

浣腸鬼と呼ばれた男   作:たちばなさとし

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事件簿20 工場跡地の女 着衣での浣腸我慢

 M_Queenとの再会。

 その約束を胸に秘めながら、影山晶は自身の「作品」の系譜を静かに反芻していた。

 前回の試み、駅のホームでのささやかな実験は彼にひとつの教訓を与えた。

 それは、「運」という不確定要素の面白さと、同時に、その制御不能な奔放さであった。

 トイレの行列という、あまりにも凡庸な偶然が、計算されたドラマを台無しにした。

 あれは失敗作だ。

 被験者の意志の力を見極める前に、外的なアクシデントが結末を決定づけてしまった。

 芸術は作為と偶然の絶妙な調和の上に成り立つべきだが、あの結末はあまりに作為がなさすぎた。

 

「今度は、運を排除する」

 

 影山は自室の暗がりで、指先で弄んでいた硬貨を強く握りしめた。

 純粋な意志と肉体の葛藤。

 その極限状態を完全に管理された環境下で観察する。

 それこそが、M_Queenという至高の素材を彫琢する前の最終調整にふさわしい。

 彼が考案した新たなプロトコルは恐ろしく単純でありながら、究極の問いを内包していた。

 浣腸をひとつ注入する。そして、ただひたすらに10分間、その生理的衝動に耐えさせる。

 タイマーの冷徹なカウントダウンだけが支配する空間で、人間の尊厳はどれほど持ちこたえられるのか。

 失敗すれば、己の弱さの証として、その場で汚物をまき散らすことになる。

 成功すれば、己の意志の勝利を証明できる。

 だが、その勝利の先に待つのは解放という名の新たな屈辱かもしれない。

 

 

 

 実験の舞台として彼が選んだのは都市の片隅に見捨てられた夜の工場跡地だった。

 駅から伸びる道は、やがて住宅街へと吸い込まれていくが、その途中にあるこの一角だけが、まるで時間の流れから取り残されたかのように静まり返っていた。

 等間隔に並ぶはずの街灯はいくつかの電球が切れ、深い闇の溜まりを生み出している。

 それにもかかわらず、終電が近づくこの時間帯になっても、若い女たちがスマホの光を頼りに警戒心のかけらもなくこの道を通ってゆく。

 そして何より好都合なことに、道に面した錆びついたフェンスの一部が破れ、その奥にある廃工場の建物のひとつは、鉄製の扉が半開きになったまま放置されていた。

 建物の内側は外の乏しい光さえ届かない、完全な暗闇と沈黙が支配する死角となっている。

 これ以上の舞台はなかった。

 

 影山は駅前の喫煙所に陣取り、紫煙を燻らせながら、ゆっくりと獲物を品定めしていた。

 フィルターを通して吸い込む煙が肺の奥で微かな熱を持つ。

 彼の目は改札から吐き出されてはそれぞれの方向へ散っていく人々の中から、今夜の被験体にふさわしい一人を探していた。

 ふと、彼の脳裏にひとつのイメージが浮かんだ。

 パンツスーツの女。そうだ、それがいい。

 きっちりと着こなされた、汚すことなど到底許されないであろう衣服。

 その堅苦しさが、これから起こる出来事の背徳感をより一層際立たせるだろう。

 汚したくない、という強い意志は我慢の原動力になる。

 その意志が限界を超えた時、絶望はより深い色を帯びるはずだ。

 

 まるで彼の願いに応えるかのように、その女は現れた。

 ベージュ色のパンツスーツに身を包み、手に持ったビジネスバッグを揺らしながら、ハイヒールでコツコツとリズミカルな音を立てている。

 長い髪をひとつにまとめ、その顔には仕事終わりの疲労と、家に帰れるという安堵が入り混じったような表情が浮かんでいた。

 女は迷うことなく、工場跡地を通過する住宅街への道へと足を向けた。

 完璧だ。

 影山は短くなった煙草を携帯灰皿に押し込むと、音もなく立ち上がり、一定の距離を保ちながら彼女の尾行を開始した。

 ハイヒールの軽快な足音は闇の中ではむしろ獲物の位置を示すビーコンのように機能していた。

 

 女が、ひときわ暗い工場跡地の前に差しかかった、まさにその瞬間だった。

 影山は数歩で距離を詰めると、背後から音もなく忍び寄り、その小さな口を分厚い手で完全に覆い隠した。

 女の体が驚きと恐怖で硬直する。

 「ひっ」という、喉の奥で押し殺されたような悲鳴が彼の手のひらに微かな振動として伝わった。

 抵抗しようと身じろぎする彼女の脇腹にポケットから取り出したカッターナイフの冷たい感触を押し当てる。

 

「怪我したくなければ、黙ってついてこい」

 

 耳元で囁かれた声は、一切の感情を排した純粋な脅威だった。

 女は数秒間、その場で震えていたが、脇腹を突く金属の冷たさと硬さが、これが冗談ではないことを雄弁に物語っていた。

 彼女は、こくりと小さく頷(うなず)いた。

 その絶望的な服従のサインを確認すると、影山は彼女の腕を掴み、半ば引きずるようにしてフェンスの破れ目から工場跡地の敷地内へと足を踏み入れた。

 雑草がアスファルトの裂け目から伸び、二人の足に絡みつく。

 彼は躊躇なく、目的の建物の半開きになった鉄の扉へと彼女を導いた。

 

 建物の内部は影山の予想通り完全な闇だった。

 湿ったカビの匂いと埃っぽい空気が鼻をつく。

 彼は女を壁際に押し付けると、ようやく彼女の口から手を放した。

 解放された女は、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返しながら、怯えた目で闇に慣れようとしている。

 その背後で影山はゆっくりと鉄の扉を閉めた。

 重い金属音が反響し、最後の光が遮断されると、世界は完全な無に包まれた。

 

「騒ぐな。騒いだら殺す」

 

 闇の中で彼の声だけが明瞭に響いた。

 そして冷酷な指示が続く。

 

「ズボンと、その下のパンツも脱げ。そして、こっちに尻を向けろ」

 

 女は息を呑んだ。

 その命令が意味する屈辱に彼女の体は再び硬直した。

 しかし、暗闇の中で男がどこにいるのか、何を持っているのか、全くわからない。

 その見えない脅威が、彼女からあらゆる抵抗の意志を奪っていった。

 数秒間の沈黙の後、衣擦れの音が微かに響き始める。

 彼女は震える手でベルトを外し、ズボンのファスナーを下ろした。そして、ストッキングの上から、下着と共にパンツスーツのズボンを足首まで引きずり下ろす。

 恥辱に顔を歪めながら、彼女は言われるがままに、冷たい壁に手をつき、無防備な尻を暗闇の中の捕食者へと突き出した。

 

 女の準備ができた事を察すると、影山はキャンプで使うような小さなランタンに明かりを灯した。

 そして、ポケットから取り出した、いちじく浣腸のノズルをその震える肉の割れ目に宛がう。

 びくり、と女の体が跳ねる。

 彼は何の躊躇もなく、プラスチック容器を強く押し潰し、ぬるい薬液の全てを彼女の体内に注ぎ込んだ。

 冷たい異物が腸壁を刺激する不快感に、女は「んぅっ……」と苦悶の声を漏らす。

 

「よし。パンツとズボンを戻せ」

 

 空になった容器をポケットにしまいながら影山は命じた。

 女は屈辱と混乱の中、慌てて下着とズボンを引き上げ、乱れた身なりを整える。

 だが、安堵する暇はなかった。

 影山は彼女の肩を掴んで壁際に追いやり、そこへ座り込むよう指示した。

 そして、その目の前に仁王立ちになり、悪意に満ちた声で宣告する。

 

「今から10分だ。絶対に漏らすな。もし一滴でも漏らしたら……どうなるか、わかるな?」

 

 その声には失敗が決して許されないという、絶対的な圧力が込められていた。

 女は青ざめた顔で小さく頷くことしかできない。

 自分の体内で時限爆弾のタイマーが作動したことを彼女は痛いほど理解していた。

 

 最初の数分は静寂に満ちていた。

 女は壁に背をもたせ、両膝を抱えるようにして体育座りの姿勢をとっている。

 だが、その静寂は長くは続かなかった。

 日頃から便秘気味だった彼女の体内で、浣腸の薬液は劇的な効果を発揮し始めたのだ。

 きゅるるぅ……という、腹の奥で何かが蠢く音が、静まり返った工場内に響く。

 それは、これから始まる壮絶な戦いの開戦を告げる号砲だった。

 女はぎゅっと目をつむり、下腹部に意識を集中させる。

 最初の波は、まだ弱い。

 だが、それは確実に、そして間断なく、彼女の肛門括約筋という最後の砦を攻め立ててくる。

 5分が経過する頃には、その波は荒れ狂う嵐へと変貌していた。

 

「うっ……くぅ……」

 

 女の口から抑えきれない呻き声が漏れ始めた。

 彼女はもはや体育座りを維持できず、その場にうずくまるようにして、より強く肛門を締めることができる体勢を探し始めた。

 横向きになったり、四つん這いになりかけたり、しかしどれもしっくりこない。

 最終的に彼女は壁に尻を押し付けるようにして、両手で自分の尻の割れ目を必死に押さえつけるという、最も原始的で、最も屈辱的な方法を選んだ。

 顔は苦悶に歪み、額から流れ落ちる汗が顎の先で雫を作る。

 漏らしたら、この男に何をされるかわからない。

 その恐怖だけが彼女をかろうじて正気の縁に繋ぎとめていた。

 その極限の忍耐は影山にとって最高のエンターテイメントだった。

 彼は腕を組み、薄明りの中でその一部始終を、まるで難解な現代アートでも鑑賞するかのように冷徹な目で見つめていた。

 

 永遠にも感じられた時間が過ぎ、影山のスマホが冷たく電子音を鳴らした。10分経過の合図だった。

 

「よし、成功だ」

 

 影山は満足げに呟いた。

 女は漏らさなかった。

 自分の意志の力で肉体の反乱を鎮圧したのだ。

 彼女は全身の力が抜けたように、ぜえぜえと肩で息をしながら床にへたり込んでいる。

 その姿を見下ろし、影山は慈悲深い神のような口調で次の命令を下した。

 

「よく耐えたな。褒めてやる。さあ、パンツを脱げ。そこで、出していいぞ」

 

 許し。それは地獄の苦しみからの解放を意味するはずだった。

 だが、女にとって、それは新たな地獄の始まりに過ぎなかった。

 薄暗いとはいえ、この男に見られながら排泄する。

 その行為は彼女が守り抜いた最後の尊厳を根こそぎ奪い去るものだった。

 彼女は数秒間、動かなかった。

 そして、顔を上げ、薄明りの中に立つ影山のシルエットを憎悪と絶望の入り混じった目で見つめてから決断を下した。

 彼女はズボンを穿いたまま、全ての力を抜いたのだ。

 耐えに耐えた10分間の我慢が嘘のように、彼女の体は最も屈辱的な形で自らを解放することを選んだ。

 

 ブヂッ、ブリブリブリッ……! という湿った破裂音が静寂を破った。

 それは、もはや制御の効かない奔流の始まりだった。

 女の穿いていたベージュ色のパンツスーツの尻の部分が不自然に、そして急速に膨らみ始める。

 布地が悲鳴を上げ、やがてその繊維の隙間から、どす黒い茶色の液体がじわりと染み出し始めた。

 固体と液体が混ざり合った、おぞましい塊が高価なスーツを内側から蝕んでいく。

 女は両手で顔を覆い、しゃがみ込んだまま、嗚咽とも呻きともつかない声を漏らし続けていた。

 自分の体から溢れ出す汚物の熱と重さ、そして鼻をつく悪臭が彼女の敗北を容赦なく告げていた。

 

 影山は、その全てが終わるまで、ただ黙って彼女を見下ろしていた。

 排泄の音が生々しく響き、やがてそれも途切れ途切れになり、ついに静寂が戻った。

 ゆっくりと女に近づき、その無様な姿に失望をみせる。

 

「せっかく俺が許してやったのに、何をしているんだ?」

 

 彼は心底呆れたような声で言い放つと、女のズボンのベルトに手をかけ、力任せに引き裂くように剥ぎ取った。

 もはや抵抗する力も残っていない女から、汚物で濡れそぼった下着もろともズボンを引きずり下ろす。

 醜悪な糞尿の塊がコンクリートの床にべちゃりと広がり、強烈な腐敗臭が一帯に立ち込めた。

 

「まだ詰まってるのか?」

 

 影山はそう吐き捨てると、うずくまる女の腹を汚いものでも払うかのように無造作に足蹴にした。

 その振動が、落ち着きかけていた彼女の腸を再び刺激する。

 ぶっ、と湿ったガスが漏れると同時に、残っていた便が少量、だらりと排出された。

 揺らされた衝撃で、女は床に広がった自らの汚物の上に倒れこんだ。

 

 影山は思わず鼻をつまんだ。

 便秘だったせいか、その臭気は想像を絶するほど強烈だった。

 彼は心底から軽蔑した目で汚物にまみれて震える女を見下ろした。

 

「ここまで臭いと、抱く気にもなれんな」

 

 そう呟くと、彼はもはや何の興味も失せたかのようにくるりと背を向け、重い鉄の扉を開けて外の闇へと消えていった。

 残された女は冷たいコンクリートの上で、自らが排泄した汚物の温もりと悪臭に包まれながら、ただ静かに震え続けることしかできなかった。

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